表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街中ダンジョン  作者: フィノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

307/878

閑話 61 珍しい2人 挿絵あり



  挿絵(By みてみん)


「帰ってそうそう私を呼び出すとは珍しい。ギルド体験1号だからかな?公安局元室長の千代田さん。今はクロエ専属のネゴシエーターだったか。私も増田と呼んだほうがいいかい?まぁ、男の事はすぐ忘れるようにしてるけど。」


「お好きな方でどうぞ。地位や役職、肩書でどうにかできる時間は終わっています。」


 ギルド1号の稼働にあたり、私とクロエが現地へ赴いたのは認証システムの正式な手続きを行う事ももちろんですが、それよりも大きくウエイトを置かれたのは稼働地域における敵対勢力の同行把握。伊月と言う警部は鼻が効くのか私が警察署を訪れ名指しして面会する時には露骨に嫌な顔をしていましたね。


 経歴だけ見ればノンキャリアの叩き上げ。地方の人間なので余程の事がない限りは、顔を合わせるような人物ではなかったのですが、ゲート開通の折に一度だけ顔を合わせたのを覚えていたのでしょう。刑事として人の顔を覚えて忘れないというのは大きな武器です。それは職を使って犯人逮捕を行えるようになった今でも変わりません。


 初日に別れて以降、私は彼と柊と言う婦警を使い街に新たに入った入居者や転出者を洗い、地域に昔からある反社会的勢力を確認し金の流れを掴めるだけ掴み、海外との繋がりを把握するだけしてみましたが、クロエや奥方等に対するこれと言って怪しい動きは確認出来ませんでした。まぁ時間も短く確認範囲が佐伯 千尋迄だったので仕方がないでしょう。本来なら工藤 結城に対しても同じような作業を行わなければならないのですが、優先度は佐伯より低く後回しでいいと結論を出しました。


 理由としては当然の事ながら家族関係でない点。今後家族として迎えられる可能性が低い点。家族ぐるみの付き合いながら息子の友人としてのポジションであり、クロエに対して何かしらのお願いは出来ても、それに対して彼女が大きな配慮をしないだろうという点です。そもそもただの学生である彼に重大な秘密をバラすとは考えられませんからね。


 そもそも工藤と言う人物は他の口止めした者や、偽の情報をバラ撒く工作員とさして変わらない程度の情報しか持っていません。なので、仮にクロエが元男とバレたとしても我々としてはそれをフェイクと言ってのけるだけの工作を行い、彼女の両親の存在も隠せるだけ隠して誤情報をバラ撒きあらゆる面からクロエと言う人物を新たに作り出しました。それも幾人も幾系統も増やせるだけ増やす彼女のデマも。


 マスコミのコントロールは難しいものですが、彼女の情報操作は割と簡単でそもそも人は見たいモノ、信じたいモノしか信じないのだから信じやすい像を与えればいい。仮に本物の神が名乗り出ようとも、自分の意にそぐわないなら、人は平気でその神を罵りつばを吐き、磔にした後に自分の信じた神に祈るでしょう。それこそ、頼めば願いを叶え窮屈な日常から開放してくれると言うような甘言響かせるサディストに。


「それで?わざわざそちらから私に接触を図ってくるんだ、話を聞こう。と、言っても私よりそちらの方が情報量は多いんじゃないかな?」


それなりに(・・・・・)と回答しておきます。今回来ていただいたのは外見的特徴ではスパイ或いは工作員の是非判定がつかないからです。あなた同様、肉壁が潜入任務を行うとして見抜くことは可能ですか?」


「それは私の仕事じゃない。尻尾を掴んだなら追跡者。それがまだなら鑑定師。ただ、骨が折れる。私が言うのもなんだが物理的に一般人になりすましてメイクでもないから皮を剥いだら終了とはならない。」


「発見は至難の業だと?」


「そもそもうちの国は前大戦以降、誤情報バラ撒きでスパイに対する情報管理をやってきた。だから捕まえるノウハウは著しく低い。逆に海外で活動する為に最強のパスポートを作ったんだ。まぁ、それもだいぶ最強から落ちてきたけどね。」


 海外に赴く際に使うパスポート。日本のモノは信用が高く、日本人というだけで無条件とまではいかなくとも行動制限は付きにくい。海外で日本人がスパイをしたと言われても相手の国を疑う事はあっても、日本人を疑う事は少ない。そもそも、そう言った情報獲得及び収集組織が表向きになく、知る人間そのモノも限定されている。


 誠実こそ最大の盾であり、その盾を長年の印象操作で固め上げたので簡単には崩れない。まぁ、それでも危険度は低くとも疑う疑われる事はあるが、こうして一部の組織を泳がせる事でこちらの収集能力を低く見積もらせ、相手に誤情報を持ち帰ってもらってるのだが・・・。今回で言えばその工作で捕まえる能力はあれど実践経験の少なさが裏目に出ていますね。


 ただ、今は自衛隊とも連携が取りやすいのはいい事です。彼等は彼等として国を守る為に海外でも活動しているんですから、何かしらの情報を掴んでいるかもしれません。


「なにか情報は掴んでいますか?大井さんの方からは必要な情報はある程度頂けるよう話していただいているはずですが。」


「いや、私としても別班は辞職しているので早々話は来ないよ。一応古巣だから話が出来ない訳でもないけど、そちらと一緒で誰が何の情報や活動を行っているかは明かされていない。ただ、加納はそちらが取り込んだのだろう?この時期にシベリア送りとは中々思い切った事をする。」


「必要な処置ですので。外務省で海外利権に群がる政治家達の膿も出したいのですが、彼等は彼等で海外へ誤情報をバラ撒くパイプとしているので関わらない方が得策です。加納については外務省から講習会に派遣があった時点でこちらに取り込む事としました。少なくとも高級な玩具にされては困る。」


 今の所加納はアガフォンから情報を受け取る以外に活動はしていない。表向きは外務省からの派遣技術交流者として活動し、開示されている以上の訓練は行わず、アガフォンが釣りでロストしたルアーに入ったマイクロチップを見つけて回収する事が最大の目標。アガフォンと加納は互いに会う事はなく彼が定期的に上げるSNSで釣り場を特定し、重りを付けて沈めたそれを魔術で掬い上げる。昔から藁をも掴む受け渡し方法だがそれが、現実的に出来るならしていただいた方が、接触して不審に見られるよりいい。


 ただロシア方面は中々思うように研究が進んでいないのか、人体実験以降は大きな動きもなく中国と仲良く共同研究をしようと動き、北や韓国もそちらに加わったという情報が最新のモノとして上がってきている。


「私は彼女を好きにできるなら一晩お願いしたいけどね。まぁそれはいいとして職で潜入任務をこなしやすいのはサバイバー、肉壁、時点で漁師や採掘家もやりやすい。相手の練度が中位として変化に長けた拡張だと時間があればあるほど、なりすましの精度は上がり外見で見つけるのは無理だ。」


「変化を維持し続ける時間はどの程度ですか?」


「だいそれていなければ・・・、私の様に人を逸脱しなければ全身を変えたとしても数日は保つ。まぁ、小さくなるより大きくなる方が簡単だけどそれでも1日は確実だな。なにせ、それが出来るならそれのイメージがある。回復薬も使えば永続的にも出来るさ。」


 実質的には無期限のなりすまし。そして、いくつものイメージさえ持っていればバレる確率は低い。やはり情報操作と本人の自衛に任せるしかないですね。幸いな事にクローンの話以降警戒心が上がっているので難しくはないでしょう。流石に人格までは入れ替われないでしょうし。


「しかし、職に就かずにスィーパーの対策を取るのは骨だろう?貴方はゲートに入らないのか?」


「まだ入る気はないですね。」


「仕事熱心な千代田が珍しい。いの一番に入り指輪や職を使いまわしていると思ったんだかな。」


「立場は残りましたからね。開通当初或いはどこかの時点で私がスィーパーになっていたならネゴシエーターにはなっていなかったでしょう。」


「確かにあれだけ言葉を交わしていれば警戒対象になっていただろうな。まぁ私にはどうでもいい事だ。仕事は仕事としてやるがそれ以上の事に付き合う気もない。ただ、教えて欲しい。今回の話を持って来るにあたってなにか掴んだ事があるのか?」


「いえ、そこまでは行き着いていません。ですが仮に私が動く機会を伺い行動に出るならこのタイミング以外考えられません。」


 選出戦も終わり各国に向けた情報開示も行い、我が国へ向ける目が一番緩みこちらも一息つこうと思う時こそ最も不意を突きやすい。事実、政治家はこの1年で張り詰めた糸が弛緩して大会で繋がりを持った各国の地位あるものとパイプを作ろうと動き、講習会は終了宣言されたので古巣や個人で引き受けた仕事を行いバラバラとなっている。


 明確な敵や消化しなければならないタスクが消え、次に目を移そうと瞬きしたこのタイミングなら、そっと行動を起こしてすんなりと入り込みやすい。


「一つ・・・、確定ではないが入手した情報がある。」


「聞きましょう。確定でなくとも煙が立ちそうなら早めに教え消火の準備をしておきたい。」


「中国で誕生した中位。一度はメディアに出たが以降はゲートに籠っているという。」


「訓練場所をゲートに移し何か画策していると?教本とも呼べる物は公開されているので講師として運用し、さらなる中位を誕生させようとしているのではないですか?」


「それもあるだろう。確かに戦力という面から見ればそれは間違いない。しかし、彼の国は思想が違う。平等を歌いつつ中身は封建社会で市民と議員との間には埋められない差がある。言わば完璧な形での捻れだ。その捻れを自分達は優秀で公平に導いていると錯覚している。本当に平等なら人民服を全員が着用し全員が鍬を持って畑を耕さなければならないだろう?」


「思想戦略が開始されていると?」


「それは早計すぎる。必要なのは旗印だ。思想を塗り替えるにしても、押し通すにしても自分達より優れたものを本質的にあの国は嫌悪する。」


「つまりEXTRAの誕生を狙っていると?」


「不確定だがね。ただあの国の中位は1人ではないと報告は受けた。何人いるのか、何の職なのかは分からない。だが仮にサバイバーや肉壁が至って中位になった場合。スパイはもう紛れ込んでいるかもしれない。」


「ふむ・・・、狙う先の目星がつく分警戒レベルは上げましょう。」


「そうするといいネゴシエーター。私も彼女の所にいる間は周囲に気を配るさ。さて、追手が来そうなので失礼するよ。」


「必要なら追い払いますが?」


「いや?これは私と彼女のゲームだからね。私に不利がない以上、捕まってもいいんだけど、なんだかんだで楽しくなってしまってね。では。」


 話が終わったと言わんばかりに彼女・・・、夏目は立ち上がり伝票を持って歩き出し服も姿さえも変えて出ていきました。確かにあれでスパイ活動をされると我々としても打つ手がない。橘を派遣したいですが、彼は彼で別の仕事をしているのでおいそれと動かせるものでもない。やはり誤情報バラ撒きによる・・・。


「すいません!ここに夏目いませんでした?」


「貴女はどなたですか?」


「凪夏って言います。私は夏目の・・・、こ、恋人です!婚姻届持って見つけられたら結婚する約束をしてるんです!」


「今しがた出ていきましたよ。」


「分かった!ありがとうおじさん。」


 駆けていく年若い女性を見送りながらため息を一つ。誰が誰とくっつこうとどうでもいいですが、どうして中位と言う方々は一筋縄ではいかないのでしょうね?夏目と言う人は多くの女性と遊びたいとしているのに、ああして追っていれば捕まるものも捕まらないでしょう。


「どんなに浮気してもいいし、私の所に帰ってくればいいだけだから姿を表しなさい夏目ーー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、ブックマークお願いします
― 新着の感想 ―
[一言] 最初にクロエで着せ替え楽しんでた柊さんか 町中で婦警やってるってことは職は得てないのかな >北や韓国もそちらに加わった 南北揃ってあっち側についたか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ