271話 聞く耳あるのかな?
「我々に何を望む?イレギュラーな邂逅の為、時間が惜しい単刀直入に言え。」
「何をってそれは・・・。」
設計図の排出停止?政府もその路線だったが今はまずい。何時がいいかは別として設計図を元に作っている物が多過ぎる。仮に今これから先の設計図排出停止を願ったならミッシングリンクが肥大してアレはあるのにコレがないと言う歪な開発経路となる。
そうなれば足りない物を自分達で作る事になるのだろうが、問題は失敗した時の被害率。橘に聞いたがクリスタルリアクター1つで半径数キロを焦土に出来る。そんな物を1から作るとして失敗しないわけがない。少なくとも実験に失敗して、ヒューマンエラーで失敗して、或いは国同士が未熟な技術を取り合って失敗してと、滅亡へのルートが開けてしまう。
開発するなって?無理だ・・・。ブラックホールエンジンだって怖がって開発しないとしていたのに、いつの間にか開発が始まっている。教科書と言われたがその教科書もなしに作るなんて無理だし、今更引き返せない所にもう多分人類は来ている。何せ見るな狂うかもしれないぞと言っても神志那は宇宙人を見たんだし、そうでなくとも人は開けるなといったパンドラの箱を開けている。
「じ、重大なエラーとは何が該当する?」
取り敢えずコレが分かればまだ動きがマシになる。輸送機にガッツリ外装付けたりコアをいじくり回そうとしていたが、大丈夫だったのだろうか?まぁ、今更駄目と言われても後の祭りでやった後である。
「重大なエラーとは、クリスタルを内包した廃棄品に対する直接的な原生生物単体での介入及び、無許可での持ち出しが該当する。他の事象は現状の原生生物ではエラー足り得ない範囲と認識する。」
「えっと・・・、廃棄品ってなんですか?」
「交渉権保有者以外とは話す気がない。もう行きますがよろしいですか?次の制作時間が迫っています。作る事を妨げるなら我々はここから離れます。」
「待て待て!確かに差し出す代価もないから引き止めるのも悪いし歓迎していないとも聞いた。だからこそ聞く、代価に何を求める?私の出来る範囲で代価は用意できるのか?それとも、交渉と言う名のおしゃべりだけか?」
斎藤が斎藤を射殺さんばかりに見ているが、交渉権がない人が話しかけると嫌がるらしい。元々最初の一人として交渉権を貰ったのでなんとも言えないが、確かに多人数で寄って集って質問を投げかけると長引くもんな・・・。こんな事なら意見をまとめておくんだったが、そもそもコイツがここにいるなんて知らないし・・・。シンキングタイムなしでどうしよう?
色々と聞きたい事や言いたい事があったはずだが、いざとなるとまとまらない。何だろうな、逆探知の為に電話を伸ばしてる警官の気分だ。
「クロニャンあれ聞いて職がどれくらいあるか。」
「職って何・・・。」
「我々は作成していない。また、介入出来ないしシステムの為不明。」
間髪入れずにバッサリ切られた。いい終わる前だったよ・・・。ただ、やはりと言うかコイツ等も全ては把握してないのか。職の一覧を最初に見せてもらったし、職名は俺のは語感から来てあるはずなので名前がわかっても内容が分からないとか?或いは魔女達が故意に隠しているのかも。
種が割れた物語ほど面白くないものはない。小説にしろ漫画にしろ娯楽とするなら最初の1回目が一番面白い。だからこそ、一覧をソーツに提示せず使用者にのみ分かるようにして変化を楽しむ。まぁ、職のシステムが割れるとそれに対抗する作品とか作りそうだし・・・。侵略者ではないが協力者でもない。本当に依頼する側とされる側だけの関係なので、依頼が達成されれば後はどうでもいいのかもしれないが・・・。
「交渉の代価。我々は本来再交渉しない。依頼後適切な掃除が実施され重大なエラーが発生しない限り介入しない。従って代価に該当するものを考慮していない。再交渉の代価を差し出すなら底へ行って下さい。私達は望みます。底の掃除を。全てをクリアにしてくれるなら我々は原生生物に答えます。」
「底へ行けは分かった。その前にも祭壇で呼んだら来るよな?」
スゲー嫌そうな顔してる。来るって言ったら呼ばれる都度来ないといけなくなるからだが、ソーツだって今底を掃除しない限り交渉しないと言い逃げしようとしたじゃん。言葉が足りない。認識が違う。解釈の違いに、考え方の違い。眼の前にいるのは斎藤だが、中身は宇宙人。下手に鎖を緩めるとスルリと抜けて後はなし。
別におしゃべりしたい訳でもないが、分けの分からん事はこれから先、多分無数に出てくる。その時に来てもらわないと困るんだよ。そうだ、そもそもエラーに対して警告があるのかも聞いておかないといけなかった。
「原生生物在住の星で1年時に1回。これ以上はない。それ以外は呼びかけに答えない。交渉権保有者は既に決定された。決定された者以外と交渉しない。」
「待つでござる。クロエ殿が何らかの要因で死亡したらどうするでござる。と、聞いてほしいのでござるが・・・。」
「あぁ・・・、それは後で話します。ソーツ、その点は一切問題ないな?」
「ない。剥奪された以上、不自由の檻は適切に稼働している。」
不自由の檻、ね。身体がちゃんと機能してるって事だろうが面と向かって永遠と言われるとなんだかなぁ・・・。仮に人が肉体を捨てたなら1人取り残されるが、少なくとも魔女達が対話の相手にはなってくれるのか。その頃にはそんな者達とも話せるのだろうか?う〜ん・・・、人類滅亡後の地球をシミュレーションしたものを見た事があるが、確か30年くらいで緑化して人工物は壊れるし街はジャングルになるらしい。
今の生活とはあくまで人に住みやすい街を作った結果なので、当然人が消えて手入れされなければ荒廃と言う名の自然侵略が始まる。まぁ、戦争も何もなく単純に消えただけの場合がそれなので、仮に出土品やら設計図を元に作られたもので戦争をやりだしたらどうなるかは分からないし、最悪地球なくなったと言う事もあり得る。
そうでなくとも今日明日とは言わないが、そのうち太陽が膨張して銀河系そのものがなくなるらしいので、新しい移住先を探さないといけないが、生身での新しい地球捜索は厳しいのかなぁ・・・。1つの船で人口管理から生産管理、当然乗った船の維持管理とコストがかかりすぎる。人は月には降り立てたが火星にはまだだしな。代わりにそれ以上に離れた所に降り立ってしまったわけだが・・・。
「エラーに対しての警告はあるのか?」
「カウンター反応が回答である。廃棄品持ち出しに対して破壊に動くシステムが稼働する。それにより持ち出し品ごと廃棄する。」
「ガーディアンが警告かよ・・・。お前達は警告と破壊を同時に行って警告したっていうのかよ・・・。因みに持ち出しに対してガーディアンが反応せずに持ち出しを発見したら?」
「想定内の事態だが、その場合我々が直接的な介入をします。介入方法は検知された地域の消失、複数箇所の場合は複数箇所の消失。消失とは削り取る事です。」
削り取る・・・。多分本当に消し去られるんだろうな・・・。動画の冒頭で警告はしたけど、テロリストがモンスター持ち出しを盾に交渉してきたらどうしよう・・・。入ったゲートが分からないと対処のしようがないし、自身の意見を押し通すのが目的なら多分やる。本当に持ち出せばそれまでだと分かっていても、破れかぶれの人間ほど対処に困るものはない。
そして今、ガーディアンは停止している。被害の度合いを考えるとガーディアンがまだマシと言うレベルなんだろうが、どうしたものか・・・。なにか案はないか?モンスター自体は自分から外に出ようとはしない。出るのは溢れた時だけで、それ以外はかつてガーディアンが動いた時以外は知らない。ん〜、手っ取り早いのは誰かが持ち出したら直ぐ様発見出来るようなシステムだよな?
有り体に言えば監視カメラが有れば分かりやすい。何なら発見したらそのまま知らせて相手を抹殺でも・・・、それって結果ガーディアンになるのか。宇宙人からしたら他の宇宙人でも全て一緒に見えるから大雑把に辺りを壊滅させるんだろうし、範囲が広ければ広いほど確実にモンスターが仕留めやすい。
「ピンポイントで相手を狙えないのか?あまり言いたくないが私達は及第点。下手したら落第レベルの生命体だ。いくら頑張ってもミスも有れば言う事を聞かない輩もいる。そんな輩だけの為に大勢を失うのは効率が悪い。ピンポイントで違反者を狙う、そう言う物が欲しい。」
「我々は依頼し、それは受諾され今も報酬が全体に支払われている。原生生物の失敗は原生生物の責任だ。私達は関知しません。私達は報酬を払い続けています。そしてその報酬を原生生物は受け取っています。時間が経過しています。これ以上の話を我々は・・・。」
煽るならこのタイミング。出来ないならやってもらえばいいし、作れるなら作ってもらえばいい。しかし、それを作る事を面倒臭がっている。作る事が意味と言いながら、作ってくれと言ったら作ってくれないとか中々酷い話だろう。別に小間使いにする気もなければ、あくまでギブ・アンド・テイクの関係なので依頼を断られても仕方がない。しかし、ピンポイントで狙うシステムだけは入れてもらわないと困る!
「なんだ、作れないの・・・!」
「・・・、我々は意味を侵害される事に寛容ではありません。」
「クロエさん!」
「えっ!なに?何時動いたの!?」
「それよりソーツよ離すでござる!」
油断したと言うか何と言うか。元々斎藤は俺よりも身長が大きい。その点は別に良いのだが、こうして片手で首を締められながら持ち上げられるとなんだかなぁ・・・。逆上しているのが手に取るように分かる。なにせこの身体は職に捧げ物をして・・・、魔女達の職システムで大半が作られたならソーツでは壊しようがない・・・、はず!しかし、それが分かった上で冷静ではいられないのだろう。




