270話 可愛くはなかった 挿絵あり
思ったよりも宇宙空間は明るいらしい。いや、うん。明るいと言うか恒星が近いのかもしれない。ほぼ全周囲が透過されるので見ようと思えばどこでも見れる。マイクロゲートとか言っていたが、後方であろう部分を見ても今は何も無い。真空の宇宙空間だが凍える事もないので生きるには多分大丈夫。仮にこの輸送機にゲートを載せていればほぼ無限航行出来る開拓船に出来るのではなかろうか?
「星を見ても何と言う名前かは分かりませんね。距離を考えても地球で観測出来るかは分かりませんし。」
「勝手に名前つけようぜ〜。あの星カズノコ!そっちの星はカジキ!」
「ウドでむせるコーヒーを飲みたいでござるな。一応試作型作業機も指輪に入っているでござるが、宇宙仕様に換装はしておらんし・・・。」
「寧ろなんで星の名前が海産物なんですか・・・。せめてアドラーとかデルタ・ベルンとか・・・。あら、太陽が足りない。モーターヘッドがいても困りますが、呼び名的にはゴティックメードの方が好きだなぁ。ただ、撃つのはバスターランチャーじゃなくてブラックホールクラスターとか縮退砲とか?」
懐かしいなぁ・・・、スパロボはFで完結!異論は認めるがそれ以降はヌルくなったように思う。ただ、乳揺れカットインに驚いたのは忘れない。バリバリのロボット戦略ゲームでお色気挟むとは思わなかった。しかし、物見遊山気分で辺り見ているがドックとはどれだろう?星の中にあるのか或いはここからまた何処かへ行くのか。一応3分は経ったと思うが・・・。
「あの星イクラっぽいよね?」
「いや、宇宙にイクラとか怖すぎでしょう。核となる星とそれに引き寄せられた流体で形成された星じゃないですか?ガス星雲は聞いた事ありますが、外を液体で覆った星は初めて見ました。」
時折正面に捕えている星?っぽい物の表面が波打ったりしている。距離やらを考えると隕石とか衝突してそうだが、特に波紋が広がるだけで変化はないから大丈夫なのだろう。個人的には見た感じ卵子っぽく見えなくもない。外核と内殻があるせいかな?
大きさは正直分からないし、距離も分からないのでなんとも言えないが、ここから見るだけだと多分丸いのかなぁ・・・。まぁ、この船よりはかなり大きいと推測はできそうだが・・・。
「・・・、それって人工物ではござらんか?宇宙なら水は凍るのでござろう?」
「不凍液的な何かでは・・・、ないですね。正面にアレを捕らえてるなら、もしかしてアレがドック?」
「液体・・・、もしかしてダイラタンシー流体ではないでしょうか?それなら輸送機がゆっくり進んでいるのも話が分かります。多分、層を形成してスペースデブリへの耐性、磁気嵐への耐性等を考慮しているならある程度説明はつくのかなぁ・・・。クロエさんにメンサとかギフテッドの話をしたのがなんか恥ずかしくなってきました・・・。」
「仕方ないぜ斎藤っち。コア鑑定して中位に至ったけど、本能的にアレは鑑定するなって警告受けてる気分だし、多分鑑定したら頭破裂する。コアだけでも情報多すぎて脳みそ電気分解するかと思ったよ・・・。」
「えっ!神志那さん至ってたんですか!?」
「うむ!鑑定術師に至ったけど第2職はまだ習得してないにゃ。選ぶ前にワームホールに飛び込んじゃったからね〜。」
「ぐぬぬぬ・・・、私も鍛冶師の中位へ至りたい!」
斎藤が恨めしそうに神志那を見ているが、橘2号だな。ネットの噂で考えすぎて脳が活性化し、爆発するなんて記事を見た事あるがデマだろう。しかし、鑑定とは脳内に直接物品の情報イメージが差し込まれる様なので、情報過多で処理しきれないとも言い切れない。実際神志那は脳が破裂すると言っているし・・・。ん〜、脳がなく肉体もなければ、どんなに情報を取り入れても大丈夫なのだろうか?
少なくとも肉体というのは限界のある枷である。手っ取り早く脳の容量を増やそうと思えば巨大化するのが楽だが、その結果はクジラやら象となる。なにせその重さを支えなければならないし、身体が大きな分動作は緩慢になり早く動こうとすれば自壊する可能性がある。現に象は足を骨折して動けなくなると死ぬし。
その欠点を考えると肉体を捨てた時点で全て解決される。ただ問題はそれと同時に境界線が消えるので自己保存が出来ない事。幽霊がいたとして好きに情報は得られるだろう。だが、その得た情報を見ていくうちに原型を忘れ、言葉を忘れ、自分が何者かも忘れ消えていく・・・。
あぁ、意味とはソーツ達からすれば自分と言う事なのか。ひどく原始的で古い哲学者の考え方のようだが、自己を定義する為の入れ物。それが意味であり、意味を得ると言うのは自己を確定させると言う事。確かに前、魔女がモンスターは俺達に興味津々と言っていたが納得がいった。
魔女は本体を残しているらしいが、それは不便である代わりに何者にも代え難い自己としての砦となる。それに多分、1度自ら肉体を捨ててしまって再構成したとしても、出来上がったものに納得出来ない。これであっているのか?こんなに不便だったのか?なら、不便をなくしより良いモノを考えてしまう。そして、納得出来ずにまた肉体を捨てる。繰り返せば繰り返すほど原型がなくなるので袋小路だな。
(貴女も袋小路だけどね。ただ、1人じゃなく複数であって砦が堅牢な事を喜びなさい?)
(喜ぶねぇ・・・、その先が暇を持て余した神々の遊びなんだろ?お前がお前を変えられる前に姿を持ってた意味が分かったけど、あれで良かったのか?多分本体とは全然違うんだろ?)
(いいのよ?服を着替えるようなものだし。全て捨ててしまったら服に着られて服になる。着る身体があれば服には成れない。他の職はほぼ服に着られて自己はない。見て楽しむだけの装置なのよ。まぁ、それを良しとするだけの精神性は必要かしら?ないなら多分耐えられないから。)
(だねぇ・・・。姫様が最初に職業システムを作った時に試した同族は脱落した者もあったし、完全に抜け出せなくなった者もいた。まぁ、仕方ないよ。いくら優れていようとも自己が揺らげばダメージを負うし、居心地がいいと思えばそのまま服である事を良しとする。まぁ、保険かけて服の中身が消滅すれば帰ってきたりするけどね。後は複数を見てるから目に留まるか否かとか?)
(今は魔女よ。脱落するのも服になるのもそれぞれの勝手。嫌なら自分でなにかすればいいのよ。まぁ・・・、やるだけの気概があればだけどね。)
気概ねぇ・・・。それで出来ればいいんだろうが、やらないって事は多分面倒なんだろう。ある程度の知性体探して何かしらの目標持たせて思う様な行動取らせて見守る。厄介で面倒だな。コントローラー付けて操作出来るならゲームとして楽しめるかもしれないが、相手の身体である以上乗っ取る事になるだろうし、肉体を捨てたなら今更物理的な身体に捕らわれるのが不自由過ぎて嫌とか?価値観が違うので全く分からん。
「どんどん近寄って行くでござるが、このまま入るのかの?」
「アレが液体でダイラタンシー流体なら、速度を上げるのは駄目ですからこのまま入るんじゃないですか?あのイクラっぽいのがドックかぁ・・・、降りて辺りを見たいですが潜水服とかはないしなぁ。」
「あったとしても無害な液体か分からないにゃ。下手すると本当は酸だったり未知の元素である可能性もあるよ。宇宙線に曝されてるなら放射能も怖いし、今出来る事は宇宙ステーションのモデルケースに出来ないか見るとか?太陽フレアの影響を受けず、スペースデブリにも強い。アニメのコロニーみたいにラグランジュ・ポイントを探す必要性がないから建設し放題にゃ。」
「あー、月の裏側にコロニー作れますねそれだと。メリークリスマスとか言ったら米国の人がガタっ!となりそうですが。」
コロニー作れる道が着々と整いつつある。しかも場所選ばずに。某アニメ風のコロニー作るとなるとスペースデブリが衝突しないようにラグランジュ・ポイントと呼ばれる地球と月の間にある安地を探る必要がある。いくら強固に作ろうとも隕石ぶち当たったらコロニーは壊れるし、適当に作ってもスペースデブリ壊れるのでそこしか作れないのだが、目の前のドックはそんなの無視して自衛状態で存在しているように思う。
小型のスペースデブリは液体で衝撃緩和して隕石は撃ち落とすとか?さっき波紋が出ていたし最悪斥力で吹き飛ばしてもいいし。そんな事を考えているうちに輸送機は進み液体の中へ。衝突で壊れる事がなかったので良かった。
「割と汚いでござるな。岩とかが漂ってるでござる。」
「表面の流体だからでしょう。奥に進めば進むほどきれいになっていくと思いますよ?コアの命令伝達方式を考えるに不要な磁気嵐や重力波、或いは送信出来ない状態を嫌いそうですし。」
「あのコアは台座じゃなくても、パイプに入れば何処からでも司令を出せるにゃ。あれは分割思考の集まりで、自分で命令して自分で動いて必要なら別の分体と対話する・・・。学習AIの終わりみたいなものだよ。」
「全であり個みたいなもんですかね?」
「考え方は似てるけど時と場合、作業内容で意見や考えが変わるからもう少し複雑かな?目標に対する多角性を有してる分、分割された思考内で多数決もやるよ?」
「ウチの嫁達みたいでござるな。誰が一緒にお風呂はいる〜とか、誰が一緒に寝る〜とか。」
「ハーレム気分はたのしいですか?私も一体作ってもらおうかな?身の回りを世話してくれる方は欲しいですし。」
「拙者は嫁達とおれればそれで良い。斎藤博士の思考分割が出来るかは分からぬよ?御堂は欲望のままに思考して最終的に追尾して動かしておるが。」
「因みに轢き逃げされた時は多数決したみたい。本当なら底に落ちて消えるはずが不時着したから助け求めるかで。」
死ななかったから自己保存に乗り出したのか。機械と思っていたが割と喜怒哀楽のない思考するアンドロイドタイプとか?確かに提案と受諾で分かれてたし対話と言えば対話なのだろう。ソーツが自身をモデルとして作ったと言うなら分からないでもない。意味は箱を輸送する事とか?
『船体修理パーツの回収を提案。提案を受諾。
ドック内に入り次第必要な修理を実行予定。』
おぉ〜、到頭入るか。周囲はゴミゴミした物がなくなり澄んでいる。近づいたドックは傍目から見るとツルリとしていてビー玉の様だ。宇宙から地球を見たら大気やら地表やらで、色々と色がある様に見えるし模様の様にも見えるが、このドックに関して言えばオーロラの様に光が表面を進んでいる。そして入口がないんだが・・・。
「入口ってどこなんでしょうね?なんかそのまま進んでますが・・・。」
「もしかして目の前の物体そのモノがドックなんじゃありません?通過=修理を的な・・・。」
「気分は洗車機に突っ込まれた車でござるな。」
「おーい、メインコアくーん。言語理解できたら返事してー。頭の中まるっと見られたお姉さんだよー。」
どんどん中心に向かっていくが、輸送機を俯瞰できないから何がなんだか分からんな。神志那は何処かにいる?ある?コアに対して呼びかけているが、言葉で通じるのだろうか?一応互いに話しているので宇宙空間に放り出されている訳ではないが、アレの言語って色と光だしなぁ・・・。もしかして表面のオーロラっぽいものって船に話しかけてた言葉とか?
そもそも肉体を捨てた者がいるなら、実はもうこの中にいるとか?考えても見えないものはどうしょうもないか。キセルを取り出しプカリ。もしかして視界を切り替えれば見えるのかな?理解出来る姿化は分からないが興味はある。
うーん、取り敢えずセオリーとしては背後から襲われるってのがあるが、俺達を襲っても得はないしなにもいないか・・・。精神体なら重なり合っても通り過ぎるだけで互いに干渉出来ないし、見えたからと言って実体化する訳でも・・・。
「うぉあ!えっ!はっ!おえあえう!?!!?」
「ど、どうしだでござるか急に!?」
「なにか驚くものありましたっけ?私が見る限りなにもないと思うんですが神志那さん見えます?」
「私も分かんない。鑑定すればなにか見え・・・。」
「駄目!絶対に駄目!SAN値直送どころか確定発狂でもおかしくないレベルです!」
ないはずの心臓が早鐘を打つように打っている気がする!確かに後ろ向いて振り返ったらも定番だが、ここでそんなベタをやらなくていい!!ビビるだろ!?この輸送機長さから考えると既に鼻先さっきのやつの中に突っ込んでるんだぜ!
よくよく見ればアレ以外にもいなんか色々いるっぽいし、可愛らしい感じの宇宙人をイメージしていたなら間違いなくビビるし、本当に発狂する訳ではないが知的生命体だから人型と思っていると痛い目を見る・・・。
「うおっ!ガッツリ特撮宇宙人!これから見たら私達っておかしな姿なんだろうなぁ・・・。物質的な制限がないから好きな姿でいれるし、質量も重力も関係ないから大きさは自由・・・。」
「なんで見てるんですか!?」
「好奇心に・・・、負けた・・・。ビビるけど私は発狂してないし、鑑定が発動しないから見える以外分からないよ。」
「取り敢えずそこに何がいるんですか?」
「宇宙人がいます。多分そう言う見れる人しか分からないと思いますが・・・、宇宙人にめり込んで通過したり勝手に中に入ってきては出ていったりしています。斎藤さんも今通り過ぎましたよ?」
「見たい様な見たくない様な・・・、美少女宇宙人はいるでござるか?」
「沙耶なら多分いますよ?無論まともな目で見た方のですが。」
「拙者は空想に生きる故、宇宙人は皆美少女と思っておくでござる。」
「通過されても何も感じないんですが私は不感症ですかね?なにかこう・・・、チャンネルが合った的な事ってないんでしょうか?」
「見た感じ私達に興味はなさそう。てか、離れていってる。」
「確かに離れてますね。輸送機は見慣れてるから中身の私達に興味がなければ、後はどうでもいい的な感じかな?まぁ、心臓に悪いんで離れてくれるならそれでいいですが・・・。」
「う〜ん・・・、鑑定師とかクロエさんは見れるのに私や藤君は見れないとなると、何かしらの干渉方法が必要だと予測出来ますね。幽霊見る装置とか研究してみようかな?・・・、ん?なんか黒い点がありますね。」
研究して出来たとしても見ない方がいいと思うな。うん。気分としては見えないものを見ようとして、望遠鏡を覗き込んだら怪物がいた気分。神志那は発狂しなかったし俺も驚きこそすれ変な電波は受け取っていない。絶賛魔女と賢者が笑い転げているが、初めて見るエイリアンならまだプレデターの方が愛嬌がある。
しかし、あの黒い点はなんだろう?ここの中心みたいだからアレがドックとか?指輪よろしく中が意味不明な広さでもいまさら驚かない。ただ、ドックに着いたからと言って俺達が降りる必要性はないんだよなぁ。目的は修理なので乗ったまま修理してくれるならそれでいいし。人が生きられるかも分からないし。あの点もこのまま通過するのだろうか?どんどん近づいていって目的地っぽくはあるが。
『ドックとの接続を確認。修理必要時間を算出。
算出結果:1時間と推定。
交渉権保有者及び原生生物は内部修理の為、降りて下さい。
降りない場合、安全は保証できません。』
「・・・、降りましょうか。ここにいたら何があるか分からないですし・・・。」
「そうですね・・・、降りて生きていられるといいなぁ・・・。」
「多分テラフォーミング技術があるから大丈夫。大気発生装置は伊達じゃない!」
「それ行方不明になるフラグでござろう・・・。生身?のエイリアンはおるのでござろうか?」
降りたくないが降りろと言うので仕方なく降りる。嫌だなぁ・・・。降りないと安全の保証はないらしいが、降りたら安全とも言っていない。邪推するなら降りた先にあの頭の長いエイリアンがいてもおかしくないわけで・・・。メインコアルームの先が暗くなったのでそこから降りればいいのだろう。踏み出したくもない一步を踏み出し重い足取りで歩く。1時間か・・・、置いて行かれる事はないと思うが、降りた先からあまり離れない方がいいのかな?
キセルをプカリ。吸い納めではないが、吸えるうちに吸っておこう。そんなにない距離を歩き暗い穴の中へ・・・?あぁ・・・、うん。呼吸は出来ているしドックと言うだけあって振り返ると輸送機を正面から見た様な感じになる。回収した何かはどんどん消えて代わりに光が帯の様に走る度新しくなっている様だ。
それはいい。それはいいがそろそろソーツをぶち殺そうか。
「祭壇ではないが交渉権保有者が来た。我々は歓迎しない。時間の浪費は作る事にのみ消費したい。しかし、保有者は来た。呼ぶのではなく赴いたなら仕方がない。」
「えっと・・・、地球人?」
「美人さんだが誰でござろうか?もしかして、既に地球には宇宙人が紛れ込んでるのでござるか?」
「始めまして、斎藤といいますが貴女・・・。」
「ソーツ!即刻その声も姿もやめろ!人の妻の姿を取るな!スタンピードで開始を知らせる声も変えろ!そもそもな!説明が足りなさすぎてこっちは大変なんだよ!さもなくばお前達と敵対する!」
「人の在り方の学習により、交渉権保有者はこの姿での対話が最適と算出したが否定するなら変える。その中の個体を指定するか?」
「しな・・・。」
「なら私で。」
「了解した、個体名斎藤に変える。」
妻が斎藤に変わったがいいのか?多分選択しなければ声だけになってたぞ?交渉のたびにこれから斎藤と対面するの?まぁ、音声だけよりはいいが下手したら殴りかかるかもしれないんだが・・・。




