256話 心に留めよう
「あんまり突っ込むと怖い人が来るから家庭事情とか深く聞くと・・・、お前、消えるのか?とか、転校したんだよ?って事態になるかもだから気を付ける様に〜。」
監視体制とまでは言わないけど、学校のセキュリティーとして警備員と言う名の私服警察がそれなりに構内には紛れ込んでいるらしい。らしいと言うのは、いるとは聞かされても誰がとは教えられていないから。
なにかテロ的な事が・・・、例えば学校を襲撃して拉致するなんて事が起こらないように、起こってもすぐに鎮圧出来る様にとどこかにいるらしい。
一応俺が話す事に対して口止めする様な事はないけど、極力家の中の事やおかしな事は言わない様にと保護された後学校へ戻る時に俺達は聞かされている。それなら下駄箱の手紙や告白して去っていく転校生は学校に入れていいのかな?
まぁ、千尋もいるし卒業まではどこかに行く気もない。ただ代わる代わる来るAETの先生が全員若い女の人でやたら胸元が開いていたり、問題で手が止まっていると胸を押し付けながら手を握って解説してくれるのは勘弁して欲しい。分かってるけど俺も男なんだよ・・・。
海外では普通のスキンシップデースってみんな口裏を合わせたように言うけど、あからさますぎるだろ!?まぁ、隠れてコソコソするとそのまま他の所に飛ばされたり、要注意人物として目を付けられるかもしれないって思ってるんだろうけどさ。
「なら、家庭に関係ない事を聞こう。クロエさんは朝からなに食べてましたか?バナナは好きですか?」
「ド直球なエロ質問じゃねえーか!朝から猫に鰹節あげて納豆かき混ぜてたよ。」
「口から伸びる納豆の白い糸。それはそれで・・・、ありだな。」
「ブレねぇ・・・、そして中々上級者だ・・・。」
エロ担当の小林がそんな質問をしてくる。去年からクラス替えはなくあったのは転校くらい。ある程度気心が知れているのでバカな質問も多ければさっきの頭の腐った様な質問もある。小林・・・、アレは親父なんだよ・・・。元おっさんなんだよ・・・。まぁ、そうは言ってもクラスメイトや学校の人は元の親父を知らないんだよなぁ。
どこかですれ違ったとかなにかの行事で見る事はあるかもしれないけど、クラスメイトの父親なんて意識しない。コレが有名な俳優とかなら騒がれるかもしれないけど、取り立てて顔がいいわけでもない親父の事なんて覚えてもないだろう。騒がれ出したのは去年から。家庭内の事情は話さない。
「小林最低ー、もっと聞く事あるでしょう?」
「ならなんだよ田中?唐揚げで塩か醤油か聞くのはなしだぞ?無料デリバリーで会いに行く気だろ?」
「ふっふっふ・・・、持っていくのはズリ唐!昔に注文があったんだよ!その時はお母さんしかいなかったけどね。家の手伝いで原チャの許可が降りたのは偉大だった。って、そうじゃなくて・・・、ご趣味は?とか?」
「見合いか!ギルドに聞きに行けよそんな事!」
「いやいや、その問い合わせをギルドにしに行くのは迷惑だろう?知的にギルド職員になるには?とかしろよ。てか、工藤と佐伯は昔から知ってたんだろ?」
「しってたよん?ただ僕は那由多のお母さんの方が好みだったしなぁ〜。」
「私は空手の大会とかで何度かお会いしたぐらいだ。小さな少女が年上で父親とは思わないだろう?」
「時枝さんももしかして転校する前からの知り合いだったとか?微妙な時期に来たけど。」
「私は巻き込まれ型一般ピープルです。たまたま工藤君と知り合ってからなのでほぼ知らない人です。」
無意識なのか加奈子が結城の袖をつまんでいるけど、ゲートに一緒に入って頼りになる所でも見せたのかな?結城は昔から人付き合いが上手いし色々な人とすぐに仲良くなる。割と年上のお姉様方に人気でお菓子とかをよく貰ってたな。
「お前等騒ぐなよー、HR始めるぞー。」
チャイムと共に先生が入ってきて質問タイムは中断。今日の昼は4人で雲隠れしよう。聞きたい事なんて粗方聞いただろうによくもまぁ後から後から出てくるもんだ。
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妻と望田と出勤して別れる。俺はバイクがあるので運転はするが車は妻の指輪へ。伊月に会って記事の削除依頼を出し部屋へ行くと、見たくもないが机の上には山の様に書類が積んでありPCのメールを確認するとそこにもメールが溜まっている。まぁ、メールは件名を一覧で見れるので全部開けるにしても優先度はつけやすい。
ただ、書類は要所毎にまとめてあるにしても、書き手によって文章構成が違うので飛ばし読みするにしても、ある程度は読み込まないと違う受け取り方をしてしまう。ライセンスの方はそろそろ印鑑から電子承認に変えようかな・・・。要求数が多いからと既存のスィーパーは手書き書類の持ち込みを許可していたが、最終的にはデータベース化して管理する。
ならなんでこうして俺の所に書類が回ってきているかと言えば、既存でも過去に犯罪歴のあるスィーパーだったり、元その筋の方が既にスィーパーだったりしている為。警察に投げてしまってもいいのだが、出所後だったり組を抜けたと公言していたりと色々と悩み所がある。まぁ、刑務所に入って出た人に更に奉仕刑を課すのかと言われるとねぇ・・・。
ただ、犯罪がバレた時点で内容によっては奉仕刑ではなく、ライセンス剥奪からのゲート侵入不可まである。呪うならやらかした自分を呪えよ?どうしても入りたいなら海外にでもいけ!
「ツカサ、コレどう思います?内閣府と警視総監と警視庁長官の連盟で書類が届いてるんですがなにか聞いてます?」
「はぁ?なにそれ?黒岩さんからは・・・、ああ!もしかして指定ゲート入口の件?」
「指定ゲートって確か奉仕刑とかの人専用ゲート入口を作ろうって話があったアレですか?」
「多分それの書類。国会で与党野党が激論繰り広げて賛成が1票差で勝ったやつ。どれどれ・・・。」
スィーパーの犯罪者はギルドに裁量権があるものの逃走の恐れがないわけでもないし、カメラとGPS付きの首輪も壊せないわけでは無い。なので入って上昇アイテムを使い楽する者もいるだろう。仮に俺がその立場ならさっさとどうにかして首輪を壊し、指輪の中からアイテム出して逃走する。
この件に対して警察側も対応を迫られ、考え出したのが犯罪者指定ゲート。取り分け凶悪や質が悪い犯罪者を秘密裏に放り込む物で表向きは普通のゲートだが、24時間体制で警察の監視者が専属チェックを行う事と指輪の剥奪を行う。そう、剥奪である。有り体に言えば指チョンパ。ただ、宮藤が腕を失った時同様そうやって指輪を剥奪しても本人が生きていれば勝手に本人の所に戻ってしまうので、様々な検証が行われたらしい。
誰がどう検証したかは俺も詳しくは聞かされておらず、結果だけ聞かされた。元々指輪とは俺が寄越せと言った荷物運びアイテムである。なので逆を言えば荷物がなければ指輪の必要性はない。なので、武器1つ持たせてゲートに放り込むそうだ。クリスタルの回収義務はない。代わりに首輪を壊さず生きて帰って来る事が刑罰終了の目標となる。まぁ、実質死刑だな・・・。指定階層も40階層付近が到達目標となるし。
「内容的には問題ないんじゃない?マスター専用入口を兼用で使わせて欲しいって話だけど、使用率考えると問題ないと思う。ただ、この刑罰の適応者の所に未スィーパー含むってあるのがねぇ・・・。」
「誰も死刑のボタンなんて押したくないですからね・・・。未スィーパーの場合は指輪を付ける前に回収して監督官が退出・・・。指輪なし探索とか餓死の危険もあるのに・・・。」
「一応執行前に草とか馬は食べられるって教えてくれるみたいよ?臭いものに蓋をするってわけじゃないけどスィーパーがガチで犯罪始めると収集がつかなくなるし、被害もどれだけあるか分からない。なら、これだけ厳しくするって啓蒙も兼ねてるんじゃない?まぁ、帰ってきた時に中位って可能性もあるけどね。」
「良くも悪くも犯罪者は悩みの種ですね・・・。海外だと取り押さえよりも最近は無力化にシフトチェンジしてますし・・・。」
無力化と言うが実際は犯罪者をぶっ殺している。特に死刑のない地域や国では脱走からの再犯なんてのもザラらしく、苦肉の策として額に犯罪歴を入れ墨しようなんて言う江戸時代の様な事も一部試されたとか。
啓蒙効果で抑止に繋がればいいが、神話でも兄のカインが嫉妬で弟のアベルをぶっ殺している。つまり、犯罪はなくならない。なくならないが抑止出来ると言う方向を信じて進むしかない。カタカタとキーボードを叩き仕事を進める。青山は相変わらず補助だが夏目は本日お休みで温泉を巡ると言っていたな・・・。俺もどこかへ入りに行きたい・・・。そんな事を思いながらモニターとにらめっこしているとノックの音が聞こえ、入室を許可すると伊月が現れた。削除依頼をお願いしたのでその事だろうか?
「仕事は捗ってるかい?」
「ぼちぼちと。削除依頼の話ですか?」
「まぁな。望田さんも悪いが一緒に聞いてくれ。」
「いいですよ、私の方も書類仕事に目処立ちましたから。でもなにか重要な話ですか?」
「うんにゃ、ちょっと引っかかりがな。削除依頼は盗撮って事で記事を掲載した会社もすんなり削除した。ギルドは公共施設だから写真を撮ったら行けないって決まりもないが、本人からの依頼なら削除するしかないからな。」
「引き際がよすぎるって事ですか?」
「いや?ライターもこう言ったゴシップ記事を他にも書いてるやつだし、芸能人の不倫現場写真とかも雑誌に載るだろ?やっていいわけじゃないがクロエさんの場合、扱いとしては一般人だから個人情報保護法で消せと言われたら消すしかないんだよ。」
取り敢えず伊月の前に行って両手で固い握手!久々に一般人として扱われた気がする!そうだよ!大会で話したりインタビュー受けたりするけど一般人なんだよ!警察が急に家に来たら、なにもしてなくとも頭下げながら両手を差し出すが今回は握手!
「そんなにガッチリ握手せんで下さい。で、引っ掛かりって言うんはですな。写真の人物についてです。」
「あっ、コーヒー入れるんで座って下さい。」
望田がコーヒーを入れてくれて3人で応接用のソファーに座る。指輪があるので部屋の作り変えが簡単ですむ。普段は邪魔になるから出さずにしまいっぱなしだが、こう言う機会に使わないとね!コーヒーとキセルで一服。伊月は前にやめたと言っていたが、再び喫煙者に戻ったのか懐から取り出して吸っている。
「ありがとう望田さん。うんでだ、引っ掛かりってのはこの子。眼鏡の子なんだが誰かの親戚とかですかね?急に白紙に落ちた墨の様に出て来て仲良し4人組の見出しで記事が書かれましたが。他の2人の背景がしっかりしてる分浮くんですよ。」
「いや、この子は息子の学校の転校生ですよ。まぁ、春休みに偶然一緒にゲートに入る機会があってそこからかな?別にうちに遊びに来るとかはないですよ。」
「私は・・・、ジョギングがてらに2〜30km走ってる時に1回見かけた様な気がしますね。クロエの家からは少し離れた所だったと思いますよ?」
「望田さん・・・、その距離は間違ってもジョギング距離じゃ・・・。いや、若いスィーパーが毎日走り回ってどんどん息切れしなくなるって言うから軽いのか?最近はよくわからん。まぁ、学校への転校生、ね。」
「引っかかるって刑事の勘ですか?」
「一応私もスィーパーで追跡者ではあるんですよ。ただ、根も葉もなけりゃ追うもんもない。結局最初の一手がなけりゃあね。写真を持ち込んだのも大分のスィーパーだと言うし、何も出ないか。」
「家の方は周囲の音を聞いても怪しいものはなかったですね。なんだかんだで悪い事しようとしてる人は音がズレてきますから。学校はあたったんですか?」
「いや、今あの高校は転校生が多くてな・・・。外人にしろ日本人にしろわんさか来て帰っていく。背後は洗ったんだがこの子は日本人だから甘かったか?報告にはなんも上がってないが。」
「ん〜、行動を起こさないと難しいでしょう。そもそもただの転校生で友達と行動したって線もありますからね。本人が主導権を持って動くなら分かりやすいですが、ひたすら受け身で方向性を補う様に要所で口を開くなら見付けづらいでしょう。」
「クロエから見てこの子ってどうなんです?」
「そうだな・・・、私より結城君の方が気になるんじゃない?ゲートで最後まで一緒に走り回ったのは結城君だし。学校で一緒のクラスにでもなったら、相手が女の子ならやっぱり運命感じちゃうかもね。」
R・U・Rのログを見るとサバイバーの職に就いて昨日は千尋ちゃんと対戦した。勝敗としては千尋ちゃんの勝ちと言うか、いいパンチや蹴りを貰っていたようだ。PCで見ると立体ではなくて平面なので軸をずらして避けると処理上はパンチを貰ってもノーダメで立つ無敵チートキャラに見える。動き自体は平凡でパラメーターを見ても心拍数なんかもダメージで跳ね上がったり動いて上がったりとおかしな点はない。
正体を擬装するにしてもサバイバーだしなぁ・・・。生き残る事に長けているので何かを掴もうにも現時点では厳しいだろう。職そのモノを擬装しているならトロンプ・ルイユは出せないだろうし今もパンチに合わせるようにレンガを出したが簡単に拳で貫通してしまった。
「耄碌したかなぁ・・・。増田さんやら公安やらからもプレッシャーかけられて敏感になりすぎたか?」
「警察官としては正しいんじゃないですか?ま、私や周りに被害がないならいいですよ。被害が出てからでは遅い事もあるでしょうが被害もないのに疑い出したらきりがない。情報や疑いはありがたく心に留めておきます。」
「ええ、自衛は心がけといて下さい。望田さんもいるから簡単には被害もでんでしょうけどね。」
話が終わった伊月は再度タバコを吸って雑談をして帰った。写真掲載やネットニュース、出会ったタイミングを考えると出来過ぎているとは思える。ただ、問題はそこに本人の意志があるかどうかだ。R・U・Rを使いに来たのは結城君の発案だったらしいし、ゲートに一緒に入った時は俺が結城に同行を申し出た。
時枝と言う人物の意志がそこにあるかと問われると中々難しい。特にギルドの視察に来る予定は俺と増田、他は極一部しか知らなかったし、視察に来てゲートに入るかどうかは賭けに等しい。仮に彼女がサバイバーではなくプランナーと言うのなら知らずの内に確率を割り出して動いているかもしれないが、そうなると今度はR・U・Rでのトロンプ・ルイユが説明出来ないし何より、一緒にゲートに入ってブロックを出してもらっている。
中位である可能性はどうだろう?手札を1枚伏せたとして・・・、いや、その前に中位をスパイに割りさく?可能性が0ではないが目的が分からない。仮に俺が中位を何処かの国へスパイとして派遣するなら何をさせたいか?情報の抜き取りだろうが、その戦力を割り振ってまで情報を得るくらいならさっさと目標施設なりを破壊させて帰ってこさせる。
流石に鉄砲弾にするには高級過ぎるだろう。長期で継続的に情報が必要と言うなら正面から中位を派遣したいとして、適当な名目をつけた方が動かしやすい?いや、正面からでは警戒レベルが高くなって情報も隠れる可能性もある。侵入して潜伏までして長期的に欲しい情報・・・。ガチガチに対立でもしないとないな。
「カオリはスパイだと思う?」
「判断材料がなくて難しいですね。搦め手を使うにしてももっとこう・・・、ギルド職員として入ってきたり何かしらの功績を上げて接触しやすくしたりじゃないですか?」
「まぁ、ランクやクラス分けしない理由の1つでもあるからね、それ。不特定多数のスィーパーに何らかの疑惑の目を向けない為にもフラットな姿勢で挑むっていうさ。人は面倒臭がりだからあいつ強い?なら任せようってなるし。」
得はないがマスター暗殺を企てたとして、ランクやクラスが上がったら会いやすくなるのなら、さっさとそれをあげて確殺の方法や状況を探る。身内が裏切らないとは限らないんだよ・・・。首刈り戦術よろしくトップが暗殺されれば多少の混乱は起こるし、逃げる事まで考えるなら準備は必要だろう。
「子供に疑いの目は向けたくないですね・・・。」
「同感。まぁ、警戒を怠るつもりもないけどね。そう言えば昼一でラボに行ってくる。なんか斎藤さんが見せたいものがあるんだって。」
「了解です。何かあれば増田さん経由で繋ぎますね。」
時間が合ったので妻と食事をとりゲートへ。さっさと馬を捕まえてラボへ向う。行くなら薬とエナドリ貰って来てくれと言われたので増田経由で事前にお願いをした。頑張っているがまだまだゲートの中の通信カバー範囲は狭いんだよな・・・。
そんな事を考えながら馬を走らせラボの近くに到着すると、今日はOFFなのか中野が絵を描いている所に出くわした。趣味だと言っていたが油絵だろうか?イーゼルを使わず画板を首から下げ、身体にはエプロンとコテが見える。ただ、ここも風景が変わらないので描いてて面白いのだろうか?まぁ、趣味だからいいのかもしれないが・・・。
「お疲れ様です、いい絵は描けてますか?」
「お久しぶりですね。ぼちぼちと言った所ですが中々進捗は進んでませんよ。なにせ下手に置くと消えますからね。癖でその辺りに絵の具を置いて何個消えたか。そう言えば地元に帰ったそうですが今日はどうされました?」
「斎藤さんが見せたいものがあると言うので来たんですよ。」
「なるほど、多分残骸の所にいるので行くといいですよ。」
「分かりました行ってみます。」
輸送機の残骸は大きいので離れていてもよく見える。前はボロボロだったが今はつぎはぎの装甲板というか、外装?が見えるので一応は船と言っても大丈夫だろう。見せたいものとはこれだろうか?藤もいるのかあちらこちらに人形もいるようだ。近付いて行くとゴーグルに白衣の斎藤が、タブレットとにらめっこしながら何やら指示を出している姿があったのでそちらに馬を走らせる。
「お疲れ様でーす、呼ばれて来ましたよ!」
「お疲れ様です。どうです?かなり復元できたでしょう?」
「かなりしましたね。それで、見せたいものってこれですか?」
「いや、それは中です。入っても大丈夫なのでいきましょう。」
斎藤の後を追い中に入っていくが、中は伽藍の洞で何もなく代わりにヘッドライトで光源を賄う。一応辺りに設置された固定処理済みのライトもあるが数が少ないのかかなり暗い。そんな中をずんずん進んでいき奥の方の扉を開くとごちゃごちゃした所に出た。ソーツの作る物は割と実用性重視でシンプルな物が多いと思っていたが、どうやらここは違うようだ。
「ここは暫定的にユニットルームと呼んでいます。クロエさんは見た事ありましたか?」
「ないですね。ここまで来る前に調査は切り上げましたから。なら、さっきの空間が箱を詰めてた場所になるんですか?」
「多分そうです。飛行する限り箱がここに転送され、そこから下にまた箱を転送するような仕組みだと考えています。言わば輸送機と言う名の中継施設ですね。で、ここが破損したと言う自動修復ユニットになります。」
「おぉー・・・。驚いてみましたが見ても何だか分かりませんね。コレ全体で1個なんですか?」
見上げるほど大きいが、これだと回復薬の生産プラントに組み込みづらいな。小型化はお家芸だが原理次第ではこれ以上小さく出来ないし。血管が這うように伸びるパイプには意味があるのだろうか?
「いや、ユニットその物はもっと小さいです。」




