217話 そのうち飛び出すかも 挿絵あり
研修会の座学方面はある程度の目処が立ち実地訓練に移行している。目標としては35階層だが、研修生で足の早い人は上昇アイテムを使い30階層辺りを探索していたらしいので35階層到着にはそこまで時間はかからないだろう。51階層に入る前に出来れば全員中位へ至って欲しいがこればかりはどうなるかわからない。ついでに言えば最適化の話もあるので、下位のまま入って大丈夫か?という問題もある。
講習会メンバーは全員の最適化の話を聞いて高槻にメディカルチェックを受けたので、そろそろ結果が出ていい頃だろうとラボに来ている。他の本部長達はゲート入口までは一緒だったが研修生達や宮藤のサポートにまわる者、政府からの依頼で要人警護にまわる者、その他自身の出身組織からの依頼で教育にまわる者等々忙しなく働いている。
しかし、要人警護か。政治家なんかをお守りしつつ職を取らせて5階層へ行くお仕事だが、依頼料は割と高額でギルド運営資金に充てるならオイシイ依頼である。ただ、毎回本部長達を駆り出される訳にもいかないので、よっぽどの重要人物でもない限り一般依頼行きだろう。一応、ギルド稼働後は指名依頼なんてのも受け付ける予定ではあるが、本部長を指名するならそれなりの額をもらわないとね。
そんな簡単な依頼ただで受けてやれよと声を上げる人もあるかもしれないが、どちらかと言えばコレはお金を取るのが目標ではなく簡単に指名させない為の措置という方が正しい。強いから、有能だから無償でやれというのははっきり言って馬鹿げている。そりゃあ友人なら多少の融通はするかもしれないが、仕事である以上無償はない。仮に一度でも無償で依頼を受けてしまったら後はなし崩し的に『誰々さんに紹介してもらったから〜。』や『あの人から無償と〜。』なんて言い出す輩が絶対に出てくる。
あくまで仕事は給料分。それ以外の指名依頼は別料金。金の出所にとやかく言うつもりはないが額にはうるさく言うよ。金貨が出て以降、通貨の価値がジェットコースター並に変動しているがIMFと金融街のおかげでだいぶ落ち着いてきた。今貨幣価値が消え去ると世紀末に突入するんだよ・・・。
お金は良くも悪くも皆が価値を認めているから価値がある。認めないならそれはただの紙と鉄でしかない。仮に金貨以外の貨幣が無価値になれば混乱しか引き起こさない。当然だろう。新たな価値が生まれるより価値あるものが無価値になる方が、それを取り扱って成立していたシステムが全く使い物にならなくなるのだから。それこそ物々交換上等で国の血液は全部抜けさり貧血どころか国家終了のお知らせが流れ出す。
資本主義にしろ共産主義にしろ物流がある以上、お金は大切で価値をなくしてはいけないし、お金を血液に例えるなら循環させてやばい国には必要なら輸血しないとその部分が壊死して使い物にならなくなる。だからこそ、仕事には代価を求めないといけない。まぁ、本部長の仕事にその代価で見合う見合わないをどう決めるかは別の話だが・・・。なんだかんだでゲート内で仕事をするというのは命を賭けて何かを成し遂げるというのと同じなのだから。
そんな事を朝のニュースのせいで考えつつここに来たが、何やら人が多くなっている。厳密にはラボの中ではなく輸送機の残骸に人が群がっている。作業着の背中にはJAXAのエンブレムが見えるのでわざわざ種子島から来たのだろうか?ついでに迷彩服着た自衛官も見える。輸送機って宇宙船なの?転用出来る出来ないは知らないけど、大人数でいじっているあたり何かしらの進展があったのだろうか?
「お早いお着きですな。アレが気になりますか?」
「気になると言うか、気にしない方が無理というか。あげたものなのでどう扱おうが文句は言いませんが、アレ何してるんですか?解体研究とか?」
「増え過ぎた人類が宇宙に出て・・・。」
「ガンダムのOPナレーションはいりません。」
眺めていたら高槻が迎えに来たが急にガンダムのナレーションされてもねぇ。当面の間は宇宙に用事はないし飛び出したら飛び出したで魔女やらソーツやらが遊んでるんだろ?子供の頃なら無邪気に大型ロボットに乗って戦うんだ!と言えたかもしれないが、現状では地球に引き篭もろうとしか言いたくない。宇宙ヤバい、マジ怖い。語彙力は死んだ。
「いえいえ、割とマジな話ですよ?」
「・・・、は?えっ!コロニー作るつもりなんですか!?」
「足がかりとしての計画ですね。私より斎藤さんの分野ですが私も無関係とは言えないのであらましだけ聞いてます。」
宇宙開発に高槻が絡む様な事ある?斎藤は分からないでもない。元々カーボンナノチューブを研究したいたので、それの完成品を使えば宇宙エレベーターの建設材料に使えるとは聞いた事がある。しかし、宇宙ステーションを作るのにもお金もかかれば打ち上げリスクもついて回る。それなのにわざわざこの時期に宇宙開発する?
「えっと・・・、何でまた宇宙に目を向けたんですか?知的生命体いるから会いに行こうぜ!何なら技術を教えてもらおうよ!とか言う頭ハッピーセットな計画ではないんですよね?」
「さっきも言ったでしょう?増え過ぎた人類がと。」
「いやいや、確かに人口は爆発的に増えてますが先進国の人口ピラミッドを見ると高齢者が多く、寧ろ出産率はさが・・・。若返りと不老と不死?」
「ええ、裕福層貧困層年齢も関係問わず人間と言う種は約80億人います。普通に・・・、旧世代的に考えるなら人はいつか死ぬ。しかし、若返りも不老も不死もあればそのいつかを迎えるのはいつになるか分からない。極端に言うなら個人の持つ土地が足の裏分しか無いと言う未来もあり得る。それが例えセーフスペースへの移住を敢行したとしてもね。」
身体は不要。不老不死を考えた時に確かに管理コストを考えてそう結論を出したが、よもや領土問題と言うか生活スペース問題になってくるとは・・・。確かに長生きし続ければ人は増え続ける。天災やゲートでの死、事故に病・・・、は回復薬や治癒師がいればどうにかなる。雑に死にづらい分生き続ければ物理的にある肉体で身動きも取りづらくなる。高槻が言う様に確かにセーフスペースは今3つ見つかっているが、それの広さも不明だし奥に行くなら実力を求められ何より広いと言ってもどれほどの人が移住出来るかは分からない。ゲート内は空間拡張されているらしいが元々ゴミ箱である以上、無限空間とは言えない。なら、目を向けるのは宇宙と言う訳か・・・。
確か神志那がテラフォーミング出来ると言っていたし、宇宙ステーション→コロニー→テラフォーミングの順で行って月か火星に行くとか?うわぁ~・・・、そんな未来見てみたい。いや、生きてるから見れるのか。人類始まったな・・・。なら、もしかして夢とロマンを作っちゃう?
「事のあらましは理解しました。それで、ガンダムパイロットに私はなれますか?ガンダムマイスターでも実験部隊のモルモットでもいいですが。もしかしてATとかエヴァとかエルガイム方面ですか?」
乗るならATかブルーディスティニー。まぁ、実際作る限界はATだろうな。ガンダムで身長18m、エルガイムで約21m、エヴァは更にデカくて最低でも40m。それに対してATは約4mしかない。物理的に大きなモノを作ろうとすると何に問題が出るのか?答えは簡単でまず人形なら膝関節が保たない。空から降りてきて地面に到着と同時に膝がぶっ壊れ、それを回避する為に足を太くすれば歩行に多大なエネルギーを使い、何なら歩くだけで下手な設計だとパイロットが死ぬ。当然だろう?コックピットが固定されてそのシートに人が固定されているのなら歩く衝撃はダイレクト。肩の固定ベルトで引き裂かれておしまい。
無重力リュックの様にコックピットが上下して衝撃緩和すればいいと声が出るかもしれないが、上下に動くスペースと配線が常に動き続けなければならないのなら、その時点で断線率はうなぎ登り。そもそもそのサイズのモノを宇宙であろうと運用する必要性がない。パワーアシスト付きで現実的な大きさ、長時間作業出来るだけの物資を考えるとやっぱりATが最大身長かな?一応ギネスで世界一背の高い人の身長は272cmとなっているので3m半までなら何とかなるはず!
「そこは装備庁の方の管轄ですな。橘さんの様に鎧ベースの宇宙服を作るのか藤くんに依頼して外側を作り中の機器だけ押し込むのか。藤くんも遥さんもここでは色々と使い回されてますからなぁ・・・。ただ、闘争心で選ばれたと言うのはあれを見ていると納得はできてきますな。」
「アレ?」
「輸送機の修理と同時進行で武装しているそうですよ?」
「ちょ!それ母艦!どう考えても宇宙に殴り込みに行くやつ!夢も希望もなくて負けた上で跡形もなくなるやつ!私の依頼は自己修復機能の解析やら修理でしたよねぇ!?てか!藤に外装作らせたらヴァルシオーネRが作られるんじゃ・・・。」
頭が痛い・・・、脳みそないけど。そのうち刻が見えるとか言い出すやつ出てくるんじゃないだろうな?いや、まぁ、スィーパーである時点でニュータイプ的な感じではあるのだが・・・。生身でビーム回避したり空間が削られるのを察知してるのを見ると、人間辞めたか進化したかのどちらかでしかないのだが・・・。
「面白い話をしましょう。最適化の話です。」
「面白いかは別としてそれがここに来た本題ですからね。かなり突拍子もない話でかなり逸れた方に話が進んだような気もしますが・・・。」
タバコで一服。宇宙開発を急ぐ理由も分かったしそれを急ぐ話も分かった。スタンピードと同じ猶予の問題だ。年間一億人人が増える訳ではないだろうが、それと同じ様に一億人減る訳でもない。数だけ見るならよくて横這い悪いとたけのこ並みの急成長。旨い不味いは別として馬肉や魚、鳥で食いつなげるし水もどうにかなる。実際水箱と職を使って砂漠で養殖やら水耕栽培やらしようというプロジェクトの話もテレビで見る。
ありがたいのは早期に動いているおかげで、増えすぎた人を間引きすると言う方向に舵を切っていない所か。ポジティブに考えるなら地球に対して多過ぎるゲートをテラフォーミングした先の星で運用すれば飯の心配はない。なんだろう?そのうちゲートを宇宙船に乗せて住みやすい星を探して開拓する移民船とか出てくるんじゃなかろうか?一応、オレはその姿を見れるし、生きるのに飽きていなければ夏目も見れる。
「いえいえ、突拍子なくもないんですよそれが。ここではなんです、ラボの所長室へいきましょう。」
高槻に連れられてラボを歩き、やって来たのは不気味な扉の所長室。中はノートPC1台しかなく他の資料は見当たらない。一応ラボの中は早々物が還元変換されないような仕組みになっているが、下手に放置して消えても事だしな。ないとは思いたいがペーパー資料や走り書きを誰かに盗まれても、消えてしまったと言われたら盗まれたという証明が極めて困難だ。
「缶コーヒーですがどうぞ。一応禁煙なので吸うならキセルでお願いします。」
「了解です。で、突拍子もない話とは?」
缶コーヒーで唇を湿らせてキセルをプカリ。さっきタバコは吸ったし禁煙になったのなら仕方ない。まぁ、キセルでも吸った気分になれるので問題はないしな。
「取り敢えずコレを見比べてください。」
高槻が指輪から取り出して渡してきたのは脳のレントゲン写真複数枚。誰のものかは分からないが、取り敢えず血管が切れているようにも見えない。そもそも脳のレントゲンって初めて見たから何が異常で何が正常なのかも分からない。まぁ、見比べろと言うなら重ねて透かしてみるか。
「空間認識能力とはどこに宿ると思います?」
「さぁ?小さい頃に野山で遊ぶと育つとは聞いた事がありますね。」
「それは後天的な訓練方法ですな。医師会は辞めてしまったので国内で脳科学者と話す機会はありませんでしたが、代わりに米国の脳科学の権威と話す事はできた。空間認識能力は海馬、詰まりは記憶を司る脳パーツの1つに宿ります。レントゲン写真で言えばこの部分ですな。」
別のレントゲン写真で海馬の部分を指でなぞってくれているが、思ったより海馬ってでかいんだな。小指くらいの大きさかと思ったらなぞった範囲だけ見ると拳ひとつ分くらいある。ただ、他の写真と見比べると明らかに小さい人もいるので委縮した人とか?アルツハイマー患者のものとかだろうか?
「思ったよりも大きいんですね。小さい人は何かの病気ですか?」
「なるほど、知らないとそう言う発想になるんですな。真逆です。小指程度の大きさのものが常人のもの。少し大きく・・・、人差し指から薬指程度の指3本分が概ね下位の方。最後に拳大が中位の方ですね。そして、スィーパー科学なるものを提唱した方と話もしましたが、意識的無意識的かかわらずスィーパーの脳モデルはこうなります。」
PC画面に表示された脳モデルとやらは真っ白け。みっちりとみそが詰まっているととるのか、実は脳に異常をきたしていると取るのが正解が・・・。まぁ詰まってるんだろうな。ただ、詰まっていると言う事はその分ニューロンが多いのだろうか?
「これだけ詰まってると頭は良さそうですね。ただ、思考速度に身体がついていかないんじゃないですか?」
「それが面白い所で職に就いた時点ではそこまで多くありません。ただ、職を使い何かしらの行動を起こし続けたり身体を動かし続けるとそれに比例して脳はどんどんニューロンを増やし身体に信号を流す神経伝達速度も向上していきます。簡単に言えばビームを認識した瞬間には回避行動を取るようにね。不思議に思いませんでしたか?どうして人が光を避けられるのかという謎。それのカラクリが脳と身体をイジられていると言う事です。」
「・・・、影響は?」
「ないですね。強いて言うなら人は劣化して退化して死ぬ事が義務付けられています。職に就いても使わなければこの発達はないでしょうし、発達しても使わなければ元の所に戻る。アスリートが訓練を辞めたら一般人と大差ないのと一緒です。まぁ、それでも職に就いてる分の恩恵はあるんですけどね。」
総合すると人を強制進化出来るのがゲートであり職か。確かに一回イメージに成功すれば次行う時もスムーズだし、似たようなモンスターなら倒した記憶を引っ張り出せば攻略法も思いつきやすい。ただ、逆を考えるなら異常な思考速度のせいで考え込みすぎればドツボにはまるし、失敗を引きずればどんどん駄目だと言う考えに傾いていく。
つまり、教育的には何一つ間違っていなかったはず!しかし、そうなると最適化って更に脳をいじくり回されたのかな?それに、海馬が大きくなると中位に至りやすくなる?いや、逆なのか。考えて欲して感情を高ぶらせて、一種の走馬灯の様にあらゆる記憶を引っ張り出すから海馬が鍛えられて大きくなるのか。中位に至る指標の1つとしてはありなのかな?
「脳と神経の話は分かりました。少なくともスィーパーはニュータイプっぽいですね。それで、肝心の最適化とは?」
「一つは脳の最適化。私や藤くん、遥さんの脳と最適化された方の脳を見比べるとニューロンの密度が段違いですし、伝達経路そのものが効率的に並んでいる。職が使いやすくなったと言う方達の発言理由はこれでしょう。」
「なるほど、確かにイメージ速度も反応速度も上がれば結果として使いやすくなる。スィーパーの参考書はやっぱり学術書か絵本ですね。数字に振り回されず結果だけをイメージ出来れば心強い。」
「2つ目は肉体的な耐性です。」
「肉体的耐性?固くなったり柔くなったり伸びたり縮んだりするんですか?」
「男のアレの様な言い回しですが違いますな。」
吸った煙を咳込みながら吐くが、そんなつもりは全くない。ただ、耐性と言われると打撃耐性とか斬撃耐性とか後は毒耐性とかぐらいしか思いつかない。寧ろゲート内で毒耐性とかいる?それっぽいモノを見た記憶がないんだが・・・。
「露からの研究発表でモンスターが有害な宇宙線を発していると最近発表されました。クリスタルを抜けばそれは止まるそうですが、何事にも例外はある。米国で橘さんが武器を溶かされたとの報告が上がり溶かしたモンスターをサンプルとしてもらいましたが、中身はph60を超える液体でした。」
「それって気化したものを吸い込んだだけで気道爛れるやつですよね?」
「まさか、爛れるどころか下手したら溶けます。大変だったんですよ?サンプルもらったから解体しよう。既存のメスは使えない。寧ろ大きいから剣士に切ってもらった方が早いのか?いや、半田さんに頼んで解体してもらおうかとね。結果としてラボの近くに簡易解体所を作って上部に穴を開けたら気体が吹き出してくる始末!手足は爛れるわ呼吸困難に陥るわで久々にラボメン共々死を覚悟しましたな。」
「いやいや!寧ろよく生きてましたね・・・。後遺症とかは?」
「回復薬作ってる会社ですよ?飲み放題な上に回復薬風呂作って全快です。退避し回復した後急いで戻って職で成分調整して大規模漏洩を防いでどうにか終わらせました。ただ、ここで起こった不思議な事と言えば、上部で解体していた半田さんが中の液体を浴びても溶け落ちなかった事です。」
溶けてほしそうに聞こえるが問題はそこではなく、そのphで且つ武器を溶かす液体を浴びても無事だった事。いけない人体実験風味の事だが事故なので何とも・・・。まぁ、半田の場合その液体を水に変えたと言われても驚きはしない、だってS料理人だし。
「腐食耐性がついていると考えて良いんですかね?」
「いえ、厳密には腐食だけではなく宇宙線等の有害な物全般に耐性があると考えた方がいいですな。夏目さんを呼んで肉人形を一体作ってもらい色々と試しましたが、先程の液体にも一定の抵抗性を持ち放射線等にも耐えました。言うなれば宇宙空間で長時間宇宙服1つでウロウロしてもピンピンしています。肉体的にも頑丈ですよ?死線を潜るほど肉体もイメージに引きずられてこの程度は大丈夫と進化していく。」
宇宙空間作業は放射線との戦い。船外活動をするにしても常に計器とにらめっこしてやらないと放射線被曝線量が増えて死んでしまう。しかし、これはどっちだ?宇宙へ来いと言う招待状でその為の措置なのか或いは、中層がこの措置をしないといけないほど過酷な場所なのか・・・。いや、その前にゲート入ってモンスターを倒す。掃除はたしかに請け負った。だが、ここまで人体改造されるとは聞いていない!仮に人が進化するとしたとしても、こんな進化はもっと時間をかけて行う・・・、いや、未来が今なだけだ。
既に手にした甘露は今更手放せない!それがどんなに危険なものだろうと、それがどれほどソーツから渡された末の進化だろうと最終的に事を成すのは人だ。前提を間違うな。あくまで仕事の措置として受け入れた。ただ、受け入れたのは俺だ。他の人はこの事実を知ったとして受け入れられるのか?知らない間に勝手に身体をいじくり回されてそれを納得できるのか?
はっきり言えば腹立たしい。確かに有用は有用。しかし、その有用は説明を受けて納得した上で初めて有用と言える。これが何もせずに勝手に改造されたのならただの迷惑だ。
「高槻先生・・・、貴方はこの事実を手放しに喜べますか?」
「逆に聞きましょう。この事実を受け入れられない理由はなんですか?感情論ではなく明確な問題があるなら話してください。」
「・・・。」
感情論ではない理由。それははっきり言えば何も無い。あるのは説明もなしに勝手にやるなと言う説明不履行に対する憤り。ただ、コレもまた掃除に必要と言うのなら彼等は確かに掃除という一言で全てを説明してしまっている。はぁ・・・、那由多に納得できない理由を話せと言った事があったがよもや自分でもブーメランを貰うとは。精進が足りないな。
「ないですね。ただ、論文としてこの件をまとめたなら早期に公表してください。」
「それは構いませんが大々的にやると?」
「どんなリスクがあるかわからないんです。・・・、一度聞いた話をしましょう。私達はまだ進化が足りないそうです。仮に次のEXTRAが生まれるなら100年程度はかかるかもしれないと言われました。ただ、ここにも適性が絡むので絶対はないでしょう。」
「ふむ、なら逆に中層以降に進み仮に下層でも再度最適化が行われるなら人類は更に一足飛びに進化出来るチャンスがあるかもしれないと?」
「分かりません。ただ、人は何処まで行けるのでしょう?」
「愚問ですな。絶滅するまでは進む以外の道はないでしょう?」
吹っ切れてるな。いや、確かにそれは正解なのか。歩みを止めれば何も残らない。進化するにしても退化するにしても進んでみないとその先がいいものなのか悪いものなのかは判定がつかないし、その判定をつけるのは更に先。今の視点と未来の視点は違うしね。
「有意義な話ありがとうございました。また何かあったら連絡します。それと、外の輸送機の修復装置の早期修理をお願いしますと伝えておいて下さい。回復薬の生産工場に組み込みたいですからね。」




