閑話 60 ゲートに籠もった話
「栄えある米国軍人諸君!遂にこの時が来た!研鑽は積んだ!イメージは携えた!憎きモンスター共の供物となった同胞の無念は臓物と糞で出来たお前達の中に詰め込んだ!恐れる事なかれ、引く事なかれ、しかして我々は星条旗の元に集まりてゴミ共を駆逐する1つの機構となろう。見つけ次第モンスターは潰せ、目障りだ。片腕を失うば相手のクリスタルを奪って腕を繋げて進軍しろ!両足を失ったなら繋げて即時奪った相手に蹴りを返せ!さぁ!楽しい楽しいピクニックの始まりだ!」
ドゥと言う男が同行者となり計画を数日遅らせてR・U・Rを使っての模擬戦や、2人でのモンスター・ハントを行い実力を確かめた。能力としては問題ないだろう。鑑定術師と肉壁、この2つをどう運用するのかと考えていたがなんて事はない。私と似たような運用で端的に言えばビックリ箱だ。
足で銃を持ち射撃する。鼻の先から剣が飛び出す。槍のリーチが倍以上伸びる。これは彼が見せた曲芸の一部で出土品も多数指輪に入れているので更に引き出しは増える。更に言えば戦闘中は常時自己鑑定と周囲の鑑定を行っているので、私との相性は最悪に近い。まぁ、最悪なだけで興が乗って丁寧に対スィーパー訓練を行った為に危うく潰してしまうところだった。
何時だったがクロエにやりたいと申し出て、お前にはまだ早いと返されたが、確かにあの時点で私がやっていたなら性格も相まって至るのは更に先に伸びたか、下手したら未だに日本にいたかもしれない。イメージの撹乱や簒奪、他にも否定による鎖賭け等々、よくもまぁ思いついて形にしたものだ。単純な真っ向勝負ならまた手合わせ願いたいが、搦手有りだと再起が怪しくなるので御免被りたい。
「心滾る演説どうも。しかしなんでまたピクニックなんだ?もっとこう、栄光への道ー!とかあるだろう?」
「気負うな楽しめと言う事だ。ゲートに入ればモンスターはいる。どんなに御高説を垂れようと、私達は化け物の家に入る強盗で殺人犯。なら、笑って引き金を引くのがギャングの流儀だろ?もちろん金貨もクリスタルも根こそぎ持って帰る。」
おどけて返すが私達がやる事はゴミ掃除と報酬と言う名の廃品回収。慈悲なく潰し、躊躇なく仕留める。クロエのいう様に闘争心以外持ち込む必要性はなく、存分に暴力という名の娯楽を楽しめる場所に遊びに行く。ただ、それだけの事だ。
「ヒュ〜♪いいねぇその流儀は大好きだ。クソどもに笑いながら引き金引いてやるよ。んで、俺はどこに入ればいい?仲間はずれで1人ピクニックだと泣いちまうぞ?」
「なに、ギラギラしたいい班がある。グリッド、グリッド上級軍長はあるか!」
「はっ!大佐殿。どうされました?」
スタンピードの最後で負傷した彼の部下達は、彼も含め夏目や小田の協力で今は五体満足で走り回っている。中々見所のあるチームで他の所よりも休み少なく砂漠を駆け回ったせいか、それぞれ目標と言うモノが掴めそうな予感はある。まぁ、一つ笑い話をするなら、宮藤の兵を本物の兵と見間違って終結後に探そうとしていた事だろうか。
「新しい橘と夏目だ。なんでも1つに纏まったらしくてな、的確に運用して必要なら搾り取ってやれ。なぁに、たらふく溜め込んだのを見た、今はマッチョに見えても中身はだるんだるんだ。」
「ほう!ならディルと組ませましょう。アイツも新兵根性が抜けて吹っ切れたのか、はたまたどっかのねぇちゃんで男になったのか。だいぶ型破りになってきましたからね。」
「だろうな。間近で治療を見て選出戦開会式の発破を聞けば嫌でも・・・、あのスタンピードを駆けずり回った兵士なら確実に動き出すだろう。なにせ誰も彼もをビビらせたモンスターを倒した者が上から見下ろして上がってこいと煽り倒したんだ、玉無しだろうと走り出して玉を掴んで這い上がる。そうでしょうマッド・ガール。」
グリッドがニヤつきながら私を見ている。やれやれ、若返って美しい私に玉の話をするなんて中々キモが座っている。まぁ、元々そういったはジョークは日常茶飯事だ。目くじらを立てる程の事でもないがドゥもいるので軽くジョークを返すか。ユーモアは大事。瞑想が自己鍛錬ならユーモアは自外鍛錬だろう。なにせウケなければ自分が寒々しくなる。
「ハッハッハ・・・。そもそも玉のない私がなんの玉を掴むんだ?言ってみろグリッド上級軍長、必要ならお前の玉を掴んで引き千切ってやろう。なぁに、ベアトラップで噛むだけだ。」
「おぉ恐い。それでこのアメリカンヒーローはこのまま行くんで?」
大げさに身震いしたグリッドが真面目な顔でドゥを見る。格好は・・・、そもそも今回参加する米兵も迷彩服ではないのでとやかくは言えない。現に私も靴とインナー、ドッグタグ以外は私服だ。一応中で人民軍との遭遇を想定しての偽装でもあるし、必要なら身分を示す物を提示してもいいと言われている。
提示しても襲いかかってきたら?当然返り討ちだ。中はどの国も自己責任としている。なら、ゲート内で衝突があったとしてもそれは互いの国が知らんぷりすると言う事。死にたがりがバカをしない限り人間同士で殺し合いなんてナンセンスだ。なにせ戦う相手には事欠かないのだから、よっぽどの目標や必要性がない限りは互いに見て見ぬふりだろう。
「このままで頼むよグリッドさん。俺はドゥ、ジェーンでもジョンでも好きに付けてくれ。搾るのはいくらでも搾り取ってくれていいが飯はくれよな?ないと出すもんも出せなくなる。」
「馬肉ならたんとあるから味に文句は言うなよ?ディルなんか最近1日一頭は回収してやがる。で、血液型は?」
「ルナ型にした。中々骨の折れる作業だったぞ?鑑定して取り込んで変化で他の血液を全部同じルナ型になるようにしてと約4ヶ月かかった。その間は変化以外下手に使えば元に戻ろうとするし、回復薬なんてもっての外!久々に二日酔いで何度か吐いた。」
「好きに飲めないのは辛いな。最近は工場稼働で優先的に俺達に回復薬やエナドリが回ってくるから贅沢させてもらってるよ。」
「そうか、なら出たら祝杯だな。ぶっ倒れるまで飲んで倒れたら回復してまた飲む。目標がきまった。」
「なら仲良く手を繋いで入れ。目標は20階層までの簡単なピクニックだ。ただ、見つけたモンスターは一匹も逃がすな!」
「「Sir.Yes.Sir!」」
遂にその時が来た。私の到達階層からすれば半分にも満たない階層だが、このゲート籠もりの目的はどちらかと言えば自信とイメージを明確にさせる事だ。自分が何者なのか?自分自身はどう職を使うべきなのか?手助けは出来るが強制はできない自己との対面。
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「隊長伏せ!」
「犬じゃねの俺は!」
「流石に顔に風穴が空いたら伊達のままであります!」
「ハミングの奴調子いいな、俺の片腕にしてこき使う予定だったんだが・・・。」
「盾と銃ならやりやすい。まぁ、俺は風穴空こうがよっぽどじゃない限り死なないんだが・・・、なんと言うかやっぱり英雄殿はこえぇ・・・。空を抑えてやるって言葉は見栄でもなんでもなくて本当に1人で抑えてらぁ。」
「いっちょ上がり!ドゥ、ジャパニーズサイボーグは空とんだけど、アメリカンヒーローは飛ばねぇの?」
「おいおい、陸の王者米国陸軍が空飛んだら空挺部隊になっちまう。俺が出来るのは真正面からモンスターをズタズタにバラす事だ。」
グリッドの所に配置したドゥは空気を読むのが上手いのか、軽口を叩きながら馴染んでいる。まぁ、ここで仲間割れなんてすれば憎い相手の厳つい顔を見ながら死ぬ羽目になる。日本メンバーと合流する前に彼等が籠もった時は、クロエが空を担当していたというので試しにやってみたが中々神経を使う。
そもそも集めた証言では呼ばない限り空に居続けたというのだから、技術は褒められ何処からでも視認できれば安心感はある。しかし、絶対に楽をしようとしていたと思う。試しにドローンに飛び乗って飛んでみたが、雑魚は確かに多いし攻撃を引き付けているので飛来するビームも多い。しかし、彼女はビームを無効化も出来れば、煙があればモンスターなど軽くすり潰すだろう。
出来る事と出来ない事の境界が曖昧になればなるほど恐ろしいと思う。そう、それこそ私だって前は空を飛べないと思っていた。しかし、ドローンを見ていたら乗れば飛べるよな?と思ってしまった。そう、イメージは発想であり好奇心があれば試したくなる。宮藤がゲートによくよく籠もっていたが、私もこうしていると確かに籠って試したくなる。
「ドゥ!楽しめ楽しめ!何を試してもいい。夏目がチラつくならやってみればいい!元々顔面崩壊して私との顔合わせしたんだ!ちょっと身体がおかしくなっても問題ないだろう?」




