269話 星の海 挿絵あり
「神志那さんそのコア取って!」
「ホイさ!って取れない!!こうなりゃ鑑定って、のあぁぁ!!!」
筋力の無さと鑑定が災いした!緊張感のない叫び声を上げて神志那がひっくり返ったが、それどころではない!このままシーケンスが続行されれば間違いなくこの輸送機は修理されてドックとやらへ向かう!
「斎藤さんも藤君も手伝って!急いで取り外すよ!」
「心得た!」
「な、何事ですか!」
「このままだと遠隔操作ユニットで物理的にパージした物を強制的に接続する!そしたらこいつ・・・、飛ぶぞ!」
『司令ユニットへの干渉を確認。
外殻を形成し物理的接触を遮断。
司令ユニット本体を退避、遠隔操作モードへ変換。』
伸ばした手は空を切り、メインコアはセットした位置からそのまま光が溶ける様に消えた!ヤバい!ヤバい!えっ!アレってどこいったの!?退避ってなに!?
「消えたでござる!?」
「斎藤さん!この台座の下ってなに!」
「アレです!超純水のパイプ!」
「はぁ!?て事は自身を信号に変換して退避した!?」
「おそらくは・・・、なんでわざわざパイプを超純水で満たしたか考えてたんですが、宇宙空間なら磁気嵐が発生します。おそらく司令信号をその磁気嵐に干渉させない為の措置だと推測してましたが現実で見れるとは・・・。真空の宇宙で凍結しても超純水なら不純物がないので透明なままですし。」
なんでヤバいのに嬉しそうなんだよ!推測が当たって嬉しいんだろうけどさ!神志那はウンウン唸りながら倒れてるし、メインコアの行き先も分から・・・、いや!パイプがあるならそれを伝ってるはず!光に追いつけ?ははっ!無茶を言う!しかし、この肉体は変化しない!
「パイプの行き先は!?」
「経路多数です。正確に割り出すのは無理ですよ!?」
「ちょ!外を見るでござる!」
「はぁ!?窓もないのにどうやってって、壁が透過してる!?」
「物理透過映像?いや、もしかして何処かにカメラが?でも調査した時はそんなモノなかったような・・・。う〜ん・・・、マジックミラーではないはずですが・・・。」
「輸送船マジックミラー号・・・、どことなく淫靡な響きでござるな。あのシリーズにはお世話になったでござる。」
「こら藤君!現実逃避しない!こうなったらさっさと降りますよ!ほら、倒れてる神志那さんを担いで!」
大人のビデオ、今はDVDか。そんな話はどうでもいい!走れば外に出るの間に合う?最悪ぶっ壊して脱出する?いや、脱出アイテムでゲートの外に出る?って、脱出アイテム1つは宮藤に渡して1つは夏目が持ってってるやん!そんな迷っている姿を嘲笑うかの様に外の様子を映し出した壁には遠隔操作ユニットだろう触手っぽい物と布っぽい物が出て来ている。
藤が神志那をお姫様抱っこで担ぎ3人で入って来た所へ走って向かうが、嫌がらせなのか親切心なのか横を見れば外の映像がついてくる。時折映像が途切れるのは損傷が激しい所とか?いや、今は考察は後にしてさっさと走ろう。
『遠隔操作ユニットを他ユニットへの接続を確認。
司令ユニットからの信号途絶。
信号経路形成・・・、形成成功。
自動修復ユニット及び航行ユニット・・・、損傷率軽微。
自動修復ユニットの起動を提案。提案を受諾。』
「私の修理は間違っていなかった!軽微ですってよ軽微!完全修復とは行きませんでしたが、それでもなんだか認められた気分ですね。」
「良かったですねコンチクショー!修復出来ちゃうじゃんチックショー!そこはファンブルで致命的な失敗で良かったでしょう!」
「拙者達は今ファンブルを引いてるでござるよ・・・。」
「そのファンブルいらね!てか、入口は!?」
「接続で塞がってしまったとか?」
「運ぶな逃がせよ!壊れた船体もきっちり補修してるから外に抜け出す道がなーい!」
やっぱり壊すか!?暴力は全てを解決するって言うしやっぱり壁を壊して外に出るか!?多分魔法を使えばぶち抜けない事はない。なら、さっさと壊すか!?塞がれた先って多分自動修復ユニットだよな!?元から壊れてたし今壊しても問題ないよな!?
『自動修復開始・・・、修復率3%。
船体に付着した不要な瓦礫の素材変換を提案。提案を受諾。
修復率90%。航行可能性範囲と判断。各システムを起動。』
「起動するな!そもそもドックってどこよ!?」
何光年先とか言われてウラシマ効果発動したらどうしてくれる!?ゲートの中にドックがあるならまだいいが、どこにあるかもわからない場所に飛ばされるとか怖すぎる!長生きするのはいい、それは納得した。しかし、妻や子の死に目に会えないのは違う!そんなもの悔やんでも悔やみきれないだろう!?やっぱり壊してこじ開けるか!
『破壊性行動を検知。質問に回答。
現在地より計測・・・、3分時距離と推定。』
「3分時距離?カップ麺作る間に到着する?」
答えるとは思わなかったか割と近いらしい。破壊性行動って魔法使って壁をぶち破ろうとした事だよな?やっぱり暴力!暴力は対話の窓口になれる!交渉術でも笑顔話して、テーブルの下で殴り合えと言うし間違いない!なら、このままぶち抜こうとすれば降ろしてくれる?俺達は別に何処かへ飛び立ちたいわけではない。仮にガーディアンがあるなら停止コードは解除したいけどさ。
「クロニャン駄目・・・、今壁を壊すとみんな死ぬ・・・。」
ぶっ壊そうとしていたら神志那が呟く。みんな死ぬ・・・、一体外はどうなってんだよ・・・。見る限りだと凪いだ海の様に変化はない。外の触手も既に動きというか、視界から消えているが浮いていると言う気配はない。気配はないが足元以外全て透過状態なので気分としては細い鉄骨の上に立っている気分だ。命がけのゲームとかはしたくないんだよ・・・。
「ざわ・・・、ざわ・・・。飛ばずに降ろしてくれるのでござろうか?3分時とは3分で間違いないでござろうな?」
「藤君3分時ってなんですか?私には全く聞こえないので何をどう対処していいか分からないんですが・・・。」
「これのドックへと向かう時間を算出するとそれだけかかるらしいです。無理やり降りるのは駄目なようなので、一旦メインコアがあった部屋へ戻りましょう。神志那さん歩けますか?」
「ちょっと無理・・・、多分立てない・・・。酷い船酔いして生温いビール飲んだ後に頚椎やるまでヘッド・バンキングした気分にゃ・・・。」
「なら拙者がこのまま抱えて運ぼう。なに、婦女子の1人くらい軽いでござるよ。回復薬をゆっくりでいいから飲むとよい。」
中身イケメンだった藤が、外見もイケメンになって籠絡される人は多そうだ。取り敢えず神志那は藤に任せて一步を踏み出す。そうすると足の下がPタイル1枚分くらい暗くなり、そこに確かに足場がある事を教えてくれる。
「透過するのって意味があるのかなぁ?輸送船するだけなら別にこんな技術は必要ないし、モンスターからの攻撃を避けたいとか?触ったり踏んだりすれば感触があるから、形そのモノは失われていないし・・・。と、言うかクロエさんは慌てすぎですよ。ドックってゲート内にあるんでしょう?退出ゲートもここにはないから時間的に考えると、退出ゲートまで進む時間でしょう?まぁ、次の退出ゲートまで3分と言われれば驚異的な速度ですけどね。」
あっけらかんと斎藤が言うが、そうか・・・。前提と知識量が問題だったかぁ・・・。ならこれだけ落ち着いて辺りを見回すのも納得できるなぁ・・・。なら、前提を変える話をしようか。
来た道を戻りながら口を開く。相変わらず撮影は続いているのでぼかすべき所はぼかすし暗示する所はそれに留める。あまり下手な事を言うと何がどう作用するかは分からない。バタフライエフェクト・・・、蝶が飛んで竜巻が発生するかは分からないが、お前等知性が足りないと言えばプライドの高い人は頭にくるだろう。
「斎藤さん、宇宙人はいる。前提としてこれはいいですね?」
「流石にゲートがあるので否定は出来ませんよ。地球人にこれを作れとかモンスター作れと言われても無理ですし、他の星の高度な知性体が作って持ち込んだという方が現実味があります。それがソーツ何でしょう?」
「ええ、そしてゲートは地球以外にも多数設置されています。このゲートはソーツが言うには第85264還元変換処理セクターだそうなのでその数分は存在するのでしょう。」
「えっ・・・、て事はその数分知的生命体が存在すると?」
「いえ、厳密に言えばソーツの眼鏡に適う知的生命体がいると言う方が正確です。なので適わない私達以下もいれば、私達以上の存在もいますしソーツ以上もいます。」
「直接言葉で言われると会ってみたくなりますね。生きている間に邂逅出来るかは分かりませんが、宇宙開発を急ぎたくなる気持ちはわかります。」
斎藤は好奇心が勝つらしい。まぁ、知的生命体と言う前提なので映画のエイリアンは該当しないだろう。プレデターは多分ソーツ的に人より上なので戦士枠で雇用してそうだがE.Tはどうだろう?知的と言う面では宇宙船作れるので大丈夫そうだが、戦闘面では心ともないような・・・。ただ、ヨーダがいるので割と戦えるかもしれない。
「宇宙人がいっぱいいるのは分かったでござるが、現状となにか関係があるのでござるか?」
「あります。退出ゲート・・・、斎藤さんはこれを使わないと外に出られないと言いましたが、間違いではありません。人類としてはこれ以外の退出方法を有していない。しかし、この退出ゲートは私が交渉して設置してもらいましたし、階層を分ける地面もセーフスペースを作る為の仕切りと言う事で作ってもらいました。つまり、本来ゲートの中には最初の5階層分を省くと地面もなければ、出口なんて存在していなかったんです!」
「「な、なんだってー!!」」
「キバヤシ乙。他の星ではそもそも勝手に出入りできる場所。或いは資源を安全且つ無限に回収できる場所として重宝されてる・・・、と思いますよ?受け入れるなら報酬は出すらしいので。そして、そんな存在と対等か或いは上として交渉しているソーツが作ったこの輸送機。外に出る方法を有していないとなんで思ったんですか?」
「いくらなんでも話が飛躍しすぎているでござる!未だ嘗てスタンピード以外で外に出たモノはないでござろう?」
「モンスターを勝手に持ち出したらガーディアンが来ると警告しましたが何か?」
あれは賢者達が渡したモノらしいが、ソーツがそれをいじくり回していない訳が無い。だって干渉出来ない存在から貰ったものだろ?手本にするにしても新しいインスピレーションの材料にしても作る事が意味なら見ないわけがない。そんな話をしているうちにコアの台座があった部屋へ。相変わらず周囲は見えているが代わり映えはしない。
「で、でも現状としてここから動いていないわけですし・・・。」
『システムオールグリーン。
マイクロゲートを形成。形成完了。
後方に斥力磁場を形成。形成完了。』
「今動きましたね?」
「動こうとしてますね?」
「射出するのでござるか?」
『発射。』
風景を置き去りにと言うか、風景が消えて後がどうなったかは分からない。ただ言えるのはジェットで飛んでいるわけではないので、後方爆風とかは考えなくていいのかな?そもそも引力と斥力で飛行しているのでイメージとしては引っ張った輪ゴムを放した感じとか?特定方向の引力が捉えられるのならそこに向かうだけだろうし。
「発射の衝撃はないようですが皆さん大丈夫ですか?」
「大丈夫でござる。神志那女史、気分は如何か?」
「だいぶいいかな・・・。頭がパンクするかと思ったぜ。」
「私も大丈夫です。ただ何も見えませんね。」
「取り敢えず大丈夫なら一旦落ち着きましょう。タバコ吸いたい人は言って下さい。一応気分は落ち着きます。それで現状何か分かる人か推測出来る人っていますか?私としては3分すれば目的地付近に出るとは思うんですが。」
「それが多分正解でござろう。目指したものが修理ドックなら何処かに基地があるのでござろうか?」
「基地と言うより中継施設かも。輸送機なら箱を集積している場所に修理ドックがあるかもしれませんよ?」
「マイクロゲートっていうのが多分、退出用のゲートの事なんでしょうけど出口がどこになるか・・・。呼吸は取り敢えずできてますよね?無重力で浮いたりしてませんよね?足元まで透過されると、イマイチ上下の感覚までなくなってしまう。」
わいわいと意見交換するが、やはり推測の域は出ない。仕方ないだろう。材料が少なすぎて決定力に欠けるのだから、どんな突拍子もない意見も否定はできないのだし。マイクロゲート=ワープゲートという話で不時着しそうだが、ドックへ行ったら行ったで帰れるのだろうか?
「天の川銀河規模の広さを3つ超えるにゃ・・・。」
「はい?えっ、それは本当ですか?えっ!いや!ウラシマ効果で何光年後かに地球に戻った事になりませんよね!?」
「大丈夫・・・、ワー厶ホール理論が今証明されているところ。ただ、空間を穿ってそのまま指定座標まで貫通させたから本当に時間は地球時間で間違いないよ。」
藤に降ろしてもらい多少ふらつく神志那が口を開く。ワームホールって確かブラックホールと反対側のホワイトホールを繋いだ道の事だったよな?時空を超えるとか言われてたけど、銀河系を離脱したら時空を超えた事になるのだろうか?夜空を見上げて何億光年も先の星を見ていると思っていたが、気分次第で星は割と動かせるのかもしれない・・・。まぁ、どうせ動かされても何億光年後にしか地球では見られないので関係ないか・・・。
「おぉ〜。なら私達は初めて銀河を飛び出した人類になるんですね?」
「その前に神志那女史と斎藤博士は宇宙服はお持ちか?拙者はどうにか出来るでござるし本部長殿もどうにか出来るだろうが、お2人はそのイメージを持っているか?」
「ない・・・、ですね・・・。」
『到着しました。ドックへ信号を送信。』
暗い中を抜けた先は星の海。呼吸は出来ているので宇宙服は杞憂だったようだ。しかし、これはすごいな。




