219話 気付いてなかったの？
青山に連れられて来たのはそこそこいい食べ放題の店。片っ端から青山が世話を焼くのでやる事と言えばお冷を飲むくらい。席も個室なので騒がれる事もない。だいぶ落ち着いてきたとは言えまだまだ騒がれる事に変わりはないのでその配慮は素直に嬉しい。ただ、自分で肉を育てる前に皿に取ってくれるが、青山が勝手に焼くので文句があるのと言えばそこだろうか？
自分の焼き加減でなくとも肉は旨い。エマの帰国以降のこうして飯を食いに出る事も少なかったので久々の外食と言える。ただ、相手がウザくてイケメンアピールをしながら話しかけたり、色眼鏡で見ない限りは無駄に善良で有能な相手と言う事を除けばだが・・・。
「さぁ、どうぞどうぞ！ハラミもタンもいい感じです！サイドメニューでピザや唐揚げビールもありますよ！ドリンク・アルコール飲み放題なのでどんどん飲んで食べましょう！」
「さっきから私ばかり食べてるがお前は食べないのか？皿に油1つ付いてないじゃないか。」
「ファーストさんが食べてるが姿を見てるのでお腹いっぱいですが？」
「いや、食事に来たなら普通に食えよ。そんなに眺められても食べづらい。しかし、珍しく気が利いたな。もっとこう・・・、どこぞの高級店とかに連れて行かれるかと思った。」
青山の行動を考えると1食ウン万円とかのドレスコードが必要な高級店とかに連れて行かれるかと思った。実際この店もそこまで安くはないが、何かの記念に家族で奮発するなら普通に入れる店。2人でアルコール付き食べ放題でも1万円を少し超えるくらいだろうか？金貨だと5枚と注文用タブレットに書いてあったので間違いない。
円と金貨でかなり価格が変わるが、スィーパーならそれくらい普通に払えるので円換算を思い浮かべない限りは安く感じる。金貨の大きさが500円玉くらいだから？紙幣より硬貨の方が低価格と思い込んでいるせいだろうか？
「昨日生活費以外全部寄付したのでこの店で・・・。次からは寄付も辞めて貯め込んで食事会の機会に備えます！」
(だから言ったのだ！へそくりでもいいから貯めておけと！あの御方に粗末な物など食べさせたくはない！これが粗末かは知らんが、安いなら粗末なのだろう？)
(そんな事はない！早い、安い、旨い！時間の浪費を嫌うならこれほど理に適ったものはない！見てみろ！小さな口で大量に食べている愛らしさを！気に入らなければこんなには食べないはずだ！)
(クソ！吾は知識こそ共有できても経験がないのが口惜しい！変われ！吾と変わって話させろ！そして、頭が撫で撫では吾がしてもらう！)
(黙れ探査者！元々肉体？もなかったんだろう？なら、物理的接触は俺がする！寧ろ物理的に結合したいたい！)
「いや・・・、どこに寄付してるかは知らんがそっち優先で。なんでだろうなぁ・・・、関わりのない所で話だけ聞いたらすげー立派なヤツなんだろうけどなぁ・・・。」
俺の所にもたまに寄付の話は来る。厳密に言えば妻の所に手紙で来るのだが全部断っている。理由は色々あるが1つ言えるなら名もしらない団体にお金を渡したくない。ついでに言えば、中抜きされるくらいなら物資を送る。輸送コスト？ハッハッハッ！指輪のお陰でUber Eats並に手軽に出来るよ！海外にばらまく？先に国内整えろよ。国の付き合いより大変な国内だろ？
そもそも、今の時点でお金が足りないというのは甘えでしかない。ゲートに入ってモンスター倒してクリスタルと金貨を得る。だいぶ声だけ大きくて仕事しない人が各国であぶり出されてきたらしいが、個人が力を持って話してるんだ。逃げ切れると思わない方がいい。まぁ、そうは言っても老人なら仕方ない所はある。五島も歳に勝てないから若返りの薬を探してるんだしね。
因みにオークションではジョージの演説以降、若返りの薬は高額取引の的である。1日若返りが演説前では金貨1枚〜5枚程度だったのだが今では100枚は最低積まないと手に入らない。数揃えて飲めば、それだけ分若返るのならまぁ買える金持ちは飲みまくるよね？不老と不死はまだ出ないのか国が隠しているのか知らないが、オークションには上がらない。盛者必衰という言葉もあるので、やっぱり不死はおすすめしないな。
「褒めてもらってありがとうございます！どんどんルールを守って人の役に立って！褒めてもらいましょう！さぁ、俺の頭はここです！遠慮せずに首がもげるくらい撫で回して下さい。」
ズイッと頭を差し出すが鉄板の真上で熱くないのだろうか？まぁ、撫でてやると言ったので適当に撫でる。金髪に染めてるから髪が傷んでいるのかと思ったがそんな事もないのか。最近の染め粉は凄いな。
「ありがとうございます！ありがとうございます！いつか撫でられる時の為に色々抜き取って最高の手触りにしておきました！」
「あ〜、ウン。禿げない程度にな？」
(貴女凄いわねぇ。アレがまともに話して意思疎通するなんて。)
(正確には青山だろ？少なくとも人間なら快、不快の区別はつく。身体がある分距離の取り方は無いやつより上手くないと激突するだろ？)
(アレの本体にも今から抜け出せない身体を持たせようかしら？身体を捨てた分私の本体の中をウロウロするのよね。)
(それは・・・、何と言うかご愁傷さま。)
口ぶりからした魔女に肉体的なモノはある。まぁ、それを維持しようが収納してなくしてしまおうが構わない程度の些細な事なのだろうが、少なくとも肉体があるなら観測は出来るのだろう。見た瞬間に発狂する様なモノではなければいいのだが、多分大丈夫？いや、美しいものも見続けると囚われると言うし・・・、やべぇ。そのうち誰か俺を見て発狂しだすとか？いや、青山が既に発狂しているようなモノなのだが・・・。よそう。人間は割と順応性が高いので何ごとにも慣れる。
それよりも、勝手に体の中をまさぐられて大丈夫なのだろうか？まぁ、軽い口ぶりで言う辺り大事ではなく平常運転なんだろ？感覚としては見える幽霊が身体の中に住み着いてるとか？いや、それって今の俺と同じなんじゃ・・・。
(アレと私達を一緒にしたら流石に怒るわよ？)
(いや、確かに失礼だった。比べるまでもなく魔女も賢者も有能で優秀だ。)
(それでいい。何か知りたいならさっさと奉公する者に聞きなさい？賢者は別として私は見て読めても話す言葉は知らない方が多い。対話出来るほどの適性体はほぼ居なく外で話すならコードがある。)
サイレン映画を見ている様なものなのだろうか？その人に宿り話もせずに力だけ貸して終末を見る。コイツ等がどれくらい生きているかは知らないが、映画ならたしかに暇つぶしにもなるしシナリオがなければどこでなにが起こるかも分からない。幼少期？他は知らないが見ても暇だろう？考えて動くから映画は面白いんだし。と、中層の話を聞くか。
「感動している所悪いが、こうして食事しているのも聞きたい事があるからだ。映像を見たと思うが私達は中層へ入った。ここで最適化と言う言葉と人体改造を受けた可能性がある。中層とはどの様なところなんだ？」
「ちょっと待ってくださいね。・・・、『えっ？中層ってなに？』だそうです。」
すっ転びそうになるが踏みとどまる。まぁ、座ってるので机に頭打ち付けると髪が燃える。そんな事は巻き戻るのでどうでもいいが探査者は中層を知らない？いや、よく考えろ。コイツ等は言葉は大事だけど齟齬が出るからイメージで直接頭の中伝えようね勢だった。なら、言い方を変えれば何かしらのヒントは出てくる？
「通訳が面倒なので出来れば入れ替わりを練習して欲しい。中層とは今の薄暗い所よりももっと明るい所です。傾向から見るに下に行くほど明るくなるんじゃないかと思っています。」
普通下に行けば暗くなるのだろうがそもそも宇宙は暗い。魔女達も白に行けば何かあると言う辺り、底はもっと明るいものだと思う。ただ、高槻の話を聞いた限りだともしかすると下に行くほど宇宙線とか垂れ流しなんじゃないかという恐怖もあるんだよな・・・。そもそもゲートの中は還元変換が効いている。それに対処する為に職を取ったりして改造されて・・・、もしかして俺は最初に頭痛くなったのって職なしにモンスターに近寄ったり還元変換の影響で死にかけてたとか？
「その認識で合っているそうです。ただ、そうは言っても探査者も底までは行ってないそうなのでその先が一緒なのかも、そもそも他のゲートと同じなのかもわからないそうです。基本的に配置された星に対応した作りに依頼があれば中を作り変えるそうなので。えっ、探査者・・・、お前宇宙人だったのか！？」
衝撃の事実！ここまで話したくせに青山は探査者を宇宙人と知らなかった件について。いや、お前一体何と話してるつもりだったんだよ！アレか？イマジナリーフレンドとかか？それはもう藤がイマジナリー嫁リアルエディションをやっている。
そもそも藤の嫁達は元々藤のイマジナリーフレンドの延長線にあったらしい。まぁ、ピグマリオン王は理想の嫁を頑張って作っていたので分からない話ではない。この子はこういう性格で〜や、この子はお姉さんで〜と詳細な設定を偶像化して被せていたらしいが、動きはしても喋らなかった。それが自身毎作成し直した時に理想の夫婦として喋るし自立して動く様にしたらしい。まぁ、らしいというのは藤から聞いた話だから。
因みに藤のメディカルチェック結果は中々風変わりだそうだ。人ではある。前提としてそれは確からしい。ただ、パーツ交換できるらしい。具体的に言えば腕が複雑骨折しても治癒師に生身の様に治してもらってもいいし、取り外して付け替えてもいい。なのでデュラハンごっこも可能だとか。アラレちゃんかな？身体だけも遠隔操作出来るらしいのでまた1人中位で人間辞めたヒトが出て来た。まぁ、電気が届く範囲と言う制約があるらしいが何処にでも電気はあるので実質量産型藤ボディーで軍団作れるな。
そんな藤の嫁達もチェックすると中々と言える状態。元々藤は嫁達を限りなく人に近いものとして作っていた。具体的に言えば血管はないが骨と神経はある状態。割とこの疑似神経が重要でバイオメタル・ファイバーを束ねて採用していたおかげで普通の筋繊維の様に電気で伸縮してくれる。ただ、してくれるのはありがたいが、採用動力を考えているうちに職で動かせるから後回しでいいだろう。先に外観を最高に仕上げよう！としている間に中位に至り結果として蓄電器官、つまりは心臓がない状態でバイオメタル・ファイバーに少量蓄電しながら動く状態となった。
なので嫁達がベタベタといちゃつくのは本当に食事であり、いちゃつかないと自身を維持出来ない。因みに電力が切れても再度電力を入れれば復活する。当然身体の中に帯電しているので触るとほんのりと人肌程度に温かい。表面はシリコン等で加工してあるので質感も人と変わらない。最近は前に渡した魔法を自身で再現して完全独立型にしようとしている。まぁ、した所でいちゃつくのは変わらないような気もするが・・・。実際電力供給さえ出来れば動きそのものは人と変わらない。記憶はハードディスクでもつけるんじゃないだろうか？電気あればアレも動くし。
「その辺りは二人になったときにでも話し合って下さい。私が知りたいのは先にこのまま進んで大丈夫なのか？その一点です。」
「他の所では問題ないそうです。ただ種としての強度は高くないのでイジられたんじゃないかと言っています。前例はあるそうなので・・・。俺は超人になってファーストさんも超人になって、人類皆超人化した？」
前例あるのかよ・・・。なんだろう、今の状況よりも遥かに探索者の旅の方が気になる俺がいる。だってガチの異世界転生物語だろ？聞いた先の生物が人とは違う形なのは前提としてあるが、モンスターを見てるとそれも些細な事の様に思う。だって、転生した先が四腕で目が10個あるような生物でも周りがそれなら違和感はないのだし。
「超人化したかは別として人と言う種は変化しているでしょうね。まぁ、他のところで問題ないなら問題ないのかなぁ・・・。いまいち確証が持てないけど、取り敢えず行くしかないですね・・・。どうせモンスターの傾向も分からないんでしょう？」
「分からないですが共通して掃除する者はいるみたいですよ？下の方に到達できれば底近くにいるそうです。」
魔女達さえ嫌がるものが共通していると・・・。えっ、もしかして底って他の所と繋がってるの？それとも、底に行ったら自動的に召喚されるとか？なら、中層を掃除してれば安全だよな？わざわざ危ないところにいかなくても、安全圏で掃除しながら過ごせば溢れないし出土品も貰えるし楽ではないが・・・。
(ジリ貧よ？中層だけを掃除し続ければいつかはまた溢れ出す。)
(それはかなり先の話じゃないのか？少なくとも今は中層のモンスターも下層上層のモンスターも倒した。下に行くにしても今は戦力を整える時期だろう？流石に30数名で下層まで殴り込めるとは思えない。)
実際米国のラストのモンスターに勝てる中位がいるかと問われれば現状かなり難しい。最適化の話も出たばかりだし、そもそも中層を掃除するにしても人数が少なすぎる。1人で中層を攻略できるか？そう問われればゾンビアタックなら無理とは思わないが効率自体は最低だろう。全く進まない訳では無いが先ずは戦力の安定からじゃないと無理ではないかな？
(そもそも掃除する者って挑むべき相手でもないんだろ？なら、隠れてやり過ごしてもいいし相手にしなくてもいい。下層でも下の方にいるみたいだし、そいつに遭遇する前に祭壇が見つかれば俺としてはミッションコンプリートだ。)
(そうね、そうだといいわねぇ。ソーツやアレが生まれてそれなりの時が過ぎているのだもの。今までは何もなかった。コレからは何かある。貴女達だって分かるでしょう？食事している今は安全、でも次の瞬間に地震が起こる。世界とはそういったものよ。)
(嫌に煽ってくるじゃないか。行って欲しい、して欲しい、倒して欲しい、見て欲しい。何かを願いたいならかまってちゃんや察してちゃんは無視されるぞ？モノが言えるなら言った方がいい。)
