273話 帰還 挿絵あり
斎藤がスキップしながらドックを歩いているが・・・、なにもないよ!残念な事だが人類の思い浮かべるSF、例えば訳の分からないメーターがついた機械とかショッキンピンクの液体が入った試験管とか、ライトグリーンの溶液とか何一つ無い。寧ろこの部屋から出るすべがない。だって扉ないし、見渡す限りはツルンとした壁だし。
ただ視界を変えて視ると集まっていた宇宙人達は興味がなくなったのか、フヨフヨと漂ったり壁を抜けてウロウロしたりしている。もしかしたら壁抜けすれば他の部屋に行けるのかも。物理的な制約がないと言う事は、裏を返せば物理的に必要なものがいらないと言う事になる。だから、扉がなくとも問題はないし、宇宙人同士も互いが見えているのかも分からない。たまに宇宙人同士でもすり抜けるんだよなぁ・・・。似たような形の同族っぽいモノはすり抜けない事もあるが・・・。
ん〜、任意で接触と非接触を切り替えられるとか?宇宙人にプライベートが必要かは分からないが、ずっと他の種族がウロウロしていたら落ち着かないと思う。仲間内の飲み会に全く知らない友人連れて来られたらなんだか落ち着かないだろ?相手も落ち着かないだろうけどさ。
「見事に何も無い伽藍堂ですけど、この壁の向こうって何があると思います?もしくは真空の宇宙とか?ドックの大きさ的に他の区画があるとは思うんですが。」
「斎藤っちアレやろう!壁叩いて反響で調べるやつ!藤っちもやる?」
「調べるだけなら電気を流してもよいが?奏江殿の方がこう言うのは得意でござるが、拙者も出来ぬ訳ではない。神志那殿も鑑定しては如何か?」
藤も躊躇がないと言うか、草履を脱いでパチパチと電気を流しだした。エラー信号扱いされないよな、アレ。構造物把握として流すなら表面だし、流石にパイプの中は純水だから電気は通らないはず。まぁ、輸送機と同じコンセプトなのかは知らないが・・・。
「鑑定駄目だった。宇宙人は視れるけど構造物としてのこのドックは理解出来なさすぎてお手上げにゃー!ちくせう!鑑定出来れば私は神にでもなれる・・・、はず!」
「どうせ神と言っても火之迦具土神とかでしょう?ドック使って輸送機量産するとか。多分面倒な事になるんで出来なくていいんですよ。早すぎる進化は種の絶滅を早めます。」
「でも今回のを配信に乗せるとなると反響は大きいですよ?寧ろ現実離れしすぎてフィクション扱いの可能性もありますが・・・。ソーツはまぁ、私の姿になったのでいいですが、それも肉壁の擬態と言われればそれまでですし、宇宙の映像もR・U・Rの最新ステージ扱いされれば信じてもらえません。いると言われてる宇宙人も私には見えませんしね。」
配信かぁ・・・、乗せないとまずいけどGOサイン出るかな?増田ブチ切れ案件だけどゲリラっちゃう?アカウントは俺のモノだしマスコミの様に報道の自由叫んじゃう?実際世界に向けて談話を発表するよりも配信の方が早い。早いのはいいが、今回有利に進め過ぎて後がヤバい。人は成功体験を忘れない。そして、今回の突発的な交渉は概ね人が有利に進んだ。
差し出した代価は俺達の手に余るガーディアンを弄くる権利で、実質無償の様なモノ。情報にうるさい人なら停止させたガーディアンを弄くる権利って下手したらどっかの国が消えるんじゃない?と勘ぐる人もいるだろうが、そうなったらやったバカを恨め。少なくともソーツ曰く弄くるのに一週間はかかる。この期間はある意味禊の期間だろう。
『モンスター出したらヤバいんだってよ!』
『なら、試しにどれくらい危ないか検証しようぜ!』
『あっれれぇー、おかしいぞー?ガーディアン来ないじゃん!ならこそっと持ち出そ〜。』
何が知りたいかは知らないが、危険は体験して経験しないと分からない。少なくとも日本と米国はスタンピードがあったので、やるなと言われればしないと思う。だが、体験も経験もなく映像確認だけならば多分やるヤツはいる。ついでに言うと、何故か自分は大丈夫だと根拠のない自信を持つやつもいる。
(前にゲートでガーディアンと戦ったが、アレはガーディアンの全力か?)
(まさか。排除対象もいないのに本気な訳ないじゃん。本来なら君以外全滅だね。)
よし!その国に任せた。虱潰しにモンスター持ち出しがないかを探すとか非効率的過ぎる。そりゃあね、ハッキングして探せば持ち出し事案の手がかりは見つけられる。しかし、それは同時に1人に監視される社会の幕開けである。ペンタゴンはあくまで限定的且つそこしかハッキングしないという約束で好きにさせていたが、ネット全てとなると文字通り個人が核のスイッチを押せてしまう。
流石にそれはまずい。職を明かした手前魔術師なら出来るかもと思われてもまずい。一応核兵器は世界中で廃絶の動きが強まっているし、発射前にならギリギリ指輪には収納できるのかなぁ・・・。
動かないモノは収納出来るが、動いてる物って試した事がない。まぁ、配信ではあんまり早いと駄目らしいと言っていたが、車と並走して止まっている状態に出来るなら大丈夫だとか。まぁ、人が運転していたらどの道収納出来ないのだが・・・。
「ぬ?斎藤殿、そこから3歩右の壁の奥なら部屋があるようでござるよ。」
「分かりました、では改造して扉を作りましょう。」
言うが早い斎藤はさっさと開き戸を作ってしまった。開ける気満々だが、そもそもその部屋酸素あるの?見た感じ扉自体は隙間もないようなので、今の所密閉されているだけとも取れる。
「藤さん、中ってどんな状態が分からないですよね?」
「分からぬな。何となくこういった形ああいった形と言うのはイメージ出来るでござるが、どんな状態かまでは無理でござる。」
「いいなぁー、私も見たいなー、こんな事なら来る前に第2職選ぶんだった・・・。」
「まぁまぁ、映像がどうかは分かりませんが、少なくともカメラは回ってますからね。」
わいわいと話しているが時間はもう殆ど無い。この扉が開かなければ輸送機に帰ろうかな。乗り遅れても待ってはくれないだろうし。迎えに来ようと思っても、ここへ来るには人類では遠すぎる。俺が取り残されたなら、無理矢理にでもイメージ捻り出して帰ってやんよ!
イメージなかったら宇宙を泳ぐか・・・。禁じ手っぽいが水中に数日沈んでもピンピンしてるんだぜ。なら、無酸素は体験したし後はあのワームホールをどうにか出来れば・・・。ボソンジャンプ?あれは駄目だ。時間が流れるし遺跡がない。キセルをプカリ。こねくり回して適当にイメージを作ってみるがしっくり来るモノがないなぁ・・・。
「器用でござるなぁ。やはり半物質というのが色々出来るが要因なのでござろうか?」
「うへっ!それ鑑定するの無理・・・。クロニャンの中覗けるかと思ったけど、その煙視続けたら吐く・・・。」
「拙者のとは違うのでござるか?」
「藤っちが1ゲロとするとクロニャンは100ゲロくらいにゃ。」
「人を吐瀉物扱いしない。斎藤さんが扉を開けたさそうにこちらを見ていますよ?」
既に観音開きであろう扉に手を掛けた斎藤がこちらをチラチラ見てくる。誰かに許可して欲しいのか分からないが、開けないと本当に時間がない。いや、開けずに帰るか?一生モヤモヤして過ごす事にはなりそうだが・・・。
(魔女か賢者、何かあったら通訳とか頼むかも。)
(いいわよ?会うに値しないモノはいないから、分かる範囲で通訳してあげる。)
「扉が開けば中は同じ気圧。開かなければ気圧が違うので酸素等もない可能性がありますので諦めましょう。では!」
思ったよりも簡単に開いた扉は止める間もなく全開に。多分笑顔だったであろう斎藤は開けた勢いのままに一歩踏み出したが・・・。
でけー試験管?の中に紫の液体が満たされその中には肉体ある宇宙人。身の丈は数メーターはありそうで、人とは何処をとっても似つかわしくない。片手?を振り上げるような姿だが無数にある眼のようなモノがコチラを凝視しているように思う。全体的に暗黒色で形としてはクリオネっぽいが、あれの捕食シーンは頭が開いたように見えるので中々ショッキングだったな・・・。
「うあぁぁぁーーー!!!」
「拙者の宇宙人は美少女!拙者の宇宙人は美少女・・・!」
「割とおとなしい姿ですね。いや、良かった良かった。」
「だねー、もっとエグい姿のもいたし。コレなら大丈夫。・・・、若干クロニャンも現実逃避してない?」
(////々々々々///92.///.〆)
「おっふ!な、何でござるか!?」
「藤君も感じました?何か・・・、コンタクトを取ろうとしている?」
「言語体系が違いすぎてて分からない・・・、イメージで伝えられるって偉大だったんだにゃあ・・・。送りだと受け手が似たようなイメージに変換できれば伝わるし・・・。」
(早く出なさい、失礼よ?)
(出るのはいいけどなんて言った?)
(あなた達風に言えば『キャーのび太さんのエッチー!』辺りかしらね?)
(了解した。)
なんだろう。魔女が思った以上にモノマネが上手かったのも軽くショックだが、これほど嬉しくないサービスシーンも珍しい。うん、縦にW、X、Yと書くと女性に見える。何なら裸の女性の記号と言われても納得できるし、パンツやブラなんて言う布にさえ形や香りで欲情出来る。それくらい人とは繁殖欲が豊かでエロい妄想には本能的に強い。だが、それとこれは別。
「言葉がわかるか分かりませんがすいませんでした。すぐに出ていきます。」
頭を下げようかと思ったがどんな態度がNGか分からないのでやめた。異種族コミュニケーションって大変。下手したら頭から食われるのだろうか?サイズ的に人をバリバリ食っててもおかしくないサイズ感だしなぁ・・・。
(€855555々々○+<)
(その煙がおひねりでいいらしいわよ?良かったわね、煙が無かったら誰かを差し出さないといけなかったみたい。)
「こっわ!宇宙こっわ!渡します。ほら、取り返しがつかなくなる前に皆さん帰りますよ!」
こねくり回していた煙をそのまま部屋に放置して出る。アレの価値って如何ほどかな?欲しがってそれで水に流してくれるならそれでいいが、後からもっとよこせと言われても困るし、その方法が侵略なのか友好的なのかもわからない。一番嫌なのはお色気で籠絡しにくるとか?風呂で鉢合わせしたと仮定すると、その事象の中で煙を渡すに至った理由があると推測出来る。
ならその推測の中で一番確率が高いものはどれか?あの宇宙人に羞恥心があるかは分からない。分からないが俺達が風呂を見たから渡したと取るのか、逆に宇宙人が風呂を見せたから渡したと取るのか・・・。魔女の話では俺達が覗いた謝罪で間違いないが、他の肉体のない宇宙人は普通にあの辺りもウロウロしていたはずなので分からない。
(魔女、あれって風呂でいいんだよな?)
(服を着た原生生物が裸の原生生物を見たらおひねりを渡すんじゃないかしら?相手は別の原生生物だけど、変わらないんじゃないかしら?)
(やめてくれ・・・、余計頭が痛くなってきた。と、言うかお前の通訳がまともに機能してないんじゃないかな・・・。)
風呂かストリップ。本当にストリップかは知らないし全員無事だから大丈夫なはず!もう疲れたし輸送機に戻りたい。他の面子の顔を見ると斎藤以外みんなげっそりとしている。特に神志那はアドレナリンが切れたのかぐてっとダラダラ歩いているな。
「輸送機に戻りましょう。」
「戻るのはいいでござるが、今更ながらあれってちゃんと地球に戻るんでござるよな?」
「・・・、ハハッ!・・・。すいません。変な笑いが出ました。多分・・・、きっと・・・、帰りますよ?」
始まりからヤバかったが継続してヤバいの?確かに修理に戻るとは言っていたが、元のゲートに戻るとは言ってなかった・・・。いや、まさかね?えっ!だってこれってあのセクターの輸送機なんでしょう?
「取り敢えずメインコアルームに行くにゃ!今度こそ言う事聞かないなら鑑定してやんよ!」
輸送機には戻れたが修理は終わったのかな?アナウンスもなにもないので分からない。そもそも中から見ると透明だしなぁ。話しかけたら答えてくれるんだろうか?
「ん?なんか鉢植えがありますね。」
「植物・・・、でいいんでしょうか?外見的には見た事ない葉の形をしていますが。と、下にメモがあります。なんて書いてあるかは読めませんがクロエさん読めます?」
「私は宇宙人の専門家じゃないですよ・・・、一応見てみますが。」
ナチュラルに宇宙人対策要員にしないで欲しいが賢者と魔女がいる手前しかたないか。メモと言いつつあるのは紙ではなく金属っぽいプレート。打刻されている様に見えて触っても凹みはなくツルツルしている。ん〜、箱と同じ様な素材かな?
(なんて書いてある?)
(古い文字だなぁ・・・。)
(そんなに古いかしら?この文字が使われてたの。内容は斎藤への贈り物。ゲートの音声も姿も許可を得て使ったし、輸送機の自動修復ユニットを修理してくれたからよ。)
変な所で律儀だな。何の植物かは知らないがセーフスペースに植えたら繁殖とかするのかな?調べないと分からないが贈り物にわざわざ毒を贈る事もないだろう。
「斎藤さんへのお礼みたいですよ?姿借りたり自動修復ユニット直してくれた事への。」
「お礼・・・、食べられる実とかなるんですかね、これ。それとも観葉植物?」
「さぁ?まぁ貰っとくと良いですよ。それとも引っこ抜いてみます?」
「いえ、帰って調べて見ます。」
そんな話をしているうちにゆっくりと無言で輸送機は動き出す。やってくれたのぉ!乗り遅れたらガチでヤバい奴じゃん!まぁ、間に合ったから良いけどさ。そして帰りも多分3分。輸送機の残骸が元あった位置に不時着したが降りろと言う事だろう。ラボや駐屯地も見えるので間違いなく帰ってこれた。




