258話 間一髪 挿絵あり
「プログラムって言うとJava言語とかですかね?」
「そうですね。ただ外部にこれがあるって知らせるわけにもいかないんで一から十までここでやってます。神志那さんとかがいた頃はその辺りもお願い出来たんですが、分業先がなくて私がメインですね・・・。」
専門でもないのにプログラムに手を出したか。まぁ、出来ないことはないのだろうが畑違いで難しいのだろう。ただ、それならこの前の経験が生きてくるかな?タグはよう分からんが0と1ならこの前の扱ったし。
「このコード借りていいですか?」
「いいですけどなにするんです?」
「この前のモンスターのモデリングしたんでそれでやってみようかと。佐沼さん・・・、R・U・Rとかを扱う会社のプログラマーの方ですがその人が言うには、人に分かりやすくした言語がJavaとかの言語、この場合はスクリプトになります。なら、逆に機械が分かる言語に置き換えてみようかと。」
「あ〜、2進数化ですか。分かっていてもあれは私じゃ扱えないですね〜。そっちの畑は管轄外なんで。でも、それすらもコレが理解出来るかは分かりませんよ?」
「まぁ、ものは試しですよ試し。ここまで来て何もしないのも居心地が悪いですし、メインコアが外れている今しかこちらの指示を受け付けない可能性もありますから。」
あいつ等というかコードは光の波長やら点滅の長さで指示なんかを伝えている。賢者と殴り合ってその当たりは理解してコードも扱えるようになった。まぁ、まだ触りと言われればそれまでなのだが、少なくとも最適化された人達はバイトが話す言葉をなんとなく理解している。
なら、原理がそれなら分かる言葉で指示するのが最適解だろう。コードの端を口に咥え微細な電気で動けとイメージ。それを更に0と1に置き換えて化粧箱で見た色のイメージを固めていく。なんで口に咥えるかって?はなすのは口からだろう。身体がなければ念波とか言うかも知れないが俺には身体があるしここには物体として輸送機がある。つまりは物理的に接触出来ている。
ただ創り手が物理的な接触を想定しているかは分からない。このケーブルの差込口だって無理やり斎藤が作成したのだろうし。ただ、パイプがあるならそういった事も想定はされているのだろう。
「どんな具合です?」
「はんほはふへんひへへひほうはひはひはふへ。」
「ふむ・・・、電気信号は受け付けていると。要は規格の問題か・・・。宇宙規格ってなんでしょうね?」
「さあ?ひほいふへはひんははいへふは?」
どうでもいいがひとが口に物を咥えている時に話しかけないで欲しい。行儀も悪いし何より気が散る。暇なのは分かるがこっちも集中したいんだよ!そんな事を思いながら目を閉じる。パチパチと身体の中で電気音がする気がするが多分これもイメージだろう。1人でできないなら賢者呼ぶか、こう言うの好きそうだし。
「賢者ちょっと暇ー?」
「暇も何もここにいるしかないからねぇ。なに?僕に身体操作させてくれるの?それならちょっと海底散歩とかしたいんだけど。マリアナ海溝だっけ?あそこに何か沈んでてもいいよね?恐竜とかムーとかさ。」
「いらん事は言わんでいい。ないとは言い切れないがあってもキャパオーバーだ。ちょっと輸送機を動かしたいんだけど手伝える?」
「ん?ほう・・・!コレが猿でもできるなんとやらか。前のモンスターに比べると一気に進化してグレイだっけ?頭でっかちの灰色くらいにはなるかな?」
動かすと進化論を飛び越してミッシング・リンクになるらしい。いや、アレもまた実体があるのでこいつ等からすればヨチヨチ歩きレベルなのだろう。いや、その前にグレイいるの?・・・、よそう。ゴミ箱のセクター数を考えると知的生命体が他にもあの数だけいてもおかしくないんだし・・・。1つ言えるのはこっち来んなだろうか?
友好的にしろ否定的にしろ相手が上だと人は必ず反発を抱く。スタートが憧れや尊敬だとしてもそれがどこかで歪みだす。学校のテストで1位だったやつに2位の奴が激しく嫉妬したり、告白もしてないのに俺の方が先に彼女が好きだった!なんていうのは責任転嫁甚だしい事だ。そんな人間と言う種が姿も形も違う超存在を見たら、徹底的に叩きのめされるまで反発する。
しかも、叩きのめされても忘れるのでまた挑む。まぁ、認められた闘争心なので仕方ないだろう。寧ろ宇宙人から見ればそう言う習性のある生物として見られているのかもしれない。現にソーツはそれ目当てで来たし。
「あの姿は好きじゃないからなりたくない。もしかして馬がオートミールみたいな食感になって噛まなくて良くするため?人が進化したら顎細くなってモノ噛めなくなるって言うし。」
「さぁ?安全な場所なんだろう?シミュレーションした結果にそれがあるから作ったんじゃない?」
う〜む。下に行ったら歯ごたえあるのって、下の方が旧世代だから?まぁ、投げ込んだら最初の物が下に溜まるのは道理か。そう考えると下層まで行ったらセールスペースにフルコースとか満漢全席とかあるのだろうか?いや、鳥がモサモサして旨味しかない分期待薄か。と、そんな話をしている場合ではない。
「話はそこじゃない。モンスターのデータの時みたいにコイツに指示出せない?修復しろーだけでもいいんだが。」
「う〜ん。修復して止めればいいの?」
「そう。下手に修復し続けると別のなにかになるかもって言われたからな。」
「僕としてはそっちの方が面白いんだけどね。これって見方を変えるとなにかに似てると思わない?」
「見方を変えると?」
自動修復機能に液化クリスタル動力。指令台のメインコアに転送装置。他は?フライトレコーダーに一応は帰還して修理を受けられるドックがある。そうだよ、こいつって帰って修復しようとした所をひき逃げされたんだよ!て、事はだ。ゲート内で帰る場所を有してるものなんてアレしかない。
「ガーディアン?或いはモンスター?」
「そう。まぁ、あれとは全くの別物で運ぶだけの代物だけどね。君達の言うモンスターはクリスタルで動いている。アレが核で外装は好きにしていい。損傷が激しければ起動停止もするし、モンスターがクリスタルを取り込めば外装使用データを利用して別の形に変わる。原理だけ言うならこれだけ単純なんだよ。
そこで今君が修復しようとしている船なんだけど、もう完全に調べ終わったのかい?偶然にしろ君達はモンスターの素体に近いものを手に入れた。メインコアをセットして修復するならなにもないだろうけど、そのまま修復機能だけを動かすと重大なエラー扱いを受けるかもね。」
「待て待て、そこのどこに重大なエラーかある?外にも出していないし単純に飛べるようにするだけだろう?」
「違うよ。問題はそこじゃない。彼等はモンスターを作り出す可能性をエラーとする。当然だよね?自分達の作品と同じ様な原理で同じ様な物を作られて、それが自分達よりも優れていたら意味を失う。それだけは絶対に意味を持つものとして看過出来ない。だからモンスターの持ち出しは叩き潰しにガーディアンが飛んでくる。」
「・・・、ガーディアンって再起動出来ない?重大なエラーって放置するとかなりまずい気がするんだが・・・。」
「こいつに乗って帰る場所に行けば出来るかも。ガーディアンそのモノに接触や視認してない状態じゃ無理だよ。あ〜あ、だから彼等にはバカの一つ覚えをするなって言ったんだけどなぁ・・・。仕方ないところではあるけどさ。」
賢者が何やら愚痴っているが重大なエラーの詳細はコレか。他にもありそうだが、それはその時に考えるとしてやはりモンスターは叩き潰す以外ない。重大なエラーの後、あいつ等がゲートを取り去るならまだ話は分かる。単純にお前達には任せられないって事だから。だが、それが嫉妬になったなら?
意味と言うモノを考えると多分身体を離れたモノ達からすればそれが寄る辺で、何をしても守り抜くものだろう。特に複数の意味を持たず単一のモノだけだとすれば侵害したり脅かされれば死物狂いで叩き潰しに来てもおかしくない。そして、そこに警告を挟むかと言われると微妙・・・。救いなのはモンスターを持ち出すメリットがない事。スタンピードは大群で押し寄せるので構っている暇はないし、話が通じず殺しに来る相手に話しかける馬鹿はいないし、話しても返答はビームである。
「なぁ・・・、クリスタルを液化して燃料にしたりして使ったりしてるがそれは問題ないのか?」
「ないよ?エネルギーに意思なんてないだろ?問題なのはより優れた何かを自身や僕達の介入なしで作られる事。ゲートを設置してない所は仕方ないと割り切れるけど、お膝元で好き勝手やられたら面白くないだろ?しかも盗作されてさ。」
「面倒臭いな・・・。せめてコレあったら反応するって基準はないのか基準は!」
「そうだなぁ・・・。」
「産み出せばいいわよ?ある作品の加工じゃなくって、図面を引いて創り手がはっきりとしていれば彼等は文句を言えない。設計図と貴女達は言うけれど、あれの本質は教科書よ?廃品利用で何かを作る。貴女の世界にもあるじゃない?ボルトやナットで人形を作った作品が。」
魔女が来て口を開くが作るのと産み出すのは違うのだろうか?廃品利用は良くてもモンスターを産み出す可能性がある事は駄目。まぁ、わざわざモンスターなんて物を作る気のある奇特な人はいないだろう。しっかし、今回の話ってどう情報共有するか迷うな・・・。要点的にはメインコアありきの修復なら問題なさそうだが、ない状態で修復するという暴走?の危険があると。
ただ、輸送機は普段どんなに探しても見当たらないので簡単に落ちるものでもないのだろう。一応保留するのがいいのかなぁ・・・。モンスター持ち出すなの警告はしてあるし。何かを作るなって訳でも無いようなので現状では話しづらい。
流石に知らない所で何かあれば警告は来るだろう。その前に叩き潰しに来るのであれば最初から交渉の席など用意せず最初から1言『やれよ』と命令すればいい。まぁ、その1言で理解出来るとは思えないが・・・。まぁ、ここに来るまで輸送機の中を見たが理解は追いつかないし、メインコアをセットしていない状態で自動修復ユニットを動かさなければいいのだろう。
「取り敢えず無理して会いたくなったら自動修復機能を動かせばいいんだな。」
そう言うと魔女と賢者が奇妙なものを見るように俺を見る。何かおかしな事を言っただろうか?少なくとも祭壇はまだ見つかっていないので交渉は出来ないが、それとは別にどうしても会いたい場合の保険として使えると思うんだが・・・。
「野蛮ね。」
「蛮族的思考だと安全な指定ルートよりも自身のエゴが優先されるのか。君達がどんなに困っていようと彼等にとっては関係のない事。さっさとガーディアンを探して停止コードを無理やり直すか、扇動してその危うい思考をブロックしたほうがいいかもね。」
「そこまで酷い事を言っている様にも思わないんだが・・・。」
「いや、酷いよ?没頭している時に横から邪魔されたくない人に面倒事起こして無理やり来させるようなもんだから多分怒り狂って全ゲートを無理やり開放するかも。」
それって全世界でスタンピード発生予告じゃないか。人類の歴史に新たな滅亡の可能性が刻まれてしまった・・・。まぁ、手順を踏んで呼びかければ大丈夫だろう。近道すると駄目と言う事だな。知る前なら言い逃れも出来るが、知った後にやったなら先ずはごめんなさいからになる。
非を認めた状態なら交渉ではなく償いだろう。変な負債は背負いたくないので禁じ手が妥当かな、本当にどうしょうもなくなったら使うのも辞さないがある意味それは末期である。実際無理やり開放ってあいつ等からすればゴミを山程捨てるだけなので痛くも痒くもないだろうな・・・。寧ろ在庫一新で喜ぶまである。
「相手が何してるか・・・、何作ってるかは知らないが手順は大事だな、うん。起動はメインコア付けてから。それなら問題ないんだろ?」
「それならいいんじゃない?修復しろって言われて修復するんだし。」
「因みに中身弄くるのは?」
「好きになさい?拾ったんだからそれくらいの権利はあるでしょう?」
判断基準が余計分からなくなった。ここでそれも駄目よ?なら分かるがやってもいいとなると外観に括っているのか?いや、もしかしてあのコアって魔女達の基準では生き物判定?応じるか別だから大丈夫と言っているのだろうか?確かに自動修復ユニットは血管がつながっているようにも見える・・・。まぁ、調査優先と斎藤には話すか。自動修復ユニットさえ動かさなければいいんだし。
「分かった。取り敢えず調査と人ができる修復に留める。確認するが自動修復ユニットだけに気を付ければいいんだよな?」
「微妙だけど大丈夫かなぁ?多分治療判定だと思うよ?」
「そうか、じゃあ行くよ。」
手伝いを依頼しようと思ったが話し込んで割と時間がかかってしまった様に思う。不思議なもんだな。壊してもいい、寧ろ壊してくれと言うのにパクって作ろうとするとキレられる。更にそれを改良して先を行こうとすると怒り狂う。イメージとしては気難しい陶芸家とか?皿を作って出来を見た後に『こんなのは駄作だ!』と言って割ってしまう奴。
金継ぎしたら確かに怒るし、それが元より優れていると評価されればプライドが許さないだろう。質が悪いのは壊すにしても愛着があるから自分ではやりたくないし出来ないと言うところか。
「斎藤さん。これ単体で立ち上げると人類滅亡しかねないので他の所から調査しましょう。」
「!?」
鳩が豆鉄砲をくらった様な顔だが事実っぽいんだよな。わざわざ警告を無視してまで引く引き金でもないし。引いたら最後元に戻せないかもしれない。なら、出来る範囲の調査に切り替えてもらおう。
「メインコアをセットせずに自動修復ユニットだけ動かすと重大なエラーとして制作者が殴り込んでくる可能性があります。」
「それって、例の?」
「ええ。モンスターとか武器作ってるやつです。勝ち筋がないので取り敢えずここは封鎖して他の調査からにしましょう。まだ見落としがあるかもしれません。」
「死ぬ前に1度くらい邂逅したいですけど、まだその時ではないってやつですね。分かりました、先に船体の方から掘り下げてみます。今日は稼働できると思って呼んだのにすいません。」
「いえいえ、呼ばれなかったらどの道呼び出し食らってた可能性があるのでいいですよ。取り返しがつく段階で良かった。起動するならメインコアセットしてから自動修復ユニット。この手順だけは絶対に守って下さい。」
「分かりました。・・・、先にメインコアセットするのはいいんですかね?」
「それは・・・、いいんじゃないですかね?」
そんな話をしながら外に出るとスナイパーらしき装備をした人がウロウロしていた。的があるので新装備のテストでもしているのかな?




