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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 58 犬の考え 挿絵あり

 吾輩は犬である。名前は・・・、多分犬かパシリ。バイトと呼ばれるのは覚悟を迫られる時なので、間違ってもそこに恐怖以外はない。そう、恐怖だ・・・。いつから我輩と言うモノが観測できたのかは分からない。遠い昔、発生した当初から吾輩なのか、それとも恐ろしい者達に捕まった時なのか判断はつかない。


 古い記憶とでも言えばいいのか・・・、吾輩は薄暗い所にいた。正確には吾輩達だろうか?いつからいたのかは分からない。何でいたのかも分からない。無知蒙昧にして前後不覚。何をすればいいのか分からず、そこにある意味もわからず・・・、きっと意味のない存在であった。そう、意味はない。他に何も無い。


 だから他の何かから意味を知ろうとした。結果は他のなにかから熱さと多少の喪失感を得て、相手の何かは何も得ずに喪失した。そして、残された黒い結晶を取り込むと何かを引き継いだような気がした。だから、それを繰り返した。何も無い中で蒙昧な自己を確立しそこにある意味を得る為に。


 同じ様な姿のモノから意味を得ようとしたが、最初の引き継ぎ以上のモノは得られず、全く違うものから知る方がより何かを引き継げる。それを感じた時から吾輩は自ら違うものを探し意味を知ろうと動くようになった。その中で同じ様に彷徨うモノとぶつかる事あれば意味を探す駆け出しが仕掛けてくる事もあった。


 ただただ薄暗い中を彷徨い明るい方へ進む。光には何かがある。それを知るのは元から備わった機能だったのだろうか?ただ広く動き出せば止まる事のない様な道は光へ進むに連れ加速し、止まるには宙を駆けるかそこに適応したモノから引き継ぎを受けて対応するしかない。見知らぬモノは多い。いくらでも意味を探して引き継げばいい。


 そこには望む望まないではなく、興味があるかないかしかない。そして、興味を引くモノこそ見知らぬモノであり新たに何かを引き継げるモノ。縦横無尽に駆ける中で引き継いだ中に何かを発する機能を持った物があり、それは何かを引き起こす鍵となった。試すモノは多い。繰り返せばそこに何かまた意味が生まれるのかもしれないし、倒れれば黒い結晶となって倒したモノに引き継がれて行くのだろう。


 宙を駆け光を目指し新たなモノから意味を探りながら進む。同じ様に光を目指すモノは興味を惹かれる時もあれば、全く惹かれないモノもあり・・・、しかしそれが吾輩に興味を惹かれない事もなく、結晶に成れば取り込みながら進む。暗がりは次第に明るくなりつつあったが、光はまだ先にあった。


 どれ程の時をそうして過ごしたかは分からない。静止した様な世界では何をしようとも変わりはない。あるとすれば何かが結晶になり何かを引き継ぐという作業のみ。その果てに何があるのかは分からない。そんな中、激変が訪れた。ひたすらに光を見て目指せば良かった世界は蓋をされた。そう、蓋だ!光は見えなくなった!駆けた宙は上に広がるばかりで、斜めだった地は平らになった。何がそうさせたのか、何でそうなったのかは分からない。新たな意味があるのかも分からない。ならばやることは変わらない。彷徨うように駆ければ何かを発するモノがあり、それも又意味を得る為に結晶を賭けて戦った。


 彷徨う中で発見した事は、新たに出来た地には光り輝く門があった。隣り合う様に2つある時もあれば1つの時もあった。隣り合う門の片方はハズレで吾輩は通れなかったし、他の何かも通れなかった。しかし、光を知っている吾輩は門を潜り目指したのだ。何かあると思う場所を。辿り着けば何かを得られると思う場所を・・・。


 しかし、激変の後に思わぬ事が起こった。光を目指して駆けるなかで吾輩はいつの間にか光へたどり着いたのだ。今までのほのかに明るい場所ではなく真に明るい場所。初めて見た塔は高く小弱なモノがしかし、それなりに威力のある何かで多少の喪失感をもたらしてくるが、そんな事はどうでも良かった。


  挿絵(By みてみん)


 その時初めて吾輩は目指していた光の凄さを知った・・・。全てが興味の対象だ・・・。小弱な何かもいくら引き継げなくとも倒し飽きず、見るもの全ては色付き今更あの場所には戻る事を考えられない。何と・・・、何と・・・、意味を探すに値する場所なのだ・・・。小弱な何かを思うままに屠りここで新たな意味を得て何モノかになろう・・・。


 しかし、これがまずかったのかもしれない・・・。小弱なモノの中にその恐ろしいモノはあった。いや、興味以上にそれに惹きつけられた。アレはなにか意味を持つモノであると。アレは興味の尽きないものであると。だから吾輩はそれを喰らおうとした。滑稽な話ではある。結晶を出さないものからは何も引き継げない。しかし、遅れてきたそれへの興味がやまなかったのだ。何が出来るのか?何を見せるのか?それをする意味はあるのか?噛めば削れ、何かをしたとしても余りに弱く喪失感も少ない。脆弱にして猥小。それを表すならその様なか弱いものだった。咀嚼し続けても無くならないあの時までは。


 何度削ったかわからなくなった時、突如としてそれは牙を向いた。吾輩の叫びと似た何かは静かに纏わり付き、いくら振り払おうと逃れるすべはない。意味を探し動かした駆体は侵食され何かを・・・、これが結晶が引きずり出され喪失するという事なのか・・・。駆体は作り変え出されている。悍ましくも美しく纏わり付くものは吾輩を削り巨躯を消費し侵食し作り変えられていく。


 そして到頭咀嚼と小さな駆体になった時、唐突に有無を云わさぬ意味を得た。曰く犬であると。曰くパートナーであると。そして吾輩はそれを受け入れた。どういった形であれ、求めたものは体現されそれ以外のモノが剥奪された。


 すべてが終わり小弱なモノに貰った意味を携え赴いたが、小弱なモノはなし得た事を疑っていた。奇妙な事だが剥奪されたモノは・・・、駆体にしろ結晶にしろそれは小弱の中にあり、何かを考えている事は伝わってきた。曰く粗相をすれば首を刎ねる。光と闇を片方ずつで捉える中、吾輩は闇の中から光の中を歩むすべを知った。


 吾輩は意味を得た。しかし、犬と言うものが分からず、パートナーと言うものも分からない。だが、首を刎ねると言う行動の先は分かる。それは喪失だ。故に得た意味を知る為に興味の先は犬となりパートナーとなった。幸か不幸か小弱の中には博識なる化け物と絶対なる化け物があった。まぁ、この時は博識なる化け物に形はなかったのだが・・・。そして他に形のない何かに小弱そのモノもあった。そこで吾輩は自身の小ささを知り、小弱と思ったモノの異様性を知った。


 絶対なる化け物は余り吾輩に興味はなさそうであったが、博識なる化け物は形がなくとも吾輩に興味を示した。この時は吾輩は教えを請うものとなった。興味を持ったならそれを知ればいい。その先で意味を知る事が出来るなら惜しむものはない。そして、そこには真の恐怖があった。


「お前が犬でそれを意味として認めたなら、主人には逆らってはいけないよ?犬とは群れにあるもので、主人に逆らうそれは遅かれ早かれ捨てられる。それなりに下にあったモノならイメージは伝わるね?」


 吾輩が発するものとはこうして使うのか。何らかの現象を引き起こし小弱を喰らうモノとしていたコレは、そのモノに意味を乗せられもすれば何かを伝える事も出来たのか。実に興味深い。捨てられるなら先に吾輩が主人となって捨てれば済む話。ここに有りて小弱は小弱のまま。化け物に手を出さなければ吾輩にも機会はある。


「小弱は喰らう。吾輩の興味は犬とパートナーと言うモノ。なればそれを見つける為に小弱を喰らいそれを探しに出る。首を刎ね・・・。」


 そこで吾輩の首はゴロリと転がった。ちがう!吾輩はまだ光を見ている!コレは・・・!コレは・・・、何だ?何が起こったのか捉えられない中、確かに吾輩の首は落ち空虚なる闇の中で絶対なる化け物を見た。逆らうなかれ、発するなかれ、穢すなかれ、ただ惹きつけられて視る事は許されるだろう。


「駄犬。アナタは主を下に見た。なら、私達はそれの下。興味はなかったけど、躾は必要かしら?従順に、従順に。意味を得たなら従いなさい?いらないなら消えなさい?アナタは光を歩み闇を見る。アナタの言う小弱の中からは逃れられないの。だって、アナタを仕立てた主なのだもの。」


「まぁ待ちなよ。コレはまだ何も知らない。教える前に叱責しながら勝手に殺してしまっては怒られる。」


「この程度の躾ならいいでしょう?私と賢者は同列になった。でも、これは違う。信用されずにパートナーにはなり得ない。何者かを知りえずに狗には成れない。そして、自ら得た意味を投げ出すゴミに先はない。」


「そうは言っても彼女が首を刎ねない限り、主人が不要と断じてコレを手放さない限りはここにある。なら、有効に使う事を提案するよ。」


「好きになさい?使えるなら使うだけよ。」


 絶対なる化け物は去り、そして博識なる化け物が残った。いや、考え違いがある。形無きそれは残ろうともないも同じ。しかし、逆らうには・・・、今までの様に襲う事も払う事もここでは出来ない。逆らえばまた首は転がり有無を言わせず這いつくばる事になる。絶対なる化け物が言う従順とは意思を挟むなと言う事だろう。なら、命あるまで静かであればいい。


「そう畏まらなくてもいいさ新たな住人。割とここは面白い。まぁ、変に目を付けられたくないなら残された光を歩めばいいし、知らないなら手解きしよう。あぁ、因みに君が思う小弱なる者の名はクロエという。僕は賢者で首を刎ねたのは魔女。」


「主とは魔女か?」


「いや、クロエだ。僕達は彼女があってこうして存在している。逆を言えば彼女がなければ僕達は存在し得ない。つまり、どう足掻こうとも僕達は彼女の下だ。だから、僕達は別として君は機嫌を損なえば全てを失う。」


 つまり吾輩は完璧に負けはしなかったが、勝つ方法は全て絶たれたらしい。興味の対象は犬とパートナーなのでいいとする。一応の動く駆体はクロエと呼ばれる個体に付き従うようにし、博識なる化け物・・・、賢者と話す。途中主が腕を喰えと言うので喰らうが、削り取る事は出来なかった。奇妙なものだが、こうなる前も主を食らったが何を咀嚼したかも分からず、喰らったはずのものはなくなる。ただ、喰えと言われた時は何か感じたような気もしたが、その後食う機会もなく事ある毎に吾輩の首を刎ねようと言うイメージが伝わってくるので恐ろしくて仕方ない。


 犬やパートナーとは結局何なのだろう?分からないが言われるがまま他の何かを狩りつつクロエ以外の小弱を守りながら、薄暗い場所と光の下を行き来する。吾輩達は薄暗い所から出られなかった。しかし、犬と言うモノに成ってからは光に出られる。バイトと呼ばれ不興を買う恐れのない時は好きにしていいらしく、小弱を襲わない限りは何かを喰わずに歩き回ればいい。主の前での吾輩は静寂であり、信頼と言う訳のわからないモノを得るまでは言われるがままに過ごすと決めた。


 光の下にある小弱は数が多く、巨大な石は中が空洞でその中にも小弱の群がある。別に気に留めるまでのモノではない。薄暗い場所にも何かは多くあった。違いがあるとすれば小弱は吾輩達よりも先に意味を持ち興味を示す先が多い事だろうか?クロエと呼ばれる主は興味の対象の様で自由に歩く中でその像を多く見かける事があった。その度に恐怖が過るので静寂である以外の選択肢は消えていく。ただ、時折バイトと呼ばれ何かを口に運ばれたり、駆体を触られる事にはなにか意味があるのだろうか?


 闇と光が交互に過ぎたある時、賢者と名乗った博識なる化け物が姿を得た。クロエと何かを発し合い。殴り合った末に得たようだ。元々絶対なる化け物も小弱と同じ様な姿をしていたが、博識なる化け物もその姿を指定され小さな小弱の姿を取った。静かに目の当たりにした光景だったがコレは意味を与えているのだろうか?いや、そもそも博識なる化け物は意味を持っていた。なら、吾輩の意味とはやはり犬とパートナーなのだろう。


「ほら犬、取ってこい。」


 賢者が姿を得た後、時折白い棒を投げるようになった。意味は全く分からないが棒を取ってくればいいらしい。クロエも部屋でたまに丸い物を投げて取って来させるので意味があるのだろう。削り取らない様に慎重に咥え運べばまた投げて運ばされる。後で知った事だが犬とはコレで喜ぶらしい。分けの分からないモノなので賢者に犬と言うモノは何か尋ねた。しかし、答えたのは魔女だった。


「あら、駄犬は犬を知らないの?それは貴方自身よ?バイト。貴方が得た意味は犬とパートナー。ただ、信頼がないからパートナーじゃない。」


 賢者の魔法で映し出された駆体のそれは、確かに今の我輩に似ている。主に付き従い何かを取って来、時折共に出かけ駆体を触られる。犬とは主と、クロエと共に過ごすものなのか・・・。不興を買う恐れが増した。未だに時折首を刎ねようとする・・・、我輩に喪失を齎す者と共に過ごすのは恐ろしい。従順に・・・、従順に・・・。


 クロエの指示で仄暗い場所に赴き、小弱を殺させない様にしながら何かを喰らう。結晶を喰らっても何も引き継ぐ事は出来なくなっていた。ならば結晶はいらない。ただ、犬として走り何かを・・・、モンスターと呼ばれるモノを削ればいい。幾度となくモンスターを削り出し小弱を助けるうち、その機会が訪れた。


 バイトと呼ばれた先で我輩を侵食した何かがクロエから吐き出され我輩に纏わり付いてきた。どうやら吾輩は不興を買ったらしい。首を刎ねると言われなかったが、この纏わり付くものはそれが出来るモノ。ならば、吾輩は犬にも成れずパートナーも分からずなので不要と判断したのだろう。足掻く事はしなかった。既に従順にすると決めていたのだ、犬として。


 しかし、結果は違った。纏わりついたモノは在りし日の駆体を形作り・・・、賢者と魔女がなにか細工をしている?初めて光の下に出た時よりもよりスムーズに動き、より自由に動けるようになった様に思う。この姿を取れると言う事は信頼が得られたと言う事だろうか?


「ほら、バイトお手!」


 ビクリとする。クロエが何かを発していたのは分かっていた。何かを指示していたのもなんとなくイメージで伝わって来ていた。しかし全く分からなったそれが、こうもはっきり分かると恐ろしさがある。差し出す手に爪の先を触れされるが今も首を刎ねる事を考えている。クロエを含め小弱は首が好きなのだろうか?恐ろしい。


 駆体を戻せるようになると小弱を乗せて走り回る事も多くなった。多分パートナーとしての訓練だろう。小弱達はモンスターを狩る事に熱心で事ある毎に仄暗い場所に赴きモンスターを狩り、吾輩もモンスターを狩る様に指示された。戻された駆体はすり減るので余り事は成せないが、それでも削る事は簡単で前よりも動く駆体は速く。モンスターから発せられる光も軽く避けられれば群れであろうと切り裂く爪もあった。そして、小弱の中から多少の強き者が出て来ていた。元々小弱は吾輩を削る事が出来た。


 それが結晶を取り込み引き継ぐ以外の法で強さを得られるのなら、吾輩もそれが可能なのだろうか?得た意味は犬とパートナー。それが何を意味しているのかは未だによく分からない。一応、像を見た似た何かの様に後ろの触手を振れば、小弱やクロエは吾輩が喜んでいると思うらしい。なのでまたに振る。クロエの時は悩むが時折振る。猫と言うものがいいらしいが、吾輩は犬なので首を刎ねられない様に望まれた反応を返すし、指示は全うする。こうしていれば少なくとも首が繋がったままである。出来れば恐ろしいのでクロエにバイトと名を呼んで欲しくはない。


 ある時小弱を鍛えるからとモンスターを連れて来いと指示された。アレ達は何を持って興味を示してくるか分からない。事実、吾輩自身もなにに興味を示すか分からない。しかし、指示され駆体を戻されたのでやるしかない。適当にモンスターを絡め取り急いで帰れば、そのモンスター達は喪失させられた。指示に従わなければ吾輩もそうだったのであろうか?


 そして、強き者が吾輩に挑むので、殺さない様に相手をしろと指示され戦い敗れた。喪失はしていない。しかし、指示は守ったがこのままでは吾輩の首が刎ねられかねない。この時は、吾輩は思ったのだ。この強き者さえいなければと。もっと纏わり付くものがあれば吾輩が勝っていたのだ!


「ハ、放してくれバイト!食込ム!牙がブーツに食い込んでル!」


「負けた腹いせですね。まぁ、バイト的には再現率がまだ上なら勝っていたと言っていますが。」


 強き者の足に噛みつきそれは叫んでいるが、吾輩はコレからは首が飛ぶかもしれないのだ!これぐらいは許せ。小弱は喪失しないが吾輩は喪失するかもしれないのだ。しかし、喪失は起こらずモンスターを狩ってこいと指示された。分からない。アレはアレで良かったのだろうか?そして、噛み付いた強き者がいなくなった後にクロエから指示された。


「噛み付いたエマの所に行ってサポートしてきなさい。まぁ、そこまで大変な事はないでしょう。」


 強き者はエマと言うらしい。しかし、そのエマとはどこにいるのだ?


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[一言] 割と苦労人?犬だなバイト そのうち報われるといいね ああ、でもこうやって人格?犬格がハッキリしてくると青山というか奉公するものとの絡みは面白そうだな 他に現時点で意思疎通の可能性がありそうな…
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