187話 その男、大統領 挿絵あり
「協力感謝すル。流石にお忍びで来るにしてモ、ここまで堂々としていたら流石にバレないとは思うガ・・・。」
「まぁ、帰ってから発表するんでしょ?若返ったの。2度は使えない禁じ手みたいなもんですからいいんじゃないですか?」
「橘さんアレ、本当に?」
「ええ、本当にアレです真田君。私が米国に行った時点で鑑定されたか否かは闇の中。なら、怖がっても仕方ないと思い、直接来たと聞いています。実際、クロエ大統領の言う様に2度目のない禁じ手、それをここで切ったと言う事ですね。」
ジョージを連れて米国大使館へ。後の2人はSP兼撮影スタッフだが、大使館の別の部屋で段取りを話し合っていて、神志那は疲労がピークに達してダウン中。ただ、橘の後釜になった五十嵐は鬼軍曹かなにかなのだろうか?眠い、よし寝よう!ではなく、眠い、よし回復薬飲もう!その発想は社畜じゃないんだからやめなさい。ただ、話を聞くとアニメマラソンそして徹夜した真田が悪い。いくら健康に害がないからってあんまり無茶すると後が怖いぞ?
「ナチュラルに人を大統領呼びしない。それで?私は出迎えた後の予定は知りませんがエマが護衛と言う事でいいんですね?」
「そうダ。話を聞かされた時は私も頭を抱えたガ、ここまで変われば早々感づかれないだろウ。彼は私のインタビュアーとして日本に来たと言う名目でついて回るル。この事実を知るのはここにいる人間と政府の人間くらいダ。彼は私と同じホテル、横の部屋に泊まル。」
監視や守りはいいのだろう。エマなら感知トラップでも仕掛ければ外出の有無等まですぐに分かる。それにSPさせるならここまでの適任もいない。面倒があるとすればこの人が大人しく部屋に籠もるとは考えられない事。今も大使館に置かれた映像機器を弄くり回したいのか、キラキラした目で眺めている。
今見てるその機器、米国スタンピードをリアルタイムで情報共有する為に置かれた最新型だぜ?Wi-Fiを強化するには?周波数や他の電波と干渉しない電波を使う。まだ試作段階らしいが、ゲート内に作った電波塔は新しい周波数の電波を使い通信速度や環境があればかなりクリアなものになるそうだ。
それの試作品をスタンピードの時使い、タイムラグなしの長距離通信を可能にしたのだとか。ただ、試作品なのであるのはまだ数台。そのうち技術の意見交換会とかやるんだろうな。一般人が使うのはもう少し先になりそうだが、永年稼働する人工衛星プロジェクトもこの前JAXAが発表してたし、今まで足りなかったエネルギー分野も発展しだしたので、神志那ではないが本当に宇宙に飛びだしそうだ。
そう言えば、斎藤は正式に高槻の所の社員と言うか、なにやら新しく部門を作るとかでそちらに入る事になったらしい。元々声掛けしたのは俺だが、高槻としても鍛冶師の研究者が欲しかったらしくトントン拍子に話が進んだのだとか。米国工場1号の所長と言うか、主任研究員として山口を送るそうなので建築というか、設備メンテ関係を任せたいのだとか。
「うぅむ、メイドインジャパンが復活しつつある。エマたい・・・、ニコルソンさん秋葉原へいきましょう!靴に出土品に薬に電子機器!私も指輪があるから好きなだけ買って帰ろう!あぁ、後は目玉のポスターだ!」
「・・・、クロエ、橘。一緒に来てもらえるカ?国外持ち出し禁止品を買われても私では止められなイ。」
「私は生憎この後、真田君達を連れて千代田さんと話し合いです。互いを知らなくてもホスト国としては人の管理はしないといけないですからね。」
縋る様な目でエマが俺を見るが、俺が出歩くのも中々リスクあるんだぞ?大方ジョージを止めるだけの手がないのだろうし、そもそも自国のトップにNoを言える軍人はいない。付け加えるならエマも色々買っているが禁止品は料金払い戻し対応で済ませている。まぁ、買うよりも箱から出たモノの方が今は有用だろうし、講習会には第2職として鍛冶師を選択した者もいるので、政府子飼いの鍛冶師と一緒におかしな改造をしているのだとか・・・。
「はぁ、いいですよ暇ですから。それにスィーパーなら買った買わない問題がありますからね。それで?ジョン、貴方の職はなんですか?後、ポスターはありますがレプリカと今はロゴが入ってます。」
「レプリカ?オリジナルは?私の夢と希望と現実から逃避したくなった時に眺めるものは?やはり写真集を並んで買うか・・・?お得感もあるし、枚数が増えればそれだけ長く眺められる。職は・・・、済まないが有事以外明かせない。アキレス腱でもあるからね。」
要人ならその選択肢もあるか。命を狙われた時の切り札。一発逆転のジョーカー。その札は伏せてあるから有効なのであって、公表すれば対策を取られる。まぁ、その対策も完璧はないので後は出たとこ勝負でもあるのだが・・・。しかし、大統領まで入っちゃったかぁ。そのうち全世界大統領トーナメントとかしないかな?国同士のイザコザはトップの殴り合いで解決とか。
しかし、大統領もポスターと写真集を欲しがるのかよ。普遍的に変わらない容姿なので仕方ないが、そのうちお面でも着けて過ごそうかな。パピヨンマスクとか、鉄仮面とか?いや、手っ取り早くダンボールか茶色い紙袋でいいな。とりあえず、指輪には妻と行ったお祭りで買った狐のお面があるからそれでも付けとこう。
「分かりました、詮索はしません。それと、ポスターはエマが何枚か持ってるんで融通してもらってください。後、これとこれですね。インナーは明日にはフィットするでしょう。魔法はエマにもあげた隠れんぼです。アライルさんから散々映像は見せられたでしょう?緊急用で使って下さい。」
キセルを取り出してプカリと一服。そのまま玉にはせずに被せて纏わせる。ん〜、政治家のイメージのせいか、目立ってなんぼだろうから効きが悪いな。汚職とかしてれば逃げる・・・、いや、それも矢面に立って『記憶にございません』か『秘書がやりました!』と叫んでいるイメージがある。いや、政治家ではなくテレビクルーとして来ているなら、ハンターのイメージでいいのか。世界初映像を狙い草陰に隠れて、虎視眈々とその瞬間を狙うカメラマン。
「これで魔法が使える?お手軽だが派手さが欲しいな。前の会談で貰った魔法は派手だったが、ついに私が触る事はなかった。そもそも魔法はスィーパーでなくとも使えるのだろう?」
「なニ?そうなのカ?なラ、私も魔法の練習をすれば使えル?」
「それは勘違いです。米国にホグワーツがあるか、或いは魔法学院があって優秀な劣等生がいるならやれるんじゃないですか?粗方、私の玉を使って発動したからそう思ったのでしょう?あれの発動条件はなんの魔法か知っている事。そして、魔法であると認識している事。その2つが揃えば使えます。」
とても簡単で初歩的な道理。認識して使う。ただそれだけなら猿でもできる。あの時渡した魔法はパーティー用のクラッカー等。なら、一般人が使えなければ価値はない。まぁ、それでも知らない人からすれば『俺にも魔力が!?』となるのだろうか?ん〜、魔法使いたいならゲート入って自身の適性に祈ればいいよ?
「クロエの魔法が他よりも訳の分からない色をしているのはそんな理由か。どうせ毎回イメージを弄り回して切り離しているのでしょう?」
「さて何の事ですかね?米国スタンピードで人の魔法再現しようとしてゲロってたらしい橘さん?」
「ビーム無効はマストな魔法です。あれだけでもマスターできれば相当有用でしょう?結局蝶は良かったとして、その次で3号までぶっ壊されて生身でモンスターとリアクター爆発の恐怖と戦ってたんですからね!」
「ガチで危ないやつ!動力としては優秀でもぶっ壊れるとガチで危ないやつ!」
橘が死んでもいい訳ではないが、その橘が文字通り爆弾抱えて戦っているのが何とも。俺が煙の中で下層のモンスターと戦っている間、橘達は後続の中層付近のモンスターと戦っていた。総数3。雑魚も打ち止め状態で出たそれだったが、かなり曲者で中位でも下手したら死ぬレベル。事実、エマは腹を一部持っていかれたし、橘は完全再現しようとして吐いたり装備品の鎧が壊された。他にも兵藤は片足なくなったらしいし、小田は横に真っ二つになりながら結合して生き延びたとか・・・。
「そのリアクターとはそんなに危ないものなのか?うちでも運用検討してるんだが。」
「クリスタルリアクターは壊れると数キロ圏内が消し飛ぶっス!」
「中々クレイジーだな。分かった、運用しよう。」
「ジョンさんやるんすか?ガチヤバな話だったと思うんスけど。」
「ミスター真田。君は原子力をどう思う?」
「ん〜、あぁ!アトム会!確か32人のやつ!手塚先生をバカにしたような奴らっすね。違う名前つけろよ全く!」
「・・・、それは知らないが考え方は一緒で規模の問題だ。今なら核廃棄物もゲートに投げ込めば綺麗に無くなるし、箱から高純度のウランもでる。即死はないが回復薬を飲めば触っても助かる。しかし、何時までもそれだけに頼る訳にも行かないし、何より出土品としてそれが出るなら安全に運用する方法を定めなければ何れ大事故が起こるからね。」
「はあ〜、立派っスね。と、神志那が起きたみたいなんで行ってくるっス!」
「私も行こう。そろそろ千代田さん達と話し合う時間だ。警視庁へ送るから君と神志那君はそのまま仕事場に戻りなさい。」
「了解です。と、その前にファーストさん握手握手!」
橘と真田が出ていき残されたのはエマとジョージと俺。さて、秋葉原行きたいとか言ってたけどどうするかなぁ。今日外国人のお出迎えと言う事で着物だから若干動きづらい。早着替えしてもいいけど、着物って中にタオルとか色々入れるからあんまりやりたくないんだよな。
「さぁ!我々も行こうか!まぁ、私はカメラマン兼インタビュアーだから、行き場所の指定は出来ないけどね。」
「だ、そうですよエマ。このままここでくっちゃべってても文句は言われません。」
「やめておこウ。それをしたら『なら、私はカメラマンだから街へ行く!』ト、絶対言い出ス。素直に秋葉原に行って手っ取り早く帰る方がいイ。」
「はいはい。では私達も行きましょうか。」
エマの運転で秋葉原へ。着物なので見られるが仮面をしてるので大丈夫なはず!途中、辰樹の所で靴とポスターを買いスィーパー街へ入っていく。法律の整備が進み店頭に置かれる品は一般的な物ばかりで危険な物はなく、出土品や回復薬等はカタログ販売がメイン。前はスィーパーが多かったが今はスィーパーとスーツ姿の営業マンが半々といった所。まぁ、その営業マンも納品だろうが指輪からPCやら新しい商品のカタログを渡している。
前は紙ベースでのやり取りが多かったが、回線速度向上により殆どタブレットでのやり取りに様変わり。新商品もすぐとは言わないが、どんどん出てくるのでトータルコストを考えた時に印刷するよりも電子データでやり取りした方が早いし、差し替えも楽だしね。
「流石最初にゲートが開通した国!活気があって安全な取引がされている。ニコルソンさんどうです?こちらに滞在されて復興や新しい技術にふれて。」
「個人の感想を言うなラ、政府の打ち出した研究許可法案がやはり起爆剤だろウ。設計図で有用な物は試行錯誤されながら作られていル。圧縮装置だったカ?最近テレビで見た物だガ、水を圧縮してペットボトルサイズの物の中に30Lの水が入っていタ。まだ取り出しという面での問題があるそうだガ、これは間違いなく未来を作るものの1つだろウ。」
あれなぁ・・・、情報が欲しい企業と宇宙開発に使いたいJAXAがどっちが先に作るのか?そんな話をしていたな。米国に行く前に開封した箱から出たものだが、先に神志那が見つけたのが運の尽き。内容見て何が必要なのか?シミュレーションまでやって必要なモノを指定して作ってしまった。鑑定数国内最高峰はやはり伊達ではない。まさか出土品を鍛冶師にバラしてもらってパーツ取りして組み立てるとかね・・・。
「指揮官としての才能にその美貌、そしてファーストさんの友人、色々持ちすぎでしょう。このこの!よっ!ニコルソンさんの奢りでいいもの食べたい!」
次は昼飯か。大使館でエナドリ飲んだ分元気だ。まぁ、ちょうど腹も減った気がするし、どこかで旨いもんでも食うか。しかし、インタビュー慣れしていると言うか、いつもされる立場なのでする事を楽しんでいるのか。まぁ、ここまで板についていれば誰も彼を大統領だとは思わないだろう。




