280話 リモート 挿絵あり
魔女は事もなげに言うがどうしたものか・・・。他種族とのコミュニケーションと言うが猫相手にハードルは高そうだ。にゃん太改めフェリエットは対話出来る分マシとは言え行動原理は人とは異なる。ただ、頭と言うか記憶力は悪くないんだよなぁ・・・。
「文字は書け・・・、理解してる?分かる?」
「知らんなぁー、それは食えるのかなぁー?カタカタ鳴る板は面白そうだなぁー。モフモフの砂でトイレしたいなぁー。」
文字は知らないらしい。会話が出来るなら読むのは難しくないだろうが、書くのは手間取るかもしれない。いや、空間把握能力に長けた猫なら図形として理解すれば割と?先ずはトイレをご所望なので連れて行くか。朝も猫砂で用を足そうとしたので、妻が人のトイレに連れて行って使い方を教えたから、場所が分かれば1人で出来ると思う。
部屋を出てコチラを伺うように見る人をやり過ごしトイレへ。女性用トイレのマークを教え個室に放り込んで外で待つが、カタカタとペーパーを取る音も水の流れる音もするので大丈夫だったのだろう。ただ、猫の癖なのか何もない所を手でパタパタしているので砂を掛けたつもりなのかな?
「ちゃんと手を洗うんだぞ?」
「これは飲んでいいのかなぁー?底の開いてない筒を使えと言われたなぁー。」
「コップな?これを使うといい。」
指輪から紙コップを取り出して手渡すが・・・、トイレの手洗い場の水をそのまま飲ませていいか迷う。別に身体に悪い水ではないが、それを覚えると毎回ここに水を飲みに来そうだ・・・。まぁ、顔洗ったり口を濯ぐ事もあるので大丈夫か。変に過敏になっても面倒だし・・・。
「さて、戻るよ。」
「寝たいなぁー、お腹すいたなぁー・・・。じゃあなぁー。」
「待てコラ走っていくなー!」
集中力底!脱兎の如く走り去ろうとするので慌てて首の後ろをつまむ。鼻もいいのか狙い澄ました様に食堂に突撃しようとしたが、それにはまだ早い。何一つ話が進んでないんだよ・・・。流石に食堂に一人置いて神志那と話すのは怖いしお目付け役はバイトなのだが、こいつが人前で話し出すとまた厄介な事になる。暇人・・・、青山は姿が見えないし、なにか仕事しているのだろう。
受付嬢に頼むかいっその事託児所に放り込む?それをするくらいなら妻に預けたいが、妻は妻で救護長なので暇ではない。望田も俺の仕事を肩代わりしてもらっているので流石に押し付けて話し込む訳にも・・・。
「その娘がにゃん太ちゃんですか。なるほど・・・、なるほど・・・。お姉さんがかわいがってあげようか?」
「暇そうだけど人選的に難アリの夏目さんか・・・。流石にそこまで飢えてないでしょう?後、今はフェリエットと呼んでください。流石にこの姿でその呼び方は・・・、ね。」
面倒見はいいが嗜好に難アリの夏目かぁ・・・。まぁ、流石に節度はあるだろう。託児所にもよく顔出して女の子達と遊んでいるし、男の子が悪い事をした時は文字通り鬼の形相で追っかけているが・・・。それでも良くも悪くも子供からは慕われている。なら、一旦任せて神志那や増田か松田と話を詰めるか。
残念な事と言うか既に犬獣人の画像はあるし、流れを考えると個体成長薬の危険性も伝えないといけない。死ぬと言っても一瞬なのかそれとも全盛期まで成長した後に衰えて死ぬのかも問題で、下手をすると命と引き換えに〜やら、不老とこれ飲めば常に全盛期とか言い出す輩もいそう。
飲む飲まないは個人の自由だし、試したいなら勝手に被験体にでもなってくれればいいのだが、誰が何をやらかす分からないしな。人類の為と人体実験するなら不老を飲んだ人物が眼の前に・・・。却下だな。リスクが大きすぎるし何よりそれで上手く作用すればいいが、下手をすると永遠に苦しむ事になる。
「何か不穏な事を考えてませんか?」
「考えた末に却下しました。この娘の相手をお願いできるならしたいですが、間違っても手を出して・・・、捕まる事はないですが手を出さないように。」
「流石にこんな小さな娘に手は出しませんよ。しかし捕まらないとは?見た感じその耳は本物?」
「ギルマスになるんで話していきますが、個体成長薬と言う薬を使うと猫が猫人になります。犬人もいるみたいなんですが、どの動物まで該当するかは分かりません。因みにこの娘はウチの飼い猫でした・・・。」
そう言うと夏目はまじまじとフェリエットを見る。そして、耳を触ろうと手を出すとその指先にフェリエットが鼻をツンと当てる。やっぱり行動は猫っぽいんだよなぁ・・・。あれって、なにか興味がある時にやる行動だし。
ただ、それには胸打たれたのか夏目は耳ではなく肩に手を置いてスッと抱き締める。気持ちは分かるがウチの飼い猫をあんまり力強く抱きしめないで欲しい、喉をグルグル鳴らすならいいが、今はフーッと威嚇っぽい声出してるし。
「辞めるなぁー!それ以上すると引っ掻くなぁー!」
「分かったなぁー・・・、はっ!確かにこの娘の面倒を見ておきましょう。さぁ、お姉さんと遊ぼうか。何がいい?ボールでも猫じゃらしでも用意しよう。」
「私が遊んでやるのなぁー。嫌なら寝るなぁー。」
「嫌じゃないんで遊んでください。さぁさぁ、外に行きましょうかここは人も多いので。なにかしておくことはありますか?」
「ん〜、外に行くなら地面に平仮名を書いて見せて下さい。後、バイトが現れたら一緒にいさせておくと良いです。」
「分かりました。」
取り敢えずお守りはこれでいいかな?学習できるらしいが速度が分からないので一応、最初は平仮名から。ブリーダーとかなら出来たら餌をやるとかするんだろうが、流石に手持ちがない・・・。いや、そう言えば摘み用の鳥刺しがあるな。タレを付けなければ害はないだろう。
「後これを渡しておくので覚えられたら上げてください。多分好物です。」
「鳥刺し・・・、魚じゃなくていいんですか?」
「ウチの娘は元々肉派です。それに、元々猫は魚が好物って訳でもないですからね。拾った後に色々餌を変えながらあげてたら一番肉系の餌が食いつきが良かったんですよ。」
そんな話をしてフェリエットと夏目を送り出し妻の所を経由して神志那とギルマスルームへ。フェリエットが外で夏目と遊んでいる事を伝えるとお昼はみんなで一緒がいいわねと言っていた。さて、頭は痛いが話し合えるだけ話し合って対策を取ろう。
「ところでクロニャン。フェリセットじゃなくてフェリエットなのはどうして?宇宙猫ならそっちが有名だよ?」
「流石に偉大なお猫様の名をあの娘に直接渡すのは悪いじゃないですか。単純にもじったあとの語感ですよ。日本人的にはこっちの方が言いやすいですし。それよりも、また警告動画とか撮らないといけないんですかね・・・。流石に死ぬ薬を飲ませるのも悪いですし。」
「死ぬってなんですか?毒薬とかありましたっけ?」
「さっき聞いたんだけど個体成長薬は人が飲むと急速に成長して死ぬらしい。イメージとしてはインディ・ジョーンズの間違った聖杯使った人とかかなぁ・・・。神志那さんそこんとこ分かる?」
奇病でも正常な人の何倍もの成長速度で成長する人がいる。ただ、あれはまだ闘病するだけの猶予があるが、この薬にはそれがあるかないかも分からない。しっかしなんで猫が・・・、と言うより動物が成長して人っぽくなるかねぇ?空転した頭で考えたけどアレで良いのか悪いのか・・・。
「なんとも言えない。実際フェリエットの猫から人型になった時の速度を確認しないとなんともにゃあ〜。モデリングは多分この星で一番多く分布してる生物、つまりは人をモデルにすればすんなりと溶け込めるからそうしたんだろうけど、一応元となる生物のアイディンティティを残して間接的に異種族であるって分かりやすくしてるはず。」
「わざわざ分かりやすくする意味ってあるんですかね?同じにしてしまえば混乱もなく溶け込めると思うんですけど?」
望田の言う事は最もだ。例えばフェリエットの尻尾がなく、耳も人と同じなら見分けがつかない。多少言動がおかしくとも学習出来るなら、それも是正していって気づかない間に人の輪の中に入り込む事も出来る。
しかし、わざわざそれをしないと言うのなら何かしらの目印なのだろうか?神志那はアイディンティティと言うが、猫耳生えてるから猫!と言う簡単な話でもないような気がするんだよなぁ・・・。ソーツって変な所でおかしな機能とか良かれと思って付けたがるし。
「そこは生物学的に調べないと分かんない。流石に鑑定してもアレは限界超えてるレベル・・・。でも外見だけなら作りとしてはほぼ人かにゃあ?動きからしても人と同じ様な関節個数だろうし違いがあるとすれば、あの尻尾分骨が増えてるとか?」
「CTとかレントゲン、一通りの精密検査は必要みたいですね・・・。下手に増えても・・・、耳ってフェロモン出てませんでした?もしかして、人と全く同じだと遺伝子の違いで繁殖出来ない事が分からないから手っ取り早く分かりやすくしたとか?」
「旧約聖書のあれですか?汝、獣姦するなかれっていう・・・。」
あれガチで獣とするなって話らしいのよね・・・。業が深いというかなんというか・・・。しかし、フェリエットを見ればそんな間違いを起こす輩は・・・いそうだな、うん。寧ろ確実に出来ないと分かれば文字通り愛玩用として欲しがる人はいる。
寧ろ猫人同士なら増える?種として子孫を残すのは遺伝子に刻まれている。なら、猫人同士でパートナーを見つけやすいように耳からもフェロモン出してるとか?いや、それって繁殖させる気満々の成長方針なんじゃ・・・。
「考察は一旦保留して今後どうするかだにゃ。毒薬って事で強制回収にする?」
「報告書では神志那さんの所に90件くらい問い合わせがあったんでしたっけ?表面的にそれだと潜在的には更にあるって考えるのが普通ですよね?」
「そうだよモッチー。大分だけで90件なら世界に目を向けると膨大な数になると思う。流れを考えると全ての薬の回収は現実的じゃない。でも、いらないからって例えば排水口にでも流したり、そのへんに撒いたりすると何があるか分からない。」
確かに水で薄めたとしてどこまで効力がなくなるかは分からないし、海にニンゲンとか言うUMAが溢れでもしたら困る。それにイルカが攻めてきたぞ!ってな未来になっても困る。
「取り敢えずLINEのリモートで松田さんと増田さんに繋ぎます。神志那さんさっき撮った写真ください。獣人がこんな感じという資料写真に使います。」
「りょー。」
「あっ!私にもそれ後で下さい。フォルダーに保存します。」
望田の事は後できっちり話すとして、2人にLINEで画像を送りつけて電話が大丈夫か確認を取ってから通信開始。画面に顔が出るなり2人して何をニヤニヤしてるんだ?
「お疲れ様です。画像は見てもらえました?」
「お疲れ様です。朝から可愛いアピールとかなにかいい事でもありましたか?お隣の方はコスプレまでして、写真集第二弾を作る気になったという打診でよろしいですね?」
「お疲れ様です。私の方は取り込んでるのであまり時間はありませんが急にどうしました?それと松田さんその交渉はしていないので間違いです。」
朝っぱらから松田が飛ばしてるな・・・。事ある毎に写真を作れと言うが俺の方にはまだ在庫があるので作る気はない。増田の方は何やら忙しいようだがダミー企業で一体何してるんだ?前に政府公認の会社になるとは言っていたが、なったからと言って早々仕事ずくめと言う事はないと思うが・・・。
「忙しいなら増田さんは松田さん経由での情報共有でもいいですよ?」
「いえ、通信出来ているなら大丈夫です。単純に木崎本部長達とゲートを進んでいるだけですから。」
何やら背景が暗いと思っていたら洞窟かなにかからか?雄二と卓は増田に預けたので、どう使おうと構わないがかなり贅沢な攻略だな。どの辺りかは分からないが増田もS狩人なので攻略自体はそこまで危惧しなくてもいいかな?元々荒事やってた人だし。
「危ないと思ったら切ってもらって構いません。話というのは私の横に写った少女・・・、便宜上今はフェリエットと呼んでいますがこの娘の事です。耳と尻尾は見えますよね?」
「ええ、猫のコスプレですよね?なにかパーティーのお誘いですか?私としてもガーディアンの件が国内では何事もなく終わって夜には黒岩さん達と一杯なんで話をしていたんです。増田君もどうだい?疎開の時には色々と動いてもらったし。」
「今日ゲートから出られたら考えましょう。まとまった時間が取れない分チビチビとしか進めないのがもどかしい。それに、手本としてエマ大佐を今真似していますがどうもしっくり来ない。」
「君もストイックだね。たまには羽目を外して飲むのもいい。公安室長を辞して一応一般人何だからね。」
松田が浮かれているのは被害がなかったからか。まぁ、被害があったら今頃各国への対応で話どころではなかったな。やらかした国への追求をするかは知らないが、適当に遺憾の意を裏で伝えて関係を切ればいいと思うよ?情をかけて繋がってると何されるかわからないし。
「コスプレパーティーは開きませんよ。代わりに獣人パーティーは始まりそうですが・・・。実は情報持ってるとかないですよね?お二人さん。」
おどけて話したが2人の顔が固まった。情報なかったか・・・。神志那が横から資料を手渡してくれるが、個体成長薬の出土量が増えだしたのは疎開中くらいから。犬人の最初の投稿は神志那曰く5日前くらい。飲ませる飲ませないの選択肢は本人次第だが、そもそもゲートの薬をペットに飲ませるという選択肢を取るかと言われるとごく少数だろう。
「クロエさん、そろそろ手加減を覚えませんか?」
「松田さん。情報は叩きつけるものと思っているクロエには無理です。実際叩きつけられた方がそれぞれ考えるので良い方に転ぶこともありますが・・・。」




