249話 学校生活 挿絵あり
この国の学校と言うモノはある程度観察すれば狙い通りの結果が狙える。席順はあいうえお順。くととではいくつか離れるが名字と言うモノに当て嵌めると近い位置が陣取れる。下手な献金は怪しまれるので本国からの支援はなかったが、私は賭けに勝ち対象の横の席を指定された。後はゆっくりと時間をかけて入り込んでいけばいい。ただ、誤算と言うか仕方のない結果と言うか、工藤の次に黒江が来たのでクラスの注目は私よりも黒江 那由多に向かう。
まぁ、隠れ蓑にはちょうどいい。ある程度されるであろう質問に対して回答を用意したが、どこでボロが出るかわからないのでひっそりと出来るならそのまま水面下で対象との仲を育めばリスクは少ない。今日は始業式と言う事で授業もなく午後からはフリーとなるが、やりすぎない程度のアピールはしておこう。私の手札は無知、不慣れ、そして相手が1人しか居ない知合いという点に集約される。
「また会っちゃいましたね工藤くん。」
「だねぇ〜。同じ高校とは聞いてたけど横の席とか・・・、コレって運命?」
「運命かは横に置いとくとして美術館教えてくれてありがとうございます。行ってみたけど眺めも良かったし展示品も面白かったです。」
「おお!行ってくれたんだ。ちょっと遠いから行くか分からなかったけど、あそこからの眺めはいいよね。休みなら駅で弁当でも買って食べると気持ちいいよ。ちょうど桜なんかも見頃になってくるしね。」
「あの辺りって桜並木ありました?」
「いや?中腹の公園に何本があるくらいかな?御衣黄って言ってピンクじゃなくてちょっと黄緑っぽい花で珍しい品種らしい。」
「ほうほう、それは見てみたいですね。桜って言ったらやっぱりピンクばかりでしたから。そう言えば、後ろの・・・。」
人集りになっている対象の後ろの席を見る。誰かは知っているしクラスメイトの名は暗記している。そして、少ないながらもそのクラスメイトの交友関係についてもある程度把握している。まぁ、構成員を使いそれとなく調べさせたのだが・・・。しかし、それを露見させるわけにはいかない。
初対面の人間が自身の名を知っている。それは警戒に値する事象だ。ならば相手に名乗らせるか知り合いから紹介されればいい。特に黒江は有名人であると同時に日本としては秘匿対象でもある。実子なのか本当に親戚なのか、或いは若い燕なのか?そもそもクロエと黒江が共通しているのでややこしい。親類なら同姓でもおかしくないが、ならば何故そこで生活しているのかと言う疑問が残る。
ハッキングした構成員によれば遥共々養子から実子になったらしいと言う情報を掴んだらしいが、それ自体もどこまで真実かは分からない。ただ言える事があるとするなら、私としては実子だろうと養子だろうとどちらでも構わない。必要なのは彼が子と言う立場で対象がそれと仲が良いという事実だけ。
「黒江だよ。幼馴染で親友、そしてファーストさんと同居してるんだぜ!」
「えっ!ファーストさんって、あのファーストさん!?テレビでこっちにいるって知ってましたけどまさか・・・。」
2人の関係は話さないか。親密度が足りないのか口止めされているのか?まぁ急がなくていい。必要なのはでまかせではなく真実で対象はファーストに近付く為のツールでしかない。だからこそ驚いて見せもする。このクラスでは周知の事実だろうが私はまだ部外者だ。
「コラ結城、そうそう人の家の事を話すんじゃない。」
「でも千尋。すぐにバレるだろ?こんなに近くで那由多にクロエさんに会わせろって直談判してる集団がいたらさ。」
「それはそうだが・・・。」
「いや!千尋は転校生を仲間外れにする気なのね!」
「なのねー!」
「なっ!ちっ、違うぞ!?時枝さんも本気にしないでくれ。」
交友関係補強材が現れた。佐伯 千尋。黒江の彼女であり両思いなので下手なちょっかいはこちらが痛手を追う相手。ただ、同性で無知な者なら取り入りやすい。急な接近は必要ない。ただ対象と仲が良さそうに見える。そう印象付ければ警戒のハードルは下がる。
「嘘よ!僕の那由多を奪った挙げ句女人禁制にして私だけを見てーっていうんでって、叩くなよ親友。」
「馬鹿言ってんじゃないよ悪友。それに時枝さんも初めてのクラスだからって横の馬鹿に合わせなくていいから。」
「全くだ。悪いやつじゃ無いが真面目に相手すると疲れるぞ?」
「いえいえ、話してると楽しいですしそれに知らない仲でもないんですよ?」
那由多との会話。いい方向だが現時点では面倒でもある。対象ともう少し親密になってから接触したかったが、席が近いのならその願いは叶わないだろう。これで私にも少なからず質問が飛んでくるが・・・、チラリと時計を見るとそろそろ体育館に集合して集会が行われるので教室を出なければならないギリギリの時間。
「えっ!時枝さん工藤と知り合いなの?」
「ええ、春休み中・・・、こっちに越してきた時に偶然知り合う機会があったんです。と、ここから体育館って近いんですか?まだ学校に慣れてないんですけど時間は大丈夫ですか?」
「えっ?あー!那由多約束よろしくー!」
「承諾してねー!」
「ヤバい!時枝さん後で話そうね!」
口々に話しながら席を立っていく。バラバラではなく統一目標があるならそれに向かい1つの集団コミュニティとして動けばいいものを。学生だろうと人気者日陰者が分かれるが移動時くらい列を成して同じ速度で歩けば少しは平等でいられる。
「僕達も行こうか。案内するから付いてきて!那由多達もいちゃついてないで早く行くぞ〜!」
対象が黒江をからかいながら椅子から立って歩き出す。私もそれに合わせて動き出し、チラリ後ろを見ると佐伯と連れ立って黒江も早歩きで来ている。仲の良い事だ。
「こっ、ここから近いんですか?」
「とんでもハップン、歩いて10分!」
「いつの時代のギャグなんですかそれ!」
「ある人が言ったんだ、ユーモアは大事だっね!」
多分それを言った人はそれなりの歳だろう。息切れしていないがそこはかとなく息切れしたように装う。サバイバーを名乗っているのでそこまで必要な措置ではないが、初心者として立ち居振る舞うならこのくらいでいい。最もサバイバーは体力も向上しているので余り足手まといと言う印象はいらない。
「それって誰ですか〜?」
「そのうち教えるよ。おーい那由多〜、千尋〜、早こい。もう並んでるぞー。」
校長と呼ばれた男は恰幅が良く裕福そうな見た目の男だった。肥えてるのはいい、歳上で肥えていて金持ちなら恋愛対象としては満点だが、平等に富を分配してもらわないといけないのでそのうち痩せてしまうのが玉に瑕だ。相手が肉壁なら好きな姿で恋愛出来るのだろうか?対象の見てくれは悪くない。しかし、年下で線の細い感じは私の好みではない。せめて校長が30代後半程度ならと思う。いや、薬で若返らせれば好みの男は量産出来るのか。
「新しい学年というのは出会いと別れがあり、3年生は巣立ちの準備をする年でもあります・・・。」
話が長い。対象の横に座ったが周りからはヒソヒソと喋る声が聞こえてくる。そして対象も暇そうに欠伸をしている。なら、不自然にならない程度で且つ見つからない程度に話そう。悪目立ちする気はないが、時間は有限でもある。探りを入れたいのはツカサと名乗り剣士と言い放ったファーストについてだが・・・、ロジックを組み立てよう。
そもそもファーストの戦闘シーンを見るのは少ない。全てとは言わないが煙で隠される事が多く、直接的に見られるものとすれば中位赤峰との模擬戦だろうか?画像解析して像は出せているが戦闘速度が速くブレブレな事が多い。講習会の面子と接触できれば何かしらの情報を得られるかもしれないが、リスクとリターンが見合わない。
なら、剣士と名乗ったツカサなる人物として攻めてみよう。今のこの国と言うか、白髪で赤い瞳に白い肌はトレンドなので気付かなかったとも言い張れる。バラすならば相手にバラしてもらい私はひたすらに受ける側として立ち回ろう。
身体を後ろに伸ばすふりをしてそっと対象の手に触れる。すぐに触れた事に気付いて手を引っ込める。あざとさを出すなら舌でも出すか?いや、それは少しあざと過ぎる。適当に驚いた顔でもしておこう。
(あっ、ごめんなさい。)
(いいって、よくある事だよ。しっかし長いよなぁ〜話。早く終わってギルドに遊び行きないのになぁ・・・。)
(遊ぶってR・U・Rですか?かなり並んでると思いますよ?)
(知ってるけどやっぱり使いたいじゃん?ライセンスは発行してもらったからゲートでもいいけど最近はフリーで組むのやめてるんだよね。)
(ならツカサさんでしたっけ、あの方と入ったらどうですか?結構強いみたいですし安全とは言い切れませんけど・・・。)
(ツカサさんは忙しい人だからね。専属スィーパーってわけでもないんだよ。那由多や千尋が潜るなら一緒に行くけど今はなぁ・・・。)
(なにか問題があるんですか?)
(問題と言うか本人が入るか迷ってる。無理に入るもんでもないし本人が入るって言ったらでいいかなってね。)
多少計画を修正するか。出会った当初や報告では積極的に入るように聞いていたが、今の会話から推測するにそこまでの積極性はないようだ。チームメイトとしても動こうかと考えていたが、それは一時凍結し友人路線から進めよう。
(なら一緒に行きませんか?私もゲート探索上手くなりたいんです。)
(それなら歓迎するよ。そう言えば体育館分からないくらいだから学校のどこになにがあるか分からないでしょ?)
(それはまぁ・・・、体育の時って教室ですか?更衣室ですか!?)
(あ〜、その辺りは・・・、千尋にお願いするか。黒江の彼女だから多分あいつもついてくるけどいい?)
(大丈夫です。友達100人作らないとですね。)
胸を強調するように二の腕で挟んでボリュームをつけながら小さくガッツポーズを作って見せる。これで今日の予定は決まった。
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「クロニャン変なものが持ち込まれたにゃ。」
「変なもの?」
忙殺される中、手際が良くなったのか今日は少し書類が少ない。大半を占めていた企業からの質問事項何かを箱詰めして千代田経由で政府に送ったせいかな?内容に目を通すのも諦めて送りつけたが、考えてみれば俺達は法律ユーザーであって法律メーカーではない。なら、グレーゾーンの質問はメーカーに問い合わせるのが筋だろう。
「コレ。鑑定結果は個体成長薬。使ってみないと分からない代物にゃ。」
「また碌でもないものを・・・。買い取りで対応して下さい。これは私が持っておきます。」




