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街中ダンジョン  作者: フィノ


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234話 動き出す人 挿絵あり

「雪城さんが言うなら謹んでお受けしようかしら。司もサポートお願いね?」


「ああ、存分にやってくれ。特に稼働しだしたらライセンスの話もあるし来るのが既存のスィーパーだけとは限らない。就職に有利だからって16歳からゲートに入る子達もいるだろう。きついと思うけどお願いするよ。」


「分かったわ。若い子達の為にも気合いれないとね!ところで何時から正式に稼働するの?」


「予定では4月中旬としています。4月に入り次第準備を行いそこで研修等を行って連携を深めてもらう手筈ですね。」


「いよいよ司が帰ってくるのね!そう言えば、今回は何日くらいいるの?」


「予定では後2〜3日はいるかな。実際東京の方でやる仕事は片付いてるからこのままこっちに残ってもいいんだけど・・・。」


 チラリと千代田を見る。研修生の指導は宮藤がやるし雄二達の面倒は千代田が見る。事務的なモノは元々俺の方に回ってくる事は少なかったので急を要するものはない。講習会メンバーも現段階だと自分の任地の市長やら、市議会議員やらと連携を深めるべく飛び回っているので、余程困った事がない限りはこちらに話は来ない。そもそも研修生含めて誰がどこに配置されるかは分かっているので、近場の本部長と連携を取れる様話し合っている。まぁ、ここが稼働しだして残りは年内に全て稼働できればいいと言う方針なので、逆を言えばここで問題があればフィードバックをして他のギルドの稼働が遅れる事は予測できる。


 その為に施設的な問題を潰そうとこうして視察をしている訳だが・・・。千代田の持つ図面と本物のギルドに相違点はないし、金庫も頑丈そうなので簡単には泥棒も入れないだろう。あとの問題は力尽くでの正面突破だが、それはもはやテロ活動なので察知云々よりも応援体制の話になる。まぁ、スィーパーが集まってる所に銃を持って押し入った所で返り討ちにされる未来以外想定出来ない。


 武力行使以外となるとスパイだが、そもそも金庫は本部長くらいしか扱わないので解除方法を漏らさない限りは多分大丈夫。男女に言える事だがハニトラが一番警戒しないといけないものだよなぁ・・・。別に肉体関係だけではなく心情に訴えると言う方法も相手を籠絡すると言う意味では立派なハニトラだし。


「クロエさんの健康診断や怪我した時の治療は、私が主治医となってこれから行うという考えでよろしいか?」


「あ〜、雪城さんには悪いですが必要ありません。」


「しかし、ゲートで活動する関係上医者としてはそのあたりも配慮しないといけない事柄です。」


「なら、妻にしてもらいましょう。それで納得しないなら主治医に要請します。」


「毎回東京に行くのは手間ではないですか?それに莉菜さんは医者ではない。」


 いやに食い下がるな。まぁ、医者としては普通の感性なのかもしれないが、ここでYesを出すつもりはない。中身はないが叩けば埃の出る身体でもあるし、直近でクローン騒動とかもあったしな。気を使っているとしてもその気遣いで相手を疑う羽目になるのは避けたい。


「スィーパーに対する医療行為は治癒師には認められています。それに残念な事ですが医者が患者を気遣うように、患者も医者を気遣います。私に対する健康診断等は主治医か妻以外がすると色々とややこしくなるので許可できません。」


「・・・、分かった。食事量を増やす事を進める。外見が美しいのはいいが医者の目から見ると少し痩せ過ぎだ。」


「それについては十分過ぎるほど食べてますよ。まぁ、増やしていいなら増やしましょう。ただ、食べても太りませんよ?主治医から軽度の脂肪萎縮症とも言われてますし。」


 サンキュー高槻、尤もらしい言い訳を前に聞いておいて良かった。話を出すと医者の方も納得したようで引き下がったので老婆心だと思いたい。しっかしある事ない事疑い出すときりがないしどうにかならないものかな・・・。いっその事嘘発見器でも買ってみようかな?


 そんな事を考えているうちに話し合いは終了し、救護所内の視察もどうにか終わった・・・。明日から春休みと言う事もあり学生治癒師が終業式後にバイト感覚で来たのはいいが、それに見付かって連れ去られ何やら髪飾りやお菓子なんかをいっぱい貰い代わりにサインを大量に書く羽目に・・・。今時というか、昔から女子高生のバイタリティーは凄いと思う。


  挿絵(By みてみん)


「何かアクセサリーは必要ですか?」


「いりませんよ。一体何用ですか、ソレ。」


「そうそう、うちの旦那は可愛いんだから何も付けなくても大丈夫よね〜。」


 妻が後ろから抱きつきながら話すがそういう意味ではない。単純に考えても当面の間必要になる事はないだろうし、必要なら必要で自分で買うか加工を依頼する。何せ手元にはマイクラダイヤもルビーもサファイアも・・・、おおよそ宝石や貴金属と名のつくものは手持ちにあるんだし。


「式典等に参加する時ネックレスやイヤリングがないのも不便でしょう?」


「当面の間そう言ったモノに出席する予定はないですね。心当たりがあるとすれば赤峰夫妻の結婚式や息子の卒業式くらいですよ。特にギルド稼働式典とかする予定ないですし。」


 政府の要人集めて式典とかしたくない。寧ろ情報出回ってチケット売り切れてるし。それならテレビCMでも流してもらってパチンコ店みたいにいついつオープンとかでいい。その方がギルドとしてもスィーパーとしてもかゆい所に手が届いてちょうどいい。


「急に必要になった時はご一報下さい。取り揃えましょう。さてと、視察は終了ですが何か気付いた点はありますか?」


「私からはないですね。後は稼働後にどれだけ人を捌けるかとR・U・Rの搬入日程くらいでしょうか?あれをゲーセンに置くとか言ってましたけど大丈夫そうなんですか?」


「鋳物師にデバイスの方は依頼して複製をかなり作ったようです。後はサーバーの問題ですが、そちらも文部科学省が協力して進めているので大丈夫でしょう。」


「分かりました、私達はこれから帰りますけど千代田さんはどうします?」


「私は警察署の方へ寄ってから宿泊するホテルへ向かいます。何かあれば電話してください。」


 千代田と別れて妻が乗ってきた車に乗り込み家路を急ぐ。周辺の道路が大規模改修されて広くなり渋滞もないのでスムーズに帰れる。スタンピードの際はこの道路を使って大量に人がやってくるのかな?そう言えば、人と重なり合わない事を前提に4km圏内にモンスターが転送されるとして、みっちり人が詰まっていたらモンスターが空中に放り出されるのだろうか?分からないがスタンピード参加券とかいるのだろうか?いや、わざわざ命を投げ捨てなくてもねぇ・・・。世紀末な白髪の人は命は投げ捨てるものと叫びそうではあるが、世紀末は当分先なので考慮しないものとする。寧ろ、ケンシロウが這いつくばれるなら中に避難できたのでは・・・?


「どう?おニューな我が家は?」


「びっくりするぐらい何も変わってないな。」


 防音工事をしたというものの外見的には何も変わっていない、強いて言うなら、庭の植木が伸びてて見苦しいとか?畑の方は俺がいなかったので息子も耕運機を入れなかったのか何も栽培されていない。こっちに帰ったら・・・。いや、魔法でちゃっちゃと済ましてしまおう。


「やっぱりそう思うわよね?でも凄いのよ?中でカラオケしても一切音漏れないし、2階の寝室で踊ったりドリブルしたり四股踏んでも聞こえないの。」


 相変わらず妻はアグレッシブなようだ。エアードリブルをしてみせるが、わざわざ2階でそんな事して音が漏れない事を確かめる意味ってある?いや、最近夜の妻は獣なのでそれを確かめた?ま、まぁ・・・、好きなのでいいのだが、逆に息子が聞こえないからと呼びにでも来たら・・・。鍵はしっかりかけておこう。うん。


「入る前に植木の剪定と草むしりを済ませるよ。少し伸びてるしね。」


「もうすぐ暗くなるし明日にしたら?梯子とかハサミ出すの面倒だし危なくない?」


「これでも魔法使いだからね。チョチョイのチョイとやってみせよう。」


 キセルを取り出しプカリ。煙で木が切れるのかって?チェーンソーを使えば分かると思うが切る時の摩擦で煙が出るしチェーンにオイルが回ってないと木の切断面が焦げる。なので、その応用で小さなチェーンソーで枝を切るイメージをすれば切れる。草は串刺しにでもすれば下から浮かび上がる。


「なんと言う事でしょう、匠の技により今までは最低半日かかっていた作業がものの数分・・・。」


「火事だ!近いぞって、父さんに母さん!?」


「那由多、匠のナレーションしてるんだから邪魔しないの!」


「いや、居間でくつろいでて急に煙が漂いだしたら火事だと思うだろ!?」


「かなり薄くしてたのによく分かったな。周りの家も畑したら草を焼いてただろ?」


「前はな。今はもう無理。来る時見ただろ?住宅地になって草焼くの禁止だよ。畑も耕運機入れたら土埃が舞いそうだからって入れてない。」


 どうやら息子はサボって何もしなかった訳ではなく、何も出来なかったが正解か。農地だから何かを栽培しなきゃいけないが、確かにうちに隣接する様に家が建っているので農業には不向きだ。早めに農地から変更して庭にでもするかな。或いはリンゴかミカンでも植えて果樹園風にするとか?


「要点は分かった。とりあえず草や枝を集めてゲートにでも放り込むとしよう。」


「父さん手伝いいる?」


「いや、すぐ終わる。夜は冷えるから先入ってていいぞ?」


 駐車場にさっさと枝や草を集めて指輪に収納。通りがかった娘に2度見されたが多分大丈夫。どの道地元に帰って暮らしだせば嫌でもこの家は特定される。防犯だけはしっかりとしないとな・・・。



ーside リーー



 対象の家付近を散策中、思いも寄らない出会いがあった。正確には目撃しただけだが、あの後ろ姿はクロエで間違いないだろう。薄い煙があり何かしらの事案なら対象と親交を持てると勇んだが、対象より先に本丸を見つけるとは・・・。チラリと視認されただけなので大事になるとは考えられない。得た情報から考えても本日から長期休暇なのでおかしな点はないと推測出来る。


 秘密裏に遠洋から水中スクーターで乗り付け、その証拠となる物は一式指輪に収納した後、ゲートに投げ込んで処分した。現地で父親役となるテイと合流し役所で正式に時枝 加奈子として登録したのが約半月程前。その後各地を転々としながら知見を広め、対象と話が合うように下準備を行いここに来た。今の私は外見だけなら地味な女子高生だろう。


  挿絵(By みてみん)


 年齢的にはその時代は疾うの昔に終えているので、今更若者の中に入るのには多大な労力がいる。ツケマ付けるのがそんなに面白いのだろうか?試しに付けてみたが私には合わない。対象、工藤 結城の家から徒歩で20分程度の所をベースと定めテイと入居をはたし、対象との出会いを早められるならと思い散策していたが、よもや対象よりも先に本丸に出会うとは・・・。話す口実としては使えるが、大っぴらにするにもクロエの住居の情報がどの程度出回っているか分からないので慎重に動くしかない。


 足早に立ち去り離れた位置から双眼鏡で観察したが、魔法の無駄遣いと言っていいのか、何をしていたかと言えば草刈りと木の剪定の様だ。ただ、あの煙はクロエの武器であると推測出来るのでその範囲には入らないよう注意する。私とクロエが出会うのは工藤の紹介に依る所が望ましい。


 確かに近くに住んでいる。事と次第では工藤を飛ばしてクロエと話す事も出来る。ただ、その場合直接の知り合いとなり別の事案が発生した時に私が捜査線上に浮かぶ率が高くなる。時枝 加奈子は日本人として確かに存在している。しかし、まだ不審の目で見られて騙せるほど育ってはいない。テイにしてもそうだ。時枝 九郎としてのバックカバーはある。しかし、そこに娘はいない。私とテイの関係は親子だが埋められない空白は嘘と虚像で塗り固め、偽装したに過ぎない。ありがたかったのは少し前に無戸籍問題があったので出生届け漏れとして処理できた事だろう。


「アレで普通、出来て当然。なら、それが出来ない魔術師達はどうなる?教えを請うべき相手のお前はそれを拒絶しただろう・・・。」


 怒りがない訳ではない。しかし、同時に怒りを向ける相手でない事も分かっている。強いて言うならタイミングが悪かった。私とて祖国が傾くと言う時に横槍を入れられれば頭にくる。しかし、それを隠れ蓑に拒絶し続ける彼女には憤りも覚える。せめて対話の糸口はないのか?或いは、任務の通り観察した先に何かの答えがあるのか?


 別け隔てなく知識をくれるなら、それで構わない。私一人が優れていても仕方ない。周り全体と公平に上を目指せるようになるなら、それが最良。みんなで至り中位としてくれるならスタンピードの脅威も減る。でも、彼女がそれをしないから私はここにいる。


「貴女は独りじゃない、私も私の()もついている。」


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、公平とか純粋に理想的な共産主義に毒されてる口か あるいは自分が一番偉いという中華思想にか まあ誰であれクロエが教えを垂れる義理も対話する義理も無いよね
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