272話 多分大丈夫
忙しくて短いです
報告者の山が・・・
「普通の人間にはこの力は強すぎる。見てみろ、首に指がめり込んでるぞ?」
「撤回せよ、原生生物。意味の否定は許さない。」
「してもいいが・・・。」
(賢者、名前を借りる。)
(どうぞお好きに。あぁ、僕にも話す機会は貰えるかな?前々からコレとは邂逅したいと思ってたんだ。)
(いいだろう。それで貸し借りなしだ。)
(別に貸しも借りもないけど君が言うならそれでいいよ。)
こちらが有利になる材料は多分魔女と賢者が話せる事。不慣れな肉体で怒って不慣れなはずの肉体で、モンスターと戦ってきた俺達の目にも止まらない速度で攻撃を仕掛けてくる存在。話した感じ戦闘そのものは不慣れだと思っていたが、食い込む指は明らかに頸動脈や気道を捉え人を殺しに来てるじゃないか。闘争心で選ばれたはずの俺達よりよっぽど殺人には向いてるんじゃないか?
まぁ原生生物原生生物と言う辺り、感覚的には蟻を潰す様なもんだろう。捕鯨は哺乳類で人より頭が良いから駄目!なら、蟻や地球で最も人を殺している蚊なら、知性を感じないから殺していいのか?答えは殺しても誰も否定しない。少なくとも蟻の巣を水攻めしても誰も怒らない。感覚はそれと同じだろう。
「職の賢者に笑われるぞ?」
「賢者とは?」
「おいおい、ガーディアンの制作者じゃないか。本名は知らないが最初からEXTRAとして成立している職。知識を溜め込む統計の絶対者。ここで彼に口を貸そう。」
(ほいさ。ここで変わるのがいい。)
(変なタイミングで変わろうとするなぁ。まぁ、別に何時だろうといいけど、さっきの話の続きだと僕ってコイツ等を笑ってなくちゃいけなくない?まぁ、滑稽だから笑ってもいいけどさ。)
「v6vt8g6xrt、これを言えば僕が誰だか分かるだろう?」
「!?!?!?!?何故そこにある。何故アナタが・・・!」
「今の僕は末端で職だよ?君達が干渉出来ないシステムの中にあるし、今の宿主はクロエで僕達はそれの下になる。姫が暇だと言っていたのは覚えてるかい?だからシステムを通して僕達は視ている。忘れないでよ?視ているんだよ君達もその他もね。」
明らかに斎藤姿のソーツが動揺している。人の在り方を渡したので表情が読みやすい。しかし、動揺するなら手を離して欲しい。継続ダメージとでも言えばいいのか目下指は首に明らかに食い込んでいる。カメラは回しっぱなしだが、俺達より一歩引いた位置にいるので食い込んでいる姿は見えないだろう。
「・・・、あなただけか?職は2つ選ばれた。いるのはあなただけか?」
「いや、いるよ?彼女も、ね。当然視ている。彼女は引きが良かった。足りなくても知性はあるからね。考えた末に選んだんだろ?」
「我々は立ち去る!差し出すモノはなにもない!交渉権の返還をクロエに望む!」
「嫌だそうだ。祭壇が見つかって年一回。この権利は手放さないそうだ。」
「代価を!望む代価をクロエに差し出す!」
「今はいらない、逃げるなよだそうだ。酷いじゃないか、僕がいると分かっただけで関係を切ろうだなんて。そうだな・・・、原生生物の間では貸しと借りと言う概念がある。今から君達に貸しを渡そう。」
「貸し?」
「不出来で納得出来なくて、終わるのが嫌で他の意味を見付けられなかった君達は本質的に中を見るのを嫌がる。だって、作って完成品だと思えばその先を探せなくなるからね。だからこそ君達は廃棄品を壊せないし壊したくもない。外に出るのを嫌がって重大なエラーって言ってるけど、弄くり回されて可能性を減らされるのが嫌なだけだろう?」
「やめろ。我々を統計に嵌め込もうとするな。我々は袂を分けた後は既に膨大な時を過ごしている。」
「そんな事しないよ。ただ今の君達に会ってみたかっただけだからね。では貸しと言う名の宿題だ。なに、君達はそれに回答できるさ。」
賢者が有利に話を運んでいるのはいいが、そろそろ降ろして欲しい。延々と宙ぶらりんの姿で話しているから、神志那達がどうしようかとヤキモキしている。ついでに言えばおっかなびっくり視界を変えると肉体を捨てた宇宙人達も集まって多分、興味深そうに見ている。人と違って表情とか無いから分からないんだよな・・・。
足元からタコの触手の様なモノがまとわりつこうとして、身体の中を通って行くがいい気はしない。前に魔女が奉公する者が身体の中をうろつくと言っていたが、多分こんな気持ちなのだろう。なにかされる訳ではないが確かに感情が動く分面倒だな。
「言え。」
「君達が作る事に没頭して目をそらしている間にカウンター反応、ガーディアンは停止させた。他でもない宿主が願ったからね。それの起動とピンポイント迎撃システムを作る。コレが宿題だよ。」
「ピンポイント迎撃システムは既に作りました。指輪を所有する者がクリスタルではなく稼働状態の廃棄品を持ち出そうとした際、ゲートに飲み込まれます。警告します。飲み込まれた者はどうなるか関知しない。修復は出来ない。」
(なぁ賢者、飲み込まれるって死ぬって認識でいいのか?)
(さぁ?飲み込んだら運が良ければ出るんじゃない?君達よりは優れている分仕事が早い。ただ、君はこのシステムで納得するかい?)
(取り敢えず動いてるモンスターを持ち出そうとしたら罰を受けるんだろ?そもそも持ち出し自体は俺も反対だからいいだろう。ただ、バイトや素材として持ち出すのはいいんだよな?クリスタルも今はエネルギーとして研究されてるし。)
「迎撃システムはいいそうだよ。ただ、廃棄品の素材やクリスタルを持ち出して大丈夫かって危惧してるみたいだけど、当然君達は対策を作ったんだよね?」
「指輪に入れて運べばいい。その指輪は運搬装置である。我々は有接触時の持ち出しに対して対策した。稼働する廃棄品は指輪には入らない。」
(手に持って持ち出さなければいいのか。ならいいかな。モンスターにタックルしながら退出とか故意以外の何物でもない。)
緊急対応を考えるとないとも言えないが仕方ない。流石にモンスターの中を突っ切る事はあっても殺さずにタックルしながら突入する事はないだろう。それにこれ以上とやかく言うと後々拗れそうだし。
「それで承諾しよう。では、貸しの宿題だよ。現在ガーディアンは停止させている。コレを弄っていいよ。」
「!!優先事項を再設定、我々はコレよりガーディアン起動に取り掛かる。稼働までの期間は約1週間地球時と算出。作成しなくては!我々は行く。」
斎藤の姿のソーツが消えてストンと地面に降り立つ。渡したガーディアンってソーツは弄れなかったのか。ぶっ壊そうとした時に自動修復してたし、輸送機にも自動修復ユニットがあったからてっきり弄り倒しているのかと思っていた。まぁ、宿題を聞いて急いでいたあたり奴等にも悪い話ではないのだろう。
話していた賢者は満足したのか交代と言うので主導権を貰い切り替わる。賢者が表に出るのは3度目かな?魔女よりも引きこもり体質なのか疲れた子供の様な顔に更に覇気がない。
「その・・・、クロニャン大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。見ましたか?一発かましてやりましたよ!」
「かますもなにも口先三寸のハッタリではござらぬよな?」
「それをするとキレられますね。交渉と言っていいのか判りませんが、概ねこちらの要望は通って代価も重大なエラーも分かりました。まぁ、些事のエラーも気になりますが流石に疲れたので帰りたいですね・・・。」
「帰る・・・、後10分くらいあるので見学しても大丈夫だと思います?」
「放置プレーされたんでいいんじゃないですかね?輸送機が出発する時に放送とか有ればいいですがなければ取り残されます。程々ですよ?」




