238話 伸びるよ!
大掃除の為本日まで短いです
良いお年を
さてと不明な同行者が増えたわけだがどうしたものかな?一期一会だろうが騒がれるのは本意ではない。幸い声を聞かれても特定されていないので剣士と言った以上剣士として戦おう。まぁ、元より結城君メインで俺は一歩引いたところからフォローに回るつもりだったので方針としては問題はない。
方針としては問題ないが、ある問題としては俺が剣士としてはズブの素人である事。階層的にはそれでもどうにかなるのでいいのだが、前提条件として身体強化を使い雄二を真似する事だろうか?自衛隊でやるのは銃剣道なので突きはするが斬らないし、警備員として施設警備2級を取るのにやるのは警戒杖術。だから、出土品という言葉を持ち出して変わった剣士とした。
運がいいのは化粧箱を発見していた事だろうか?これのお陰でキセルに纏う煙を黒く偽装でき糸を作る要領で束ねて棒状にも出来る。そんな剣でモンスターが切れるのかって?俺も首にレーザーを受けて斬首されかけたんだ。レーザーでなくとも元工場警備員として極細ワイヤーによる切断事故は知っている。なので、わざわざ細い剣を作って糸鋸の様に巻き付けて切断するスタイルを選んだのだし。
ただ大見栄を切ったので観戦スタイルから前衛スタイルにでも移行しなければバレるだろうし、結城君は中で職を聞けばいいと思い、性格的にも記者やら槍師やらだと勝手に思っていた。別に魔術師が距離を取って戦うスタイルとは限らないし、最初の5階層で言えば壁や天井がある分、イメージがあればオールレンジ攻撃も出来る。ん〜、適当に2〜3体斬って練習させる方向に移行すればいいかな?
時枝と名乗った少女は記憶を紐解いてもこれと言って該当するものはない。少女でソロで潜るというのは危険だが、海道と言う実例がある以上、余り下手にプライベートを詮索しない方がいいだろう。この場だけで言えば互いに初対面で、こちらに引っ越してきたばかりで友人がおらず1人で潜るのも仕方ないとは言える。
職としてもサバイバーなら単独の方が楽だろうし逆に大人数でいると、どうしてもサポート役に回されてやりたい事がやり辛くなる。海道もソロスタイルになる前は撤退ナビゲート要員にされ、1人なら回収出来たはずの箱を幾つも見逃してきたと言う。まぁ、見た目は大人しそうだが金銭は多めに欲しいと考えたのか、或いは引っ込み思案で余り人と関わりたくないのか。
人間嫌いの人ほどゲートに惹かれると言う記事も読んだ事があるし、自己のやりたい事をなんの制約や、誰かを気にせずにやりたいと言うならソロ専も分からないではない。人は2度死ぬ。肉体的に死んでいき、2度目は忘れ去られ風化して死んでいく。やりたい事だけやって死に、風化した人を残された人はどうやって思い出せばいいのだろう?いや、人の生き方に強制など出来ないのでそれを考えるのは本人か。
(そのぉ・・・、信じていいんですか?)
(いいよ?ただ、全力でどうこうするつもりはないから適度に援護よろしく。)
膝を屈めて結城君が耳打ちしてくるのでこそばゆい。薄暗い中でサングラスをしているが、外す気もないので変に思われた時の言い訳でも考えておこうかな。4階層から始めて5階層で退出すれば即席パーティーでも昼か昼過ぎ辺りには出られるだろう。そう思い2人を背に歩き出す。
「そう言えば結城君か時枝さんは索敵って出来る?」
「モチのロンです。モンスターは振動、箱は動かない空白。範囲はそこまでですけど曲がり角の先くらいなら分かりますよ。」
「私は撤退とか囮は出来ますけど索敵は・・・。隠密すれば歩いて行って目で見て来る事は出来ます。」
「なら結城君索敵お願い。時枝さんは撤退ルート確保で私が前衛を務めよう。あっ、結城君は発見して倒せそうなら先に倒して。」
「流石に英雄達ほど上手くは無いですけど、やってみます!」
「一般人には一般人の領分があるけど、決して出来ないことじゃないさ。私だって大見栄切ったけどそんなに奥に行ってないしね。さぁ2人共行こうか。」
久々の石造りダンジョンは見た目も相まってヒンヤリしているように感じる。思えばここから始まったんだよなぁ〜。三つ目に追いかけ回されて交渉してこの姿になって。感慨深い気もするが交渉内容を思い返しても、あれ以上は何も引き出せなかったように思うし、運用としては正解だったのだと思う。まぁ、仮に失敗だと言われても残念な事にそれは外野の意見。今更書き換えられない。
「えっと、工藤くんはこの辺りに住んでるんですか?」
「なになに?僕に興味があるの?」
「興味というか大分のゲートってここしか知らないから他もあるのかなって。入ってお金稼ぐにしても近くに家がないと不便じゃないですか。それと、さっきは上に乗っちゃってすいません。」
「そう言う事。乗ったのはいいよ役得だしね。家はここからちょっと遠いかな?車だと大体30〜50分くらい。何時もはバスとか電車だけど今日はツカサさんに送ってもらったんだ。」
「そうなんですか、私もそれくらいの所に住んでるんで、もしかしたら案外家が近いのかもしれませんね。」
「かもなぁ。と、言ってもここ駅近だから別府の方からも来れるから市内とは限らないんじゃない?最近まで家の周りって畑しかなかったし。」
「結構辺鄙な所に住んでるんですね。」
「そうそう、周りに幼馴染の家くらいしかなくてさぁ。今は高級住宅地になっちゃって少し落ち着かないかな?まぁ、色々あるんじゃない?」
「新しい住宅地なら本当に近いかもですね。私もお父さんの仕事の関係で色々回った後に次が最後だからいいとこ住むー!って言い出して新しい住宅地に入ったんで。そう言えば、ツカサさんって、工藤くんの・・・、お姉さんとか?」
「いや?私は幼馴染の家の人。今回はたまたま結城君を見つけて付き添ったんだよ。流石に知り合いが潜るのに知らない人とパーティー組んだりソロだったら危ないと思ったからね。見た感じ高校生くらい?」
「はい、春休み明け3年生になって日岡高って所に転入予定です。」
「日岡ですと?おいおい、僕の運命が今動き出した!」
「運命?」
「僕もそこの3年になるのです!転向して知らない事があったら僕を頼るといいよ。これでも学校では割と有名人だからね。」
「はぇ〜、私地味であんまり目立たないから憧れるなぁ〜。でも、なんで有名なんですか、部活で賞を取ったとか?」
「いや・・・、単純に顔が広いからかな?いろんなグループ顔出してゲートに潜ったり遊んで回ったりとか。」
チラリと結城君がこちらを見たがNGとしておく。バラすのは何時でもバラせるが隠すのは難しい。声で気付かれるかもと思ったが、どうやら気付かれていないので大丈夫だろう。芸能人もそこにいると思って探さないと案外見つからないし。しかし、結城君もコミュ力高いな。まぁ、必要だからと言う点もあるが割と打ち解けてるし、サラリとおなじ高校で転校生と知り合いポジションをゲットしている。
そんな和やかな感じで歩いているが、やはりと言うか下に比べてモンスターは少い。割と歩いたような気がするがあった箱を2個開けたくらい。中身は2人に譲り時計を見ながら先を急ぐ。昼間では後1時間程度。これは出るのが遅くなるかもしれない。同行者が増えないなら箱メインでモンスターを数匹倒して出ようと思っていたのだが、剣士を名乗った以上下手に正解ばかり引くわけにもいかない。
「ツカサさん次の曲がり角に何かいます!」
「了解、さっさと斬り伏せよう。」
強化した足は地を蹴り飛ぶ様に進む。速度は多分剣士に負けてはいない。愚直に正面から斬る必要性もないので地を蹴り壁を蹴り、最後に天井を蹴って足りないウエイトをカバーして両断し周囲を見る。斬り裂いたのは砲撃型で先を見ると走ってくる三つ目が見える。
「13kmや〜。」
「えっ!?それ伸びるんですか?」
「そりゃあ出土品だからね。」
「まっ、待って下さい・・・、早い・・・。」
そもそも魔法剣なので伸ばそうと思えば好きなだけ伸ばせるし、曲げようと思えば鞭の様に靭やかに巻き付ける事も出来る。相手は吸血鬼ではないが闇の魔物にでも見立てれればベルモント一族気分も味わえる。立体機動で動いてズレたサングラスを掛け直し後ろから追いかけて来る2人を見るが、結城君は鍛えているのかそれとも強化を使っているのか割と早く、時枝さんは遅くもなく早くもないと言った速度で走ってくる。ただ若干息が上がっているようなので、戦闘そのモノは避ける傾向にあったのかもしれない。
「終わったから時枝さんはゆっくりでいいよ。体力ないと後から困るから走ったりして体力をつけるといい。」




