197話 肉食系な嫁達 挿絵あり
コーヒーとタバコで一服していると高槻が戻ってきた。機器の操作は部下に任せているのだろう。タブレットとにらめっこしている辺り情報結果に問題でもあるのかな?ラボの中はかなり還元変換率は低くなっているが、紙ベースだと半透明の資料になる可能性もあるし、そんな物は見づらく何よりデータとして保存が効くならこちらの方がかさばらなくて済む。前の会社は何故か紙ベースで報告書を求められたがこちらの方が現代的だろう。
「彼・・・、藤 隆道選手でしたか。医者として話すなら彼は人を辞めている。」
「ふむ・・・、それは生物として成立しないという事ですか?それとも、何か他の要因・・・、例えば私の様に中身がないとか?ただ、卓と言う前例がある以上、私から言えるのは人という枠組みが曖昧になりつつある中で誕生した新種の生命体としてもいいと思いますが。」
ヒーロー状態とでも言えばいいのか、卓が変身している時にメディカルチェックをすると中身は高熱と言うか熱源しかない状態らしい。らしいと言うのはあくまで今の最新医療機器で読み取ろうとすると臓器や骨はなくマグマの様なモノが流動するだけとか。確かに、あの状態の卓は腕がもげようが首が取れようが動き続けられる。
ただ、それでもダメージと言うモノはあり、そのダメージとはイメージを削られたり否定される事。つまり、首チョッパ大丈夫!でも何回もチョッパされるのは勘弁な!という状態である。相当にしぶといが同時に対スィーパー戦術の煽りは割と受けやすい。それを乗り越える為に雄二と訓練しているが、大分様になってきているらしい。ただ、卓の場合解除すれば普通の人ではある。それはさておき藤と嫁である。普通に話し普通に返答する嫁達のうち1人はあの夜に見せられた人形だった。
法を破りまくって魔法で事を成せば、ひとの様なモノが出来るのか?ん〜、犬は犬にした。米国では蛆にもした。なら人形を人に出来るのか?仮にそれが出来るのなら公にするとどえらい混乱を招くよな・・・。クローンは法で禁止されている。なら、人でないモノから人を作れるのか?
古くは紀元前のエジプトでは人に似せてゴーレムを作り、額には真理を表すエメトの文字が刻まれ、メトになると死となる。ゲーテの哲学の子、ホムンクルスはフラスコの中で生まれる。そして最新の継ぎ接ぎの怪物、フランケンシュタインは死体を集めて電流を流せば出来上がり。古くから人は人を作ろうとしてきた訳だが藤の妻達は成功例になるのか?
ん〜、人とは何か?そこが始まりな訳だが何に重きを置くか?それが問題だ。形に重きを置けば人形も人になるし、思考して感情がある事に重きを置けば、AIも人に含まれるほどに進化してきている。藤の嫁達は話もすれば藤にご飯をあげたり身体を労ったりもしていた。まぁ、一旦高槻の話を聞こう。
「とても難しい話ですが、人としての骨格やハリボテの様な臓器は一応あります。しかしそれは人のそれでは無く有機化合物的な何かで、心音はパチパチと言う電気音。それに、写真で見た元の姿とは全く・・・、骨格レベルから変化しています。血液は人の血とは違い透明ですが成分分析結果が出ないとなんとも。ですが、多分絶縁体ではなくよく電気を通す液体でしょう。身体に柔らかさはありますよ?触診した感じ人と大差はありませんでしたから。」
「ん〜、話だけ聞くと側と中身が作り変えられたようなモノですね。一応聞きますが彼は死ねるんですか?後、彼が嫁と呼ぶ者達は?」
「死の定義がゲートが出現してかなり変わってきていますからね・・・。不死の方もいれば寿命の薬で先延ばしにする方もいる。クロエさん、そもそも死とはなんだと思いますか?」
ひどく哲学的な問だな。肉体的な死なら刺されても死ぬし、高い所から飛び降りても死ぬ。精神的な死なら深い悲しみで気力を無くしても死だろうし、単純に自我崩壊して自分を認識出来なくても・・・。蘇生薬には時間制限がある。ソーツは死を知らず休眠状態と定義した。そして、ソーツと職は別存在で魔女や賢者の話を聞くと、力関係では職の方が上。確かに凶悪な補助者でもいない限り人はモンスターと戦えないよな・・・。
多分、武器だけ渡されても最初の砲撃型に相当な苦戦を強いられる。いくら武器があろうとも、ビームを感じて握りつぶしたり回避するのはただの人には無理だし。まぁ、あれには一応砲門?があるので予測できない事はないが、犬が出たら対抗手段はない。
蘇生薬ってもしかすると気付け薬兼固定具?仮にソーツが死ぬとすれば精神的な死か或いは存在の消滅。そこに自我はあっても肉体はない。だからわざわざ回復薬を要求した時有機構成体を回復、復元と言ったのか。区分的には肉体は復元で精神や魂は回復と定義しているなら、死を休眠状態と定義しても仕方ない。自我が沈んで肉体も夢遊病でもない限り動かないのだから。
「休眠状態、或いは活動停止ですかね。交渉時ソーツは死を知らなかった。だからそう定義付けたんでしょう。」
「休眠状態か活動停止ですか・・・、確かに精神と肉体の関係から見れば死ではありますな。ただ、彼等の比重は精神方面に傾き、肉体は入れ物でしかないと思っていそうですが。」
「否定はできませんね、どうやら彼等も含め肉体は邪魔なモノらしいですから。まぁ、そこに回帰しようとしてどこやったっけ?と慌てる事もあるようですが。」
「なかなか興味深い。隠し事してません?大株主。」
「話す話さないは自由ですからね社長。検査はまだかかりそうですか?」
「前例がクロエさんしかないし、そもそもそれと同じと捉えていいかも分からない。健康状態だけ言うなら健康だとは思いますよ?BMIも問題なければ血圧や視力も良くなっているようですし。ただ、医学に真っ向から喧嘩売っているなら私は大人しく白衣を白旗にして負けを認めます。」
「それは困る。症例は多分2件だけなので、まだまだ普通?の人はいます。ただ、彼の状態を探るなら対話からでしょうね。少なくとも彼は何かをイメージしてこうなった。なら、大元はそのイメージと職の作用でしょう。付喪と魔術師:雷、私はフランケンシュタインを想像しましたよ。」
「次からカルテを作る時は何の職かまで詳細に記載してもらいましょう。回復薬が出回って医者の商売はかなり厳しいらしいですが、こっち見んなですね。医学会は脱退しましたからギルド側から通達して頂いても?」
「松田さん辺りに話を持っていきましょう。多分、こっそりと圧力かけて義務化されますよ。大きな変更点ではないですが、職特有の病と言うのもあるかも知れませんからね。」
まぁ、病と言わなくても力を持ったからとヤンチャしたいヤツはいるしなぁ。補助して潜った青山はそんなヤンチャな奴のせいで死にかけてるし。ただ、下手に扇動なんて使うとなにがどうなるかも分からない。戦争ダメとは叫べるが、なら代わりに話し合いを延々とするならいいが、駄目なら相手を元から断てばいいよね?なんて思い出したらそれこそすぐに核発射までありえる。
「終わったでござるよ〜。バリウムってやっぱり不味いでござるな。色々フレーバーがあるから試して見たでござるが。」
「胃の動きを抑制しないといけないですからな。先に胃カメラも飲んでいただきましたが、胃はそもそも動いてますか?」
「分からぬ。ただ、そろそろ嫁達が限界でござるから会わせて欲しい。」
「限界?」
「うむ。元より嫁達は人でなきモノ。故に拙者が偶像で人格をイメージしそれを被せ動ける様にしていたが、何分心臓の様な動力はないし、発声器官もない。しかし、それを補う電力を今は拙者が生み出せる。だが、蓄電する場所がない故電池切れを起こせば止まってしまう。」
「クリスタルリアクターは使わなかったんですか?」
確かに最初嫁達は喋っていなかったな。美しく恐ろしい程に精巧だったが、人でないと表す部分もあれば、顔に精気と言うモノもなかった。まぁ、それは人形なので仕方ないが、それを雷と言うか電力で解決したと。確かに電子の歌姫がいるくらいだから、空気を振動出来れば声を生み出すことも出来る。
「あれでござるか・・・、リアクターと言うよりクリスタルを使いたくなかった。使えば効率的なのであろうが、あれはモンスターの心臓でござろう?それを嫁に使うのは憚られる。故に骨格や神経的なものはゲート素材だが表面はシリコン等で限りなく人の肌に似せているでござるよ。」
職にテイマーは無いと思っていたが、造形師がある意味テイマー枠か。何を使役するかは別として、自身で仲間を作りそれと共に歩む者。宮藤も仲間と歩いているが、それとは本質的に異なる。宮藤はどちらかと言えば降霊術とか死霊術、或いは精霊魔術とか?まぁ、魔術師の説明自体イメージがあればなんでもありな所があるしな・・・。
「分かりました、奥様方を呼びましょう。」
高槻が藤の嫁達を呼びに行って連れてくると確かに、動きが悪いような気がする。足を引きずっているような、首がカクカクして眠いような・・・。そんな嫁達は藤を見つけるとそのまま抱き着いたりキスしたりと眼の前でハーレム的な光景が・・・。服の中に手を入れたりしているが、それって必要なのか?
「藤さん?いちゃつくのは後からにして、先ずは電力供給されたらどうですか?供給光景も差し支えなければ撮影させてほしい。」
「高槻殿、現在嫁達に供給しておるよ?蓄えるものがない故、嫁達は常に腹ペコでござる。魔術は難しく、今の拙者にはこれが精一杯の供給方法である。」
スマホのワイヤレス充電的な事?そっか、藤がハーレムを作っていると言うよりは、肉食系な嫁達が藤を食べていると・・・。服越しよりは直接肌に触れた方が供給率はいいだろうし、口なら水分もあるから更に伝導率はいい。
ただ、絵面はハーレムだな。代わる代わるキスされたり嬉しそうにキスを返したり、藤の手を取ってはそれを胸に押し当てたり・・・、サキュバスに囲われた美少年と言う線もあるな。嫁達に取っては今正に、最上級のご馳走を食べているんだし。はぁ・・・、俺も妻とイチャイチャしたい・・・。ただ、このままでは歩くR-18状態なのでまずはそこから対処しないとな。服も脱がされかかってるし・・・。
「はぁ〜、奥さん達を指輪に収納する事は?」
「本部長殿!それをするなんてとんでもないでござる!嫁達は生きているでござるよ!」
言っても聞かないか・・・。なら根本的な原因の腹ペコをどうにかするしかないが、それは訓練するしかないよなぁ・・・。一時凌ぎとして渡すか。このままここにいても仕方ないし。宮藤も一応魔法を渡す事は出来るようになりつつあるが、まだ完璧ではないし出来る様になるまで面倒を見るか、他の方法を取るか決めてもらおう。
「分かりました。どれくらい電力が必要かは知りませんが雷2〜3発分あればそれなりに動けるでしょう。さっさと蓄電器官を付けるか、さもなくばワイヤレス充電出来るようにして下さい。嫁を食べさせるのも夫の努めです。」
キセルを吸ってプカリプカリと煙を出して魔法を込めて珠とする。1人2〜3個口にでも投げ込めばいいかな?藤が糸を出せる様になって、その先にこれが出来るような状態となるのが手っ取り早く魔法から作成でショートカット出来ないかなぁ。元々藤のメインと言っていいか分からないが第1の職は造形師だし、なにかを作るには長けているだろう。
「おぉ!凄いでござるな!拙者もこれが出来る様になれば、嫁達を餓えさせずに済む。」
「そうですね。さて、検査等はいいとして藤さん。これからの事を話しましょう。現状、藤さんは失格扱いとなりました。ただ、中位である事は間違いありません。なので、このまま本部長に成るか或いは高槻先生の様にギルド協力者として一般人でいるかが選べます。」
「ふむ・・・、一般となった場合はなにか制約があるでござるか?」
「基本的にはないですね。ただ、職員なので当然ギルドからの指示や要請には応える義務があります。まぁ、内容次第では当然拒否も出来ます。要は会社員ですよ。流石に野放しにして街や海外で暴れられても困りますからね。藤さんの場合、中位なのでランクアップして副長に成ると言う選択肢もあります。」
「ほう、本部長よりも自由であるな。」
「ええ、権力的にはあまり高くはないですが、戦闘要員的な話をすれば奥にも行っているので後輩の育成とかの現場仕事がメインですね。勤務形態的にはノルマはありませんが、月にどれくらい仕事に出る等のシフトで動いてもらう予定です。ノルマと言えばそれがノルマになりますね。ただ、ゲート内で籠もったりすればその限りではありませんし、代休や年休はあるので緊急招集以外はそう言う生活になります。」
「成る程、では本部長は?」
「本部長・・・、正確にはこの後勉強会を開き終了後は各省庁、警察、自衛隊との連携を担うポジションで、その都道府県に配置されたギルドにおいて最大の決定権を持ちます。出土品の管理や警察からの依頼で犯罪者逮捕の協力、スタンピード発生時の戦力兼各方面と連携及び作戦指揮要員です。基本的にスタンピードはギルド全体で対応するので1人で何かすると言う事はありません。またギルド監査役などもいるので、不正してもバレます。ですが私腹を肥やしていいのでお金関係は割と潤沢です。まぁ、この大会の賭け金や出土品、武器を売っているのは危険な設計図を買ったりする為ですからね。法律関係は専門のスタッフがいるのでその方と連携になりますが、知らないでは困るので勉強して下さい。勤務形態としては基本的に週休二日制です。当然ですが招集の回数は一般人よりも多く仕事も多いですね。」
「・・・、盆と正月は?」
「仕事があればそちら優先です。」
「選ぶなら一般か副長でござるな。有明に行けぬ世界はいらぬし、何より嫁達と過ごす時間の方が大切故、正式に失格となろう。しかし、講習は受けてもよいでござるか?魔法を渡す魔法は必要でござるからな。金銭に関して言わせてもらえば、選手の時点で極貧はありえん事であろう。」
バブル期ならエリートで高収入はステータスとしてあっただろうが、今だと強くて戦えるの方がステータスになるのかな?高槻がそこまで戦えるのかと聞かれれば返答に悩むが、あの地雷を作れる時点で戦力外とは言えない。
しかし、新しい価値観と言えばいいのか、スィーパーの常識とでも言えばいいのか、自身の目標に進む中位を折り曲げてどうこうするのは厳しいしな。実際、俺がこんな事をしているのは家に帰って妻と過ごす為だし・・・。
「分かりました。職員兼副長枠として正式採用したとしましょう。」
「ならクロエさん私からも。」
「先生から?」
このタイミングでなにかあるかな?検査結果をまとめたと言うには早すぎるし、何か必要なものがあると言われても今すぐには用意できない。大会の進行状況も気になるんだけどな・・・。
「ええ、生産系の職に就く方達の相互組織を作ろうと言う話が今持ち上がっています。松田さんと話し合いをして装飾師の方の講習は聞いていますが、調合師や鍛冶師にはそれがない。なので、それの立ち上げをする予定です。メインは意見交換会となりますが、自分の目で素材を見るのも必要です。藤さんは元々造形師と言う生産系の職の方なのでゆくゆくはこちらに戦力としてもらえませんか?」
確かにノウハウとしての生産職の話は聞かないな。鍛冶師は講習に来てくれたけど、その後は政府子飼いでまたドッグ・タグ作らされているだろうし、調合師は高槻を始め薬品関係を作る方に走って行っている。装飾師も今のメインはインナー作り。戦えない訳ではないし、現に本部長候補の中にはその職に就く人もいる。ただ、圧倒的に入る機会が少ないのだろう。
外できっかけを得る事も出来るが、それを得たとしても材料が無ければ作れないし、その材料自体を見なければ使える使えないの判断もつけられない。例を上げるなら遥は中位だがゲート自体はそんなに潜ってないしな。しかし、生産系の職に就く人が集まったら何か悪魔的なものが出来上がるんじゃないだろうか・・・。装備庁ではないが、作れるから作りましたと言われるのが1番怖いんだが。
「それは構いませんが、くれぐれも手綱はしっかり握ってくださいよ?作ろう、作った、暴走しちゃった♪では目も当てられませんからね?」
「暴走・・・、斎藤さんは楽しそうですな。色々と作りたいものが多そうですが。」
「もしかして、斎藤さんのいる新しい部署って・・・。」
「ええ、装置の量産は元より防具や武器の整備に関するセクションですな。鍛冶師をギルドに配備するならある程度の技術やイメージは必要なので、そちらの方をメインにやっていただいています。」
斎藤がマッドな方に走らなければいいが・・・。う~ん、これ今渡して大丈夫かなぁ・・・。指輪の肥やしにするには惜しいが、渡してデビルガンダムとか作り出しても止めようがないんだよな。まぁ、元は輸送機の自動修復装置らしいのだが・・・。いや、渡せば橘の鎧が自動修復して更に戦いやすくなる未来はあるな。小型化出来るなら他の装備に付けて一般向けに販売すれば生存率も上がるだろうし。
「分かりました。私が口を挟むモノではないですが、心に留めておきましょう。代わりと言ってはなんですが、斎藤さんにこれを渡して下さい。」
「それなら彼を呼びましょう。藤君も会わせておきたいですからな。」
高槻が斎藤を呼びに行っている間に先に外に出て、千代田に電話リレーで繋いでもらい大会の状況確認。映像は後で確認するとして特に混乱はないらしい。ただ、藤の一件があったからなのか選手達の攻防が更に激しさを増しているとか。ラーメン屋は勝利し、相撲取りも青繋ぎも勝利、奏江さんも勝利して爺様も勝利。青山はまた今度は俺が見ていないと四つん這いだったらしいが、戦闘が始まれば頭を切り替えたのか無難に勝利。最年少チビッコも勝利してこれで38名か。次の次の試合で本部長が決定するな。




