201話 立ってます
忙しくて短いです
この戦闘はこの中で終わらせるはずが・・・
戦いは進み浦橋は勝ったし泰山も勝った。浦橋は相変わらずのパワープレーで真正面から治癒師を打ち倒したが危ない所もあった。相手は影縫をしていた治癒師だったので終始結合で間合いを詰めさせず持ち込んだ馬肉を増殖させて棍棒の様に叩きつけたりしていたが、浦橋の奥の手とでも言えばいいのだろうか?嬲られ続けて相手の油断を誘い、手足を結合して肉玉にして後は仕上げをしようと近付いた時に衝撃で皮膚が剥がれるのもお構いなしに戦斧を振り回しながら突進。
片腕を斬り落とされたが、拾って距離を取り腕を繋げて戦いを再開しようとしたさなかに、拾い溜めていたエピパンをフルスイングで散弾の様に放ちそのまま戦斧を盾に突進。相手も迎え撃とうと大きなメスのように見える薙刀を構えるが、戦斧と薙刀が当たった瞬間に相手の手のひらの皮ごと薙刀が真後ろに吹っ飛び、両手の指を失い増殖させながらインファイトに持ち込んだが、流石に分が悪い。指のない手のひらで結合を交えながらのトリッキーな接近戦だったが、カバーリングと衝撃で迎え撃ち、治癒師が衝撃そのモノを結合して殴りかかるも、同等の衝撃で相殺し離れたい治癒師と逃さない浦橋の図が出来上がって浦橋の勝利。
実際、治癒師が距離を詰めずに結合からの遠距離攻撃や毒を撃ち込んでの増殖なら、浦橋の負けがあったかもしれない。モンスターに効く毒なんて調合師でもない限り作れそうにないので、スィーパーとして毒を最初から戦略に盛り込まなかったのだろう。
泰山は浦橋とは逆に相当危なかった。初戦でボクサーと対戦した槍師と当たり、堅牢と衝撃を纏ったぶちかましを仕掛けようと動いたが、槍師の槍捌きが光りに光り堅牢も衝撃も穿たれてしまった。思うに泰山のウエイトが肝だったのだろう。ぶちかましに合わせて突き出した穂先は正確に額を捉えたが、泰山のカバーリングが間に合い脳までは穂先が届かなかった。ただ、穴の空いた額からは血が吹き出し視界を悪くした泰山が、ミドルレンジからの槍撃を張り手や猫騙しの要領で穂先を捉え何とか急所をカバーリングするが、身体のあちこちを斬られえぐられと、流れを相手に持って行かれここまであまりいいところがない。
実際、槍師は投擲もあるので距離を取ろうとも槍を投げてくるし、槍の間合いより先に入らないとダメージを与えられない。そして、槍師の試合運びはどちらかと言えば待ちが多く、打って出ると言うよりは後の先、カウンター狙いが多く泰山不利に更に拍車をかける。槍の投擲で膝も壊され、ほぼ万全な状態の槍師と泰山ではこのまま槍師に軍配が上がるかと思われたが、泰山が相撲を・・・。
力士としての矜持とでも言えばいいのか、腹に槍刺さろうとも、太腿がえぐれようとも止まる事なく頭を守りながらのぶちかましを敢行し、槍師は正面対決を控え避けながらの手堅い戦いをしていたが、泰山を飛び越えて着地後に背中から心臓を穿とうとした瞬間に、四股を踏みその衝撃で槍師の体制を崩し穂先より中の間合いへ。そこから先は槍師も短槍に切り替え泰山を迎撃しながら間合いを再度開けようとしたが、まさかと言うか、本当に奥の手とでも言えばいいのか、槍師が両手の槍で切り払いながら後に飛び下がり、土手っ腹が丸見えだがこれまで遠距離攻撃をしてこなかった泰山が、初めてここで盾の射出による遠距離張り手を行い、槍師は防御が間に合わず腹に一撃。これで骨と内蔵がイったのか血を吐きながら迎撃するもそれが響き繊細さが欠けた槍師の負け。上手く立て直せれば槍師が勝っただろうが、そこは勝負の世界なのでifはない。どの選手も負けても副長やうちに来ないかというスカウトが入りそうだ。
「激しい戦いが続きますねクロエさん。」
「そうですね、賭けの方も盛んな様で一喜一憂の声が聞こえてきそうです。実際、物販会場で取材している東海林さんからのリポートでは、動きがある度に大きな歓声が上がっているそうです。副長としてのスカウトの可能性もあるので、負けても腐らず前を向きましょう。」
副長に関しては個人任せなので本当にここはスカウトの場でもある。自分の戦闘スタイルに足りない部分をカバーしてくれる相手を選ぶもよし、書類整理や後方支援に強そうな技能を持った人を選ぶもよし。こればかりはこちらが指定するのは憚られる。何せ命を預ける可能性がある人だ。実際に戦いを見て後は本人と相談するしかない。
「さて次の対戦が始まるようですね。」
「晴れやかな笑顔が不気味ですね。」
見たくない青山が満面の笑みで立っている。何でアイツ今回は立ってるの?普通に這いつくばってろよ。それが多分構え何だと思うからさ。相手は魔術師:土だったかな?コイツも割と色々やらかしてたな。地面隆起させたりその時点で殴りつけたりと。
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晴れやか・・・、圧倒的晴れやかな!最終日まで真面目に戦いもうすぐファーストさんと、恐れ多くも肩を並べて働けると言う中で到頭写真集が手に入った!日頃の行いが良ければいい事がある。なら、真面目に戦いここまで来た俺にもいい事があってもおかしくない!探索者は早く写真集を見てあの御方の肖像を眺めたいと言うけど、それは俺も賛成する!早く終わらせよう!その方が相手も痛みは少ない。
モンスターは慈悲なく倒していい。それは彼女も言っているし、探索者の言うあの御方も・・・!ファーストさんの中にいる探索者の感じている人も同じ考えなので、何一つ躊躇う事なく実行できるし、人を集めてゴミ掃除するならスィーパーを助けながら行動しないといけない。当然の事だ。誰でも中位になる可能性があるのに、勝手に死なれては困る。その手助けの為なら死なない範囲で無茶をする事に躊躇はない。
あぁ、素晴らしい!何1つ権力や知名度もなかった彼女は2度もスタンピードからこの星を守り、スィーパーを着々と増やしていっている。やはり、彼女やあの御方という人に間違いはない。過去には戻れないけど、彼女の初めてを奪った橘?だったかには嫉妬を禁じ得ない!
(馬鹿者がぁ!あの御方が選ばれたのだ!お前の嫉妬なぞ木っ端!あの御方のする事は全て是となる!)
(それでも人は嫉妬を覚えてしまうんです!未熟だから仕方ないとしても、近くにいたいと思ってしまうんです!)
(ならばさっさと倒せ!我々の戦いであの御方のお時間を取らせる事は許されないぞ!そして、本部長?だったか、それになれば近くにおれるのだろう?)
(はい!同じ立場で一緒に仕事ができます!)
(うむ・・・?吾はこの星に疎いが判断を誤るなよ?)
「這いつくばる恐怖ねぇ・・・、おたく今日は立ってるけどいいの?」
「はい!今日は良い日です!速攻で済ませますがすいません。」
「いや・・・、自信家と言うかなんかおかしいと言うか・・・、頭は大丈夫か?よく寝たか?負ける準備は?その綺麗な顔がボコボコになって醜態を曝す覚悟は?構えじゃなく、膝が砕けて這いつくばって惨めに命乞いする姿を見せる・・・。」
「お心遣いどうも!大丈夫です!出来る限り痛くしませんから早く終わらせましょう。もうすぐ目的が達成できるんです!ようやく奉仕が出来る様になるんです。人を傷付けてはいけないと言われていますが、この大会のルールの中では仕方ありません。次会った時は仲間なので共にファーストさんの役に立ちましょう!」
「ファーストさんね・・・、強いのは多分強いんだろうがどんなペテンをしているのやら。確かにモンスターは強い。奥のものは取り分け凶悪になって行く。そして、彼女は自身をEXTRA職とこの大会で暴露した。言っちゃ悪いが俺は疑ってんだよ。何もかもが出来すぎてるってな。靴屋で新作のポスターも買ってみたが、そこまでカルト的な人気が出るものか疑わしいし写真集だったか?あれも買わなかったから中身は分からん。はっきり言えってしまえばジャンヌ・ダルクかなぁ?確かに職を使うのは上手いかもしれないが、そこまでの存在じゃないかと・・・。」
彼はファーストさんを信じてない?成る程。考え自体はその人のものなので仕方がない。しかし、探索者のボルテージがバチバチ上がっている。
(お前代わって!そいつ殺せない。)
(嫌です!代わったら俺がコイツを殴れない!)
気持ちは分かるよ探索者。身体の痛みを一時的に引き受けてくれたり、職の扱いのレクチャーしてくれたりするから、なんだかんだで一心同体。俺が死ねば別の人を選定するらしいけど、コイツを逃がすつもりはない。だって、コイツがいなくなる=ファーストさんに近付くすべを失うし、何より奉仕出来なくなる。
開始のアラームが鳴り響くと相手は開始位置に行ったのだろう。姿は見えない。しかし、顔も体型も分かっていれば捜索出来る。岩の後、魔術師は準備済みだろうけど時間が惜しい。探索者が言う様に時間をかけてはいけない。真っ直ぐに走り寄るさなか、岩が変形し剣山の様に襲いかかってくるが見れれば十分。
鑑定師と違って何かを使いこなしたり、はできないし見なければそもそもあまり効力を発揮は出来ないけど、こうもあからさまなら分かりやすい。岩が剣山にできるなら足の下からもそれができる。なら、跳ねながら向かおう。
「伸びで縛り捕まえ引き裂け!ロック・ハンド!」
言わなくてもいいイメージの垂れ流しどうも!画像収集やファーストさんの情報を仕入れる為に相手の情報は魔術師:土とだけ仕入れた。うん、それさえあればイメージの方向性は分かる。探索者が警戒はしておけと言うけど、人の持つ土のイメージは大体、大地、自然、変化球ならマグマや地震辺り。なら、どうにかなる。
前は剣山、跳ねる足元からはハンドと言いながら銀の・・・、箱と同じ様な素材の鋭い爪を備えた腕が伸びて来る。数で押すのか?多少なりともレクチャーを受けたのだからこれもどうにかなる。事細かにイメージを持つほうがいい場合と、漠然としたイメージを持つ方がいい場合がある。そして、俺の職で言えば抜き取りは漠然とすればするほど無理が押し通せる。
「その岩というか石って貴方のイメージで変化してますよね?」
相手は答えないけど、普通石はこんなに爆発的に変化はしない。なら、それはイメージによる変化。位の上がった相手だとかなり難しいけど、同じ下位ならまだどうにかなる。手早く!負傷したなら後から考える。生きているならそれでいてOK。先ずはこの相手にファーストさんの素晴らしさを信じさせてどんどんゲートの奥に入ってもらわないと!
前からも後ろからも何なら全方位から石の刃が飛び出でてくる。成る程、ハンドと言うだけあって握りしめようとしているのか。彼もいいスィーパーになる。刃の先に片手で触れ・・・、すぎて手の平が貫通したけどまぁ、仮想なので特には。痛みを訴えるけどこの程度ならなんともないかな?痛覚自体をかなり抜き取って痛みに対する耐性は上がっている。一応、適当な牛肉に抜き取ったモノを入れているので、食べたら元に戻ると探索者は言っていた。
それよりも今はこの手に刺さった岩からさっさと『操作』を抜き取る。やはりふがいないばかりに全ては抜き取れない!本当ならここで全てを抜き取って動かない岩に仕立て上げてそのまま相手を見つけて心臓か脳を抜き取ってしまおうと思っていたのに。
(遅い!もうそこに魔術師はおらん。さっさと捜索して倒してしまえ。あくまであの御方が敷いたルールは守るのだぞ?)
(分かっている!ルール内ならなんでもやってさっさと倒す!)
捜索開始!・・・?足音心音呼吸音、状況魔術行動空間から抜き取れる情報を吟味し相手の位置を確認していく。成る程、そこか。変形した岩の中。小さな空気穴を残し鎧のように岩をまとうか。でも、穴があるならそこを塞いでしまえばいい。
(さっさと空気?を抜き取れ。)
(目に見えないものは難しいんだ、ちょっとまってくれ。)
穴の位置を特定し手で塞ぐよりも先に岩そのものが蠢き出す。ウニの様に突き出される棘を後に下がりながら躱す。クソ、時間が惜しいのに邪魔だな。抜き取りで止められるのはそんなに長くない。何度も相手が体験すればそう言うモノと理解してしまう。それより先に仕留めなければならないし、何よりもう一方の試合は終わったようだ。情けない、彼女を待たせてしまう。よし、気絶しない程度のダメージは無視しよう。
伸びている棘は捜査線上にある。後から出ようと知見は広められた。穴の位置が移動する可能性もあるけど、先にその操作を抜き取り魔術師を阻害する。多分、これの次は対応してくると思う。抜かれた隙は更にイメージを重ねれば埋められる。魔術師ならその程度知っていて当然だろう。
穴の空いた片手は盾にしよう。中指と薬指は動かない。回復薬を使えば治るけどその時間さえ惜しい。モンスターの様に棘が触手の様に蠢き襲いかかってくる。避けながらの穴の位置を確認すれば棘に埋もれた奥。
(探索者、魔術はどれくらい止められる?)
(概算見積で10秒。いくら部分的に抜き取ろうと職そのものが無くなる訳ではなく、その部分を阻害しているに過ぎない。最初の3つは今のお前では相手に触れていなければ無理だろう。)
10秒。それが勝負出来る時間。戦闘を頭で組み立てていく。視覚情報もないのに岩の中からコチラを的確に攻撃してくるのは何故か?種を予測しよう。そもそも動く岩のイメージとはなんだ?




