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街中ダンジョン  作者: フィノ


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213話 噛まれると痛い

「ゾワッとした!なんかゾワッとして肉つままれた!」


「そう騒ぐなラーメン屋。甘噛でござろう。しかし、ただ噛まれるのも癪ゆえ腹芸程度のモノを見せてやろう!」


 そう言うと藤は嫁達から手を離し地面に手を付き『セイっ!』と1つ掛け声をかけ土埃を少量舞い上がらせる。発想としては煙に近いかな?見えないなら確かに工夫して見えるようにすればいい。しかし、それは誰もが思いつく事で問題点はそこの先。こいつ等のやる空間攻撃とは不可視の何かを射出しているのではなく、点でその地点に出現する事。だからこそ対処も難しく・・・。


「うぉぉぉあぉぉ・・・、全身グニグニされてるでござる!」


「腹芸駄目やないかぁーい!ちょっ!デコイも片っ端から食われとるぅ!危な!ビーム頬かすめたで!」


「あっ!私意外とイケル!バッリンバッリン刻印潰されてるけどグニグニされてない〜!ヒャッホイ!先には雑魚潰しちゃお〜。喜助イケル?」


「イケルイケル!てか前の2人の消耗がやべぇ!行くぞ美久!」


「アイサー!才賀っち背中任せた!」


「ソナーで見ててやるよ!奏江、鬼塚、五島!数減らすよ!」


「OK、後ろから掘って暗がりに連れ込もう。くり抜いてもいいが数を減らすなら大きめに掘って数体ずつ引き込む。」


「人使いの荒い・・・。まぁ、あの犬には興味がある。正面から歩いていくかの。」


「なら、露払いを、してあげる。パチパチと、悲鳴を上げる、空の音。集まりアナタを焦がしてく!」


 奏江が露払いと言う様に空気中に帯電した電気を複数体に一気に集中させて焼き落とし、更にうねる雷撃が獲物を探すように彷徨う。中々いいセンスだなぁ。電気系の魔法って使えない事はないけど下手にイメージすると周りに感電する事もイメージしてしまうので、乱戦では使いづらいから結局落雷になるんだよなぁ・・・。


「浦橋、どげぇでごわすか?」


「ガンガンぶっ潰すな決まってんだろがぁ!」


 前の方は飛び出し多分孤立気味だな。別にそういった事態がない訳じゃないので甘んじて受け入れてもらおう。ただ、盾師二人組と言えど残念な事に腕も足も2本づつしかない。どんなに巧みにカバーしようとも、どんなに堅牢であろうとも大河の前には押し流される道理というものがある。キッカケなんて些細だ。ビームを受け止めた所に更に集中され流される。


「いい意気込みだけど片腕千切れかけてたら駄目だ。無理しなくとも俺が後は・・・。」


(青山よ、有能を示すのだ!これは試験ぞ!満点以外はないと思え!)


(負傷者を後方に下げるのは有能だろう?)


(それは凡人ぞ!吾から言わせれば後方にも犬の攻撃は来る。ならば、緊急整備して戦力を減らさない事が肝要。下げたそ奴が背を食われればただの徒労になる。)


(なに!そこまで頭を働かせて判断を迫られるのか!整備の方法は!)


(うむ、吾がよくやっていた方法を教えよう・・・。)


「支えるが無理やり治してやる!」


「あん?お前治癒師だっけ?」


「違う、探索者だよ。だが、こんな芸当も出来る!」


 青山の奴、隠し玉と言えば隠し玉だな。ノンリスクには見えないから制限時間付きとか?無理やり浦橋の傷を抜き取りやがった。見た感じ浦橋の腕は普通に動いていて傷跡も見えないが浦橋に10分と叫んで泰山とモンスターを狩り出した。原理は不明だが損傷を受ける前の状態まで時間を抜いて戻したとか?いや、時間は厳しいと言っていたが・・・、共通認識の問題か。やる前に腕時計を見ていたようなので互いにここまでは大丈夫だったという認識の元、スクリプターにも似た無理矢理の時間のコマの抜き取り。ただ、編集は出来ないので抜いた分の時間は戻ってくると。


 スクリプターも似たような事は出来るが、自身への編集は殆どできない。当然だろう。編集や記録する本人が改ざんされては基準がグラついて管理なんて出来やしない。あくまでスクリプターとは管理者であって観測者でなければ成立しない職業なのだから。仮にコレを出来る者があるとするなら、鏡越しに自分を見た正反対の人間を受け入れられる人だろう。


 腕を確かめた浦橋は突っ込むのかと思えば割りと冷静で、引く事を決めたのか斧を盾にしながら攻撃を受け止め治癒師を探している。そして、後方から来た仲間に話を聞いて治癒師を発見して口悪く治療を依頼。イキり立ちそうな外見で短気そうな話し方だが、引き際と自身の役割というモノをちゃんと理解しているならそうそう死にはしない。仮にあそこで戦いを選んでいたならそのまま宮藤に保護されていただろう。仲間がいるなら無理に戦わなくていい。治って万全に体制を立て直せるならそれからまた殴ればいいのだから。


 犬は割と今回の指示を楽しんでいるのかガンガン参加者を甘噛している。概ね全員一回は噛みついたんじゃないだろうか?特に回避した者には、二重三重と噛みつき執拗に足を狙う。それはモンスターだった時の本能なのではないだろうか?足さえ止めてしまえば後は自分の好きにできると言う自負の現れ。秋葉原でコイツと戦った時は、魔法は弾かれるし噛みつきは見えないしで最悪だった。その上見ての通り獣のように早く引っ掻いてくるし、触手はウザい。だからこそ作り変えてしまったんだしなぁ・・・。まぁ、今でもやらかしたら斬首するつもりだが、大人しい間はパートナーとして可愛がってやろう。


 寧ろ、青山よりこいつの方が奉公する者適正高いのでは?青山はおせっかいでウザくて、今の戦場では最前線で泰山を鼓舞しながら薬を渡し、魔術師達に必要な場所へ攻撃指示するしと有能で確かにコレが狙って出来るなら勇者でも指揮官にでもなれる。ただ、時折俺の方に微笑みかけ、クリスタルを抜き取る素振りをしながら手を振ってくる事さえなければまだ良かったのに・・・。


 しかし、終わりが近いな。大なり小なり負傷はあるが再起不能の者はいないし、モンスターもかなり数を減らした。お座りだった犬も立ち上がり、その巨体で研修生達を見下ろすが今回の対戦志願者はエマだ。米国へ帰る総仕上げ。勝つか引き分けまで持ち込めれば十分だろう。志願したエマも降りかかる火の粉を払うのは飽きたと言わんばかりに犬を睨み開戦の合図である銃弾の一撃が放たれた。



ーside エマ ー



 巨躯の犬は立ち上がった。露払いもある程度済みこれ以上フォローは必要ないだろう。仮に研修生達が私の後ろに走り去る様な事があれば、宮藤が檄を飛ばして送り返しただろうがそんな事もなく、傷を負いながらも大群相手に一歩も引かずに奮戦して倒している。過激な訓練で米国で行うならもう少し時間が必要だとは思うが、ダレた雰囲気をガッツリと引き締める為の荒療治としては最適だ。まぁ、死と隣り合わせという点を除けばだが・・・。


「さテ、そろそろいいだろうバイト。一撃で倒されてくれるなヨ!」


 撃ち出した弾丸は着弾なぞしない。代わりにギロチンの刃となって上から降り注ぐ。太い首だが断頭台の刃を退けられるのか?弾丸は刃へそして逃さない為に前足と首を拘束する。滑り落ちる斜めの刃はすぐそこまで迫り次の瞬間には首の飛んだ姿を夢想するが、それは叶わない。悠々と口を開いて閉じる。それだけでバイトは刃を真っ二つに噛み砕き滑る刃は左右に割れた。


「やはり強イ。・・・、ちょっと暴れるゾ!」


 感情のない様な犬だが尻尾が左右に揺れている分楽しみではあるのだろう。『次に何を見せる?』『次に何を仕掛けてくる?』『たまの遊びなら興味を惹かせてみろ。』そんな意味を込めるかのように剥き出しにし威嚇するように見せる牙と目は私を睥睨する。なるほど、この瞬間私は挑戦者なのかな。なら、出し切ってやろう。


「他の皆さんは一旦見取り稽古に移行して下さい。残りの処理は自分達が・・・、あぁ。クロエさんが全部潰しちゃいましたか。」


 チラリと見渡すとモンスターから煙が突き出しその煙を伝い中が取り出されている。残りと言っても100近くはいたがそれを音もなくただ静かに瞬殺する辺り流石と言えるだろう。彼女はクリスタルの位置が分からないと言っていたが、分からなくとも身体の中をまさぐれるならこんな暗殺じみた方法も取れるのだろう。我が師ながら多芸で引き出しが多い。それに、宮藤が見取り稽古と言うからには私とバイトの戦いを観戦させるつもりだろう。いよいよ持って無様は晒せない。


 私も距離は関係ない。ただ、こうして走るのは止まって足をやられれば次の瞬間には頭を齧り取られるから。モンスターと戦う時に棒立ちでいいのは盾師の様に守りに特化した者のみ。それでも下手をすれば腕をやられる。まぁ、腕ならまだいい。走って撤退できるから。


「こイ!鉄の嵐に招待しよウ!」


 地面から串刺しにするべく槍を射出!バイトは片足を振り上げつつ跳ねて躱すが遊んでいるのか速度はない。ならばとドローンとセントリーガンでオート射撃をするが前足を振り上げてバレルロールしながら振り下ろした速度を使い突っ込んでくる。ご丁寧な事だ煙を触手の様に扱い姿勢も制御している。射撃が牽制程度になればいいが、それすらも意に介さないなら、射撃しつつ別の物を使おう。


「ちッ!」


 飛び退いて躱すが足が軽く爆発。反応装甲で助かったが噛みにきていたか。米国でも試したが、こうすれば反発して内部まで切り取られずに済む。ただ、よく見れば今なら起点くらいなら気づけるんじゃないか?よし、更に気合を入れるか!


 浮遊機雷と弾丸の嵐をバイトは煙の一部で受け止めているが、総量が減ったのか少し小さくなった。維持できなくなるまで小さくすれば私の勝ちでいいだろう。着地地点にもたんまりと地雷を設置し、更に煙を削ろうとしたが鼻が効くのかランダムに敷いた地雷を器用に避ける。隙間なく敷き詰めるべきだったか。


「再セット、感知、ジャンプマイン。」


 地雷はそのままに感知式を増やし、近付くだけで一斉に地面からの地雷が跳ね上がる。撒き散らす散弾は人なら確実に仕留める量だが、跳ねた後に更に宙で跳ねバクリと一噛み。それだけで本体に当たる散弾の大半を無力化してしまった。そして、そんな芸当が出来るなら当然何度でも宙を蹴れるよなぁ!


 地面に降り立つよりも先に宙を蹴り足を振り下ろすではなく爪を刺すように突進してくるのを紙一重で躱し・・・、きらない!邪魔な尻尾だ!爪や本体が通り過ぎ、最後の尻尾だけにぶち当たった!反応装甲のお陰で巻き付かれはしなかったが、そもそも尻尾だけでも丸太ほどの太さがある。装甲を砕かれながら宙を舞うが、意識はまだ手放してはいない!


 装甲を再構築しつつペンデュラムに片手で捕まりもう片方で牽制程度に射撃しつつ距離を取りたいが、バイトは待ってくれない。『もっと先を見せろ!』『もっと興味を惹かせろ!』そう囃し立てる様に縦横無尽に地雷を踏む事もなく宙を賭ける。舐めていた訳ではないし、下に見ていた訳でもない。ただ、心の何処かで飼い犬というフレーズに安心を覚えていた。まだ、首輪が掛けられ飼いならされたモノと。しかし、こいつは今確かに私を殺そうとするモンスターだ!


「ギロチン3、スタート!浮遊機雷セット!ペンデュラム!」


 迫りくるバイトに手前からギロチンを落として行きながら浮遊機雷で追撃!更に振子の刃で逃げ道を塞ぐが、ギロチンは最後の刃が爪の根元を切り落とすに留まり追撃に出した浮遊機雷は振子の上を飛び回りつつ回避しながら、触手で巻き取った振子を盾にダメージらしいダメージを出せない。ただ、最初のセントリーガンとドローンは健在でその射撃のみがバイトを削る。


 再現というが再現率は何%だ?100は超えないだろう。そうなれば、それは新たなモンスターを生み出したことになる。なら、それよりも下でこの強さか!装甲の構築を終了し、開けた距離の分更に罠をあちこちに仕込む。任意は今はいらない。ひたすらの感知式の山とここに立つ私自身が囮だ。


 それに、ギロチンの刃は確かに効いた。なら、爆発物よりも物理的な罠の方が効果的か?考えながら走り、食われるだろう場所を何となく感覚で掴み・・・、いや、一瞬食われる所が先に歪む?極僅かだが陽炎の様にぼやけた場所が次には食われている。発見できたからと言って簡単に避けられるものではないが、致命傷を受けないように対処はできる。大口を叩くなら腕は飾り、足が動けばまだ生き残れる!


「フルセット!ローリングストーン!飛び込んでこイ!」


 何も無い所を斜めに転がってくる大岩と、上へ逃さない為のドローンや機雷、更にはバイトが足を動かした事を逆手に取って罠を踏んだと見立てて矢の雨を降らす。積み重なるダメージは小さいだろうが、感知式トラップの嵐に飲まれてもらうぞ!


「wr38p5tmtjーーー!!!!」


 逆立てたたてがみの様な毛が一層膨れ上がり、あらんばかりの触手が飛来するものに対しての盾となって本体への攻撃を遮るが、これで更に小さくなった。後の煙総量は分からないが、ここで削れるだけ削ってやる!


「カモン!大ダライ!アッパーウォール!!」


 地面からの強制打ち上げ。爪が鼻を掠めたが、地面からせり出した岩が犬を打ち上げ、自由落下していたタライの檻に閉じ込める。そして、タライの中は闇だ。何処にでも(・・・・・)罠はある!ありったけの刃物系の罠を発動し、暴れるタライを更にタライを降らせて押し止める。


「勝っタ・・・、のカ?」


 逃げ場はなかった、なら仕留めたと思うが・・・。いや、全身串刺しはまずい!熱くなっていたがアレはクロエの飼い犬だ!流石に殺してしまっては怒られる!


「あいたタ!・・・、バイト?」


「試合はエマの勝利ですよ。腹いせに噛みついただけです。」


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[一言] >青山よりこいつの方が奉公する者適正高いのでは 揃いの、バイトのほうが上位だとわかる首輪つけてゲート内で放牧だな、というかバイトのほうが上位の奉公するものだと刷り込んでやれば
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