243話 帰る前日の話 挿絵あり
「おぉバイトよ・・・。美味しいところだけ持っていきエマ達がボロボロとは情けない。」
(ブルブル・・・。)
犬が朝早く帰ってきた。多分やれと言った事をやってきたのだろうが、何でまたあんなに時間かかるかなぁ?余りに遅かったのでウィルソンに連絡したら、何やらゲートに入る日程がズレたようだ。早まったわけではなく、後にずれたので最初から同行するかと思ったらギリギリ間に合ったらしい。まぁ、詳しくは分からないので後で電話が来たら聞いてみるかな。
電話したついでにアライルからイタズラのお小言をそれとなく言われたが、鑑定術師いるんでしょ?と聞いたら速攻で電話を切られた。解せぬ。まぁ秘匿するならそれでもいいがどんな人物だろうか?ゲートを鑑定して寝たきりでない事を祈る。と、言うか千代田から連絡行ってないのかな?その場でやめろと言われてやめたんだが・・・。
「罰として全身丸洗いからのドライヤーの刑に処す。何か言いたい事は?」
(首を刎ねる以外なら如何様にも。)
「バイト相手になにやってるんですか?」
「王様ごっことか?埃っぽいから丸洗いの刑に処した。ほらついてこい。」
ホテルからの引き上げは明日で、残る遥はここにいてもいいと言ったが広くて落ち着かないと言う事で、ここよりも部屋の狭いホテルへ移った。それでも公安の息がかかったホテルなのでセキュリティはバッチリ。アパートを借りる事も検討したが千代田からNGが出され、無理を通すなら住人がそれとなく入れ替わると言われた。知ってるぞ?入れ替わった住人って公安だろ!
まぁ一人娘が安全な環境で仕事するなら、親としては願ったりかなったりなので多くは言わない。遥の場合本当に一人暮らししたいならさっさとアパートを借りて来るだろうし、仕事場もゲート内だったり新宿だったり最近はJAXAに呼ばれて斎藤と行動したりと忙しいようだ。
なんでも使用頻度が低く40年近く更新されていないスペースシャトル船外活動用の服を国産で作ろうと動いてるらしく、それの生産者に祭り上げられたらしい。らしいというのは娘が頭を抱えながらどうしようと呟くに留まったから。引き受けたなら今頃デザインしてるだろうしね。素材をどうする?問題もあるし今あるものを固定処理した方が早いんじゃない?等々、色々と意見はあるようだが、素材にしても何にしても新しいものがバンバン出ているので試したいのだろう。
「ゆっくり中へ入れ、動くなよ〜?」
橘の着ている鎧や肉壁スーツも宇宙仕様にしようと思えば出来るよなぁ。寧ろ、単独単身宇宙飛行とか結構な時間できるよな?圧縮装置の設計図あったし。必要な動力はクリスタルリアクターなら無理しなければかなり保つし。そもそも鎧の方はその方向で既に動き出している。Q.大型ロボットが必要な状況を述べよ。A.大質量物体を移動させる。多分それ以外ない。ゲートのせいで下手すると金属より人の方が劣化が少ないのだよ・・・。
「拭くのは・・・、魔法である程度乾かせばいいか。」
さっさと魔法で水分を蒸発させてドライヤーとブラシで毛並みを整える。流石に連れて帰るのに汚いままはダメだろう。室内犬にするか外に犬小屋作るか、或いはゲート住まいにするかは悩むが愛猫も半分外猫の様に勝手に玄関開けて出入りするしどうなんだろう?周りが畑でも室内に泥が上がらないので余りに気にしていなかったな。爪も外で研いでくるし。
「お前を家に連れて行く。いいか?そこには妻と息子とにゃん太様がいるから粗相のないように。にゃん太はお前の先輩ペットの猫だ。」
なんか悲痛な面持ちをしているが、別に取って食おうと言うわけじゃないのだから普通にしていればいい。指示に従うので駄犬の冠は青山に被せ犬は・・・、そろそろ首を刎ねなくてもいいかな?時と場合によるが人を襲わない限り、敵対者を捕まえる限りはよく出来たパートナーでいいだろう。
(パートナー?)
「そう。今まではこちらの要求ばかりだったけど、これからはある程度そちらの要求・・・、なにかやりたい事があれば伝えてくれるといい。全てを肯定するわけじゃないが仕事には見返りを渡すのが主人の努めだ。骨ガム食うか?」
取り敢えず尻尾を今までにないくらい振っているので嬉しいと言う事でいいのだろう。骨ガムを渡すと一口で食べあげてこちらを見ている。また骨ガムが欲しい・・・、訳では無いな。煙をまとめた玉を何個か作り適当な箱に入れて首に下げる。緊急用だが犬が戻りたい時に戻れる措置はこれでいい。
帰る前に遥に依頼して作ってもらった魔法の玉を使ったアクセサリーは妻と那由多に帰ったら渡すとして、帰る前に呼ばれている所に行くか。望田も同行すると言っていたのでそろそろ準備もできただろう。バイトも乾いたので浴室から連れ出しそのままここで寝ているか、好きにウロウロするか任せる。
「カオリは準備できた?」
「カオリ=モチダ、いつでも出撃出来ます!」
「パイロットになってどこに行く気だよ・・・。」
「え?佐沼さんに呼ばれてR・U・Rのアップデートを見るんじゃないですか?」
「そうなんだけどさぁ・・・、さっきの話だと宇宙行かない?こう・・・、大型ロボットで。」
「藤君が依頼受けて4m級までは作業用を作るみたいですよ?それ以上は利便性がないから要らないって言ってましたけど。」
「他国に売るなよ?絶対武装して戦わせようぜ!って勢力が出てくるから。そうじゃなくても拡張装甲ってだけで『ガタっ!』て人多いんだから。」
そんな話をしながら望田の運転で佐沼の働く会社へ。お土産もたんまり持ったしそれなりに歓迎してくれるだろう。会社に着くと多少騒がれたがさっさと中にはいり、出迎えてくれた佐沼に連れられて地下へ。生活リズムの悪そうなプログラマーを地下へやったら更に不規則になりそうだ。
「今回はお招きいただきありがとうございます。これはつまらないものですが・・・。」
渡すのはうちの会社のエナドリ30ケース。社員と言うかR・U・R関係者がどれくらいいるか分からなかったので、取り敢えずの数とし渡したが必要なら在庫は未だある。売れば割と良いお金になるのだが、株主優待代わりに持っていっていいというので個人として売る気はない。
「ありがとうございます。ワンコインと言う微妙な高さの割に店頭に並ぶとすぐ消えるんですよねコレ。もっと生産しません?」
「先生次第ですね。優先的に医療従事者やら被災用の備蓄にしてるのでどうしても一般販売は少なくなっちゃうんですよ。ただ、コレ単体の工場も立ち上げるのでそしたら行き渡るでしょう。」
そんな話をしながらオフィスを見渡すが結構広く、ガラス張りの奥は投影場なのだろう。カメラなどが多く設置され手前はプログラムやら収集したデータを検証するのかパソコンが所狭しと置かれている。爽やかなオフィスと言うよりは、資料が乱雑に積まれていたり、PCに走り書きの付箋が貼られていたりフィギュアが飾られていたりと、どちらかと言えばそれに対する趣味人が集まっているように思う。
灰皿に吸い殻タワーがそびえ立っているのもポイントが高い。これで何日か風呂に入ってなくて無精髭でヨレヨレのYシャツ、シケモク吸いながら頭ボリボリ掻くような奴がいたらバッチリだ・・・。
「ほら、お前達も挨拶せんか。ファーストさんが来たぞ。」
「おぉ〜本物〜・・・。」
「珍しい反応ですね。クロエを見ると大体握手しに来たりサイン欲しがったりするんですけど。」
ぞろぞろと10人くらい机から出て来る人達は新品と言うかさっき封を切ったばかりの様なYシャツと、無精髭を無理やり剃ったのか剃り残しやら、切ったのか傷があったりとバタバタ準備した様子がうかがえる。出てきた人達は俺に興味があるのかチラチラ見てくるが、何処となくおどおどしているようにも思う。
「なんか怖がられてない? 」
「怖がるとい言うよりここは男ばかりで女性慣れしてないんですよ。お二人共お美しいので気後れしてしまってね。気さくな方だとは話してたんですが・・・。」
ちらりと俺を見るが何かやった方が良いのだろうか?いや、そもそも呼ばれて来たのになんで期待されてるんだろ?したらやる気が上がるとかあるのだろうか?まぁ、やってみよう。
「大分出身、クロエ=ファースト。ただの人間には興味ありません。この中にPCオタク、ウィザード、プラチナゲームソムリエ、本好きがいたら、あたしのところに来なさい。以上。」




