232話 宇宙を見てもいいことは多分無い 挿絵あり
すいません、今日まで短いです
「そこの人どいてー!急患!道開けて!どけーー!!」
到着するなり妻がストレッチャーを押しながら爆走しているのが見える。どこかで事故があったのか、はたまたゲートから出てきたスィーパーが瀕死だったのか。爆走していると言う事はまだ助かる見込みがあるのだろう。普通の病院で走れば怒られるがここは病院ではなくまだボランティア施設なので兎や角言う人はいない。
「お忙しいようですね。」
「まぁ、本来なら暇な方がいい場所が慌ただしいというのは歓迎しませんね。と、言っても私は医者じゃないので暇になるまで外でタバコでも吸っときます。千代田さんも吸います?」
「一本頂きましょう。」
サングラスに帽子で変装しているので多分バレない。白塗りメイクが進化して美白メイクになり、白い髪もずっとされてれば珍しくもなくなる。外の喫煙所は寒いが、それでも前に比べれば喫煙者は増えたように思う。まぁ、高槻の薬が流通しているのでリスク自体はほぼなくなったしな。吸う吸わないは別として再生医療方面もかなり充実し、医療雑誌の発行部数はスィーパーが買うのでかなり増えた。今までは出来なかった臓器の移植も夏目式臓器生成やその方面に長けた医者達が研究しているので、手軽までとは言わないが可能である。
特にゲートの奥まで行けるスィーパーは献体がてらに自身の身体で再生医療を望む人がいるので、かなり生体実験の難易度が下がったとか。まぁ、仕事の為に中に入って医療貢献してまた中に入るというサイクルが出来つつあるということだろう。雑に死にづらくルナ型血液や拒否反応のない臓器が出来ればそうなりだすか。ロボットではないが、パーツ交換して即戦線復帰とかもやるしな・・・。
「人の限界寿命って脳だけに限れば150年くらいありましたよね?」
「肉体を無視すればその程度になりますね。かつては無理でもこれから先はそういった方も増えるでしょう。定年にしろ年金給付にしろ議論の幅は広い。一部の政治家の方はゲートで働かせればいいとも言っています。」
「脳は生きても肉体は老化するので無理でしょうに・・・。いや、健康寿命そのモノが伸びるなら可能なのかな?薬漬けならぬ職漬け医療で、そのうち膝が痛いと言っても軟骨再生するから明日から仕事ね?とか言われそうで嫌ですね。」
「勤労の義務は憲法で提唱されています。働けるなら働いてください。特に貴女は簡単には退職して悠々自適とはいかないんですから。」
「うへ・・・、定年した後は仕事せずに莉菜と旅行ざんまいで美味しいものでも食べてまわろうと思ってたのに・・・。」
「年金程度は出るでしょうがスィーパーに退職金制度は作られていません。まぁ、その歳までスィーパーを続けているなら相当額を稼いでいると想定していますし、兼業でも出費が多いからちょっと稼いでくるとゲートへ入る人も多い。」
「新作ドラマでありましたね、なんかそんなの。『借金するぐらいなゲートへ入る!』って俳優が叫んでるCM見ましたよ。」
「あれは陰ながら政府も協力しているので本当にゲート内でロケしているシーンもあります。」
俳優やスタッフの安全とは?アクション俳優とかならやれない事はないだろうが、カメラ担いでモンスターと戦闘とか考えたくない。そのうち頭のおかしい監督が『あのモンスターの動きが気に食わないから撮り直し!』とか言う指示をするのだろうか?死ななきゃ超大作の予感もあるが、リスクを考えるなら造形師にでもモンスターを作ってもらった方がいいような・・・。
「イメージ戦略するのもいいですが、リスクは相当ですよ?大丈夫なんですかそれ?」
「その為に浦橋君と泰山君、宮藤さんに応援依頼を出しました。護衛任務の実演として承諾していただきましたし、好きなアイドルが来ると喜んでいましたよ。それに俳優にしろスタッフにしろスィーパーなので、簡単には全滅しないでしょう。」
判断基準が死亡とそれ以外に分かれてらっしゃる・・・。まぁ、生きていればどうにか回復は出来るので最終判断はデッド・オア・アライブになるのだろうが生死は問うので生きて帰せ。
「そう言えば高槻医師が医療用ポッドの作成を行うそうです。藤君と斎藤さんを交え回復薬風呂からインスピレーションを得て気密性の高いモノが出来れば実用化出来るだろうと目処を立てたそうです。実際、ゲートの回復薬は揮発性が高いですが、高槻医師の物はそこまで高くないですからね。神志那君と遥さんも後日呼ばれてそうなので一大プロジェクトになるかもしれません。」
「いや、それ絶対宇宙に出ようとしてますよね?無重力でも筋力低下問題とかを全部薬とポッドに任せて惑星間航行とかやろうとしてますよね!?」
千代田よ・・・、何故煙を吐きながら目を背けた!別に駄目な訳では無いが、時期尚早な気もする。神志那のシュミレーションでは星の開拓も可能らしいし高槻もなんだかんだで宇宙に目を向けている。まぁ、ゲートなんてモノを作る宇宙人がいるなら会ってみたいと思うのも仕方ないが、友好的かと問われると中庸としか回答出来ない。ん〜、コードをメジャーに使えるようになればある程度は対話できると思うが・・・。
(賢者、コードって宇宙の共通言語くらいメジャー?)
(いや?扱えるものは少ないよ?あくまで僕達とそれなりに親交のあるモノとか、ある事を知って学ぼうとするモノがいる程度かな?基本的に広いから探して見つけてから干渉する事になる。魔女の本体も今は小さくしてるしね。)
(小さく?なにか不都合が?)
(奉公する者が煩わしいから小さくしたのよ。確かこの星で言えば北海道程度だったかしら?)
(元は知らんが多分小さいんだろうな、それ。)
魔女からすれば北海道は身体を小さくしたと言う判定になるらしい。スケールが大きい話だが無重力だと物体は大きく密度も低く柔らかくなるらしい。逆に超重力だと密度もつまりガチガチで丸くなる。まぁ、そんな変化に一々対応するのが面倒だからこいつらは実体を捨てたのだろう。まぁ、約1名取り置きしているが・・・。
「さぁ?私は仕事をするだけです。ただ、生きている間に月に行けると嬉しいとは思いますが。」
「壮大ですね。私は地球引き篭もりで十分ですよ。」
これ以上巻き込まれるのは勘弁願いたい。ただ、巻き込まれると言うのは対処の出来ない事象なのでいくら願い下げしようとも勝手に事が起こってやってくる。それこそ米国スタンピードがいい例だ。こちらになんの落ち度がなくとも発生したし。なら、変なリスクは負いたくない。妻がどう決断するかは分からないが、少なくとも別れを選ぶならその時までは・・・。
「貴方〜!」
「お疲れ様、さっきの患者さんは大丈夫だった?」
「ええ!さっさと骨繋げて来たよ。交通事故らしいんだけどこう・・・、腕の骨がポキっとね。お腹も痛いって言ってたから心配で急いじゃった。」
前腕の途中から折れたようなジェスチャーをしているが俺達に教えてしまっていいのだろうか?まぁ、守秘義務がある訳でもないのでいいのだろう。しかし、走ってくるなり抱き着かれるのはこそばゆいな。
「しかし、そんなに簡単に繋げられるものなのか?」
「綺麗に折れてたからレントゲン撮って麻酔したら後はね。骨折と欠損は割とあるあるだからもうへっちゃらかな?と、そちらの人は・・・?」
抱き着いていた妻が千代田に気付き聞いてくる。今日は七三ヘアーでメガネを掛けているが、強面は変わらないので警戒しているのだろう。
「こちらは千代田さん。東京でお世話になっててスタンピードの時やギルドの件で仕事するパートナーかな?」
「始めまして。千代田、或いは増田とお呼びください。奥方の話はクロエよりかねがね。」
そう言いながら千代田が名刺を差し出す。そう言えばこうして対面するのは初めてか。裏で色々と手を回してくれるがそれは東京からなので話した事はない。
「ご丁寧にありがとうございます。夫がお世話になっているようで、この人変な所で意地っ張りで頑固だからご迷惑おかけしてませんか?」
「いえいえ、助けていただいています。」
「俺はそんなに我儘でも頑固でもないよ。そう言えば髪、伸びたね。」
「ええ、必勝祈願ならぬ安全祈願でね。司が帰ってきたら切ろうかと思ってたけど変かしら?」
「いや、似合ってるよ。何時もショートだったから新鮮だね。」
「ありがとう、お礼に今晩は腕によりをかけかけて進ぜよう!後1時間くらいで上がれるからそれまでは中を見るなら見ててもいいし、ボランティアの人達から話でも聞く?」
元々そちらの視察もあるので話を聞くとしよう。そう思い千代田に目配せすると、千代田も頷いたので妻に話して救護所の中へ。




