235話 家族団らん 挿絵あり
久々の我が家は前より若干温かい気がする。玄関で足元に纏わりついてきたにゃん太を胸に抱き居間へ入ると、ポテチとコーラがテーブルに置いてあるので息子が自堕落に過ごしていたのが垣間見える。それは俺にもやらせろよ。ポテチはピザポテトを要求する。コーラはゼロコーラでいい。そんな事を、思いつつ今日も動き回ったので風呂に入りたい。
「那由多お風呂沸かしてる?」
「帰る時間がもう少し遅くなると思って洗っただけ。入るなら沸かそうか?ボタン押すだけだけど。と、言うか父さん!魔法ってあんなに大っぴらに使っていいのか?」
「息子よ・・・、俺を見ろ。それこそ頭の天辺からつま先まで。ちょっといやらしさを込めて舐め回すまでは許そう。」
息子に身長を抜かされる事はなかった。いや、数センチは息子が高かったか?まぁ、目線の高さは同じだったのだが今は見上げる立場。息子の成長は感じないがこうして見上げていると改まって身長を捧げすぎたと思ってしまう。昔なら腰が曲がって年食えば縮んでいくものだと思っていたが、こうして一気に縮むとねぇ・・・。そんな息子がボタンを押して風呂を沸かす。妻は夕食の準備をするかと思ったら、そのまま俺達と居間に座ったので今晩は店屋物かな?
「どうした?顔が赤いが風邪か?」
「父さん分かってて言ってるよな?」
「お前・・・、千尋ちゃんというものがありながら浮気する気か!?」
「いや!息子が倒錯的な性癖に目覚めるの!?覚醒してもいいことないわよ!?」
「父さんも母さんも勘弁してくれ・・・。父さんも元々ツッコミの方だっただろう?姉ちゃんもいないんだから俺だけじゃ対処しきれない。で、見回したけど何?」
「いやぁ~、この格好というか身体だと剪定とか大変だから魔法使ってもいいだろう?ほら、腕とかこんなに細い。因みに煙は敷地内から出てないから大丈夫だ。」
袖を捲って腕を見せるがプニプニで細い。法律的には公の場での武器らしい武器やら人を害する能力を使ってはいけないと明記された。但書として正当防衛は認められているし、過剰防衛も極力控えるようにとある。何故控えるに留まったかと言えば誰が何を出来るか分からないから。スィーパーは16歳からなろうと思えば成れるのだが、その成る成らないが問題で同い年でもスィーパーか否かで暴力の度合いが違う。一般人に拳銃を向けて発砲すれば過剰防衛もいい所だが、スィーパーならその程度余裕で回避するし下手したら弾丸を摘み取る。
だって、スィーパーが相手にしてるモンスターってビーム撃ってくるんだぜ・・・。なので、スィーパーか否か不明な状態で害して来た相手には割とボコボコにしても許されるし、逆を言えば一発入れた時点でスィーパーなら一般人か否かある程度わかる。懐かしい言葉でおやじ狩りなんてのもあったが、今は半グレやらヤンキーの方がおっさんに気を使うような事の方が多いらしい。テレビで特集していたが16歳未満の主張として『いや、おっさんだと思うから舐めてかかれるけど、スィーパーだと思ったらコッチがヤバいじゃん・・・。』だそうだ。実際開通当初に舐めておっさんからカツアゲしようとしたお馬鹿さん達は逆に狩られたそうな・・・。
ただ、この事件から色々とあったらしく大人らしい大人なら問題ないのだが、悪い大人はどんどん警察やら自衛隊が取っ捕まえたそうだ。千代田曰く国内の暴力団はさっさと暴対法にスィーパーに成る事を禁ずると明記され、ゲートに入ろうとした時点で違反行為と見なし逮捕したとか。まぁ、近くの県は修羅の国だし民家から手榴弾やら拳銃が出て来てもおかしくないので早めの対応は嬉しい。
「さよか。まぁ、お帰り父さん。それで?何時までこっちにいるんだ?俺が春休みに入ったから帰ってきたわけでもないんだろ?」
「仕事で帰ってきたが・・・、どこか連れて行ってほしいのか?春休みだし少し早いが桜を見に行くとか温泉入るとか。あぁ、久々にアヒルレースを見に行くのもいいな。」
「あのおじさん元気かしらねぇ・・・。独特の口調で喋るからついつい聞いて賭けたくなっちゃうのよね。それで那由多が小さい頃姉ちゃんは当てたのに僕は当たってない!って言って他駄々こねて。」
「あったなぁ〜、それで観覧車に乗りたいって言うから乗ったら高くて怖くなって大泣きして。」
実際あの観覧車は恐い。何が恐いって観覧車が回りながら天秤の様になった腕も回る。二重式観覧車と言って珍しいらしいが、そもそも遊園地が小高い山上にあるので海まで見渡せた高所恐怖症の人にはちとハードルが高い。各言う俺も高所恐怖症なので初めて乗った時は顔が引きつっていると妻から笑われた・・・。まぁ、降りたらそっと抱き締めてくれたので嬉しかったが・・・、よくよく考えると立場が逆なのでは?まぁ、今は高所恐怖症も克服できた。
「小さい時の話はいいよ・・・。それよかものは相談なんだけどギルドって入れる?」
「ん?興味あるのか?まぁ、アレだけ目立てば気にするなと言う方が無理か。でも、今入っても中は伽藍の洞だぞ?ゲートもまだ格納してないから面白いモノはないと思うが?」
正確には備蓄品があるので倉庫と言った方が正しいかな。邪魔になれば指輪に収納できるし、有事になれば物で埋めればいいのでゲームの様に補給拠点を守れ!は発動しないし、ギルド本部が壊れても替えは効く。まぁ、機材の手配は大変なのだがフレーム積み上げ工法で積み木のように建っているのでその気になれば巨大ジェンガも楽しめる。これも当初から変わった点で最初は頑丈な砦だったが、米国スタンピードから考え直されて今では地上部分は壊れても良いという考えになった。
まぁ、うちの庁舎はジェンガではなく頑丈路線のまま建築が終了したので壊れると次の庁舎がそうなる予定だ。しかし息子は何かギルドでしたかったのだろう。息子もペーパーとは言えスィーパーなので早めにライセンス取りたかったとか?確かに当日ライセンスを取りに来ると混雑するので気持ちは分からなくもない。
「R・U・Rだっけ、アレを使ってみたかったんだよ。ゲートに入れない分、体験してイメージはしたいかなって。姉ちゃんも中位だし母さんは救護長、父さんに至っては世界のアイドルだろ?」
「そこは英雄とかにしときなさい。」
「そうそう、世界に羽ばたいた夫はその愛らしさでみんな巻き込んで邁進してるんだからアイドルじゃなくて姫様よ!」
「莉菜も違うぞ〜。」
「そうは言っても水着写真やらアニメ化やらやってるのは戦うアイドルだろ?」
「あのな、やりたくてやってるんじゃないの。仕方なくやってるの。お前も俺の立場なら溜息しか出らんぞ?」
仕事を楽しんではいけない事はない。ただ、楽しまなければならない事もない。まぁ、目標は今も昔も家族を守る事なので、ソレが出来る力があるのは喜ぼう。しかし、息子がR・U・Rを使いたいか・・・。ゲーム感覚で遊ぶくらいならいいが実戦と勘違いされても困る。限りなくリアルに近いがR・U・Rはコンテニュー出来るけど、実戦にそれはない。
「大丈夫、俺も父さんの子供と言う事で学校でため息を吐く機会が増えた・・・。この前はフランス美女がパン咥えて曲がり角からタックルしてきたよ・・・。」
「良かったな咥えてたフランスパンが刺さらなくて。」
「相手の方は大丈夫だった?尻餅とかついて怪我はなかった?」
「恒例行事だよ・・・。ウチ以外のクラスにも定期的に海外から転校生が来ては帰っていく・・・。彼女が、千尋がいるって言ってるんだけどなぁ。」
「ハニトラにしても粘りが足りんな。何かのパフォーマンスか?」
「さぁ?知らね。考えれば考えるほど頭がこんがらがるから、考えるのを止めてそんなものなんだと思うようになった。ただ、最近学校の施設がどんどん建て替わってるから寄付金でもあるんじゃない?」
息子の高校は公立高校だが1ヶ月単位で寄付金貰って留学生受け入れてるとかだったらいい商売だな。前も謎の転校生が振ったら謎のまま転校したとかも言っていたし。まぁ、息子をダシに儲けていたとしても継続性は低いので息子が嫌でなければ特に何もしない。まぁ、毎回美少女に絡まれる息子に千尋ちゃんはやきもきしてそうだが、息子の態度を見るに他に靡く様子はなさそうだ。
「俺の話はいいよ、父さんはどうなのさ?」
「俺?これと言ってなにもないな。日々真面目に仕事して終わったら飯食ってお酒飲むとかするくらい。」
「いやいや、土産話を聞かせてよ。」
そう息子が言うので話し出す。向こうで出会った人や見た風景、米国に行った話や指導した話。改めて話し出すと言葉は途切れずそこまで饒舌な方ではないが思い出が浮かぶ。それだけ濃厚な時を過ごしたと言う事だろう。話の途中で妻が台所に立とうとしたので今晩は店屋物を頼もうといい、適当にネットで検索して頼む。前はデリピザくらいしかなかったが、住宅地になったおかげか店も増えたのでちょいちょい目移りしてしまう。
元々何々の新作と言われると味を確かめたくなる性分なので、初見の店から何品か頼み来るまでの間に妻と久々に風呂に入る。ホテルでも思ったが、前は俺が後ろから抱き締める形だったのが逆になったのでいまいち慣れない。まぁ、それでも足は伸ばせるのでいいのだが、相変わらず洗い方が雑だと言われて洗われる。もしかして妻の理想とする洗い方って、莉菜が俺を洗う事なのでは・・・?
「なぁ・・・、本気でコレを俺が着るのか?」
「本気と書いてマジよ。前の服は全部リサイクルに出しちゃったし買い置きはそれしかないの♪」
「まぁどう考えても前の服は大きすぎるしな。いや、向こうで着ていた寝間着があったはず。」
「あら、1年近く離れて暮らしてたのに私が選んだ服は着れないの?遥の服は着てテレビにも出てたのに?」
「いや、そう言う訳じゃぁ・・・。子供っぽすぎないかこれ。」
「そんな事ないわよ?司の事を考えて、何が似合うか厳選して、ネットの海をバタフライで泳ぎ回った末に選んだんだもの。似合わない訳ないし私のやる気は間違いなく上がるわよ?」
なんのやる気かは聞かない。そこは夫婦の暗黙の了解というやつである。妻以外とする気はないが、たまに悶々とした気分になる事もあるので同性になっても躊躇なく誘ってくれる所は素直に嬉しい。俺の方からも誘わないと変に気遣い出しそうなので、正式に帰ったら折を見て誘うとしよう。
「しかし着ぐるみパジャマはなぁ・・・。それにこの人形なに?」
「湯たんぽよ?お風呂上がりだけど女の子は身体冷やさない方がいいからね。ほらさっさと風邪引く前に着て。どうせ司は風邪なんか引かないって言うでしょうけど、何を置いても司は私の夫で子供達のお父さんで人間なのよ?」
「いい話風に言ってるが、コレを着たら父の威厳が消し飛ぶんだが!?」
「大丈夫。かわいいは正義!リピートアフターミー!はい!」
「「かわいいは正義。」」
妻に洗脳されたような気もするが、もう一人意見を求める相手もいる。パジャマを着て湯たんぽを持ちぬくぬくしながら居間に行くと、ちょうどデリバリーが届いたのが息子が料理を運んでいた。
「那由多、この格好に父の威厳はあるか?」
「威厳はないけどかわいいんじゃないか?母さんも言ってたけど正義なんだろ。似合ってるよ。」
「ありがとう?で、いいのか迷うがどうせ座ればあぐらだし下着が見えないから良しとしよう。」




