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街中ダンジョン  作者: フィノ


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261話 それぞれの過ごし方 挿絵あり

 対象にベッタリではいけないと放課後は適当に会話して帰宅。相手と自身の距離感が近すぎるのも良くない。対象からの誘いがあれば乗るのも手だが、今日に限ってはそれぞれに用事や部活があると早々に切り上げて解散となった。そして、適当に日常を演出しつつテイの帰りを待つ。夕食は水餃子となにか適当な1品、唐揚げでいいだろう。


「父さん、体操服について弁明は?」


「青いペンギンの量販店で体操服を指定した。私個人ではなく店員がそれをチョイスした。免税であり安価、店員はこの国の人間なら疑う余地はない。よって、自己批判は必要ないと判断するよ。」


「・・・、この国で何年過ごした?」


「黙秘する。その情報は互いに開示すれば捕まった後に露見すると重大な問題になる。そもそも同志リー少尉、この会話でさえ盗聴されれば危うい。同志が話して大丈夫と判断したからこうして話しているが、本来なら我々の会話は①学校での出来事②観察できたファーストの報告③ごく一般的な親子としての会話④緊急時における特定要請及び相談、これらの分類以外はない。衣類程度で④を使用するのは些か軽率では?」


 腹立たしい。事実である分尚の事腹立たしい。確かに争点は衣類・・・、体操服についてだが学校指定の店で買って用意すれば済むのではないか?それならば私がコスプレ好きの少女として認識されずに済んだ。テイ自身は細身で草臥れたサラリーマン風の男だが、話に聞いただけなら十年近くこの国に潜伏し活動を行っている。他の工作員も似たような者が多く、普段は雑踏の中の1人でしか無い。


 戸籍からイジっている、或いは帰化しているので今更見つかるとは思えないが、それならば体操服の移り変わりくらい分かるだろう!確かに彼等からすれば私はリスクだ。波風なく変化しない中で活動できれば早々見つかる事もないのだろうが、微妙な時期に私を抱え込んだので工作はしていても全滅のリスクがどこから降りかかるかもわからない。


 確かにただの服だ。目くじらを立てて追求する程の事態ではない。小遣いと言う名の活動資金として援助も一部受けているので下手な事は出来ないが、本来なら資金は一括管理して集積した後に必要な分だけ均等分配するのが本来の形だろう。彼等は互いに援助は行うが集積しようとはしない。確かに発見リスクを恐れるなら分散させた方がいいのだろうが、資本主義に毒されてなければいいのだが・・・。


「確かに軽率だった。ただし、学校指定の衣類を用意してもらう。あの衣類は潜入には目立ちすぎる。」


「対象が男子学生なら誘惑の1つもやりやすいと言う好意もあったが、指定の物を用意しよう。ただ、対象には着用した姿を見せたのだろう?」


「いや?浮く事を考慮して見せていない。代わりにグループ内の少女には見られた。」


「立ち回りが下手だ。時間をかけるのは賛成するが最長でも1年、良好なら延長も認められるが露見すれば即時撤退。この撤退時には我々も含まれる。次の工作員を派遣するにしてもハードルが上がり・・・、はっきり言って公安やこの国が鎖国する勢いで門を閉じれば入り込めない。それに、どこの国の手の者か知られるだけでも不味い。同志リー、器用な立ち回りを要求する。」


「分かっている。」


 苦々しく思うが分からない話でもない。あの格好で体育を受ける。奇抜で珍妙だが露出がある分対象の興味は刺激できる。何故それを持って来たかは別として、私は対象の家に遊びに行く程度には早々に仲良くなりたい。


 そうすればファーストの観察はよりやりやすくなる。何せ家が向かいにあるのだ、不意の遭遇を怪しまれないというメリットは大きい。そんなに事を思いながら唐揚げに手を伸ばすが、テイはまだ言い足りないのか水餃子を箸で持ち上げた。


「いや、分かっていない。夕食に水餃子を選ぶ所からして甘い。祖国ではそれでいいがここでは焼け。そして米と出せ。日本人の感覚では餃子は焼いてあるおかずで主食ではない。バレる可能性は低いが犬の鼻は鋭い。夕食1つとっても食性からバレる可能性があるから芽を摘め。今踏み込まれたと想定するなら逃げおおせる事は出来る。だが、残留物は消せない。」


「・・・、了解した。」


 プロの潜入工作員か・・・、時間が解決する部分もあるが私とて情報でしか知らない部分もある。長年の癖を消すのにどれ程の時間が必要かは分からないが、少なくともテイは人前で大声で喋る事もなければすぐに怒る様な事もなく、どちらかと言えば主張せずのらりくらりとしている。ただ、それがどうしょうもなくこの国に溶け込むのだから不思議だ。


「それで、新しい学校はどうだった?父さんとしてはイジメがないか心配だよ、新しい土地での出発で今年は受験だからね。あっ!進学はどうする?」


「進学は保留かな?新しい学校は凄いよ?スィーパーが多いせいかカリキュラムにも部活にもそれっぽいのが取り入れられてるしね。」


「カリキュラムと部活ね、なんか興味引くのはあった?」


「授業的な事で言えば考える事に重点を置いたものが多いかな?考えて対話して意見を取り入れて新しい考え方を柔軟に取りいれる。普通の数学とかもあるけど、図形とかの問題が増えてる。」


「そうか・・・。授業は入念に聞いて・・・、タブレットの分は出来るだけノートにまとめるように。」


「分かってる、それと体育は凄かったかな。ここでも考えながら走れとか職を取り入れたスポーツをしたりとか。」


 ゲート外で全力で能力を使うのは憚られるが、安全にスィーパーとして訓練を行うならああやって遊ばせながら慣らすか、セーフスペースが最も効率がいい。外だと対モンスターと言う部分は弱いがその気になれば狩りに行ける。問題は退出だ。40人規模の人間を統制してセーフスペースに送った後どうやって帰らせるのか?上昇アイテムがあれば出来るだろうが、無ければ15階層を目指す事になる。それはもう授業ではなくスィーパーとしての仕事だ。


 個人的な見解を話すならあの高校でやっているのは、授業と言う名の、スィーパー育成訓練。この国は中位に至った者が豊富で各人から証言を集め文書として公開した。それは公平で喜ばしいが国の財産を考えるなら公開などしないほうがいい。資本主義的に考えればスタンピードのリスクがあろうと、いやあるからこそ価値が上がり高値で売り捌けるのだ。文字通り金の成る木。1冊数十億でも数百億でも買い手はいくらでもいる。何せ対象は国で人質はその国の国民だ。


 買わないという選択肢は始めからなく、買えないなら国民からその国の政府が叩かれる。しかし、この国は無料でその金の成る木を手放した。命あっての物種と言う言葉もあり、公開時期を見るなら米国スタンピード後なので次への危機感があったと言えなくもない。


 だが、授業を受けて見えてくるのは文書を公開しても痛くないレベルで運用出来ると踏んだからではないか?文字通り人は戦力だ。近代兵器を建造するよりも低コストで柔軟性があり、電子機器よりもよほど対応力がある。そして特定年齢に達すれば職に就き十二分に戦える。人数という数だけ見れば我が祖国は恵まれているし、至る芽も人の数だけあるだろう。


 それでも現時点でだけ言えば戦火を交えれば負ける。自身が中位だからこそ分かるのだ。数を揃えた中位が進軍してくるとなれば国落としが可能であると。この国は中位を外交カードにする気はないようだが、手札としてそれは手元にあり更に言えばファーストが控えている。観察時間は少ないが剣士を名乗りその通りに動けるのなら下位では束になろうと相手にはならないだろう。そして、この教育だ。祖国が遅れているではなく先に行っている。


 必要な工程を経て国としてスィーパーの運用を目指す。ファーストがその事実を知っているかは分からないが、息子と称される人物から聞いているだろう。強制されるではなく自然のその方向性に持って行く辺り、この国もプロパガンダが得意な人間がいるようだ。 


「なるほど。教師に知り合いはいないけど、話す機会があったら詳しく聞いてみよう。特に誰が発案したとかね。新しい試みなんだろ?」


「うん。任せるね。じゃあ部屋に行くよ。」


 やりたくはないが部屋で戦闘シュミレーションもしよう。学生相手に負ける可能性はないが常にモンスターと戦うスィーパーとなると不安が残る。それにギルドには誰がいるかわからない。調べた限りではファーストに望田、青山に出会っていないが夏目。ギルドがここしか無いなら外野人員が来る可能性もある。姿を見せない橘がどこにいるかは所在不明だが、何も処置せずに大手振って現れないだろう。秘密とは誰しも覗かれたくないものだ。


 対象、那由多、佐伯。この3人との戦いになるとして逃げるのはどうにでもなる。ただ、ぶつかるとなると面倒と言える。個ではない集団との戦い。祖国でも模擬戦はしたがスィーパーとの戦いは出来る限り避けたい。あまりにも目立ちすぎる。R・U・Rを使用してその辺りも探るか。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 分業化は素晴らしい!溜まった書類も減り目を通すのも政府やらの書類が多くなった。スィーパーは管理しないといけないが、ライセンス書類まで1人でする必要性はない。そんな政府の書類は人事やら何やらと様々。装飾師講習会が終わった遥は正式にJAXA方面に引っ張られ斎藤と行動しているようで、知らない間に宇宙開発メンバーに入っているし、藤はそのとばっちりかロボを急かされている様で奥には行けていないようだ。


 宮藤率いるメンバーは45階層アタックを敢行してズタボロになったとか。辿り着けるのは着けたが、モンスターの猛攻でかなりの被害が出て一旦休暇に入ったそうな。宮藤がダメージコントロールしたおかげで死者はいないが、中層にいそうなものもいたそうなので死者がいないのは不幸中の幸いだろう。


 ただ、夏目がこちらにいるので小田が欠損部分を馬肉で再生したそうだが、いまいちイメージに合わない人がいるのかリハビリも兼ねているらしい。逆に親和性の高い人は走るのが早くなった気がすると走り回っているとか。ついでに言えば佐沼が宮藤にオファーを流してモンスターのモデリングを手伝ってもらいたいと言ってきたとあるが、試しに奏江さんがやったら基盤が焼き切れたらしい。何事もイメージなので何台かPC壊せば出来るようになると思うよ?


 そして暇になった宮藤から余裕があったら51階層周辺を調査しないかというオファーも来た。講習会メンバーで行こうかと言う話もあったらしいが、49階層での慣らしを優先したいメンバーと仕事で呼ばれていないメンバーもいるので中々噛み合わずこうして話が来ている。まぁ、最近奥の掃除もできていないのでもう少し安定したら行こうかな。


 ギルドとしてはある程度安定してきたし、分業や上がった使用者の意見も取り入れられそうなので、このまま何事もなければモデルケースとしては成功かな?ただ、政府がガメつさを出したのかクリスタルを大規模買い取りしたいと言ってきた。するなら勝手にすればいいのだが、提出先に警察や自衛隊そしてギルドも含まれるので即金が欲しければ来るのかなぁ・・・。


「今日は上りにしようか。書類もほとんどなくなったし急ぎもないでしょう?」


「なら先帰っていいですよ。私はこれからジムとサウナからの温泉というコンボの旅に出かけます。中でたまにロウリュしてくれる人がいるんですよね。」


 熱波師とか雇ったっけ?いや、魔術師が遊んでいる可能性があるな。人が多い時間帯に入らないので中の様子は知らないが、ロウリュは体験した事がないのでそのうち試してみよう。


 先に上がっていいと言うので内線で、妻がいるか確認して部屋を後にする。生憎と託児所方面が忙しいらしく今日は1人帰宅となった。バイクを転がしていたがふと思いついた。1人なら時間を気にしなくていい。


  挿絵(By みてみん)


 なら、久々に本屋に寄ろうと行きつけの本屋に寄り大量購入。知らない間に多数の新刊と興味深い記事が書かれた本が増えている。あれよあれよと手が伸び、本の重さもバイクであることも気にしなくて済むのでどんどん増えて、しめて十数万円・・・。買い過ぎだと思うが、少しづつ買ってもその値段になるので仕方ない。


 古本でもいいのだが、1冊たりないおばけが怖いんだよ・・・。読みたい時にその巻数だけ綺麗に抜けていると必ず後悔するし、時間次第では買いに行く。まぁ、古本屋は古本屋で表紙買いしなくて済むのでいいのだが・・・。そんな事を思いながら家に帰りさっさと着替えて読書タイム。4月に入り気温が上りだして夜でも多少暑く感じるので薄着でいいだろう。


 参考書に医学書、人体構造に関する本にラノベに漫画と我ながら節操がない。ただ、接近戦を考えるなら武術初心者の俺が今更何々流を覚えるよりは、人体構造を理解して曲がらない方向や関節を覚えたほうがいいとか。俗に言うサブミッションが手っ取り早いらしい。確かに体格では圧倒的に劣るので魔法を考えないならそれが最適解なのかな?腕を掴んでひねる。それだけで無力化出来るならそれに越した事はない。


「ただいまー。」


 わざわざ対人戦をする気はないが、自衛を考えると後ろから襲いかかられたり、袋詰にされたりと言う事もあるだろう。袋詰で魔法を使うなら仕方ないが素手相手にいきなり魔法でいいのか迷うんだよなぁ・・・。


  挿絵(By みてみん)


「誰もいないのかーって、父さん!?」


「ん?あぁ、おかえり。遅かったな。」


「その格好は何だ!その格好は!」


「いや、ただ暑かったからな。」

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[気になる点]  古本でもいいのだが、1冊たりないおばけが怖いんだよ・・・。読みたい時にその巻数だけ綺麗に抜けといていると必ず後悔するし、時間次第では買いに行く。まぁ、古本屋は【古本雇っで】表紙買いし…
[一言] >プロの潜入工作員か プロだろうか? 一般にはブルマなぞ出回ってない事を知らないのに 中国らしい抜けっぷりではあるけど >国の財産を考えるなら公開などしないほうがいい 単に日本はその先を見…
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