204話　やりやがった！　挿絵あり

　次の総当たり戦が始まるまでの短いブレイクタイム皆さん如何お過ごしでしょうか？俺は控室で焼肉弁当食べてるよ！こういう試合とか式典とかの弁当って誰でも食べられるように幕の内が多いけど、気を利かせてくれたのか肉多めの焼肉弁当でございます。焼き鯖も好きだけどやっぱり肉！肉は心を豊かにしてくれる。まぁ、青山のせいで頭が痛み、奉公する者の話でない胃が痛んでいるので肉でも食べて心を豊かにしよう。

　ただ、この控室って俺と望田他は千代田くらいしか来ないのにやけに弁当が多い。余ったらもったいないので多めに食べよう。実際、1日目2日目も余って持って帰ったし。指輪に入れておくと日持ちするのでいいのだが、取り出した時に消費期限が半年くらい切れてたら怖いな・・・。そんな焼き肉弁当を食べて今はブリトーをほうばっている。

　　

「相変わらずよく食べますね。本当にどこに消えてるんでしょう？」

「さぁ？食べても貧素な身体には変わりない。」

　先に食べ終えた望田がズズッとお茶を飲みながら話が来てくる。中身はない身体なので多分虚無に消えているのだろう。実際身体の中にはそれに相当するモノが入ってる訳だし。或いはアブザか魔女達が食べてる？

「ツカサ、言っておきますが貧素と魅力的な身体は違います。ツカサが男の人にせまってもせまらなくても襲われる可能性しかないんですからね？男の人に絶対全裸とか・・・、見せてませんよね？」

「男に全裸？見せる訳な・・・。あぁ、一回見られたかな？シャワー上がったところ。」

「その話を詳しく。これからその対象を探し出して少々尋問にかけます。」

　扉が勢いよく開き千代田がズカズカ入ってきた。外で聞き耳を立てていたのか、時間なので呼びに来たのかは知らないが、尋問とは中々穏やかじゃないな。寧ろ尋問にかけてナニを聞き出すつもりだろう？息子の為に言うが不可抗力である。そもそも地元に帰って1つ屋根の下で過ごせばその機会は多々あるだろうし、下着だって同じ洗濯機で洗うし干せば普通に見られる。

「何を知りたいのかは知りませんが見たのはウチの息子。不可抗力ですから変に事を荒立てない。と、インターバルは終了ですか？」

「御子息でしたか、なら私からは何もありません。これが赤の他人なら次を望む勢力から、要らぬ詮索があるところでしたので他言無用を念押しする為の話し合いです。インターバルは終了し最終戦の準備が整っています。」

　まだいたのか次を望む勢力とやら・・・。人の心理として優秀な次世代を望む気持ちは分かるが、アブザ以外に産むつもりはないし、そもそも子が産めるような身体でもない。ウチの娘と息子に声をかけようとも、2人共ゲートが出現する前の生まれなのでどうする事も出来ないだろう。そんな事を考えながら控室を後にして実況席へ。総当たりとして勝数が半数を超えれば自動的に本部長と成れるので試合数自体は少ない。

　ただここまで来て気になると言えば青山か。真意はわからないし、ナニを考えているかもやはり分からない。他の選手はやる気もあれば成りたいと言う願望的なものが伝わってくるのだが、事こいつだけは別方向を目指しているような・・・。到頭ここまで腹を割って話す事はなかったが、まぁ試合が終わってからでも大丈夫だろう。

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「血湧き肉躍ったトーナメントも最後の19人が決まりました！これよりは総当たり戦による脱落者1名を決める試合です！実況は引き続き望田と！」

「どの方もとても強かった。職員としての採用は随時行っています。参加者の方は職員になって本部長達と共に働きましょう。テンション：並、最終戦脱落者は何か優遇しようかと考えているクロエです。」

　ここまで来て敗退なら無念の程も分かる。なら何かしらの優遇くらいあってもいいと思う。まぁ、それは行く任地先の本部長との話し合いになるが、手っ取り早く考えると部下を付けるとか？或いは何か武器を進呈とかでもいいし、単純に本部長に鍛えてもらえる権とかでもいいな。

「優遇、気になりますね！それでは、総当たり戦はコート1面で行われます。第1試合！本部長候補者は青山選手と海道選手！今回も這いつくばる恐怖が展開されるのか、それともトリッキーな食いしん坊が御すのか間もなく試合開始です！」

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　ブザーの音がなる前の顔合わせ。ここまでこれたけど、眼の前のにぃたんは得体がしれんのよなぁ〜。勝気でおるけど試合を見る限り中々厳しいんよなぁ。ただ、交渉でどうにか成ればそれが1番ええ。何も真正面から打ち倒すのが対人戦とちゃうし。前回に引き続き今回も立ってるから、やる気はあると思うんやけど・・・。

「一応聞くんやけど、にぃたん勝ちを譲ってくれへん？譲ってくれたら後でうちがええことしてあげるで？」

「未成年の君にそんな事をする気はないよ。戦って勝って本部長になってファーストさんと一緒に仕事して、コーヒーを一緒に飲んで食事を奢ってクリスタルを渡して、何かあればすぐに駆けつけて・・・、君が副長なら俺は自由に動けるのかな？枷がなければ何時でも一緒にいられる。優秀な副長も探さないといけないのか。やる事は多いけどファーストさんの為、他はどうでもいいしさっさと勝ってしまおう。手間をかけるのも悪いし、時間を取らせるのも悪い。」

　ファーストさんの為なぁ・・・。まだブツブツ言いよるけど、そもそも何でこん人本部長なりたいんやろ？うちは住む所もネットカフェやし保証人っちゅうもんがおらんから、後ろ盾として1番確実なとこ選んだ。少なくとも、本部長なら未成年でも変な事されへんやろうし。そもそも16で出来る仕事て少ないからなぁ・・・。上へ行くにも学いるし腕一本ならこれしかないし。

「にぃたんにぃたん。それなら棄権がおすすめやで？そんなに尽くしたいんなら近くにおらんといかんよ？」

「それはそうだけど、肩を並べるなら本部長では？力がないなら尽くせない、ただ生きるだけなら意味はない。俺の基準はあの人だからね。なにが何でもあの人の所へ行く。」

　ええ笑顔でいい腐いよるけど、なんかずれてるし人の話きかん人なんかな？実況で話した内容考えたらこん人棄権した方が絶対メリットあると思うんやけど・・・。いや、ならそれをウチが指摘して納得させれれば丸く収まる？ファーストさんには悪いけど、ここで決着つけれればみんなハッピーやし。ブザーが鳴って開始位置へ。隠密状態で辺りには色々とデコイを出して退路も確保。さて、説得と行こか。

「ファーストさんと働きたいんはええけど、本部長にならんでええんとちゃうー！？同じ立場やと遠慮されるでー！」

「遠慮なんてとんでもない！どんどん使ってもらっていたい！俺は彼女の為なら何でもする。俺と彼女の間には今日もゲートの壁がある、彼女が分かってくれるなら俺はルールの上では悪にでもなる。」

　なんか語りながら多分実況席？の方を見上げてる様やけど、このにぃたんウチの位置分かっとるな？まぁ、声も上げてるしバレん方がおかしいか。まだ、退路はあるしにぃたんの退路は遮断できてない。モンスターには効かへんけど、人なら言葉で縛れる。何となくにぃたんの行動方針は分かるけど、それなら上手い事使おうか。

　トロンプルイユであちこちに食いもん出してそん中にエコーボールを何個か仕込む。これなら声で位置バレもしづらくなるやろ。ウチは隠密のまま撤退経路を走って危ない所を躱してく。撤退は逃げ道確保って思うとる人が多いんやけど、うちから言わせてもらえば安全装置兼攻撃方法なんよな。

「ならやっぱりにぃたんは棄権せんといかんよ〜。本部長ってファーストさんも言っとったけどアホ程忙しいんやろ？会う暇ないでー。」

「それなら2倍3倍書類仕事をこなせばいいだけだよ。身を粉にして働けばそれくらい出来る。側で手伝えればこれほどいい事はない！」

　危な！あのにぃたんなんなん！？トロンプルイユは壊れへんのにボールだけ取り出して投げつけてきよった！一瞬撤退が警告してきたから良かったけど、警告と同時に目の前にボール投げて来るとかどんだけやねん！まだ、ウチの退路はある。そして、にぃたんの退路もある。もっと塞いで行こか。

「にいたん、本部長成ったらどこかに飛ばされるで〜。そうじゃなくてもファーストさんの近くにはおられへんでー。」

「それが彼女の意思なら甘んじて受け入れ・・・、ようとは言えない！俺は近くにいたいし養えるなら養いたい。反発するわけじゃないけど、奉公するなら物理的にも近くないと。」

(思うのだが棄権でよいのではないか？ルールにそれは明確に示されているし、吾としても側仕え出来るならそれが最善。)

(それは分かるけど、ここで棄権したら迷惑がかからないか？)

(迷惑かからないように棄権すれば良い。適当に戦いは敗れればいいのではないか？)

(いや、手抜きもバレないか？)

「にぃたーん。棄権せぇへんとウチが棄権して何なら本部長辞退して脱落者になってファーストさんの下で働く権利貰うでー。」

(・・・、青山よ脱落とはどうすればよい？)

(あの子の言うように本部長の辞退もしくは、全ての戦いに負ける事だ。)

(我々の目的、忘れた訳ではあるまいな？)

(当然！俺はファーストさんに尽す、探索者はあの御方の写身？であるファーストさんに尽す。他は不要。そうなると、本部長より脱落者の方が旨味がある？)

(旨味ではない！吾は思うのだ・・・。これはあのお方からの指示ではないかと。ここまで来て脱落者1名。その枠にお前が収めれば早期に試合は終了し、且つ我々はあの御方の元へ合法的に馳せ参じることが出来る。)

(なっ！この展開まで読んで試合を組み合わせて、且つ最速で終わらせる為に俺を第1試合に！？ヤバイヤバイヤバイ・・・！もしかして俺達は凄い失態を犯してるんじゃないか！？あの子の言ういいことって、あの子からのエッチぃ事じゃなくでもしかしてファーストさんからの優遇の事！？)

(なっ！それでは本当に我々は道化ではないか！あの御方は！うわっ！表情が能面？の様だぞ！これは道化を通り越して激怒されているのでは！？)

(脱落しよう！さっさと脱落して！機嫌を直してもらおう！)

「ウチなんか疲れてきたし、お腹痛くなってきたから棄権か辞退してしまおかな〜。」

「まて！俺はこれから先の試合全て放棄して脱落者になってファーストさんと同じ地元に帰るぞーーーー！！！」