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街中ダンジョン  作者: フィノ


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182話 金継ぎ 挿絵あり

 生ラジオ放送・・・?ん〜、それはあがるあがらないの微妙なライン。台本を読めと言われてマイクを渡されるとやはり緊張はする。しかし、少人数で台本なく雑談するのならそこまで緊張はない。ん〜、割とラジオでフリーダムトークならいける?要は人の目、対面してから周りに複数人のギャラリーがいるという認識が駄目なのであって、普通に人と話しているなら大丈夫。


 まぁ、元々警備員で来客者の対応も普通にすれば、会社内で同僚と雑談したり宴会で酒飲んで話し込んだりもしていた。対人恐怖症ではなく、あくまで人前でなにかするのが苦手というだけ。どうしようもないなら暗示とかでどうにかするけどさ。


「すみません、私の落ち度です。まさか映像やスタジオでなければ大丈夫だという認識だとは思いませんでした。」


「いえいえ、それは仕方ないでしょう。私の配信では姿こそ出ていませんがリテイク無しの一発撮りで割とよく喋っています。姿やギャラリーさえいなければ大丈夫だと思われても仕方ない。まぁ、上が誰なのか?そこは知りたい所ですが既に後の祭りです。」


 東海林がオロオロし千代田が頭を下げるが、言葉の通り後の祭り。怒っても落ち込んでももうどうしようもない。何せ生インタビューなら多分、音声だけだろうとお茶の間に流れているんだろうし。しかし、かなり危ない橋を渡っているような気がするなテレビ局よ。ここで編集で消せるからいいよね?と、米国の機密とかペンタゴンでイタズラした事を話しだしたらどうするつもりだったんだろう?まぁ、そこは流石に千代田がNG出すか。


「東海林さんの言う上って誰ですか?増田さんは知ってます?」


「いえ、私も松田さんと黒岩さんに連絡を取って、松田さんから、ならテレビ局に部屋を用意するからそこでやってとしか連絡は受けていません・・・。まさか、上とは松田さん?市井ちゃんを政府のHPに起用したのも松田さんですが・・・。」


 千代田がブツブツ言っているが松田かぁ・・・。合法的に俺を表舞台に引っ張り出すとして、東海林はいい手駒だよなぁ。少なくとも約束と言うアドバンテージもあるし、今回の件で約束を守る事も証明された。前にアニメの市井ちゃんへ応援メッセージを送った実績もあれば、それがコンビニで流れた実績もある。


 つまり、東海林が知らない所で松田達が動いて巧妙にこの質問をしろ!やここを詳しく聞いて下さい。という指示を不確定多数に埋もれながら出来る。それに答えるかは別として、答えないなら答えないで何かしらの不味い事を知っていると思われても仕方ない。今回は米国の話と選出戦の進展くらいだったからいいけど、仮にこのテレビ局宛に海外からも質問が飛んできてたら更に頭痛くなるなぁ。アライルとか平気で質問送ってきそうだし・・・。


「あの〜、私は私の上司からしか連絡を受けていないんで込み入った話は・・・。」


「あぁ、東海林さんは推定被害者なんでいいですよ。お仕事お疲れ様でした。コンビニの張り込みは・・・、継続?」


「見つけないとインタビュー出来ませんからね!目撃情報次第では色んな所を飛び回る所存です。あっ!もちろんご迷惑のかからない範囲ですよ!」


 ガッツというか記者魂と言うか・・・。当然の様に大会当日も会場付近でウロウロしてるんだろうなぁ。中には入れないだろうが、物販会場で他の本部長達に突撃している姿が目に浮かぶ。


「分かりました、引き続き今の関係で行きましょう。さて、時間も時間なので増田さん行きましょう。」


「・・・、クロエがいいなら私からは何もいいませんが、よろしいのですか?今のままで。」


「ええ、防波堤と考えましょう。海外の方が直接乗り込んで来るよりはこちらのテレビ局に質問事項を集中的に集めて雑談がてらに話した方が気が楽です。なにせ、協力しない事は明言してますからね。」


 プカリとキセルで一服した後、テレビ局の廊下を千代田と話しながら歩く。相変わらず人は多くテレビで顔を見た事ある人達がこちらを見てくるので、居心地はよろしく無い。さっきすれ違ったのも大所帯のアイドルグループだったし、後ろをついてくるのはイケメン俳優と呼ばれている若者。


 お茶を持ったADらしき女性は走っていったと思ったら、お茶を持って走って帰ってきて、またお茶を持って走って行った。人に見られる事を仕事にし、それをサポートする事を仕事にした人々が集う場所だが、やはり俺には無縁だな。仮に勤めろと言うなら・・・。


「やるならカメラマンかADですね、その方が気が楽です。」


「止めはしませんが、どの道カメラに少しでも映れば引っ張り出されますよ?それに昔あったでしょう?テレビスタッフのみで構成された歌手グループが。それと、米国ではスタンピード前夜にもダンスを披露したと聞いています。下手な事は言わない方がいい。」


「それもそうですね。企画で短時間で何かを成功させろと言われても私には無理です。それに、ダンスと言っても適当にヒラヒラしただけですよ。なにか技をやれと言われてもムーンウォークらしきなにかしか出来ません。」


「変な所で器用ですね。宴会芸ですか?」


「そんなもんです。ポゥッ!この叫びはある意味、その世代なら絶対に何処かで口にしてるから伝わりやすい。」


 そんな無駄話をしながら車に乗り込む。ここまででサインや握手を求められ返していたので割と時間を食った。ん〜、握手券で握手をするような人に握手を求められるってなんだか複雑だな。まぁ、減るもんじゃないからいいし、お礼にシュシュやお菓子を貰ったのもまぁいいか。


「さて、ホテルに戻って一眠りします。明日は会談でしたか?資料は貰いますが読んでいるかは別です。相手は松田さんと?」


「黒岩さん、大井さん、私です。選出戦の最後の詰めと現状報告がメインですが、スタンピード関連と米国からの要請等の話が上る可能性もあります。まぁ、現時点ではゲートや対モンスターへの不確定事項ではなく、人がやることに対する対応なのでそこまで頭は痛くないでしょう。」


「了解です。それと、今回の生インタビューの件で松田さんが噛んでいたなら一言伝えてください。海外の鬱憤は東海林さんのインタビューで答えると。まぁ、読まれないなら知った事ではありませんし、噛んでないなら行き違い事故だったと諦めましょう。明日は何時頃来ます?」


「一応10時頃と思っていて下さい。何かあれば連絡します。」


 そんな話をしながらホテルで分かれ、かなり遅くなったのでそのまま適当に服を指輪に収納して下着のままベッドイン。時差ボケってするんだろうか?まぁ、目覚ましも9時頃にセットしたし起きれない事もないだろう・・・。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「それでここに来たと?」


「いや、来る気はなかった。寧ろ、意識飛ばして寝たかった。と、言うかどんな状況?モニターバッキバキというか、ガッツリヒビ入ってるんだが・・・。」


「忘れた?魔女がコード使おうとしてヒビ入ったの。幸い精神は無事だけど、その入れ物はこの有り様。なんで、僕がここでコードで包んでる。」


 精神体を攻撃も出来るコードで自爆しかけたのか・・・。いや、耐えれると踏んで魔女が使ったら触りでバッキバキになったと。あのヒビが入るような音は内から出たものだったか。しかし、これって治るんだろうか?一応3つあるモニターの内、バキバキなのは左側のみ。他の2つは無事に見える。


 悪態を付く賢者は椅子に座って、なにやら書類を読みながらキセルを吹いている。姿が悪ガキなので、シャボン玉でもして遊んでいるように見えるが、先からは煙が出てモニターに覆い被さっているので、キセルで間違いないだろう。


「それで、これは治るのか?早急に治さないとヤバいとかは?」


「左は知識とかが詰まった精神記憶だね。君達の身体のメカニズムで言うなら海馬って所で記憶する事になってるけど、それより深い所にあるモノ。言ってしまえば忘れたモノもそこから見つかる宝箱かな?早急に治す必要性は無いけど、勝手に治る迄には相当時間を要する。」


「ふむ・・・、治さない不便は?後、治すメリットは?」


 何もないならいいだろうが、なにかあるなら対処しないといけないよなぁ・・・。知識の記憶が弾け飛んだら白痴か赤子になるんだろうか?いや、そもそも溜め込む器がないと言う事は同じ所から動けないか、動き出したら止まらない?歩けるかは分からないが、目にしたモノを記憶出来ないなら同じモノが目に映り続けても違和感がない。ただ、家族や妻の記憶はあるので、それには反応を示す。どちらにせよよろしい状態ではないな。


「ん〜、僕達なら別に1つ潰れたくらいで騒ぎはしないけど、君達は3つしかないからなぁ・・・。可能性とするなら、不便は僕や魔女が表に出てもそんなに戦えない事とか?或いは、緊急時に下手すると更に悪い方向に行く。治すメリットは・・・、ん〜・・・、あぁ!1つある。君の練習だ。中層へ行くなら君が治した方がいい。」


「中層かぁ、行くには行くし治せと言うなら治すか。で、治し方は?すぐに治るものなのか?治そうとして。」


 深くはないと思うがヒビは、落としたスマホ画面の様にクモの巣状に入っている。破片がないだけマシと言えばマシだが、さてこれってどうするのがいいのだろう?回復薬かけときゃ治るってもんでもないようだが、2人が表に出られないのも困ると言えば困る。少なくとも、今回は3人で連携したし身体を使ったのは魔女だ。これを別の持ち回りでこなせと言われると、少なくとも俺は魔女ほど戦闘を楽しんでモンスターを倒せない。中層へ行くなら治さないとまずいんだけどなぁ・・・。


「治し方次第かな?僕だって治すのは初めてだ。治るまでは放置で事足りたからね。さて、治すならなにからしようか?君の思い浮かべた精神モデルはこの映画館。治しやすい形に変えてからやるのがいいだろう。」


「治しやすい形に?一回溶かして再度構築するとか?」


「それは駄目だ。形を変えるのはいいけど溶かしてしまうと中身が漏れて霧散する。あくまで形状を変えるだけ。覆水は盆に返らない。多少ならフォローは出来るけど、全部は流石に取りこぼしがあるよ。」


「なら、この画面をそのまま形を変えるしかないと?加工しやすいようにと言われても、ヒビを離してはいけないのだろう?」


「いや、多少離すくらいなら大丈夫。寧ろ、そちらは歓迎するよ。君の場合コードが他の原生生物より馴染みにくい。コードへの対抗性だけなら他の中位の方が高い。何せ、君は中身が無いからいくら馴染ませようとも、実体を通して馴染ませるには限界があるからね。」


「なら、離して接着剤でくっつけて元に戻せばいいと?」


 話を総合するとそうなるよな?ガラス接着剤とかを使えば多少は後が残るがくっつきはする。その要領で離して接着剤を入れてまた戻せば形としては形成出来る。ただ、ヒビの範囲が広いので表から塗り固める方が楽かな?自分の精神の修理で楽をしていいかは迷うが、そもそもそのままでも戻る代物なのでだいそれた事は・・・。


「却下ね?美しくなさい?そんな手抜きを私は認めない。不出来だろうと、ボロボロだろうと、貴女が貴女のやり方で強度を増して作りなさい。私がコードやその他を使っても壊れない程度には。」


「うおっ!魔女か。いや、姫と呼んだ方がいいのか?」


「私は魔女よ。姫なんてものは存在しない。それは私とは別のモノ。再度言うわ。美しく飾りなさい?」


 言うだけ言って何処かへ行ってしまったが、綺麗にしろねぇ・・・モニターを綺麗にするなら掃除とか?いや、形は変えられるのか。溶かすのは駄目だけど、少しはヒビを離しても大丈夫。粘土細工とは言わないが、何かが詰まっているモニターねぇ。液晶モニターは液漏れしたら使えないし交換しかないだろうけど、それ以外で綺麗に治す方法を探すしかないのか。いや、美しくしろって事は飾れって事なのかな?


「取り敢えず、接着剤はなんでもいいのか?」


「さぁ?それもまたイメージだ。何をどうすれば壊れたモノが綺麗になるのか?或いは魔女が言う様に美しくなるのか?少なくとも、美的感覚は君達と大体同じだと思っていい。本来は全く違うけど、僕達はあくまで君の中にある職だからね。」


「ふむ・・・。美的感覚は概ね一緒。いや、俺はドレスとか着ないしシンプルな方が好きなんだが!?」


「それとこれとは話が別。はっきり言って君達は僕達からすれば全て同じに見える。なら、その中で目立つなら他と違う事をするのが手っ取り早いだろ?女性は着飾る。なら、それは美しく妖しく、惹きつけて離さない。原生生物を従えるにはちょうどいいだろう?元々君の作られた身体は原生生物には美しいと感じられるからね。無意識にフェロモンも出てるんじゃない?魔女は第六感も担ってるんだし。」


 人を呼んでくるよ!掃除人増やすよ!そうは言いましたが旗印にされています。誘蛾灯ではないので集まらないで下さい。寧ろ、他のモノに目をやって、こっち見ないでくれるとありがたいです。魔女の要望でドレスを着る事をやめていいでしょうか?今の賢者の話だと、ゴスロリ服は魔女のやる気と他の人を呼ぶ以外・・・、モンスターを惹きつけられるならそれはそれで使い道があるのか・・・。賢者も身体は美しいと太鼓判を押されたし。フェロモンってなに?脇とか臭う?体臭はかなり嗅がれたが・・・。


 違う、今はそんな話ではない。このバキバキの精神の入れ物をどうするかだ・・・。入れ物か。なるほど、入れ物か。その形状に出来るならやり様はあるし、それなりに美しくも出来る。まぁ、その後モニターとして使えるのかは知らないが、少なくとも修復して馴染めば大丈夫なのかな?


「賢者、このモニターって壺とか花瓶とかに出来る?」


「外見だけなら如何様にも。言っただろ、大切なのは中身であって外観は好きに変えられる。あくまでこういう風に見えているのは、君が走馬灯を見るならこの形と考えたからだ。」


「分かった。なら壺にしよう。ついでにいるなら魔女も手伝え。1人じゃ手が足りん。」


「・・・、いいのかしら?私が貴女の精神に手を出しても?」


「外観だろ?美的センスが一緒なら大丈夫だろう?治し方は金継ぎでやる。」


 壊れたものをより美しく!なら、この技法かな?強度は元の壺として使えるくらい回復するし、見た目も最後に金を使うので華やか。前なら金とか触る機会もなかったが、今は金貨を触りまくっているので、色にしても形にしてもイメージがしやすい。下地は漆を捏ねたモノだがそれは金で覆い隠すので大丈夫。・・・、漆って確か黒い樹液だったよな?取り敢えず、黒くて粘っこいのならいいのかな?隠れてそこにはあるけど覆い隠されて見えないものだし。


「取り敢えず金貨を粉にして、接着剤は有って無い様なモノだからそれで代用しよう。」


 おぉ〜、イメージとは言われたけど金粉は出てきたし、なんか半透明なモノも出て来た。掴むと割とプニプニして赤ちゃんを触っているような感覚。あんまり強く掴むと無くなりそうだし、置いてもなんだか蒸発しそう。事実、少しは消えていっているような元に戻っているような・・・。まぁいいか。手に吸い付くなら精神の壺にも吸い付くだろう。


「君・・・、それでくっつけるの?本気?」


「ん?取り敢えずくっつけて金粉で仕上げれば金継ぎのはず!全工程を詳細にやれとは言わんだろう?なら、材料はこれでいいしさっさとくっつけてしまおう。じゃ、壺よろしく〜。」


 賢者にそう言うと割と大きめな壺が出来た。高さは2mくらい?反対側で作業されれば俺からは見えない。しかし、俺の記憶がその程度に収まるというのは少ないと嘆けばいいのか、多いと驚けばいいのか迷う。まぁ、形状が変えられるなら大きくも出来れば小さくも出来るのだろう。上は届かないので、必要なら小さくしてもらえばいいし。 


「底にヒビ入ってるとか無いよな?流石に下からくっつけて行って最後に土台を治せと言われてもズレたらどうしょうもないぞ?」


「それは大丈夫。出来る限り修復しやすいような形にした。と、いうか魔女ならもっと上手く出来るでしょう?」


「出来るわよ?花束とかにしても良いならそうするわ。」


「散りそうな見た目はよしてくれ。花束とモニターなんて過去を悲しむような構図じゃないか。治したらまたモニターに戻すとして、どれくらい離してもいいんだ?」


「多少隙間を広げて君の言う接着剤を押し付ければいいかな?」


「分かった、呼んだうえで言うのも何だが変な事はするなよ?絶対にするなよ?」


「しないわよ?ただ美しくするだけ。」


 ペタペタ・・・。接着剤はよく馴染む。俺がイメージしたものだからだろうか?ヒビをくっつけては金粉をふりかけて、クモの巣状のヒビが金の筋へと変わっていく。美しいか否かで言われると、ちょっと華美すぎる?ん〜、他にいい治し方も思い浮かばないし、このまま続行しよう。起きるまでに間に合えばいいが、駄目ならまた今晩もかな?


「そっちの進捗は?」


「・・・、・・・!・・・〜♪」


「おい・・・、おーい。答えろよ〜。ダンマリだと怖くて仕方ないだろう?」


 返事がない。反対側を見ようとすれば、賢者が通せん坊する。ガバディカバディカバディ・・・、いやいやいや!俺の精神の壺!何してんだよ!寧ろ、なにかしてるんだろ!?えっ?実は精神引っ張り出そうとしてる?出たら記憶が飛ぶから流石に容認できないぞ!?


「通せ!」


「いや・・・、完成まで待った方が・・・。」


「いやいや、完成って言った?それって何かやってるって事だろう?通せ!」


「賢者、いいわよ?見られて困るモノでもないし。」


 魔女がそう言い賢者が道を開ける。本当に何やってるんだ?金継ぎだよな?確かに金で継いだら馴染むのか、色は金色ではなくなって普通に文字とか映像が出てくるが・・・。歩いて反対側に回り込むとなにやら固定されたように色というか、映像が動かない。まぁ、元々浮かんでは消える記憶なのでいいが、逆に消えなくてもいいのだろうか?回るに連れ全容は見えてくる。祭壇の様な蠟燭に黒い服、赤子を抱く・・・、俺?


  挿絵(By みてみん)


 黒いカソックに抱かれる子は誰か知らないし、俺は子供を産む立場では・・・。いや、あの時あの場で確かに俺はソレをした。形もなくすぐに消え、産む事ができたが産む事が出来なかった子。宗教画のようなテイストで描かれたそれは美しく、俺の画才では逆立ちしても描けない。


「いらないなら消すわ。」


「いや、残してくれ・・・。完成か?」


「さぁ?筆を置けば終わり。筆を持てば始まり。気ままに走らせれば線一本でも貴女達は芸術とする。貴女が見て完成と思うならそうなんじゃないかしら?」


「分かった、そのまま進めてくれ。」


 一本の線が芸術か・・・。俺にはその感性はないが、過去に青いキャンバスに白い線を引いただけの作品が44億で売れたという話を聞いた事がある。別に何か描く時にモチーフを決める必要性はないし、芸術は爆発もするらしい。だが、魔女がどう言う手順で描いたか知らない絵はたしかに美しく、そしてモチーフを感じてしまう・・・。魔女から離れて修復を急ぐ。まだまだ時間はかかりそうだ・・・。


ピピピピッ、ピピピピッ・・・。


「朝か・・・。」


 知ってる天井を見ながら身体を起こす。下着で寝たので肌寒いかと思ったが、暖房のおかげでそれもない。結局修復は終わらず後2〜3日はかかるだろう。まぁ、急ぎの用事は選出戦なので大丈夫だろう。


「おはようございますツカサ。疲れは取れましたか?」


「おはよ、お父さん。寝癖はないけどシャワー浴びる?それと、服出して?修復もするだろうけど、メンテ出来る所はするから。」


「おはよう2人共。遥すまん・・・。服は全部消し飛んだ。」


「うおっ!一応、あの時点では最高傑作予定だったんだけど・・・。よし、新しいの作る!中位にもなったし多分もっといいモノが出来るはず!と、言う訳で私は先行くね。そろそろ出ないと講師が遅刻は示しがつかないから。」


 遥がドタドタと出勤し、残ったのは望田のみ。さて、帰国メンバーは休みでいいのだが彼女はどうするのかな?俺は既に予定が立っている。そんな事を考えながらシャワーを浴び、身支度を済ませて朝食を食う。久々の朝食は和食メインで帰って来た事を実感させてくれるな。


「カオリの今日の予定は?」


「買い出しとゲートですね。米国で私物も含めて殆どの物資は使っちゃいましたから。備蓄の箱もないんで、殆どの米国行きメンバーは物資確保に走るそうです。ツカサはどうします?」


「私もそっちが良かった・・・、とは言わないよ!休んで!どうせ宮藤さんがゲート行こうとか音頭取ってるんでしょう?あんまり口出ししたくないけど、疲れもあるんだから休める時は休む。」


「そう言うツカサは休むんですか?」


「・・・、終了報告と本部長選出戦の会談・・・。」


「ツカサも休んでないじゃないですか・・・。まぁ、今回中層のモンスターと戦ったメンバーからの情報共有もありますし、米国で発表された猶予の件もあります。休みたいですが、守れる力を持っちゃいましたからね。では、私もそろそろ行きます。」


 望田も部屋を出ていき、ズズッと味噌汁を啜る音が部屋に響く。力を持っちゃった、か。そうだな。中層へ行けるのは今の所日本メンバーだけ。猶予は多分かなりある。ただ、それにはあぐらをかくわけにもいかないし、奥へも行かないといけない。やる事は山積みだが、出来る事から片付けていこう。そんな事を思いながら食事を終えた頃、ノックの音と共に千代田の声がした。


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[一言] 美しくとか言うからデコるのかと思ったら魔女が手ずから芸術品作りおった 個人の内面の「何か」なんだから性格とかに影響出たりして フェロモンかどうかはさておき嗅覚も刺激はしてるね
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