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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 51 エマの米国内活動

「警衛、ここで待たせてもらウ。追って施設内に入る許可が出るだろウ。」


「はっ!その際はゆっくりして行ってください。遠路遥々米国よりお越しくださったのですから。」


「そうしたいのは山々なのだが人をまたせていル。」


 ゲート内自衛隊駐屯地についたが、流石に他国の軍事施設に勝手に入る訳にもいかない。お茶して待っていると言った老人は流石に帰っただろう。腕時計のストップウォッチモードで約8時間。途中休憩を挟んでこの時間なら飛行機より早い。それに、帰りは退出ゲートへ入ればワシントンD.Cへ帰れる。しかし、証明は何にしよう?流石に自衛隊の官品を持ち帰る訳にはいかないし、回復薬では指輪には入っていたのでは?と、勘繰られても面倒。モンスター素材は何処でもと言う訳ではないが、次の階層へ行ったのでは?と証明品としてはパンチが弱い。


 ・・・、割と物事を証明するのは難しい。眼の前の警衛兵士か或いは中野に証明を頼みたいが、アライルは面識がないので厳しいし、何よりゲート内には電波が届く届かないの問題がある、待っている間も何やら電波塔を建てている様なので、通信エリアが拡大はしている様だが流石に国際電話は無理だろう。


「上の者より許可が降りました。証拠品については半田さんの料理でどうか?そう仰っていましたが、どうでしょう?」


「ふム・・・、日本に問い合わせればそれで符号が取れるト?」


「ええ、見た目と味が違う料理数品なら、それで可能であるとの考えの様です。」


 ・・・、それを知る人間は少ない。多分クロエが一枚噛んでいるな。だがまぁ、それを貰えるなら私の溜飲も下がる。味を聞かずにアライルに食わせれば、さぞ面白い顔が見られるだろう。何せクロエでさえこれマジか!?という顔をさせたのだから、早々同じモノは作れない。


「分かっタ。それの受領と食事をして帰るとしよウ。でハ、警衛ご苦労。」


「はっ!大佐もお疲れ様です!」


 衛兵に敬礼し中へ。一度来たから構造はわかる。飯屋はラボ寄りにあるのでそこへ向かい暖簾を潜る。中は仕込み中なのかいい香りが漂ってるな。料理人の職に就いた上でわざわざ仕込みをする必要があるのかは分からないが、別にしたらいけないと言う訳でもない。


「らっしゃい!おぉ!米国の・・・、エマさんだったか。話は聞いてるよ!取り敢えず3品作ったからそれ持ってきな!」


「ありがとう半田。それと飯を頼ム。そうだナ・・・、トンカツは出来るカ?」


「出来るからちょっと待ちな。センセも来てっから暇なら話すといい。」


「センセ・・・?おォ、ドクター高槻!この度は米国兵士を代表して感謝ヲ!貴方の薬で多くの兵士達が救われタ!」


 入ったばかりで気付かなかったが店の奥、端っこの席に高槻が座っていた。お礼を述べるがちょうど料理を口に入れたばかりだったのか、片手を上げるにとどまる。ここで会えたのもなにかの縁だ。ここと米国建設予定地が往復可能と話してしまおう。一度渡米する手間はあるが、把握してしまえば米国からの緊急脱出にもゲートは使える。


 高槻含め回復薬を製造出来る人間の価値は計り知れない。それこそ、何人兵士が傷付こうともその1人さえ守り抜き、薬を製造さえ出来れば復帰してまた戦える。ゲートを旅する者にとっての生命線であり、これから先米軍を鍛える為の足掛かりとするなら意地でも守り抜くに値する人物だ。


「食事中に失礼。先ずは亡くなった方々にお悔やみを。回復薬の効果が足りずすいません。」


「そんな事はなイ。薬がなければ更に死亡者は跳ね上がっていただろウ・・・。」


「それはそうなんですがね・・・、エマさんはクロエの持つ薬を知っていますね?」


「上3つと言うやつカ。」


 配信でクロエが要求したとする物。使ったとは聞いていないし、ゲートから発見されたモノを探せばギリギリ真紅が見つかるくらい。その上の黒と黒い中に光を宿すものはない。まぁ、現時点で言うなら足りなければ本数を揃えればいい。高槻の作る回復薬もかなり精度は高く、無くなった指が生える事はないが、切断されたのなら振りかければくっついて動かせるし、腹が裂けていてもそこに振りかければ傷口は塞がる。どちらかと言えば液体包帯兼細胞活性剤。当然だが、飲めば体内の疾患やウイルス性の病、体調不良はすぐに回復する。


「ええ、私の最終目標はあれです。アレの一番上。色々とゲートが出現する前に見て回りましたが、私は薬で多くの人を癒やしたい。別に崇高な目的がある訳じゃなく単純に助けたい。だからこそ、今回の生還者より死者に目が行くのでしょうね。」


「その考えはやはり立派だと思ウ。米国の医療は逼迫し下手に医者にかかれバ・・・、それこそ保険に入らなければ虫歯でさえ破産の恐れがあル。そんな中にこの薬ダ。私含め米国は貴方の功績を大いに称えるヨ。」


 事実、スタンピードの時は大いに助けられた。クロエの食べ残しを処理した後、再度現れた中層のモンスターは強かった。それを倒す過程で死ぬ兵士もいれば、回復薬で永らえる兵士もいた。私自身も反応装甲毎腹の一部を削られ、宮藤が駆けつけるのが遅ければ死んでいたかも知れない。


 クロエが夏目と小田を指名したのは正解だったのだろう。高槻作成の回復薬で命を永らえ、その後二人に助けてもらった。中々不気味な治療風景ではあったが、それを差し引いても即時復帰出来るほどの治癒や、内蔵の一部を削られても動ける薬と言うのは戦場ではありがたい。


「ありがとうございます。と、そう言えば米国側とこちら側でセーフスペースに違いはありましたか?」


「いヤ、なかったと思ウ。私が見た限りなので正確さはないガ、少なくともおかしなものはなかったと記憶していル。」


「そうですか、なら施設の稼働後もスムーズだ。問題はここと米国の行き来ですな。」


「それは問題なイ。私は馬で米国からここへ来タ。クロエか政府に聞くといイ、セーフスペース内の移動についての検証結果があル。」


「それはいい事を聞きました。クロエか直接政府に確認するとしましょう。では、私は食事が終わったので次もなにかあれば。」


「あァ、工場の件は宜しく頼ム。」


 高槻は話の分かる御人でクロエが融資するだけの事はある。人財か・・・。アライルも毛嫌いするだけでなく、ある程度の距離感で接すればいい関係になるのだろうか?今回の件は頭に来るが、それでもいずれしなければならなかった検証の1つだろう。早いか遅いかの違いはある。しかし、タイミングを考えるなら私が米国にいる間にしなければならない事。当然だろう。日本メンバーが帰った今、この検証を出来るのは私しかいない。私は軍人だ。なら、命令の1つとして笑いながらやればよかったな。


「へいお待ち!エマさんなんかいい顔になったな?」


「歳を食っても思い煩うと言う事・・・。だがまァ、それも私である証拠ダ。冷めないうちにいただくとしよウ。」


 トンカツを食べ箱詰めの料理をテイクアウトし、米国までのウーバーイーツ。豪華なものだな、アライルには何か旨いものでも明日奢らせよう。差し当たってパスタか?いや、ウィルソンの様にタコスもいいな。料理に付いては符号なので私は内容を聞いていない。同じモノを準備できるかは別として、日本政府とアライルが直接やり取りすれば済む話だ。ゲートから出てクロエに連絡を取り、明日には帰れる旨とアライルが職に就いた事を伝える。


 あちらはもう夜か。選出戦やスタンピードの会談を行った事が書かれていたが、二国間での情報共有は密に行われているので、今回については私の方が情報が早い可能性がある。ただ、最後の方に『勲章と私の写真集ならどちらが欲しい?』と書いてあったが、一体会談の中で何があったんだ?


「『写真集が欲しい。これから先、私は勲章を貰いすぎて重くなるから』と。ジョークなのかなんなのか分からんが、当たり障りなく返すならこれでいいだろう。」


 時間を考えると、待っていると言ったアライルは流石に帰っているだろう。飯と話し込んだ時間を考えると半日近い。その時間を何処かのカフェで待っているなら、ボケ老人と思われても仕方ないだろうし、何より店を閉めると叩き出されても仕方ない。ただ、時刻自体は21時。一応、ウィルソンに連絡を入れるか。しかし、貰った隠れんぼの魔法は有能だな、人混みの中でも追っかけに合わない。


「もしもしウィルソン?今帰った。ゲート内移動の事は聞いているな?」


「何の話だ?と、言いたいがお前を送り出したと聞いている。場所は知らんが検討は付くな。それで、局長は?」


「いや、お前が知っているだろう?私は約10時間前に別れた。」


「その話自体が初耳だ。俺はてっきりゲート内で職の検証をしつつ、お前を奥のセーフスペースへ出向かせて何らかの素材を回収させていると思っていたが?違うのか?いや、どこに送り込まれた?」


 ウィルソンが慌てているが、この検証の話はそこまで降りていなかったか。いや、そもそもクロエがぶーたれながら酒の席で話したもの。海外からも入って、そこへはじき出されるかの検証はなされていない。なら、私は馬で元の地点まで戻りそこから退出ゲートを目指すと考えられていた?いや、不合理すぎる。


 日本政府が米国に流した情報が確定情報のみとするなら、多分地続きであるという点だろう。それさえ分かればスタンピードが発生していても補給線が確保できる。逆を返せば補給線が確保できる事以外の不確定な情報を渡す必要性がない。なら、もしかして本当に何処かで待っている?


「話は後だGPSは?」


「待て確認する。・・・、ん?お前今どこだ?」


「ワシントンゲートだが?あぁ、クロエとこちらに来る時にGPSは切ったままだったな。それで?」


「ふむ・・・、お前がどちらを向いているか分からんが、位置的にはゲートの反対側、飲食店にいるようだ。」


「分かった、後はどうにかする。」


 スマホを切り探し出す。手がかりがなければ発見や追尾も厳しいが、概ねの位置が分かるならすぐだ。アライルをイメージし、極少ドローンに追尾させる。悪いが蚊の一刺しは貰ってもらう、これはあくまで感知式トラップと追尾の合せ技なのだから、最後はやはり攻撃判定を求めてしまう。


 飛び立った蚊程のドローンを感じながら歩き、アライルはすぐさま見つかった。1人飲食店の椅子に座り、何時から置いてあるのか分からないコーヒーを顔を伏して眺める老人。何と言うか、たった10時間で何があった?やつれると言うか、思い詰めると言うか・・・。


「戻った。帰っていなかったのだな。」


「あぁ・・・、お帰りエマ・・・。あの質問は中々老人には堪えるものだね。」


「ここで話せるか?」


「・・・、ここで話そう。私も職を色々弄くってみたんだよ。何せ教本はたくさんあるからね。それと、質問の意味も考えた。寧ろ、意味を考える方が長かったと言える。」


 付箋を1枚取り出して机と私と自分の椅子に貼る。それだけで音が遮断された。便利なものだ。似たような事は出来るが、労力が少ないのはいい。私も今度あの武器を探してみるか。貼り付くなら仲間達にトラップがあると警告出来る。


「それで?長く考えた末に意味は出たのか?」


「通知表だよ。私の人生の通知表。職には適性がある。そして、3つから選べる。私は浅はかにも芸が無いと付与師になった・・・。いや、気付かないうちに他の2つを拒否したのかもしれない。」


「拒否?サバイバーもスクリプターも十分戦える。そうでなくてもゲート外でも有用だが?」


「そうだね。だがそれが出た意味を考えると、自身の人生を振り返る事になる。この地位に就くまでに誰かを蹴落とし、生き抜いてきた。そして、それをする為には多くを記憶して管理する必要があった。そして・・・、色眼鏡を掛けてレッテルを貼った。それも、大衆に向けて分かりやすく誘導出来るようなレッテルを。」


 ドツボだな。私も長く狩人が出た理由を考えた。私の場合、他2つをまるっきり覚えていなかったが、それでも考えて対話して納得できる形を探してそれを見つけて、そしてまた考える。ウィルソンがずっと修行パートと言っていたがこれは多分、上位或いはEXTRAまで行かなければ終わる事がないのだろう。しかし、こいつをどうしよう?どうにか出来ない訳でもなければ、そのまま芽を摘む事も多分できる状態。


「振り返れば私の出た職は私自身だよ。若ければ他の可能性もあった。歳老いればそれしか残らなかった。本当に挨拶の様に聞くなら問題ないけど、その言葉に付随する意味を考え出すとスィーパーは難しい。」


 そろそろ泣き出しそうに見える。ドツボから迷子か。私も経験がない訳じゃない。あの過去と今を別けた領地、トレーラーハウスの幻影は私が死んで私が産まれた場所だ。そう、過ぎ去った過去は戻らない。だからこそ、道を探し至ろうとするのだろう。何せ、生涯を捧げるほどの覚悟なら、ちょっとやそっとでは覆らないのだから。


「そうか・・・、それで何時まで立ち止まっている?」


「立ち止まる?私は・・・。」


「自分のするべき事を・・・、成すべき事を考えろ。私も若返ったが元々先が見える歳だ。それでも進むべき道は心得ている。アライル・・・、アライル・グリィーディス。立ち止まっていていいのか?」


「・・・、・・・。」


 何かを掴もうとする手は空を切り、しかし、再度伸ばそうと手を開く。イメージが固まるのも行きたい先を考えるのもこいつ次第。残された時間は本来なら少ないが、今の世の中寿命は買える。まぁ、そうまでして成したい事があるかどうかが問題だが、私はただのうのうと生きるだけならさっさとゲートへ入り奥を見てみたいし、兵士達を鍛えたい。


 まぁ、こんな所でしみったれた話をしても仕方ない。必要なのは先で過去は置き去りにすればいい。その先に行く為にさっさと料理を食べて見た目と味を符合してもらおう。


「まぁ、飯でも食え。全て食べろよ?その料理と味が私が日本へ行ったと言う証拠だ。秘匿性を考えて私は食べない。」


「・・・、それは残念だ。とても美味しそうだけど、私だけいただこう。」


 箱から出てきたのは刺し身とマカロニチーズ。そして、包み紙に入ったハンバーガー。統一感のないメニューだが、見た目はどれも美味そうに見える。やはり指輪は有能だな。冷めているが品質が落ちたようには見えない。何せ刺し身はその身に水分と脂が乗っている事を伝えるようにプリプリとし、マカロニチーズはアライルがフォークで刺して持ち上げるがチーズは伸びる。


 一口、二口と食事を進めるがどんどん微妙な顔になっていく。マカロニチーズから刺し身をフォークに刺して食べるが、やはり顔を顰めて食べているモノを見ている。何度も何度も見比べながら食べ終え、いつの物か分からないコーヒーを飲んでは、それをやはり顔を顰めて眺め、最後のハンバーガーを食べると目を輝かせた。


「このハンバーガーは旨い。後の2品は毒殺を疑った。見た目と味を言えば符号になると?」


「あぁ、疑うなら日本政府へ。もしくはドクター高槻経由で半田と言う料理人でもいいし、エージェント千代田も分かるだろう。」


「分かった問い合わせよう・・・。荒療治感謝する。」


「いいさ、どうせこの符号も誰かさんの差し金だろう。大切なものは包みに隠すそんなユーモアだ。では、私は日本に戻る支度をするよ。」


 戻れば選出戦の準備か・・・。今回の件で注目度はかなり高い。何事もなく終わればいいが、あの国は誤情報を流しながらベールに包まれつつある。のんびりと観戦に回れればいいがどうなるやら。


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[一言] カロリーマシマシ、こってり濃厚クリーム風味な刺身だろうか
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