239話 一人勝ち 挿絵あり
明けましておめでとうございます
今年もご愛読よろしくお願いします
「おったから〜!おったから〜!なにが出るかな何が出るかな?」
「結城君の初恋話〜。」
「ツカサさん勘弁してください・・・。」
「もしかして初恋の相手って・・・。」
モンスターを斬り伏せた後更に進んで5階層。途中で出てくる敵を結城君が地面を隆起させて天井で押しつぶしたり、時枝さんがトロンプルイユで釣って避けたりとしながら進む。一瞬ヒヤリのしたのは砲撃型が結城君の索敵外からビームを出鱈目に乱射してきた事だが、結城君が土壁で防御を固め時枝さんがトロンプルイユでデコイを作り、その中を突き進みながら当たりそうなビームは剣で叩き落して斬り伏せた。
そして今箱を開けている所だが、中身は数枚の金貨だけで他はなし。下に行けば少しは増えるが箱いっぱいの金貨なんてものはなく、代わりに金貨+何かが入っているというパターンもあれば、物品オンリーと言う事もある。確か下の箱で1番多く金貨が出た時は1箱で5000枚くらいだったかな?嬉しくもあれば悲しくもある金貨は、集めようと思えば取り敢えず箱さえ回収すればいい。
感覚だけで言うなら1〜5階層をスキップなしで潜れば円換算なら50万くらいは稼げる。そうでなくともアフター5で5階層だけで攻略するサラリーマンやら借金して装備を整えて奥に行く者もいる。多少頑張ればリッチに過ごせると言うのはやはりと魅力的なようだ。まぁ、金貨に釣り銭は出ないのだが・・・。
「ツカサさんじゃないよ。ツカサさんの奥さんが小さい頃の初恋の人。あの頃は法律なかったけど、その頃からラブラブだったな・・・。綺麗で優しくて気さくでさぁ・・・。それで今でも親友から誂われる。」
「小さい頃って身近な人好きになったりしますもんね、幼稚園の先生とか。」
「そうそう、毎日の様に顔合わせたり休みの日に家族ぐるみで遊園地行ったりとかしてたからねぇ。今は名実共に夫婦だし僕の恋心は波にさらわれたのさ。」
「それはまた、ご愁傷さまです・・・。」
2人で笑い合いながら歩いているので、どうも俺はおじゃま虫っぽい気がするが。歳も歳なので高校生の会話にそんなに入っていけるかと言われると難しい。最近の高校生って何してるんだろ?TikTok見てタピオカ飲んでマジウケル〜とか、すご~いとかで喋ってるんだろうか?本は読むが動画配信はゲート関連のものばかりであまり馴染みがない。
それでも見たものといえば、ゲート出現前ならボードゲームの動画とか良かったなぁ。クトゥルフ神話に人狼、マジカルベーカリーシリーズにパラノイア。無茶がしたいならパラノイア!妻もハマって2人でごっこ遊びしたり家族でもしたが、なんか毎回開幕プロパガンダと靴を舐めると賄賂が横行する素敵空間になっていた・・・。
「まぁ初恋は叶わないものだしね。それに最近と言うかゲート開通して以降、女の人同士でゲートに入って互いに指輪を嵌めるってのがブームみたい。」
「それTikTokで見ました。確か男の人同士もありましたね。でも男の人は男の人同士で 女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うので公平だと思います。」
結城君がピタリと止まり時枝さんが気付いてオロオロしている。セリフ的にはネタなんだが、知らないと暴走したヤバい人なんだよな・・・。いや、俺と妻の関係に気を使ったとか?どちらにせよそのセリフがサラッと出る辺り漫画やアニメが好きなんだろう。
「結城君それ漫画のネタだから本気じゃないと思うよ?」
「あっ!ネ、ネタね!びっくりしたぁ〜。本気だったら何かが始まる前に終わる所だった。」
「ふふっ・・・、私はノーマルですよ工藤君。」
結城君が弄ばれているが、割とこの娘は見た目に反して小悪魔的なのかもしれない。しかし、近くに夏目やら小田やらがいたせいか趣味と言うよりも真理を語られているような気もしてくる。まぁ、この先性転換装置なんて地球人を対象とした様な都合のいい出土品なんて出ないだろうし、仮に出来るとすれば高槻の悪ふざけで薬とか?どちらにせよ俺には無用の長物である。
「さて、そろそら出口付近かな?」
「そうですね、索敵した感じこっちで合ってると思います。時枝さんはどう?撤退するとしてルートは合ってそう?」
「大丈夫だと思います。他の分岐だと障害がある感じがしてましたけど、このルートは危ないと感じません。ただ、退出ゲート付近にモンスターがいなければいいんですけど・・・。」
「いたとしても押し通るしか無いんだけどね。下手に数を減らそうとして釣っても上手くやらないと挟み撃ちに合う。そうなるくらいなら多少の被弾を覚悟して退出ゲートに飛び込むのも手だよ。特に今回は魔術師殿がいる。石壁を斜めに伸ばせばその上を走って行く事も可能だろ?」
「出来ますけど時枝さんはどうしたい?クリスタルも拾えれば良いお金になるけど。」
「ここに来るまでにそれなりに拾えたから安全な方でいいですよ。あんまり欲張りすぎると危なそうですし、ツカサさんも走り回って疲れたんじゃないですか?」
「疲れはないかな?かなり短縮してここまで来たし。本来全ての分岐を辿ってモンスターも残さず狩って、箱も全て回収するなら倍どころの時間じゃすまないけど、索敵とルート選択が良かったから楽に短時間でここまでこれた。まぁ、この後も予定があるし出るならさっさと出よう。」
「分かりました、次のブロックの先にあるみたいなんで見つかる前にさっさと橋を伸ばします。時枝さんは僕の後をついてくるとしてツカサさんはどうします?」
「私は高所恐怖症なんで下を行くよ。それに、下手に橋を撃たれたら皆で真っ逆さまだしね。時枝さんは走りながら上からトロンプルイユでデコイを落としてくれれば助かる。」
「えっと、お一人で危なくないですか?」
「慣れてるから大丈夫。それに剣が伸びる分周りに人がいると振り回しづらいんだよ。これって鞭みたいにもなるからね。」
ベシベシと地面に叩きつけてみる。割といい音がなったがそれは置いておくとして、剣や槍の判定は割とガバガバである。と言うか余程特殊でも無い限り使える。問題は職としてそれが使えるかだが薙刀っぽいものは槍、短槍も槍、投げナイフ辺りから怪しくなってきて槍師の説明は全部乗るし、剣士の説明も全部乗る。まぁ、投擲がなくとも剣士でも普通に剣をぶん投げたりしているので分かりづらい所ではあるが、普通に威力が変わってくる。なら、鞭はどうなのかと言うと剣に分類される。
多分刀身と言うか攻撃面積の長さとかでその分類なのだろうが、浦橋の使う斧も剣判定で代わりに斧の先に突くような機構があれば槍となる。ただ、分厚い刃の側面が十分な広さがあり盾と判定されるのかカバーリングとかも出来る。要は適切な武器以外も使おうと思えば使えると言う事である。
赤峰は井口から槍貰ったけど最終的には棍の代わりにしてぶん殴るのが最適としてたしな。投げれるけど手元はないので行ったっきりになるし。
「分かりました、危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね?」
「私もトロンプルイユ頑張ります!何か落として欲しい物ってありますか?」
上から落として欲しい物?目薬とかマシュマロとか?花瓶や鉢植えは駄目だ。なんか当たりに行きたくなるし。逆に鳥のフンとかなら全力回避だろうけどそれを作れというのも嫌な話。上から落ちてきてそれでいて欲しいと思えるもの。時枝さんのトロンプルイユ技術はそこまで高くない。道すがらモンスターを釣る時に出したモノは真っ黒い熊・・・、ではなく白が入っていないパンダ。つまり黒クマで間違いないはずなのだが、本人が怒りながら否定するのでパンダなのだろう。名誉の為に言うなら産毛程度の白い毛は数本あった。
ただ、パンダなんて降らされても困るし何より走りながらだとイメージ投影だとしても描くには面倒だろうし、足場にも出来るのでなるべく平たい方がいい。そうなると・・・、アレがいいな。残ると残念だがあれが空から降ってくるなら嫌ではない。
「テトリス落として、形は任せるから。」
「分かりました、下が多分見えないので当たらないように気を付けますが避けてください。」
「大丈夫だからどんどん落としてね。」
退出ゲートの見える位置まで来て顔を覗かせモンスターを確認する。まぁ、見なくても既に視えているのでそこまで問題ではない。総数10か。砲撃型と三つ目の混成で下のモンスターの様にガツガツと潰し合わずにウロウロしている。ちょっとホッコリするが、モンスターなど見つけたら倒す以外ないのでさっさと倒してしまおう。このモンスターに意思があったり喋ったらって?
犬を見ろ。戯れに殺しにかかってくるヤツと友好を結べるほど壊れてはいない。そもそも話し合いで解決出来るなら掃除も何もかも不要なんだよ。思考停止かもしれないが、相手の事を考えて手を抜けばこちらが殺される。可能性に夢を見るくらいなら現実的な討伐の方が分かりやすく後腐れはない。
「では行こう!」
「立ち上がれ大地!踏みしめる土は道となりて終点を示す!時枝さん行こう!」
「はい!」
先導する結城君の立ち上げる橋は斜めに伸び、ゲート中央を目指すなら結構な高さになるだろう。橋の幅は2m程度で支柱が幾つも乱雑に伸びている。これなら何本か折れても大丈夫だと思うがわざわざ盾にするまでもない。邪魔なサングラスを収納し橋が出来る速度に合わせながら、若干先行するように駆け出し手近な砲撃型の腕をバリア毎切り飛ばし、L字の様に斬り裂き出たクリスタルを回収。
「まずは1つ!」
声を上げモンスターの注意を引きつつ、更に跳ねる様に走り次の砲撃型へ。頭から触手が伸びビームも砲撃ではなくミニガンの様に乱射してくるのを鞭の様にしならせていなし、巻き付けて力いっぱい引っ張りつつそのモンスターを他の砲撃型の射線軸に入れて同士討ちさせ、更に糸を伸ばし撃ってきたモンスターを串刺しにした後横薙ぎに振り切り始末する。
「2つ、3つ!」
「大丈夫ですかーー!トロンプルイユ落としだします!」
「大丈夫ー!適当に落としてー!」
声を返すと頭上にキューブやら凸やらLが描かれて完了したものから降ってくる。これ自体にほぼダメージはない。ただの目眩ましだが触れもすれば乗る事も出来る。頭の中で例のBGMが流れ出すが多分くっつけても消えないので、適当に足場や遮蔽物として利用するが・・・。
「ほい4つ!」
マリオ気分でブロックに飛び乗り次のブロックに飛び移ろうかとした時に下から三つ目が飛び出してきた。残念な事に俺はマリオではない。そのままサッカーボールキックを頭に決めてゴールと言うか頭爆散。持つべき物は辰樹の靴である。最近更に腕が上がってゲート産の素材で靴を作るものだから、刻印にしても強度にしても相当強化されている。
「うおぉぉぉ・・・、僕今めっちゃ頭使ってる!距離と柱ざっくり計算してイメージしたけど頭痛い!」
「工藤君これ飲んで!」
「ありがとう時枝さん!」
見えない所にアレだけ乱雑に柱を建てれば頭痛の1つも起こるだろう。魔術師特有の症状らしいが、脳を酷使しすぎて炎症が起こるらしい。慣れれば慣れるほど脳が鍛えられて問題なくなるが、結城君はこれだけの橋を作った経験がなかったと見える。実際魔術師の難関はこの頭痛らしく、手っ取り早い修行は回復薬飲みながら頭を使いまくるか、日常的に魔術師を使ってると早期に解決するらしい。
俺自身に経験がないのでなんとも言えないが、宮藤も我慢できる程度の頭痛が最初の頃はあったとか。まぁ、寝れば治るし回復薬飲めばすぐに解決するので問題という問題でもない。逆に頭痛が嫌なら適度に魔術を使ってゆっくり成長すればいいのだが、誰も彼も先を急いでいるのでガブ飲み修行が主流だそうだ。因みに頭痛じゃ死なないので痛くとも魔術は使える。ただ精度は本人依存なので頭痛でイメージが崩れると劣化した魔術になるらしい。
「ほらほら、あと少しだ男を見せろー!」
「うっす!と、言っても回復薬でスッキリしたんでこのままいけますーー!」
残り6体だが先に橋がゲートへ開通する方が早そうだ。結城君達が出るのを確認したら魔法で始末するかな。位置は分かっているので串刺しにすればいいし、煙も化粧箱のお陰で好きな色に変えられる。実際キセルから黒い煙を引っ張り出しているので今回の同行者、時枝さんには俺がファーストだとバレてはいないだろう。
偶然が重なった同行者だが結城君には新たな出合いとして良かったんじゃないかな?息子と千尋ちゃんが付き合えば仲良しグループだろうと疎外感が生まれる。彼は意外とその辺りに気を使う方なのだが、家が斜向かいにある関係上、距離を取る事もできないし気を使いすぎてもギクシャクしだす。まぁ俺には幼馴染がいないので、その辺りは本での受け売りでしかないのだが・・・。
そんな事を考えている内に更に2体ほど斬り伏せ、橋はゲートまで到達した。そう言えば忠告をしなければならないんだったな。俺も空を飛んで退出ゲートをくぐった後、宙に放り出された経験がある。高さ的に死ぬ事はないだろうが、ここまで無傷できて最後の最後に落下ダメージとか締まらない。
「2人ともー!その高さで退出すればその高さの位置に出るぞーー!!結城君、着地頑張れーー!!!」
「ちょ!あー!時枝さん手を繋ぐのと抱き付くのどっちがいい!?」
「安全な方で!」
「なら抱き着いて!抱き締めるから!」
2人が抱き合ったまま退出ゲートにダイブしたのを確認し、残ったモンスターはさっさと魔法で倒しクリスタルを回収して退出ゲートへ向かう。魔法はいいけど近接系の護身術とか望田に習おうかな?キセルは伸びて喧嘩キセルとしても使えるし、長さ的には杖術でいいだろう。まぁ、最初に貰ったのもそんな感じの物だし取り敢えず無手の時の護身術程度に出来ればいいかな?
そんな事を考えつつキセルを収納してサングラスをつけて外へ。辺りを見回すと土の柱が建っておりその上には結城君と時枝さんの姿が見える。幸いというか、人の少ない所に出たのか足場は間に合ったようだが、周囲から注目されて恥ずかしそうにしている。ただ、足場は2人で抱き合ってギリギリなので下に降りるまではそのまま抱き合う形となる。
「お疲れ様〜、2人共無事だった?」
「時枝さんの羞恥心と僕の理性以外は無事ですよ。」
「り、理性って私なんか可愛くもないし、意識される程の者ではないと思うのです。」
「いやいや、時枝ちゃんは可愛い。僕が保証するよ。」
高いコミュ力の一撃は時枝嬢にクリティカル。恥ずかしいのか頬が真っ赤である。まぁ、抱き合ったまま降りるまで結構な人に注目されてたから仕方ないか。同じ高校の人がいたら春休み明けに冷やかされるかも。
「ナンパするのは後にして戦利品を分配しようか。私は金貨いらないからクリスタル5個でいいよ。」
「僕はかまいませんよ。時枝さんは?」
「私も大丈夫です。もっと実力があったら公平な分配とか、皆で一丸となって目標達成できるんですけどね。」
「まぁ、世の中は基本的に不平等だから仕方ないよ。じゃあ残りはこれね。用事があるから先に行くよ。」
モンスター倒した分のクリスタルと多少色を付けた金貨を渡し、スマホを出して妻に連絡を取りながら歩く。集合場所はどうしようかな?時間的にはもう昼を済ませていてもおかしくない時間だが、ショッピングするなら駅でもいいな。持っている間に軽く昼食を取ればショッピングの時間にも回せるし、食べてないなら話し合ってなに食べるか決めてもいい。
「もしもし莉菜?今ゲート出たけど昼は食べた?」
「お疲れ様ー、まだ食べてないわよ?思った以上に資料まとめるのに時間取っちゃって電話来るまでお昼回ったの気づかなかっわ。」
「了解了解、なにか食べたいものある?」
「それなら・・・。」
ーside リーー
「ツカサさん行っちゃったし時枝さんはこの後どうする?」
「換金所とか教えてもらえると嬉しいかな?ほら、クリスタルも金貨も換金したりしないと勿体ないし。」
「OK〜、次いでにいい時間だしなにか食べる?予定があるなら解散でもいいけど。」
「こっちの来たばっかりだしオススメのお店とか、普段どこで遊んでるとか教えてくださいジモッティーセンパイ。」
「ならとりあえずここを離れようか、付いて来て。」
当初不安視していた出会いやファーストへの警戒は現時点で1段階下げていいだろう。誰が背中を押していたか知らないが、私達と同じ様に稼げている事を祈る。対象との距離感については抱きつかれた際に積極的に胸等を押し当て、それなりに気のあるアピールを行った。余り盛っていなかったが大丈夫だっただろうか?




