212話 割と集まった 挿絵あり
「皆さーん!これからちょっとモンスターが攻めて来るので蹴散らして下さい。特別ゲストとしてエマさんも参戦してくれますが、特定のモンスター抑止のためにそこまで動いてはくれません。後、青山君ちょっと伝言です。」
「なんですか?宮藤教官。」
「負傷以外で戦線離脱したら見限るそうですよ?有能を示せだそうです。」
「あの方の御心のままに。」
声は届き青山君もこれなら釘刺しは大丈夫かな?彼のクロエさんへの執着は凄まじく遠くで見ていただけで気づいてしまった。事前に変な事をしようとしたら先に釘をさせと言われたけど、指す前に見つけて走って行くとか・・・。ストーカーと言われるだけの事はある。抑えつけるなら名前を使っていいと言っていたけどそれは効果てきめんで今は大人しく戦列に加わっている。
ただ、どれくらいのモンスターを連れてくるつもりなのだろう?いや、その前にモンスターを誘導すること自体かなり難しいと思うんだけどな・・・。出会ってしまえば後は殺すか殺されるかしかない相手をどうやって連れてくるつもりなのか?常識的な事を話しつつ常識の外にいるような人なので考えるのは諦めよう。
「さテ、クロエはどれくらい連れてくると思ウ?正確には飼い犬だガ。」
「さてどうでしょうね?本人が思っている以上にかき集めている可能性もあります。あの犬・・・、バイトもなんだかんだで下手したら自分達よりも強いんじゃないかって思う時がありますからね・・・。」
「同感ダ。米国スタンピードの最後・・・、後続の中層モンスターと同レベルだと私は思っていル。完全再現されたらと思うと腹の傷が痛むヨ。」
秋葉原のラスト。クロエさんが単騎で倒したアレ。米国で出現した前段のモノは進化と言うか形態変化してから空間攻撃を行いだしたが、バイトに関して言えば最初からそれを行ってきた。クロエさん本人も出会ってから進化なんかせずに噛み付いてきたと言うのだから事実なのだろう。それを考えるとどこまであるか分からない中層でも下の方から引っ張り出されたのではないかと思う。まぁ、モンスターがどこでどのモンスターと戦い、何を吸収しているのかは分からない。
ただ目に見えるのは相対して示された能力のみ。その能力から考えると、魔法を打ち払い休息を必要とせずに動き続け噛むという動作だけで軽く下位を屠り興味と言う名の殺意で襲い掛かって来る化け物。言葉にするだけでうんざりする様なそれは、秋葉原では出現すると同時に多数を殺し今は飼い犬に成り果てている。他のメンバーも薄々気付いている。アレは犬と呼ばれているが何らかの方法でクロエさんが封じ込めて手綱を付けたモンスターだと。
あの時倒せなかったから封じ込めたのか?或いはそれが必要だからこうして飼い犬に仕立て上げているのか?真意は分からないし訓練中も助けてもらっているので、今更そこを議論するつもりはない。ただ、仮に暴走する様な事があれば倒す事に反対する者はいないだろう。
「後続の3体はかなり厄介でしたからね。空飛ぶ球体が進化したやつに、狼のような素早いやつ。そして、人型の虫のようなやつ。と、クロエさんのアレは擬装のつもりかなぁ・・・。」
タバコを咥え両手に木の枝を持って隠れるようにしている。多分魔法で隠れていてこの姿を見る人は少ないだろうけど、誰に宛てたユーモアなんだか・・・。ご丁寧に6階層セーフスペースのモノを使う辺りもしかしたら本人は真面目なのかもしれない。ただ、岩陰に隠れるでもなく他の見に来た人達も棒立ちなので余計に1人目立つ。
最もクロエさんがそこにいると分かった時点で注目の的なのでこれはやはりユーモアだろう。本人に直接言っても怒りはしないだろうが、見た目と相まって割と可愛い。変身時の映像もその姿になる前の姿も知っているのにそう思うのはなんともやりきれない気持ちになりはするけど・・・。
「擬装や隠蔽にはよく草や木の枝を使ウ。この地にそぐうかと言われたら全くそぐわないナ。肩に力が入っているのを見透かされたカ?」
「どうでしょうねって!また大群を連れてきたなぁ・・・。」
「だナ。バイトが張り切ているようダ。私も彼等と合流してくるヨ。」
ーside 研修生達とエマ ー
「ちょっと攻めてくるってどれくらいだ?」
「わからんでごわすな。浦橋どん、おい達は盾。なら正面でよか。後ろに隠れるんは性に合わんでごわす。」
「待て待て君達、作戦は必要だろう。それとそこのちびっこ、ナチュラルにサボりに行くな。」
「やめてーなにぃたんつまみ上げるん。また肉まんいるか?うちは退路やら探して暗殺するほうが得意なんよ。そう言うにぃたんかて毎回土の中やない。」
「土の中で戦う方がリスクは少ない。リスクヘッジなしに戦うなんてするわけ無いだろ?」
「うわぁ~、頭良さそうな言葉使ってる。華ちゃんリスクヘッジってわかる?」
「酒井たんがしらんならうちも知らんよ。奏江たんしらん?」
「リスクを予測して、リスクに対応できるよう備えることよ。どちらかと言えば証券会社とか投資家が使う言葉かしら。」
「地が出とるぞ。偽ファースト。」
「い、いいし!ファーストさん普通に喋るときは喋るし!」
「五島の爺様も陰険だねぇ。後美久、あたいが副官なんだから先にあたいに聞きな。」
「才賀っち知ってた?リスクヘッド。」
「リスクヘッジな?・・・、知らないね。ただまぁ、商売人だから言葉は知らなくても実践はしてたよ。ラーメン屋とハーレム野郎もそうなんじゃないかい?」
「大雪ん時はスープ増々麺増々で先に用意くらいすんな。余ったら無料で配布で店の宣伝だぜ!と、言うか藤よぉ〜、俺にもなんか作ってくれよ。ちょびっツとかハマってたんだよぉ〜。」
「落ち着いたらいいでござるが、今はまだ嫁達を優先するゆえ持ってござる。それよりもこの服いいと思わんか?遥殿に依頼して作成して頂いた至高の品ぞ?」
「はっ!遥さんは知世枠だった・・・?なら、さくらはクロエさんで魔法少女・・・、確かに写真集にはそんな写真も・・・。」
「その雑談する時間は必要カ?」
「うおっ!アンタはエマ・・・、さん?増援か?生憎この辺りのモンスターなら俺達でも・・・。」
「うム、訓練用の獲物は取らン。私はバイトと殺り合う為に来タ。かすめ取れるならそれでもいいし、雑魚狩りに時間を掛ければ甘噛されるゾ?」
「その〜、エマ殿?バイトとか甘噛とかはなんでござろう?」
宮藤の言葉を聞いて雑談していた研修生達は私が現れると一瞬で真面目な顔と言うか、目がギラギラとしだした。クロエがモンスターをけしかける前もそれなりにモンスターと戦っていたようだが物足りなかったのだろう。かすめ取るまで行き着かないと思っていたが、どうやら選ばれてここに来るだけはあって、潜在的にモンスターと戦う事になんのためらいもないようだ。
仮に躊躇やためらい、恐怖があれば空気は重くなりそれが伝播すれば士気が下って動きは悪くなる一方。日本人は恐怖を感じやすいと思っていたが、どうやらそんな事はなかったようだ。まぁ、それは講習会メンバーを見れば一目瞭然か。しかし、バイトの事はどこまで話していいのだろうか?クロエの方に顔を向けると気がついたのか立ち昇るタバコの煙で器用にOKと文字を浮かび上がらせる。出来るとは思っていたが、本当に器用な事だ。
「質問にあったバイトとはクロエの飼い犬ダ。」
「わんちゃんがじゃれついてくるの?才賀っち銛投げて取ってきてもらおっか。ここいたら危ないし。」
「おバカは黙ってな。で、その犬ってのはただの犬じゃないんだろ?」
「あァ、秋葉原最後の1を再現したモノ。開会式で見ただろうモンスターの虚像、それがほぼ本物となって襲ってくル。なニ、犬はじゃれついて骨が軋むくらい甘噛するだけダ。それ以外は本物だから殺しに来るがナ。」
「「「はぁ!?」」」
話を聞いた研修生達が頭を抱えだす。多分、私が選ばれるのが遅れてこの研修生達と肩を並べていたとしても同じ反応だろう。スタンピード最後に出現したモンスターが他のモンスターを引き連れて殺しに来る。普通に考えれば訓練ではなくて殺害予告だな・・・。ただまぁ、ゲート内スタンピードとでも言えばいいのか、この訓練はこっそりとだが多数の中位が見守った上で宮藤とクロエも同席しているなら、私も感覚が麻痺しているのか定常訓練レベルと感じてしまう。
「はいはい、皆さん騒がない。要は雑魚狩りにボスが付いただけです。ボスに挑むのは好きにしてください。隠れてるクロエさんにも許可はもらってます。ただ、甘噛はいつするか完全ランダムなんで必ず周囲に気を配ってくださいね。でないとモンスターに頭簡単に吹っ飛ばされますから。」
「宮藤、それは脅しだろウ?」
「いえいえ、それが出来るからここにいるんですよ。簡単に死んでもらっては困るからこその警告です。一応、フォローは入れますが、そのフォローとは致命傷の事なので四肢の欠損程度までは自力でどうにかして下さい。幸い治癒師もいるのでどうにかなるでしょう。無理だと判断した方は保護します。」
宮藤は朗らかに言っているが四肢欠損は大怪我の分類・・・、なのだが米国の治療風景を考えると次の瞬間には治して行ってこいと背中を叩かれる姿が・・・。あれは小田と夏目と言う人財のおかげで成り立つ曲芸地味た治療方法でそれを求めても出来るかどうか・・・。まぁ、腕が残ればどうにかならない事はないのだが。実際米国の治癒師も馬肉での治癒や欠損再生を試して、少しずつだが成功しているそうなので一概には無理と一蹴しづらい。
「さテ、長々と喋ったようだが来たゾ!」
手を抜くつもりなど最初からない。ただ、この場でやるのは打って出るのではなく降りかかる火の粉を払うまで。バイトが首を振って投げた、山なりに飛来してくるモンスターを発見し、流れるようにかざした手には既に銃がある。引き金を引いたと言う事実は発射された弾丸が教えてくれ、その弾も爆裂弾へと様変わりし貫通して内部に入ればそこで起爆する。前に借りた時いい猟犬だと思ったが中々どうして。
体毛とでも言えばいいのか、揺蕩う煙が触手の様にモンスター達を絡め取ってそれに興味を示したモンスターを更に引き連れて出鱈目な速度で走ってくる。再現度は前にゲート内で見せられたモノより更に高い気がする。頭の中でカチリカチリと倒すべき手段が浮かぶと同時にトラップのイメージが構築され何時でも打って出る事が出来る。
(最適化のおかげか?イメージもモンスターへの対処もイヤにスムーズだ。)
「あぁクソが!どんだけ数揃えてんだよ!行くぞ力士!」
「応とも浦橋どん!と、あの犬は見るだけで震えるでごわすな・・・。」
バイトは立ち止まり連れてきたモンスターを開放すると、その場に留まり威嚇するでもなくこちら全員を見ている。いや、なにか嫌な予感がする。これはまさか・・・!
「ga5wtg5ta6:juxjーーー!!!!!!」
言葉にならない絶叫!ただそれは米国で中層のモンスターを相手にした時に聞かされた不気味で不快で吐き気をもよおす様なモノ。感覚的には殺意だったが、バイトのソレは殺意とは違い・・・。
「楽しませろ、遊ばせろ雑魚を潰してかかってこいですかね?何となく発しているイメージが分かるような・・・。」
「宮藤もカ?私も何となくそんな気はしたガ・・・、後でクロエ取っちめ案件だナ。」
「協力しましょう。でも、先にやる事もありますね。」
先に飛び出した2人は先程の絶叫で縫い留められたように足を止めてしまっている。藤は涼しい顔をしているが、他の参加者には怯えの色が見える。まぁ、私も初めて見た時は姿だけでも恐怖に潰されるかと思うくらい怖かった。ただ、ここにいる人間達は甘い作りのモノとはいえ対峙するより先に姿を見ている。だから復帰も早いのだろうが、先に飛び出してモロに吠えられた2人は動けるのだろうか?
「飛び出したバカ2人!出たんなら動け!死ぬまで動け!そして死んだらその後も兵として列に入れ!今お前達がやるべき事は何だ!?何を叩き込まれた、言え。」
「「モンスターを見つけたら殲滅ーっ!」」
「はい、では残った皆さんも行ってらっしゃい。ただ、1つアドバイスしますが大きな魔法を使いたいなら距離を自分で調節してください。仲間を巻き込んでは事ですからね。大丈夫、自分が後ろから見てます。」
その声で動き出して研修生達も鉄火場に突っ込んでいく。いや、落雷やら狙撃やらで頭を抑えているので立ち上がりは有利か。盾師2人組がバーサーカーの様にモンスターの波に飲まれながらも奮戦して囮の様になっている。
「概算でどれくらい連れてきたと思ウ?」
「約500体くらいですね。50階層辺りでモンスタートレインしてそれを相手にしていると思えばまぁ・・・。単純計算するなら一人当たり25体倒せば片が付きます。」
「軽いと思えばいいのカ、研修生が地獄の歓迎会に招待されたと思えばいいのカ・・・。米国に戻って指導する際はもう少し優しくしてやろウ。」
練度の問題や経験の問題もあるだろうが、残念な事に彼等はクロエに到達階層と強さを示してしまった。なら、それを見た彼女はコレくらい出来るよね?的な感覚で軽くけしかけている可能性もある。事実、チラリと見た彼女はタバコをキセルに変えて相変わらず木の枝を持っているし・・・。指導力は見習おう。だが、指導方法はちょっと真似する事を遠慮したい。今の米軍にコレをすれば死体の山だ。ただ、個人でこの数を倒してこいと言われたなら不思議と出来ないイメージはない。寧ろ、出来る算段がある。やはり私の師はバーサーカーなのだろうか・・・。
しかし、最初の数とバイトの咆哮で萎縮していたのが嘘のようによく動く。異様と言えるのは3人だろうか?1人は大会で中位に至った藤。本人を中心に左右に嫁と呼ぶ人形を従えて手をつなぎクルクルと楽しそうに回っている。回りだす前の顔もちょっとそこまで好きな人と買い物に行くという雰囲気だったが、回りだしたら回りだしたで雷を纏い触れたモンスターを感電させて焼き尽くし、目が回る前に止まったかと思えば今度は散開した人形達が個々にモンスターを仕留めていく。
利点と言うなら宮藤の兵とは違い物が待てるというところだろうか?箱から出た武器を携えて殴り掛かる彼女達は他の研修生達と遜色ない動きをしているので見た目も相まって13人のパーティーで動いているようにも思う。そして、それの主人である藤自体も後から動画を見たが弱くないので、仮に戦うなら面倒な相手だろうし工作員という方向性なら夏目と同等か、数が出せる分更に厄介だ。
「あぁ、どこかでクロエさんが直に俺の戦いを見てくれている。有能を示せって事は有能なら肩も並べれられる!整形の件もなくなったし、これはもしかして・・・、当回しなツンデレ表現?働きますとも!奉公しますとも!はっはっはっ!養う為にクリスタルをおくれ?」
もう1人の異様な人物青山。温厚なクロエ曰くストーカー。多分入ってはいけない地雷原にダンプで入ってドリフトする様な人。彼女が諦めて評価しないのが評価と言う人物で、カオリもなんでこの人ツカサがそばに置く事を許したか分からないレベルの困った人らしいが、戦闘能力と言う点で見るとかなり高い。だらりと垂らした両手にスポイトの様な武器。モンスターに走り寄る時も身体を低く、それこそ膝が胸を打つのではないかと言うほど低く地面近くを走る。その上で常にトップスピードでモンスターに触れさえすればクリスタルを抜き取ってしまう。
今もやる気があるようでビームに気付いていなかった研修生の援護に回り、ビームを消して撃ち返すなんていうなど言う技を見せている。厄介とは言ってもこれだけ戦えるなら確かに目を瞑りたい気持ちも分からなくはない。米軍にそれが出来る人間がいたならさぞ鍛え甲斐があっただろう。
そして最後は海道。やる気のない様な小さな少女はしかし、そこにいる。いや、言い方に語弊があるな。正確にはモンスターが回避した先にいる。誰かが攻撃しそれを回避した先には海道の武器が既に差し出されていて、本人は動かずともモンスターが勝手に刺さって倒される。
当然一撃ばかりではないが、それでも数回刺せばモンスターを倒してしまう。そして、スゥーと姿を消すのだ・・・。大会では奇抜な戦法や囮作戦ばかりだったが、本来の彼女のスタイルは暗殺なのだろう。恐ろしいが、仮に彼女がS狩人となったなら手が付けられないのではないか?
第2職を選択する際に追加される1。切望しどうしてもそれが必要と思い最初からあるものか、追加されたものを選ぶかという過去と今を分けるその1に狩人が出たなら、どちらが強い組み合わせなのかな試してみたくもある。きっとこれは純粋な好奇心。上位の組合わせを知りたいというところから来ているのだろう。
「私はギャラリーだ。今は甘噛してくれるなヨ。」
数は減り代わりにバイトの甘噛が増えてきたようだ。時折顔を顰めたり周囲を見渡す者が増えてきた。なら、そろそろ私も始めるとしよう。




