192話 バトルロイヤル 終 挿絵あり
奏江さんは手堅いと言えば手堅い勝利だろう。情報を集め相手を探り出来る範囲で試行錯誤して相手を倒す。ダメージはあったが許容範囲。片手くらいなら回復薬を使えばくっつけられる。しかし、その札は切らずに自力で接合している辺り、温存を選んだのだろう。魔法職らしい。基本的に魔法職は難しい分、知識やイメージ或いは感性が物を言う。宮藤は卓には成れないが、卓もまた宮藤に成れない。それは使う人のイメージがかけ離れているから。
しかし、血を鉄にし電流流して磁石にし、後は固定して電気信号で細胞活性化して自然治癒力を高めるか。薬よりも回復速度は遅く、神経は行けるだろうが骨は微妙だと思うが・・・、あぁ、考え方の相違か。俺は腕を肉体として戻そうと考えた。しかし、彼女は動けばいいと考えた。傷口に見える黒い線は多分鉄とイオン分解した炭素かな?高圧電流を浴びれば人は死ぬが、その時必ず電気の出口が高温になり焦げる。そして、焦げとは炭で炭とは炭素だ。なら、必要な部分だけでも電気信号が通れば指は動くし、細胞を活性化させて皮膚を繋げるより手っ取り早い。
「魔術師がおじいちゃんを倒した!流石あの姿でこの舞台に立つだけはありますね!最強の魔法使いを模倣するなら敗北は許さないかぁ!」
「目指す目指さないは別として、魔術師はフリーダムです。ただ、自由には責任が伴います。知識を高め知見を広め、ありとあらゆる情報を集めて考える・・・。魔術師である以上、土台となる知識とは切っても切り離せませんし、常識に囚われては面白くない。」
「流石賢者様!と、網投げた人が這いつくばってる金髪の人を伺うように見ていますね。勝負ありでしょうか?あっ!網投げた。」
「サイコロステーキ先輩2号にはなりませんでしたね。ゴロゴロ転がって避ける辺りやる気は・・・、出さなくていい人ですねあれは。」
あのまま一撃死なら職員採用も取り消して放逐してやるのに!なれよ青山!やる気なんか捨ててサイコロステーキになれよ!青山!さっきまでなんか知らんが落ち込んでたんだろ!機器トラブルは聞いていないし、やる気ないならさっさと退場しろよ!
「あ〜、うん。あんちゃん戦える?トラブルで動けないならサクッと死んで欲しいんだけどさ。」
「・・・、俺は・・・、俺はなんでここにいる?」
「いや・・・、選手だから?嫌なら脱落して欲しいんだけど?と、よく見たらイケメン!どう?うちに婿に来ない!?今ならアタイと漁船と養殖場!何なら漁業権とかもついてくるよ!」
冬の日本海側はシケが多い。なんで漁に出れない時も多けりゃ収入も減る。ゲート様々燃料の重油が出るのはいいね。馬鹿にならない燃料代を野郎共と探し回ってたら、いつの間にか奥にいた。昔っから跳ねっ返りで親父が止めるのも無視してちびん時から船揺られ、漁に出ないなら素潜りで貝を取る。そんなんだから職も漁師なんだろうが、これが天職!外でも中でも使える優れもん。ゲートの奥には魚がいるらしいし、漁場にして卸したいねえ。若いの連れていければ儲からないって廃業する奴も減るだろうし。
「買えなかったんだ・・・、眼の前で・・・、売り切れたんだ・・・。3回戦目の選手は時間あるからって権利が・・・、なかったんだ・・・。」
「権利?あぁ、物販かい?ありゃ相当だったね。イワシの魚群かってくらい人いんのにだーれも喧嘩しない。まぁ、クロエちゃんの威圧動画は凄かったね。やらかしたら本当に何されるんだか。」
「やらかしたら会える?いや、その一目の為だけにその後を棒に振るのは・・・、いや、その前に目の前に並んでいた仮面付けた神父みたいな格好のやつ!」
「なんだい?やらかしたんなら通報しなよ?」
「・・・、振り向いて買った写真集を片手で胸に抱えてわざと見えるようにして1言『ユッエーツ』て言ったんだ・・・。」
「ユッエーツ?あぁ、愉悦かい?そりゃまた災難だ。明日か明後日買いな。と!そこぉ!」
楽だねソナー。気配がありゃ点で感じられるし、隠れてようが潜ってようが見つけられる。背後の・・・、ありゃ剣士かな?振り返りざまの銛投げは腹にぶっ刺さってそのまま縫い留められて、藻掻いてるけど銛ってのは返しがある。槍を改造してもらったが、全くいい塩梅だね。見える範囲なら取りに行かなくても指輪で拾えるし。わざわざ対人戦の為に血抜き出来るよう溝を入れてもらった甲斐があるってもんだ。無理やり銛をぶっこ抜いて回復薬を使ってるみたいだけど、その前に頭を撃ち抜いて終了。
手練れだろうが弾丸切るイメージがないならぶち当たるし、私の撃つ弾は遅い。水中銃ってのは普通の銃より弾速が遅い。当然さね、普通の速度なら海面に弾がぶち当たったら弾の方が砕けちまう。だから、こいつ等スィーパーの隙は突きやすい。野球のスローボールみたいに、タイミングがズレちまうからね。
「んで、あんちゃんどうする?そんままならぶっ殺して次いでに婿候補にしてキープするけど。」
「悪いが想い人がいるんだ。一目見た時からその方に全てを捧げて奉仕せよってイメージが常にある。だから、俺はその人以外と連れ添う気はない。」
「奉仕ってあんた奴隷とか小間使いじゃないんだから・・・。てか、それだけ思われたんなら相手も嬉しいだろうね。」
「ああ!そうだとも!照れ隠しの様に『消えろ、あっちいけ、姿を見せるな!夫婦の間に入ろうとするな!』と言ってもらえるし、この前は俺の容姿が悪いばっかりに海外での性転換を進められた。」
(あっ・・・、コイツやべー奴だ。本気で頭のネジ吹っ飛んでる奴だ。)
「そっ、そうかい?なら、婿候補から外しとくよ。それ・・・。」
『立たないのかい?』その言葉が続かない。口から血が溢れる・・・。四つん這いのあんちゃんはアタイの目の前に・・・、手?目が霞む・・・。胸が痛いイタイイタイイタイ!!
「ありがとう、よく好意は持ってもらえるけど毎回断る羽目になる。やはり彼女は正しい、多くの人を助けて潜ればそれだけ先が見えやすい。本来なら犯罪者のスィーパー以外になにかする気はないが、今回のルールは彼女も承諾してる。苦しめるつもりはないから、そのまま眠るといい。」
右手に赤い塊、あれは・・・、心臓?・・・、あぁ・・・、アレはアタイのか・・・。この胸の痛みは心臓を抜き取られた・・・か・・・。
「可哀想な事をしてしまった。最初から脳を抜き取れば何1つ感じる事なく楽にしてあげられたのに。・・・、彼女も見ているし、気持ちを切り替えて行こう。」
やべー青山は本当にやべー奴だった。犯罪者じゃないけどなんか根本的におかしい様な気がする。多分探索者なんだろうし、長々と喋って悪い訳ではないが対人戦とするなら、人と人が戦うなら忌避する部分と言うモノがある。例えば、そういう嗜好がなければ相手は甚振らないし、あったとしてもいつ襲われるか分からないので出来る限り早く始末する。う〜ん、暗殺を前提とするなら正解なんだろうし、ルールとしても何もおかしい事はしていない。ただ、何と言うか躊躇いと言うモノが欠落している様な・・・。
「赤い塊両手に持っていますが、ブツは分かりません!グロテスクな映像は加工されています。」
「手足切り飛んでますけどCGでーす。仮想なのでいいですが、本当にすると犯罪なので絶対しないように!寧ろ犯罪者は出頭して罪を償いなさい!時間的にはもうすぐ終了ですが・・・、調合師がかなりやらかしてますね。」
まずくはないよホントだよ?ただ、毒薬をマントで仰いで通路に流し込んでるだけだよ?エマもモンスター痺れさせたり出来るし、本当にモンスターって何なんだろう?一応、肉感的な所もあるしあっちの方がサイボーグと言えばサイボーグの様な・・・。
特に色もなく臭いもないだろう毒は気付かないうちに忍び寄り、今も槍師と剣士が激闘を繰り広げている所に忍び寄っているのだろう。その手前で泡拭いてぶっ倒れた人がいたし・・・。武器を打ち合う所に音を聞き付けた格闘家が参戦して、壁を走り天井を蹴り、それぞれ立体的に攻防を繰り広げているが、毒が回ったのか剣士が倒れ、残りの2人は反対側に離脱しようとしたが運悪く壁が出現。槍師が穿ち格闘家が力づくでぶち破って、人一人通れる穴を作ったが、格闘家が先を譲り穴を通り抜け様と急いで顔を出した槍師が、遠くに潜んでいたガンナーの狙撃で頭をぶっ飛ばされた。
格闘家の方が思慮深かったな。槍師の残った死体を引き戻して開けた穴を広げ、ギリギリ残っている死体を盾に曲がり角までダッシュして生き残った。他の所では治癒師と肉壁が不毛な戦いをしてるな。どちら共メイン武器がスーツや注射器と射程が短いが、既にそんな物は投げ捨てているのか、それともそれが出たからなのか治癒師は料理人の腕を使い本当に蜘蛛のようにシャカシャカ動きながら黒い糸で絡め取ろうとしている。
赤峰も井口の槍を使ったりしているが、鑑定師でなくとも武器は使える。ただ、それに熟達する為の練習が必要で、鑑定師は鑑定さえしてしまえば問答無用で扱えるという長所がある。橘曰く、エコーボールも使えば直に灰色になったとか。まぁ、余り使わないと黒くなるらしいので、メインウエポンがやはり一番寄り添ってくれるのだろう。
そんな蜘蛛型治癒師の相手をする肉壁は抵抗メインなのか、変化するのは片腕のみ。ただ、糸が当たろうが串刺しにされようが一瞬血は流れるものの直に塞いで伸ばした腕の先から銃で発砲。治癒師が肉壁を糸で絡め取って壁に叩きつけて結合しようとするが、その戦法は知っていると言わんばかりに結合に抵抗しスライムの様にドロリと抜け出し、そのまま攻めあぐねる治癒師を羽交い締めにして窒息させて勝利。肉壁笑えないな。
どの職にも言えるが得手不得手はある。特にモンスターと戦うなら治癒師や調合師は決め手となるものが少ない。しかし、今回の大会を見れば何をどう考えているのかは別として、可能性は広げられる。資金集めもそうだが、米国の練度を見て常識の強さを知った。なら、ド派手にやればやるほど、その常識は塗り替えられるだろう。今の世代が無理なら、次の世代。そう、産まれた時からゲートがあって職を知る世代は更に変わった常識で動けるはずだ。
今回使ってるR・U・Rもスケールダウンして、一回ワンコインでゲームセンターに置こうかという案もあるくらいだしな。他国は知らないが、うちの国には年齢制限がある。逆に言えばそれまでは勉強してゲームして漫画読んで、人と対話して思い悩んでぶつかってと、準備期間と考えれば十分な年数だろう。それに、体験して成らないと言う選択肢を選ぶならそれはそれで仕方ない。やる前から諦めるのは愚策だが、リアルに体験して自分に向かないと考えるのならねぇ。ある意味、就職して転職するのと一緒。
因みに、草案ではスィーパーがR・U・Rを使うならギルド。そうでない人が使うならゲームセンター的なものとなるらしい。親切チュートリアルが付くみたいなので、ゲート開通組より次世代の方がいきなり職を使いこなせてる可能性もあるな。まぁ、スィーパーでない人は毎回ランダムで3つ出るらしいが・・・。
「ここで3試合目終了です!いやぁ〜、バラエティー豊かな試合でしたね。流石に対スィーパー戦術は出ませんでしたが、全ての試合を通して見どころが多かったと思います!」
「人のイメージを見る機会は少ないですからね。ゲート内は殆どパーティーで潜らない限り他人には会いづらい。私も見ていてそんな考えかと唸る所もありました。」
「見取り稽古ここにありですね!ではここでお知らせです。今会場はこの後、本日のハイライトを流しながら15時まで開放してあります。部外者の立ち入りは禁止ですが、撮影クルー等の関係者の方は機材整備はその時間までに終了して退出して下さい。また、物販会場の終業時刻は騒音等を考慮し18時までとしています。その後のお買い物については日本国政府特設サイトよりリンクを辿り購入して下さい。また、実況側がアップにして映した映像等もそちらのサイトに順次アップロード予定となっています。」
「明日は時間になり次第トーナメントが開かれまーす。遅刻した方は知りませーん。私は今日10分前に到着したのでギリギリでしたー。反省して時計増やしまーす。」
「アレはヤバかったですね・・・、空飛ぶ車はデロリアンや出土品の改造車ではありません。遅刻しそうになった私達です。お騒がせして申し訳ありませんでした!どのサイトを見ても空飛ぶ車の販売はないので検索しないようお願いします。ではまた明日!」
「選手の皆さん含めお疲れ様でしたー。」
どうにか開会から3時間の実況終了・・・。疲れた・・・。遅刻しかけたせいでケチがつきそうだったが、どうにかこうにかいい感じに終わったんではなかろうか?機材トラブルも聞かないし、選手が起きないとも聞いていない。東海林はレポーター魂なのか選手によく話しかけて中継を入れてくれたので、水飲んだりタバコ吸う時間も取れたし。まぁ、タバコやキセルは隠れて吸っていたのだが・・・。
「お疲れさま〜、いい実況だったよ。」
「クロエもいい・・・、棒読み?でしたよ。」
「それは仕方ない。写真集完売とか聞いてなかったし。それと、千代田さんどうでした?ブツは出ましたか?」
「お疲れ様でした。ブツは出ませんでした。室内隈なく捜索しホテルの人間全員に聞き取りを行いましたが、それらしき人物はいなかったと証言しています。他の部屋も捜索範囲を広げて探させましたが、盗聴盗撮の類は発見されませんでした。」
う〜ん・・・、本当に同時に遅れただけ?慌てていたが、状況を整理すると時計は全て同一時間遅れ。起きた時に目覚まし音は聞かなかったので多分鳴ってない。いや、そもそも望田の耳で聞き逃す方がありえない。そうなると、本当に故障?
(賢者、なにか考えられる仮説はないか?故障と切って捨てるには作為的すぎるんだが・・・。)
(時間っていうか、あの道具がズレた事?着目するならズレた時間じゃない?)
(30分ズレた事?ん〜、たった30分だしな。まぁ、その30分遅れたせいで今日はヤバかったが・・・。)
Q.30分遅れたらどうなるの?A.遅刻してヤバい事になる。大会が始まらないんだよなぁ・・・。俺が開会宣言しないと全て後にずれ込んで・・・、先送りになる?先延ばしにしても何れはしないといけないのだが、猶予は出来る。遅れる遅れた・・・、部屋の時計は・・・、アナログ時計は・・・。
「カオリ、確か腕時計はアナログだったよね?」
「ええ、デザインが好きで高いの買っちゃいました。本当はデジタルがゲート内ならいいんでしょうけど、最近は電波時計が多くて少しづつズレるんですよね。それなら、文字盤と日付、朝か夜分かればいいかなぁ〜て。」
「・・・、それ今30分遅れてない?」
「え?そんなまさか、枕元に置いて寝たんですよ?誰か来たならそれこそ寝てても分かります。・・・、あれ?ズレてる??」
・・・、すんげぇ嫌な仮説がたった。賢者はこの星で誰もが納得できる時間旅行が出来る事に驚いていた。時間や日時の事を話せば納得したが、こいつ等宇宙人と言うか宇宙生物?は星に住んでいるのかも怪しい。いや、宇宙空間に多分いるか、いた。だからこそ、時間と言う概念の捉え方が違う。ソーツもこの時間なら〜って最初言ってたし。
じゃあ仮に、本当に仮説だが密閉された個室の中、そこにある時計が全て30分遅れたら過去になるのではないか?外から見れば30分遅れていると指摘出来るが中にいる人はそれを知りようがない。その中で時計がズレたら他の時計を見て戻すが、元がズレているのでその空間の中はずっとズレたままの過去になる・・・。そんな無茶苦茶タイムトラベル体験した?
井の中の蛙大海を知らず。だが、大海は井の中の蛙を知らない。そして、現状俺の身体はそんな体験している・・・。俺の身体は巻き戻る。それはつまり、ダメージを受けた身体が元の固定された時間軸に戻るという事。
そして、それは今までは身体の一部だったが全身消し飛んでも元あった過去の位置に戻る。多分身体の中の終わりを固定する為だろう。常に始まりなら終わりはないのだから。そして、消し飛んでもまた、始まれば終点は先送りできる。巻き戻りとは、ロールバックとはよく言ったものだ。支障があれば支障がない所まで戻されるのだから。そして、これが起こった経緯は・・・。
(魔女さんや。つかぬ事を伺うが、アブザいる?)
(当然いるわよ?無知蒙昧にして白痴無垢。形も定まらずただ、キャッキャキャッキャとアナタとこの子の絵を見てる。いい子ねぇ?アナタの為に明日を終わらせようとしたのよ?何もなくなれば昨日も明日もなくなる。でも、貴女は今のそこにある。結果として先延ばしで辞めたみたい。良かったわねぇお母さん。優しい祈りで生み出して、優しい思いで願いを込めて。それがただモンスターを倒すためだけに願ったなら、これは掃除する者より醜悪だった。
外には出てないわよ?それをするなら、私達がアナタを起こす。無知蒙昧で白痴無垢なら暇な賢者が相手をするんじゃないかしら?ねぇ?)
(ちょ!押し付け!押し付けてる!)
(・・・、会えるのか?)
(ん〜、永遠とは言わないけど多分会えないわよ?だってこの子は常にアナタの先にいる。)
う〜む。自分で言うのも何だが不思議ボディが更に不思議に・・・。寝ている間に過去に戻されたと?大会そのモノは楽しみではあったが、開会宣言は尻込みしてたしなぁ・・・。仮に時間通り来てリハやって本番なら、緊張でえずきまくってたかも・・・。それを考えれば、結果として俺の為なのかなぁ・・・。
(取り敢えず魔女、対話できるならその子にありがとうと。そして、そこまでしてくれなくとも大丈夫だと伝えておいてくれ。)
(ええ、いいわよ。)
「取り敢えず、時計はいいです。多分、犯人をこれ以上探しても見つかりませんから。」
「それは防犯上看過できません。少なくともあのホテルに忍び込まれる事があったなら、警備を増やすかさもなくば何処かへ移るかしてもらわなければ・・・。」
もっともな事を千代田が言うが、それをしても多分どうにもならない。寧ろ、対処のしようがない。仮に成功しそうなのはスマホの目覚ましセットとか?今回はアナログ時計操作だから見逃したが、電波時計やスマホなら自動修正で正確な時間を知らせてくれるはず!流石に地球規模で時計いじるとかないよね?人工衛星だって飛んでるし。しかし、話の全容は掴めたし、魔女の言い分が真実なら俺の責任。・・・、ごめんなぁアブザ。やりたくないのは本当だったけど、それでもこれは誰かではなく俺の仕事だったんだ。
「・・・、やりたくなかった私の自作自演です。この件はそれで解決です。異議申し立ては受け付けません。」
「それを信じろと?」
「なにか見つけられたなら意見を覆しましょう。」
千代田と見つめ合うが、多分何を探そうが防犯カメラの映像を見ようが何も出ない。遥に話を聞かないとなんとも言えないが、多分時間か時計そのものかがいじられたのは日の出付近だと思う。あの時考えたのは子供が産まれた朝の事だったから、その瞬間しかアブザは知らない。
「ふむ、千代田はファーストさんのいい人だったのかな?そんなに見つめ合っては今来た私達がキスされる前に退散を選択する事になる。」
「ジョン、千代田は妻子持ちダ。クロエは不倫をする様な人でなイ。と、物販会場へ行くガ、まだなにか話し合いが続くのカ?」
ちょうどいいタイミングでエマとジョージが来た。これ以上話し合っても平行線で俺も真実を話す気がなければ、千代田も人を使って捜索しても意見を覆せる材料がなかったのだろう。まぁ、仮にあるなら最初からなにかあったと言うはずだしな。
「いえ、明日の打ち合わせでしたが終わりました。明日のモーニングコールはフロントから電話があるでしょう。それで、物販ってまだ売れ残りあります?」
「あー!それ私も気になってたんですよ!パワードスーツはいらないですが、何か音を伝えれそうな物ってなかったですか?記者の方が使ってたメガホンとか!」
マイクに向かってメガホンで歌うのはかなりシュールだぞー。まぁ、声量は上がりそうだが、その分音割れとかするんじゃない?知らんけど。
「現地販売品以外はネット注文が主ですね。売れ残りと言っていいのか分かりませんが、屋台関係はまだ営業しています。早々に売り切れた所と言えば、回復薬関係のブースが本日完売の札を掲げています。当初の混乱と言っていいのか、写真集のブースは販売開始と同時に売り切れました。・・・、第2弾とか作りますか?」
「嫌ですよ!よっぽど資金集めに困った時とかじゃないと嫌です!あの写真集だって1冊金貨10枚って言う高額ですよ?アコギすぎる商売はしません。」
1500円とか2000円でいいのだが、資金集めで高額に・・・。一応、一般人向けにはその程度の額でいいと言った。因みに、コピーするとお札に使われている偽造防止技術が発動するのだとか。まぁ、データ消去はしてあるので増刷は出来ないのだよ。売る前に俺自身が引き取ったものは黒歴史なので放出する気もないし、ご丁寧にロットナンバーまで振ってあるので、無理やり偽造防止を突破して海賊版が出ればある程度どこから漏れたかも分かるらしい。
変に厳重だが信長の茶の湯思想を真似してるとか?渡す領地も金もない。なら、茶の湯ブーム作って付加価値上げればいいよね?的な。松田の話に乗っかる訳ではないが、極々小数点以下の確率で設計図と交換・・・。いやぁ・・・。
「カオリ、エマ。設計図と写真集交換する?」
「えっ!いいんですか?何個と1冊ですか!?」
「カオリ、手持ち全部と1冊だろウ?確か3枚はあったがそれでいいナ。」
等価交換ですらなくなった!?いや、エマ!大統領の前!米国の発展!てか、ジョージはなんで笑顔で頷いてんの!?・・・、担がれたとか!?千代田は何も言わないし・・・、なんかカメラ構えてるし。えっ、本当に交換しちゃうよ?寧ろ、なんでエマはそんなに早く写真集欲しそうなの!?誰か止めろよ!
「え、え~と。どうぞ?」
「確かに、ではこれで今の手持ちは全部です。」
「私達では持っていても作るでもなく邪魔なものだからナ。これで米国に確認しているだけで4冊カ。」
「待ちたまえ大佐。」
おっ!流石にジョージは見逃さないか!うんうん!その対応!真面目な顔してるし、流石に国を背負うだけの人!2人のネジが弾け飛んでるだけで、常識人はここに確かにいた!
「私が1冊、君が2冊、最後の1冊を持つ者は誰だね?」
「はっ!ウィルソンであります!」
「あれか・・・、話によれば初期のポスターを保有し、販売前の写真集を保有し最後にはファーストさんに抱き着いたと言う、うらやまけしからん男だな?・・・、帰ったら他に隠し事がないか尋問にかけよう。」
違う!そうじゃない!ジョージがこっちを見てくるので取り敢えず腕組み。今どう考えても国家の財産になるモノを平気で俺に渡したんだけど!?えっ!重要性知らないとか、危険度を知らないとかは・・・、ないな。ペンタゴン漁った時に設計図の確認者として大統領のサインはあった。難しくて理解出来ないとかはないよな?
「ジョン?今の交換おかしくないですか?」
「ん?真っ当だが?」
「いやいや、国連がでしゃばる設計図ですよ!?価値に見合わないでしょう!?」
「なんだそんな事か。十分に見合うとも。我々はその設計図の品をまだ作れない。しかし、同盟国日本はその品をどうにかこうにか作れる。なら、我々はその作られた安全な品を買えばいい。ギブアンドテイクだとも。写真集も貰えたしね。それに、国連なんぞに渡すよりはファーストさんの所にある方がまだ安全だ。」
うわぁ~、パーティーの時に断らなかった答え合わせだ。個人として日本に来て飲み食いして、国として足りない材料を揃えられる可能性がある日本と提携する。どうせ、設計図の中身は知ってるんだ、なら1言『あの品作れた?』そう聞くだけでこちらの開発状況も何が作れるのかも把握できる。色々あって浅はかな問いをしたな・・・。
「日本政府としても設計図は出来る限り集めて、内容を確認していきたい。本部長として出土品である設計図の管理、大変お疲れ様です。」
言い逃れ出来ないタイミングで、言い逃れ出来ない理由を千代田がぶっこんでいた!設計図は政府送りにしたかったのに!前もブラックホールエンジンの設計図預からない?とか言ってたけど、本気で預けにくる気だ!
「それにいい実績が出来た。この映像は必要な部分だけ流しましょう。」
「ちょ!それは流石に不味いのでは!?」
「いえ全く。職を明かし、米国で強さを認識させ、中位の体術師とも渡り合って勝利できる人財。探しても見つかりませんよそんな人物。そんな人物が設計図を預かるんです。誰が異議申し立てをするんですか?現状より安全な保管場所を提示してから言って頂きたい。」
はっ、反撃が出来ない・・・。一般人としてその説明とテロップを付けられた映像を見せられたら批判出来ない・・・。どこかの国のトップが持つよりは、誰・・・、それこそ龍の巣に財宝取りに行って楽に帰ってこれる?と言う問をしたとして、死人が続出するからやめろと言うようなもの。この場合の龍は俺だ・・・。無いはずの胃がまた痛くなってきた・・・。
「ぶ、物販会場で気分転換してきま〜す。」
「あっ、私も行きます!本番ならではの品はやっぱり見ないとですね!何か面白そうな物ないかなぁ〜。」
「私も行こウ。どの道国のトップ、ジョンは視察する予定ダ。適当にお面を付ければいいだろウ。」
「うむ!祭りは楽しまないとな!あのパワードスーツはいくつか注文したが、他の技術の粋を集めた新製品は気になる。直に手に取り、自分で試す。どうしてもネット通販では使用感が違う場合があるからな。それに、日本人向けだと体格問題もあるが、私が使えるなら一目瞭然だろう。」
「私はこれから明日の調整があります。皆さんごゆるりと。」
千代田と別れ着替えて物販会場へ。昼はとうの昔に過ぎているがそれでも人は多く、しかし混乱はない。さてはて、どこから見て回ろうかな?
差し当たって半田の所でなにか摘みながら考えるか。




