閑話 65 授業風景
「男子は走れー!スィーパー組は考えて走れー!そうでない奴は自分の限界に挑戦して死ぬ気で走れー!さもなくば後からスィーパーになっても苦労するぞー!」
初めての体育だが体育教諭としてあの指示は合っているのだろうか?祖国の体育ではまだマシな指示があったが・・・。ストレッチを終えた男子達がぞろぞろと並びだす。入学時にこの学校は新しい教育カリキュラムのテスト校でもあると聞かされたが、五教科についてはさほど代わり映えしないように思う。
強いて違いを言うならディスカッションと教科書に挿絵が多い事だろうか?一部はタブレット学習なのだが、頻繁にこの絵を元に〜や、この右斜左下のと言う場所を直感のままに表せ等がある。絵については同じ物でも平面と立体があるので、見方や印象が変わる為ややこしい。
「那由多競争な!昼食のジュースを賭けようではないか!」
「お前地面に運んでもらうだけだろ!」
「君はいい友人であったが、君の職がいけないのだよ・・・、フフフ、ハッハッハッハ!」
「鍛冶師舐めんな!その地面を泥舟にしてやるよ、作成!」
「なに!?那由多、謀ったな那由多!」
「沈め狸。本数を言ってなかったから20本は買ってもらおうか?」
「その賭け俺も噛ませろ!」
「げっ!槍師の田ノ浦が参戦した!てか、抜け駆けじゃねーか!」
「俺は速えぇぜぇぇぇ!!!ガっ!」
「すまん、カバーリングで付いて行ってミスって吹き飛ばしちまった!」
「槍師が死んだ!」
断言しよう。あれは体育では、授業ではない。トラックに轢かれたかの様に飛んだ男子は空中で器用に回り着地してまた走り出す。泥舟と怒っていた対象も船を爆走させ、那由多は妨害工作か今度は船を壊しだす・・・。
「男子共は何やってるんだ全く。」
「そう言う千尋ちゃんもボールキャッチするんじゃなくて、ノールックでキャッチャーに殴り返すのは間違ってると思うのです・・・。」
授業とは同等の学力と体力を持つ者が平等に学び成長する場である。まかり間違っても走れと言われてサーフィンしたり、ソフトボールの玉を殴りつけてキャッチャーミットの中で煙を上げる様な事ではない。
ボールを取ったクラスメイトも何1つ気にせずに熱そうにボールをピッチャーに投げているが、私の常識が間違っているのだろうか?確かキャッチャーは盾師、ピッチャーはガンナー。バッターはスクリプターだったか?ミットに入る前にボールを編集して打ち返せばOKらしいが、少林ソフトボールなど私は参戦したくない・・・。
そもそもクラスの中で職に就いていない者は片手だけ。その方手でさえ、R・U・Rを使ってイメージを定着させれば成りたい職に就けるのでは?と適性等を無視してギルドに行ってゲームとしてR・U・Rを使っているらしい。祖国の遅れと取るべきか、表現の自由と言う個人主義を許したおかげなのか、少なくともこのクラスにおいて私の常識は運動面においては通用しないらしい。
「ほら、時枝さんピッチャーだよ!」
「は、はい!?私ランニング組・・・。」
「サバイバーピッチャーとなると手強いな・・・。」
「ガンナーのピッチャーなぞ四天王の中でも最弱!」
変な期待といつの間にか四天王と言うものにされたが、なった覚えはない。取り敢えず残りの2人を教えて欲しい。教えを請えば何故期待されているかの理由が見えてくるのかもしれないが・・・。その前に私はどの程度サバイバーとしての力を出していい?
「さぁ!加奈子、こい!」
「・・・。あの〜、キャッチャーの前に立つのは違うと思うんですが・・・。」
「ん?大丈夫だ。そもそもバットなんてすぐにへし折れる。金属製だって何回か打てば折れ曲がる。なら、拳で打った方が確実に仕留められるだろう?」
ストライクゾーンとは!?デッドボールしかない所にボールを全力で投げ込んで拳で打ち返すのは既に別の競技だろう!?バットがへし折れるとはホームランでも毎回打っているのか?いや・・・、そもそも相手はスィーパーと言う人でありながら人ではない言うなれば新人類なのだ。私の常識が間違っていた。
ファースト誕生の地が旧式の常識で運用されている訳がない。対象を通しての観察と言う任務だが、どうやら私の仕事は増えそうだ。新しいカリキュラム・・・、政府が主導している辺りファーストも噛んでいるだろう。なら、いずれ至る道を教育として示している?
「なら、これでどうです?」
球速はスローボールと取れるほど遅い。代わりにトロンプ・ルイユで玉そのものを増やした。撤退を絡めれば針に糸を通すように抜け道も見つけられるが、佐伯が正面に立つ以上どのルートに投げてもストライク=デッドボールコース。なら、怪我のない程度に抑えて投げるのがいいだろう。
「考えが甘いな加奈子!女子ソフトボール部のエースは更にエグい玉を投げてくるぞ!」
増やしたのは5個。更に増やせるし先にも後にも出せるが後先ではなく同列同着なら見抜かれたとしても手は2本しかないので、本物さえ見抜けなければ当たる。スローボールなので当たっても痛い程度、流石にコレなら避けるだろう・・・。しかし、佐伯はそのまま不動!
2本しかない腕で廻し受けを行い腕の幅分しかない中でトロンプ・ルイユによるデコイを消し、本物を見付け出して拳で打つ。女子高生の腕の幅なんて空手をやっていたとしてもそんなに太いものではない。そして、遅いとは言えボールが同時に5つ飛ぶ中で臆せずに完璧に捌き切り打ち返す技量には舌を巻く。
「球技は苦手ですから・・・。ただ、次はもっと考えますね。」
「時枝さんどんまーい、ピッチャー次に交代ねー。」
クラスという単位でやっているのでピッチャーは交代制バッターも同じ。点を取るというチーム戦ではなくピッチャーとバッターをどんどん回し残りは守備と言うスタイル。昔は数クラス合同で行い人数確保していたようだが、今の授業内容を見る限り合同で実施するのは無理だろう。
代わった次のバッターは治癒師に良いようにあしらわれ、バットを使ったがそれが仇となりボールが離れないと言う不具合によりピッチャーの勝ち。
槍師と剣士では中々勝負が付かなかった。剣士はバットで切る様にボールを打とうとするが、槍師は端から空振りストライク狙いでギリギリの所でボールを手元に引き戻す。詐欺のようなやり方だが、出来るものはしょうがない。結局空振りとファールに打ち取られて終了。
これは既に体育と言う名のゲート内行動訓練だろう。誰でも何かの職に就けると言う事は、裏を返せば誰でも戦力になり得ると言う事だ。力持つ者を統制して抑え付け均等なイメージと平等な扱いを教えるのではなく、個人に依存した実力主義。ゲート内でどれ程戦えるのか?
そう聞かれれば実践訓練がないので一定数身がすくみ動けない者もいるだろうが、基礎レベルで自身のイメージを固めていればいざと言う時の助けになる。スィーパーである以上ゲートに入り活動でき、自己責任とは言え中には個人にとっても国にとっても魅力的なものが多い。
一攫千金と言う個人が富を独り占めする様な自体も想定できるが、物品に関して言えばそこに行けば確実に手に入ると言う物はなく、中で活動しモンスターと戦った分だけの成果になる。なら、こうして可能性を引き出すのもまた教育なのだろうか?子供を死地に送りたくないと言うのは大人の考えとして、行く可能性のある者を鍛えないというのはエゴだろう。職に就いてスィーパーである以上、籠の鳥ではないのだ。
「授業終了10分前からグランド整備、荒らした分は均して帰れ。怪我人はいないか?気分の悪い者は申し出るか保健室に行くように。」
「「はーい。」」
荒れ果てたグランドを対象が一気に土を均し、その後をローラーやトンボと言う物で均していく。ゲートで橋を作った腕前は確かなのか、最後の方はランニングを無視して男子全員で対象の船に乗りグランドを進んでいた。教諭にしてもそれを咎める事がない以上、それもまた良しとされるのだろう。何で評価されるのか分からないが出席単位さえ取ればいいのかもしれない。
コソコソと体操服から制服に着替え、借りたジャージも袋に詰める。佐伯はそのまま返してもらってもいいと言っていたが、流石に他人が着た物をそのまま着たくないだろうから洗って返すと引き取った。そして、昼食の時間となり負けた訳では無いだろうが対象が全員分ジュースを買ってくるから金を出せといい、必要な者は小銭を渡して頼む次いでに、パンも一緒に頼むと色をつけて渡していた。
実質的に見ればプラスなので対象としてはいいのだろう。ただ、3年の教室は3階にあるものの売店は1階にある。『じゃ、行ってくる!』そう言って窓から飛び立つ姿は心臓に悪い。どの道隆起した土が足元にあるので大丈夫なのだろうが・・・。見つけた教師も『教室から飛ばないー!』と軽く?怒るだけに留めるのは正解なのだろうか?そして、帰って来た対象と共に教室で他愛もない会話をしながら昼食を取る。
「そう言えば加奈子は部活動する?もう3年だから微妙だけど。」
「全員入部指定とかってありますかね?前の所はそれがあったんですけど・・・。」
「ないない、僕帰宅部だし。入る?帰宅部。今最後の大会に向けて部員募集してるよ?」
「え・・・、結城君帰宅部って部活があるんですか?」
「ある!今年はゲート50階層からの帰宅で例年になく厳しいーって、痛いやん千尋!」
「ナチュラルに嘘を言うお前が悪い。信じないとは思うがありそうで嫌だろ?」
「だな、そのうちどっかで開催されるんじゃないか?エクストリーム帰宅とかで。」
「もー、本当に騙されそうになったじゃないですか!」
ワイワイ話すがないとは言い切れない・・・。兵士なら本当にその任を受け帰宅を望まれる。いや、そもそも誰も死にたくはない。昼食が終わりここで喋るか遊ぶかと言う話の中、ふとグランドを見ると2m程度の人形が歩き回っている。何事かと思えば将棋部が将棋をしているのだそうだ。
観戦者の生徒から声が上がり、歩で歩を取るだけでも人形が相手の人形を殴り倒すので迫力がる。やはり、学校内のカリキュラム調査も随時していったほうが良さそうだ・・・。




