222話 怒ってらっしゃる 挿絵あり
「ここまで来て隠し事はなしにしましょう。狙われたのは妻若しくは息子ですね?」
「それは・・・、自体は未然に防ぎました。両名とも何も知らずに過ごしています。」
確かに電話で妻や息子と話す限りでは何かに巻き込まれたと言う話は聞かない。ならホングヌスという組織は下着ドロは成功したが、家族には手を出せずに壊滅したと言う事だろう。本当に国際的な下着ドロ組織になってしまった訳だが、その組織を使っていた国名も判明したので良しとしよう。
クローンの件は千代田の慌て方から見るに青山のファインプレーだな。多分、現時点では自国の中位に目が行って、俺の方にちょっかいかけるのはタイミング的にないと思う。まぁ、思うなので水面下でどう動いているかは分からない。今の今までそんな組織の動きなんて知らなかったのだし。
「それよりもクローンの件は本当なのですか?」
「先ずは未然に家族への被害を防いでいただきありがとうございます。家族からも実質的な被害は聞かないので、何もなかったとして受け止めましょう。被害が出ずに本当に良かった。それで、クローンの件は青山からの知らせです。丁度選出戦時に話す機会があって知らされました。」
「あのストーカーからですか?失礼ですが虚言である可能性は?」
「言動は別として彼は私に不利な事はしません。それだけは断言しましょう。」
現在進行系で頭の痛いヤツだが、奉公する者である事に変わりはない。その1点分だけ信用はできる。まぁ、しすぎると足元を掬われそうだしあいつ自体の暴走リスクもあるのだが・・・。方向性は分かっているから、その方向性を誘導する方法で手綱を握ろう。ただ、そうすると本当に顎で使う様になってしまうのだが。
「理由を訪ねても?」
「アレは私の子飼いの者です。と、言っても流石に信用しないでしょうね・・・。私の職はEXTRA賢者です。その職には人格の様なモノがあります。そして、その人格の様なモノと青山の中にある人格の様なモノとは上下関係があり、青山の中のモノは私に忠実に仕えるモノだった。なので、私は青山本人は疑っても職を宿す青山と言うスィーパーは信じます。」
「・・・、今日は私の胃をいじめに来たのですか?」
「虐めてもらいたくて私を呼んだなら中々倒錯していると思いませんか?」
「「はっはっはっ・・・。」」
あっ・・・、多分千代田がブチ切れる前のやつだ。先にタバコに火を付けて耳を塞いでおこう。別に隠したくて隠している訳ではないが情報を開示するにも時期やタイミングというものがある。フルオープンで情報を叩きつけるにしても、受けとめてもらわないとなんの意味もない。それこそ本当に虐めである。
「クロエ・・・、クロエ!あのですね、貴女自身も分かっていない事が多いのは重々承知しています。ですが!ですがね!!私達としても知らないことが多過ぎるとサポートしきれない!貴女は隠し事はなしと言った!ならば開示できる情報は開示していただきたい!って、ちゃんと聞いてるんですか!」
「千代田さん落ち着いて!クロエも耳を塞がないで!」
「耳を塞いでいても聞こえてますよ・・・。分かりました、開示できる情報を開示しますが、私としても分からない事は多い。その事を踏まえた上で聴いてください。と、コレどうぞ。」
机の上にエナドリと回復薬を数本並べる。足りると思いたいが、コレが千代田の胃と望田の胃を守る御守になる。さて、何から話そうかな?まぁ、ジャブ程度から行くか。
「ペンタゴンの情報の話ですが現在進行系でハッキング中です。」
「はっ?」
「雷が・・・、電気が使える私が何でそれが出来ないと思ったんですか?まぁ、対策方法を教えたのでそこまで情報はもらえませんけどね。範囲を広げたりピンポイントでハック先を指定するのは出来るのかなぁ?」
「疑問形な上で重大な事実をサラッと言わないで頂きたいのですが・・・。今の話を聞く限りだと電子戦が出来るという認識でよろしいですね?」
「おおよそ電気を使うものなら多分。奏江さんや藤さんも多分出来ますよ?基本的に魔術師:雷の職に就くならイメージ次第ではあるでしょうが、身近な電化製品くらいなら見るだけで電源の入り切りは出来るでしょう。それの延長線上に私はハッキング等のイメージがあります。コレがまず1つ。」
「1つ・・・、先に回復薬を頂いても?」
「私はエナドリ飲みます。」
軽いジャブなのだが・・・。まぁ、身体1つで電子戦してハッキング出来るという言われたらそうなるのか。今の時代PCやスマホ、家電がないと生活が成り立たない。そんな日常生活やライフラインを思い1つで遮断できると言っているのだからこの反応には頷ける。
「あぁ、先程のに付け加えるなら全属性の魔法は使えますよ?まぁ、魔術師なら余程かけ離れたイメージでない限り、おおよそ魔法はどれでも使えます。それと私は回復系は使った事がないですが多分使えるでしょう。胃が痛いなら開示はやめましょうか?」
望田は割と平気そうな顔をしているが千代田の顔色はすこぶる悪い。ジャブのつもりだったが大丈夫だろうか?辞めていいならまだの機会にして今日は打ち切ってもいいのだが。実際魔法もイメージの産物なのでそれが出来るイメージさえあればどうにかなる。まぁ、得手不得手はあるのだが、宮藤が水を出そうとするなら蒸気になるし、兵藤が火を出そうとすると火のついたガソリンなんかになる。魔術師:水といいつつ本質を液体としての現象として捉えるか否かだからなぁ。
「いえ・・・、先延ばしはよくないのでお願いします。何でしょうね、始まりの街に降り立ったら目の前に魔王がいたような気分です。」
「千代田さん、クロエの言う事は半分くらい『あっ、そうなんだ。』って素直に受け入れると楽になりますよ。」
「その楽を取って仕損じれば先に響くでしょう・・・。先程の話とて世界各国の核ミサイル発射スイッチを握っていると受け取れる発言です。それも全く今ある電子防壁システムを無視して。」
千代田が剣呑な目で見てくるが出来たとしてもやらない。だって面倒だし。下手すると何もない部屋に隔離なんて話にもなりそうだが、結局の所それをしても今度は不安だけが独り歩きする。やはり秘密は秘密のまま心にしまっておくほうが良かったかな?ただ、他を聞きたいと言うのだから話すか・・・。
「色々有りはしますが次で今日は最後としましょう。」
「全ては話さないと?」
「もう昼頃でしょう?お腹も空いてきましたかね。2つ目は・・・、そう職の話にしましょうか。流石にそろそろ話してもいい頃でしょう。」
「賢者にまだなにか隠し機能があるのですか?クロエからの説明によればEXTRAは職が統合されたものか、或いは最初からEXTRAであると聞いています。最初からEXTRAを有した貴女ならば賢者に更に形があるという話に・・・。」
「違います。EXTRA職 魔女。第2職と言うと語弊がありますが、確かに選択時には先に賢者を選びはしましたね。同等のクラスなので優劣は・・・。」
あぁ!千代田が物凄く怖い顔で睨んでくる!ジャブで何が出ても大丈夫!もう怖くない!の心構えを作らせたつもりだったけど、そんな事知るか!コイツが今頃重大な事バラしやがった!見たいな目で見てくる!チラリと望田を見ると千代田とは打って変わって無の境地・・・。いやぁ・・・、またペテン師扱いされるだろうなぁ・・・。
千代田は色々と言いたそうな事を考えながら、口を開いては閉じを繰り返す。まぁ、何を言えばいいのか、何を聞けばいいのか頭の整理が追いつかないのだろう。なら、さっさと情報を投げ付けて逃げてしまった方が苦言を呈されずに済む?実際、魔女や賢者がEXTRAと確証を持てたのも講習会をやっている時で、習得してすぐは何がなんだか全くわからなかったし。
「当然ですよね?誰もが中位に至れば持つ第2職を持つのは。私だけ仲間はずれとか寂しい事は言わないでくださいよ?まぁ、私の性別が変わったのは魔女を職として選択したからと言うのもありますが。ちゃんと言いましたよね、私が行った交渉内容。最初の1人は職を選ぶ権利がもらえるって。」
「えぇ!聞かされましたね!身体の秘密も寿命の話も追加がない限り発言内容を正確に文章として残してますね!その上で2ndジョブを有してそれも又EXTRA職であるとは聞いていませんでしたね!クローンの話が本当なら世界的な危機に繋がるとは思わなかったんですか!?」
「思いませんね。」
「えっと・・・、ツカサ?根拠はあるんですよね?」
「あるよ?前に話した通り賢者も魔女も私には適性がない。だから、胸糞悪いけどクローンを作ったとしてもEXTRAは出ない。寧ろクローンを作ろうとしてもなにが出来上がるか分からないし、DNA採取そのモノが無理なんじゃないかな?これまで生活して私の身体は代謝というものがない。枕に抜け毛はつかないし、汗もかかない。タバコ吸っても唾は吐く前に消えて循環するし、大も小もトイレに行っても出ない。カオリも見たでしょう?私の腕が出血した後どうなったか。」
「立ちどころに傷は塞がって血はこぼれ落ちないし、傷があったという痕跡すら残しませんでしたね。」
「基本的にこの身体は巻き戻ります。それはつまり、何かを私から採取しようとしたとしても、採取する前に返ってくると言う事です。なので、クローンを作るのは計画倒れでしょう。」




