255話 家族 挿絵あり
「貴方〜、朝よ〜。」
「起きたくないけど起きるか・・・。」
業務的にはしんどさのピークは過ぎ、昨日の書類整理を顧みてもぼちぼち軌道に乗ってきている。これも各部署の連携が取れだしてきたからだろう。それに企業からの俺への直接面会も減ったと言うか、適性部署に案内されるのでデスクワークも捗る。異世界のギルマスごめんよ、暇人穀潰しだと思ってたけど実は仕事自体異常がなければ少ないんだな。
そんな事を考えながらシャワーを浴びて洗面を済ませて居間で食事を取る。今日は練習がないのか珍しく息子も一緒に食べているが、何やら浮かない顔をしているような・・・。R・U・Rを使った後に誰かと喧嘩でもしたんだろうか?ギルドの物は結構痛みがあるので良くも悪くも喧嘩しようと思えば火種に出来るんだよなぁ。まぁ、R・U・Rで解決できるけど。
「朝から暗いがどうした?誰かと喧嘩でもしたか?パラノイアで司令を受ける前に残機0になったみたいな顔だぞ?それとにゃん太。煮干しは駄目だ、鰹節にしなさい。」
「あの理不尽は忘れないぞ!?って、喧嘩じゃないけど昨日の事覚えてる?」
膝の上に乗ったていたにゃん太が煮干しを取ろうと手を伸ばすのでやめさせて代わりに鰹節をやる。これでオカカは作れなくなった。そんな姿をバイトが外からガン見しているがあいつも鰹節欲しいのだろうか?ドッグフードと水はあげてるんだが・・・。
そんなやり取りの横で息子がトラウマを思い出したのか叫んでいる。確かにあのセッションは酷かった。なにが酷いってダイスも悪いしキーパーも悪ノリしたせいでストーリーが始まらないという不具合が発生したからな。面白半分に全員道連れで成功率2%の転送エレベーターを連打するもんじゃない。
「R・U・Rを使いにギルドに来たな。」
「そうなんだけど、昨日の父さんって叫んだの覚えてるだろ?」
「覚えてるぞ?私はどこに出しても多分恥ずかしくない父親だと思いたい。」
「そうね、こんなに可愛い父親どこ探してもいないわよね〜。」
食洗機に茶碗を入れるのが終わったのか、妻が横から現れて唇を突き出すのでキスを返す。見慣れた光景だろうに息子が頭を抱えているが今更どうしたのだろう?驚かせたのは悪かったと思うがそこまで考え込む様な問題はあったかな?鰹節がなくなったので代わりに納豆を掻き混ぜながら考えるが・・・。
「未成年でモザイクかかってるけど、ネットニュースに父さんと俺達の写真が乗ってるんだよ・・・。仲良し4人組とクロエちゃんってな・・・。内1人は息子であり名前を呼ばれる人物だが詳細は分かっていないって・・・。」
「どれどれ?」
「あら、メイクバッチリの写真よく撮れてるじゃない。」
「違う、母さんそこじゃない。穏やかな学園生活を送るはずが波乱万丈になる!」
「ダイターン3のパイロットになるのかお前!やめとけよ?今4m級の有人ロボット作ってたりするんだから。・・・、志願したら本当に乗せられるかもしれないぞ?」
「そのボケ通じる人少ないからって、さり気なく国家機密バラしてない!?えっ!マジに作ってんの!?ちょ!俺の悩みよりそっちの方がヤバくない!?」
「ジョークジョーク。和んだだろ?」
「朝からキツい・・・。俺は何時ツッコミから卒業できるんだろう・・・。」
藤が本当に作ってるよ!メールで何種類かプラモ見せられたけど、あれの中のどれかをスケールアップをするらしい。らしいというのは浮遊ユニットがどうにか出来たので搭載しようと意気込んで一度白紙に戻り、今度は足をどうするかの論争をしているとか。多脚にキャタピラ、逆関節にオーソドックス2脚。中には脚はいらない派も産まれた。
地形を考慮するなら脚いらない派だが、元々橘のパワードスーツを大型化して行う人体拡張路線なので脚部がないと人の足を収納するスペースが心配らしいし。足切断サイコデバイスは勘弁だが、正座して乗りたくもない。まっ、宇宙開発用なら戦闘を考えなくてもいいのかな?
人の反応速度にスーツが付いて来れるかの方が心配だし、モンスターとの戦いって基本攻撃を避ける方向性で進む。別に受け止められないわけでは無いが戦闘中に足を止めると死亡率が跳ね上がる。
「那由多が反応するからお父さん嬉しいのよ。いなかった1年分をきっと埋めたいからおちゃらけてるの。」
「でもそれで心労が増えた・・・。そろそろ白髪生えるんじゃないか?」
「家系的に禿げないが若白髪は割とすぐだぞ?私は30後半の時は既にロマンスグレーだった。」
「知ってるよ見てたから!なんで若干離れ離れだった感を出した、言え。」
「はっ!愚息が哀愁を漂わせてたからであります。」
「そのやり取りも変わらないわね、そろそろ時間だしさっさと食べ終わりましょう?」
「あぁ、削除依頼は私から出しておく。」
ーside 那由多ー
世間一般的には父さんの脇見えはご褒美らしい。敬礼の時に見えた。なにを言っているか分からないが、俺にも分からない。ただ、クラスの男子からすれば極上らしい。そして、そいつ等に目が腐っているのかと聞けないもどかしさ!
いや、俺も分かってるんだ!父さんが美少女になって世界で活躍して、なんか偉くなってアイドルとかマスコット的な扱いになってるのは!ただね、納得して折り合いつけたけど今の父さんに前の父さん像が時々被るんだよ!そんな父さんは元男だ。だから変に無防備で色々見える。下着にしろその中身にしろ角度によっては見える。家だからくつろぐのは仕方ないけど、どうしたもんかなぁ・・・。元々ダボダボの服が好きで今朝もそんなTシャツ着て目の前に座ってたけど、立ち上がる時に首元からその奥まですべて見えた。ブラは黒だった。
「はぁ~・・・。」
「おいーす、どうした那由多?千尋に押し倒されたか?」
「普通逆だ逆。朝から父さんと顔を合わせてアンニュイな気分になった・・・。」
「ん〜、なんかお小言か?」
「いや・・・、父さんは美少女だ・・・。」
「おう、クロエちゃんだしな。」
「もう一度言う、父さんは美少女だ!」
「声を上げるなよ、僕まで変人に見られるだろ?そこはツカサさんとかクロエちゃんとかだな・・・。」
「だが父さんだ。」
「いや・・・、うん・・・、綺麗なお父さんは好きですか?」
「CMのキャッチコピーみたいな事言うな。家族だから毎朝顔を合わせるのはいい。胡座かいてブカブカのTシャツで飯食っててもいい。だがな、たまに脇がちらっと見えたりブラ紐がちらっと見えたり、パンツが見えたりするんだよ!」
やりきれないこの気持ち!どうすれば伝わるんだ!世界広しといえどこの気持ちは俺だけなのか!?ムラムラするわけじゃない、ただこう・・・、モヤモヤが止まらない!開き直って見ればいいのか?いや、家族なら見てもいいんだ!抑圧された何かが開放されれば多分楽になる!
「喝っ!お前は朝から何を叫んでるんだ!」
「すげー、リアルで喝って叫ぶ奴初めて見た・・・。おはようさん千尋。大分那由多が参ってるぞ〜、心の隙間を埋めろ〜。」
「怪しいセールスマンみたいな事を言うな。それで、なんで煩悩まみれな事を叫んでたんだ?」
「父さんのパンツを一度まじまじと見てみようか・・・。」
「・・・、大丈夫か那由多!?彼女の前で別れる宣言されても仕方ない様な事口走ってるぞ!?」
「あ〜、う〜・・・。久々にフォローに困る発言だな・・・。結城のパンツ見ておくか?多分白のブリーフだろう?見方によれば・・・、後ろから見れば女物に見えなくもないんじゃないか?」
「父さんはTバッ・・・。」
「私のを見せてやるから正気にもどれ!」
頭をガコンと千尋から殴られてはたと気づく。俺は今何を口走ろうとした!?なにか重大な秘密をぶちまけて自分の首を締めるどころか刎ねようとしてなかったか?ヤバいヤバい、変に意識し過ぎてるからやばいんだ!家族!そう家族なんだよ父さんと俺は!
「そうだぞ!彼女さんのパンツを処方しときますね〜。」
「いや、それには及ばない。正気に戻った。」
「惜しかったな千尋。合法的に2人っきりで見せるチャンスが遠のいたぞ?」
「そんなモノいくらでも作って見せればいい。」
「相変わらず男前だな。」
「おはようございます・・・、ものすごーく話し掛けづらい事話してませんでした?」
シラフにもどった・・・、はず!おかしな事を考える前にネットニュースと学校でどうするかを考えなければ!ちょうど昨日の3人も揃ったしその話をしてみるか。自分が今何をすべきか考えろ。父さんによく言われたけど、今俺がするべき事は3人にネットニュースの事を話して迷惑がかかるかもと相談する事だ。
「おはよう加奈子。ちょっと那由多の熱いパトスが口から溢れてただけだ。」
「おはようさん。那由多のお父さんってツカサさんだろ?思春期男子特有の異性を意識して感情が高ぶり、時には身体の一部が膨張し抑えが効かなくなった状態に落ち入そうだと容疑者は叫んでおりました。」
「容疑者でもなければ膨張もしてねぇーよ!」
「那由多君って倒錯的な偏愛者なんですか?」
「違うよ・・・。それよりもネットニュースを見たか?昨日の写真がアップされてたんだが・・・。」
スマホを取り出してその記事を見せる。口々に盗撮だとかいつ撮られたか気づかなかったと言うが、ネットに上がった以上削除依頼を出してもコピーされた画像は拡散して広がってしまう。救いはモザイク処理されてピントは父さんに合っている事。ただ、こう言ったモザイクも今なら簡単に外せるんじゃないかな?
「みんなごめん。多分今日この記事読んだ人から色々質問されると思う。削除依頼は父さんが出すって言ってたからすぐに消えると思う。」
「僕と千尋はある程度慣れたけど、加奈子はなぁ・・・。」
「そんなに凄いんですか?」
「知らないと思うが、私達3人はツカサさんの関係者と言う事で一時期保護されてたんだよ。その後学校に戻っても質問やらどこどこの会社の者ですって、私達を通してツカサさんに近付こうとする人が多かった。幸い警察の人が色々と手を回してくれて助かったよ。」
「そんな事が・・・、有名人に会うにしてもスケールが違いますね・・・、大丈夫かな、私。」
加奈子が不安そうにしている。出会って短いけど彼女は割と顔に出るタイプみたいだ。まぁ、話を聞けばそれも仕方ないのかも知れない。普通に生活していれば質問攻めにあったりする機会は殆どない。
「ギルドも動き出したし大人が直接俺達の所に来るのは少ないと思う。ただ、クラスメイトとかは話しかけてくるかな?心配なら俺達と行動するといいよ。」
「そそ、ちょっとした学校の有名人気分を味わうと思ってればいいよ!」
そんな話をしながら学校に着き下駄箱に靴を入れようとするが・・・。がさりと紙の束が落ちる。内容は目を通さずとも分かる。父さんに会いたい56%、ラブレター(言語不問)40%、企業からの勧誘4%、その他は勘定しない。
「相変わらずだな、また来てもらうか?一度来たから呼べば来るんじゃないかって期待が大きいし。開封どうする?」
「どうだかなぁ・・・。大会とか有れば来るかもだけど、そもそも父さんも仕事してるしな。落ち着いたら時間が出来るんじゃないかな?」
「ラブレターはどうする?いつも1人で翻訳しながら見ているがそろそろ私も手伝おうか?」
「いや、一応心が込められたものだから最初は1人で読むよ。まぁ・・・、家族で移住してこないか?今なら油田と20人の妻がついてくるって文章には度肝を抜かれたけどな・・・。」
「それはちょっと面倒でも翻訳して読みたくなりますね。スパムメールってなんであんなに読みたくるんだろう?」
「当選しました!って見出しだと読みたくなるよね〜。何も応募してないんだけどさぁ。」
集団で教室に入ると・・・、いや。既に耳の早い人は知っているのだろう。遠縁で流していたけどどうしたものか。今更父親とカミングアウトしたとして・・・、何も変わらない?確かに父さんは父さんで俺は俺だ。そんな決意を胸にしていると結城がチラリと俺の顔を見る。流石産まれた時からの付き合いだ。
「はいちゅーもーく!!うちの相方から大発表がありまーす!聞きやがれ野郎ども&淑女諸君!」
そう結城が叫ぶと期待したような目が俺の方に向けられる。若干遅れた人はニュースを見てないんだろう。まぁ、誰も彼もが父さんのニュースを追っているわけじゃないしな。
「あ〜、うん。俺、黒江はクロエ=ファーストの息子だ。今までは遠縁って言ってて悪かったな。ただ、父さんも仕事してるからお願いされても簡単には呼べないぞ!ついでに言うと、俺はあんな事できないからな!」




