181話 やっぱりいるよね? 挿絵あり
「現場の東海林です。今!米国で発生したスタンピードに対応したメンバーが羽田に降り立ちました!国内外問わず他の中位本部長達も含め、今回のスタンピードについては彼等の貢献が大きいとされています!各報道陣も集まり現場は大混雑していまーす!」
「東海林さん、この後の独占インタビューも頑張って下さい!数ある報道機関の内、インタビュー権を持つのは貴女だけですからね!」
「一目見ようと集まった人混みに負けないよう頑張りまーす!!」
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「いやぁ〜、現場は凄い賑わいでしたね。」
「そうですね、現代の英雄達。元気のなかった日本がこれ程誇りを取り戻せる事も少ないでしょう。斯くいう私もポスターやフィギュア、縫いぐるみ買っちゃいましたよ!残念な事にポスターは初期ロットではないのでコピーのコピーらしいですが十分に綺麗でしたね。」
「初期ロットというとあの噂のあれですか、気になりますね。続いてはイギリスロンドンの金融街からのニュースです。金貨の価格に付いて正式な発表があり、1枚円換算で1万円という発表がありました。ただ、これについては国際金融機関全体で足並みを揃える動きがあり、完全決定にはまだ至っていません。ただ、金貨を統一基軸通貨にする動きもあり、国際取引の場で正式に認められれば今後、国同士での取引を金貨で行う動きもあります。宮沢さんこの動きをどう思われますか?」
「評論家と言う立場から言わせてもらうと、為替という言葉が消失しかねない動きですね。日本も含め投資家達からすれば1つ大きな仕事場を失う訳ですから、そうそう決定には従えません。統一通貨の下に基軸通貨を設定してもいいかもしれませんが、どの道そこには統一通貨という言葉がついて回り、更に言えばスィーパーでなければ儲けられない世界が広がる可能性もあります。」
「一般企業ではなく、一個人のスィーパーの方が行く行くは金融を左右すると?」
「否定はできませんが、産出量の問題で金自体の価値が下がってます。なので、ここで価格設定をしたとしてもインフレーションに突入する可能性もある。例えばファースト氏の個人資産を考えた場合ゲート内を自由に歩ける関係上、上限なく金貨を集められる。そして、溜め込んだそれを一気に放出した場合、経済的打撃は計り知れないでしょう。」
「世界を相手に妖精の様に飛び回るファースト氏。今後の動きにも注目が・・・、はい?はい!東海林記者がファースト氏のインタビューに成功しました!独占取材です!」
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羽田ナウ。ジョージが気前よくエアフォース・ワンを貸してくれたのはとても良かった。日本の政府専用機でも良かったが、うちの総理が先に乗って帰ってしまった為、それを待つなら更に1日そこいら待たないといけなかっただろう。まぁ、それはいい。時差考えても日本は22時頃。取り敢えずホテル帰ってシャワー浴びて寝ようかなぁと、帰国メンバーで話していたらマスコミと言うか人の山が空港のゲート付近に出来ていて、全員での写真を山程撮られた。今回はスーツなので良しとしよう。
まぁ、写真はいいよ。慣れたから。ただ、ここでと言うか約束を反故に出来ない相手も来ている訳で・・・。名刺を高らかに掲げ、ラグビーのセットアウトの様に持ち上げられた東海林とばっちり目があってしまったよ・・・。はい、インタビューですね、分かります。それ持って見つけられたら受けるって約束したもんね。
因みにエマの来日は明日以降になるらしい。本来は一緒に帰るとしていたが、ウィルソンとアライルにドナドナされた。なんでも今回のスタンピードの件で早急に訓練計画書を作り上げる為らしい。帰り際に山程マカデミアンナッツチョコと、なにやら大量に大統領からのプレゼントをくれたアライルが言っていた。
本人はうんざりした顔だったが強く生きろよ。帰ったら1杯奢る約束を果たしてやるから。帰り際にアライルと握手してニコニコしたウィルソンとは目があったので笑顔を返すとなにやらハグされたので、取り敢えず返しておいた。米国ではまぁ普通なのかな?と飛行機内で調べるとにっこり笑顔で目を合わせ、腕を伸ばすように距離を縮めてくる人は、ハガーと言うらしい。どこぞの市長と同じ名前だが、相手が異性でも同じ様な挙動ならOKらしい。
その後エマに蹴っ飛ばされて、アライルから射殺す様な視線を受けていたが、なんだかんだで気のいいおっさんだったので別にいいだろう。次会うかもわからないしね。と、話が逸れた。バスまでは警備員が警備してくれているので大丈夫だし、そのバス付近にはサングラスした千代田もいるのでいいのだが、ここでメンバーとは一旦お別れかなぁ・・・。
「橘さんや宮藤さんは先帰ってて下さい。約束が発動しました・・・。」
「約束?」
「クロエ、それは後に回せないものですか?私としては今からホテルに送り届けて明日の会談資料に目を通しておいてもらいたいのですが。」
「千代田さん・・・、それは約束を守るより酷なのでは?フライトして到着して今ここですよ?」
千代田が優しくない。まぁ、コイツとはビジネスライクな関係だ。変に優しくされたら調子が狂う。しかし、明日は会談か。本部長選出戦の詰めだろうが早めに終わる事を祈るよ。魔女や賢者に聞きたいこともあるし。いくら巻き戻って身体は元気でも丸一日ベッドでゴロゴロしたい時もある。まぁ、飛行機内で転がってたけどさ・・・。
「色々と話す事も多いんですよ・・・。それで約束とは?」
「名刺を持って私を見つけたならインタビューに応じる。東海林記者があそこで名刺を掲げてます。」
「あの方ですか・・・。インタビューの件は了解しましたが場所が悪い。一旦ここを離れ場をセッティングします。望田君も今日は先にホテルに戻りなさい。」
そう望田に言いながら、千代田がインカム越しに警備員達に指示を出している。降りても公安室長は伊達ではないか。一旦メンバーと同じバスに乗り込み途中の高速パーキングエリアで俺だけ乗り換え、連れてこられたのはテレビ局。えっ!今から生放送とかされる?それは流石に逃げるぞ!インタビューは承諾したがテレビ出演は知らん!
「逃走していいですか?テレビ出演は拒否します。」
「違います。単純に適当な場所がなくあちらからのオファーもあり、それならここでと言う事になりました。もちろんテレビ出演はNGとしてあります。因みに、ここ以外だと警視庁の取調室でしたが・・・、カツ丼があった方がよろしかったですか?」
「寧ろそちらの方が大歓迎でしたねぇ!カツ丼食べて無言で両手差し出しますよ?」
「何かしらの犯罪行為をしたと?」
「パスポートはどう考えても偽造でしょう、アレ?」
「まさか、両国が認めた正式なモノですから犯罪ではありませんよ。さて、冗談はこれくらいにして行きましょう。今回は私もSPとして同席するので、まずい話にはNGを出します。」
「了解です。スタンピード関連の深い話は無しにしておきましょう。」
そうしてテレビ局内へ・・・。めっちゃ見られてる。姿を隠す訳にもいかないけど廊下を歩くだけでめちゃくちゃ見られてる。何なら芸能人とかもウロウロしながらチラチラ見てくるし、アイドルとかもチラ見と言うかガン見してくる。個室はよ!既に帰りたい。約束の反故は意に反するが、それでも帰りたい。寧ろ消えたい。いや、消えて隠れる?
「クロエ・・・、消えるのですか?インタビューを受ける前に・・・、消えるのですか?」
「消えねーですよ・・・、なんでこんな事で・・・、消えませんよ・・・。」
なんだろう?どっかで高校球児が寝たきり美少女に結婚を申し込んでいる絵面が浮かんでくる。まて、かなり話が飛んでいる。かなり先の話のはずだ!寧ろ感動の名場面・・・、俺が結婚してやんよ・・・。
「着きましたが、大丈夫ですか?」
「大丈ばないですが大丈夫です。個室で音声だけですよね?なし崩し的に全国生放送とか無いですよね?前回は撮影を許しましたが、流石に生放送は駄目です!あがって何も話せません。」
「それは流石に大丈夫です。音声だけと念を押しましたから。では入りましょう。」
開かれた扉の中はセットスタジオと言う事もなく、至って普通の楽屋?会議室?まぁ、小綺麗でそれなりに広い部屋だった。対面の椅子には東海林とスタッフ数名がガンマイクをスタンバイしており、取り敢えずカメラは見当たらないと思う。よかった、あがり症も色々なケースがあるらしいが俺の場合、大勢の前に立つまでの緊張と一言目をミスしたら?と言う不安が大きい。
その一言目さえ上手く話せれば、ある程度は流れに沿って話せるが、それでもやはり目立ちたいものでもなければ、話したいものでもない。今回はまだ東海林とスタッフ数名なのでどうにか大丈夫そうだが・・・。と、言うかなんで東海林の髪は若干濡れているのだろう?雨は降っていなかったはずだが・・・?千代田と共に席について、出されたコーヒーを飲んでインタビューが開始された。
「ご無沙汰してます、東海林です。今回はようやく捕まえる事ができました。お疲れの所誠に恐縮です。てっきり名刺出しても断られると思っていました。」
「いえいえ、約束は守る主義ですから。改めて、クロエとこちらは大会運営委員長代理の増田さんです。私が海外にいる間は全権を委ねたので、大会関連ならこちらにお願いします。何分、先程帰国の途に着いたばかりなので、私の把握していない事柄もあります。」
千代田バリアを展開!これで一部の口撃を防げるはず!事実、スタンピードにかかりきりで選出戦に付いては全く動きを知らない。唯一知っているのは賭けの方針が薄利すぎるので、胴元であるギルドが賭け額の15%を貰いそれをスィーパー共済基金にすると言う方針くらい。
いわばスィーパー保険の資金である。定期開催はしないとしていたが、今回の件が成功すれば政府が後を引き継ぐのだろうか?まぁ、先立つものがなければ保証も何もない。レートが適正かは知らない。まぁ、ギャンブルやらないから仕方ないか。
「今紹介頂いた増田と言います。大会に関しては私の方へ質問を投げて下さい。」
「それはまた大御所が・・・、皆さん聞いてください!本部殿と大会運営の大御所が揃いました!2人が揃うといよいよといった感じですね!」
「あの〜、失礼ですが東海林さんの御髪はなんで濡れているんですか?汗と言う訳ではなさそうですが・・・。あぁ、言いにくい事でしたら構いませんが、必要ならタオルもありますよ?」
「いえ、大丈夫です!濡れている理由はズバリ本部長殿張り込みでコンビニに詰めていたり、帰国報告を受けてコンビニからそのまま移動してさっきシャワーを浴びたからです・・・。臭いませんよね?あっ!タバコはどうぞどうぞ。寧ろキセル吸って下さい、いい香りなので!」
「大丈夫ですよ。特に臭いません。しかしなんでまたそんな事に?」
海外にいたのにわざわざコンビニを張り込む意味とは?分からないが会社からの指示だろう。しかし、米国で遊んで戦ってと忙しなく仕事していたのを知らない?まさかジャーナリストがそんな事は・・・。
「ファーストさんは姿を隠せますからね、神出鬼没摩訶不思議。現代を生きる魔法使いなので、米国からテレポートでも出来るんじゃないかと張り込んでいました!」
「流石にそれは出来ませんよ。それで、インタビュー内容はなんですか?明日も打ち合わせが入っているので、あまり長くは話せませんが。」
「色々とありますが、米国はどうでした?」
「幅広い質問ですがいい国でしたよ?大統領より勲章もいただきましたし、一緒に戦った方達もみんな奮戦した。今回の勝利は両国の絆がもたらした勝利と言えるでしょう。」
取り敢えずヨイショしとけばいいかな?ジョージも仲良くやっていきたいと言っていたし、国連側は割と不審な所もある。裏の意味があるとしても、米国がこのタイミングでなにか仕掛けてくるとは思えない。仮にあるとすれば箱の中身だが、それはもう橘と話した。
「大統領からの受勲!祝賀会の様子は日本でも流れていました!スタンピード関連は余り突っ込むとNGが出そうなんで、深くは聞きませんが、最後の戦いにまた1人で赴いたとありましたがそれは戦力的な問題ですか?」
ん〜、これって話していいのかな?個人的には構わないが何かまた国同士で取引とかしていたら面倒だし千代田に聞いてみるか。流石に一緒にここに来てその話は知らないとは言わないだろうし、何なら先行的に日本ではなにか発表があったかもしれない。
(これって話していいやつですか?1人で行ったのは私のワガママでもありますが。)
(ダメそうな部分は袖を引っ張ります。そこで切り上げとしてください。)
「おっと、お二人で耳打ち。親しいようですがご関係は?」
「私とクロエは秋葉原からの仕事の付き合い。それ以上はNGです。」
「同意ですね。妻がいるので変な勘繰りはよして下さい。余り突っ込むと名刺を持って帰りますよ?と、再度言いますが私は既婚者。妻もいて子もいる身です。ゴシップの定番は不倫ネタだと思いますが、妻がヤキモチを焼く。」
ジョージはその点引き際も良かったし、タラレバの話なのでジョークや社交辞令としても受け取りやすい。それに、こういう話を放置すると後から尾ひれが付くので、毎回否定するのは大事だろう。青山は否定しても斜め上に走っていくが・・・。そのまま完走して帰ってくるなよ〜。
「それは困るので話題を変えます!えーと、R・U・R!本部長選出戦で使われるこの機械は既に使われましたか?名前はネット上で囁かれるのですが、実際の使用感と言うものは中々話が上がりません。」
「使いましたよ。政府のHPで赤峰本部長と私が模擬戦しているのはR・U・Rを使用しています。使用感としては本当に戦っている。そんな究極のリアルマシーンですね。大会ルールは増田さんからお願いします。」
「僭越ながら。使用者はゲート内セーフスペースでR・U・Rを使用。そうすれば今回は指定した武道館に模擬戦時の様な映像が出ます。そこから戦闘を開始し勝敗は気絶、ギブアップ以外無し。回復薬の使用は3本まで。等級という点で意見が割れましたが、本人の持つ最高ランクという話でまとまりました。また、ウエイト制限や男女別でもありません。地形に付いては色々な意見が上がりましたが、ゲート内地形を模したランダム選出。開始し1分前に地形にエントリーし、その中で自身のスタート場所を決めます。」
追加はあるがより実戦的且つ全ての職に配慮した結果だろう。俺と赤峰の様に正対してスタートでは、近接系の職に有利すぎると言う意見でも出たかな?まぁ、やってやれない事はないだろうが、開始して即回復薬一本消費と言うのもされた側からすればたまったもんじゃない。
「ガチンコですね。そこまで実戦に拘ると言うのはやはり本部長となるべき人は相応の戦力が必要と言う事でしょう!では、物販はどうなんですか?以前のインタビューからなにか進展は!」
進展・・・、進展ねぇ。なんかあるかな?ほとんど政府のHPに記載されているし、これと言って目新しいものは・・・。あぁ、宮藤の私腹があったな。お祭りの時二配った人形も再配布を頼まれているんだった。ここで宣伝しておくか。
「販売品の追加として各本部長のフィギュアや、以前の駐屯地祭りで配った縫いぐるみの再配布があります。私もまだ完成品を見ていないですが、宮藤さん曰く凄くできが良いそうです。」
「はぁ~、私は兵藤本部長のフィギュアが欲しいですね!凛々しく見えるは男の背中!水も滴るいい男!ファーストさんのフィギュアも当然公式としてあるんですよね?」
良かったな兵藤。目の前にファンがいたぞ。紹介云々は抜きにしてそれぞれに固定のファンとかいそうだよな。振られた記録を伸ばしているものもいるが、彼の場合そう言うお約束でムードを作っているので、本気になったら割とすぐゴールインとかもありそうだ。
「話は来ましたが縫いぐるみだけですね。私名義のフィギュアは贋作、市井ちゃんフィギュアは本物。そんな住み分けです。」
「残念です、こんなに美しいんですから作って頂きたかったとファンを代表していきましょう。では次に・・・。」
東海林が次の質問をしようとする中、千代田から袖を引っ張られ時計を見せられた。時刻は0時か。流石にもう切り上げていいだろう。
「東海林さんそろそろいい時間です。お開きとしましょう。流石に私も疲れました。」
「あっ!もうそんな時間!分かりました、今回の生インタビューはこれでおしまいです!後ほど、許可が貰えればクロエさんの写真とともにアーカイブを残します!では、現場ではなく会議室から東海林でした!」
生って言った?ねぇ、生って言った!?コラ千代田!生放送無しじゃないのか!割と砕けて喋ったけど、まずい事も言ってないと思うけどさぁ!立ち上がった写真を撮られる中、これよりも先に千代田が口を開いた。
「東海林記者!生放送は無しと念を押したはず。今回の件は抗議対象です。」
「えっ!生放送とはテレビに生出演する事じゃないんですか!音声のみの放送でなら行けるって上は言ってましたよ?」




