177話 そして始まる最終局面 挿絵あり
「主様が言ったから、私はアナタを倒します。従順に、従順に。手早く倒れてほしいのだけど、蜂さん蝉さん宙を舞う。羽虫ねぇ・・・。名前をあげるのは上等過ぎたかしら?」
煙を吐き出し霞む空に飛び交うモンスター。魔女が言うように蜂と蝉に見えるそれは、慣性も重力も無視して急制動からのからの直角軌道もお手の物。止まると言う事を忘れたかの様に縦横無尽に飛び回り攻撃してくる。その羽根は飾りか?まぁ、視えているよ。攻撃のタイミングも攻撃箇所も辺りを切り取るようなその攻撃も。
だからこそ考えろ。だからこそ理解しろ。身体を貸そうともあくまで上位者は俺でイメージするのも俺だ。手早くやるなら手早くするだけのイメージを持て。これだけ空間圧縮や切り取りを見せられて賢者から手ほどきも受けている。ならば、出来ないは通用しない。
(そうそう、私は魔性の女で扇動する者。さてはて貴女は私に何を見る?)
(惹きつける者、惑わす者・・・、生み出す者?)
姿を変えられるのが嫌であの姿で出て来た魔女。そう、魔女。こいつ等に本当に男女があるかは知らない。だが、女性を冠するならそこにコレがないのはおかしい。人なら確かに病気等で残念だが子供を産めない人もいる。それでもその機能は女性の象徴の様にあり、なければ人類は最初の人で終わっている。なら、この名は必ずあるはずだ。ただ、この場でそれを問う意味は?
「新しく刻まれた、刻まれたなら自覚した。視て聞いて感じてイメージして・・・、生み出しましょう新たな魔法を。紡ぎましょう新たな言葉を!」
魔女が楽しげに叫び、その言葉が嫌でも頭に入ってくる。当然の事を当然に行う。ならばその当然とはなんだ?誰にとっての当然なんだ?下から強襲してくる蝉は既に接触間近まで距離を詰めている。ぶち当たればただでは済まず、足の一本は覚悟しなければならない!
「'i2tr3'/.!.!!」
「気分がいい時に邪魔しないで欲しいわねぇ。名前をあげたなら意味を生み出してあげましょう。・・・、七日目の蝉。それがあなたの結末よ?」
グジャリと足の裏から昆虫を踏み潰したような感覚がする。うだるような暑さ。煮え滾るようなアスファルト。耳障りな音、音、音。青臭い草の海。輝く太陽。ビルに反射した光、物悲しさ。慟哭。ベタつく気持ち悪さ。汗・・・。あぁ、グラグラする様な無数のイメージの中で・・・、木からなにか落ちた・・・。断言できる・・・。それは、蝉だ・・・。
うるさいほどに相手を求めて鳴き叫び、その実りを見る事さえ出来ずに地に落ちて踏み潰された蝉だ。煙の中で影法師の様に視えていたモンスターが今ははっきりと輪部まで視える。核としたクリスタルからエネルギーを貰い、打ち捨てられて彷徨う先に他を壊す以外の意味を探した先、害する以外の法を知らないモノ。
言われるがままにモンスターは敵として倒していた。しかし、これからは明確な敵と認識して自身の意志で叩き潰そう。求める先が意味なのならば、その存在はゴミではなく敵だ!たとえ手を取り合える法があろうとも、たとえ声をあげようとも、たとえそれが人に似ていようとも、俺の中には既に結論はある。
(魔女が問い君が答えた。なら、僕は後から預かりモノを返そう。それに、そろそろ終わりがでてくる。)
(そうか、幕引きの時間か。)
「話し込むのは後にして。さて蜂さん、あなたは何ができるのかしら?素早く飛ぶの?残念ねぇ。煙の中は私の領土。面白そうだからその羽をもいであげる。足りないなら頭を潰してあげる。さぁ、クリスタルをお出しになって?フフフ・・・、アハハハ・・・!外の煙も戻りなさい!」
ーside エマ ー
負傷者は下げ増援が来れば共に戦い、治癒が追いつかないなら部隊毎下げる。その繰り返し。どれ程戦っただろうか。突入から既に数時間は経っている筈だ。疲れたなら薬を飲み動ける身体に更に鞭を打ち一度たりとも外に出る事なく雑魚を狩る。弱音などとうの昔にトレーラーハウスと道端に捨ててきた。
死んだ米兵の亡骸はこの砂漠なら回収できる。クロエは言った。スタンピードとは純粋な闘争だと。確かにそれは一理ある。モンスターは敵でそれ以外は仲間。数と数がぶつかり合い、勝利以外には目もくれずに叩き潰し合う。
「ちっ!」
「大佐!再生します!」
「結合して再生だ!直ぐに動く!」
駆けつけた若い兵がぱっくりと切り開かれた私の腕に治療をしようとするが、順序が悪い。日本メンバーに慣れると見劣りするが、この若い兵士・・・、ディルか。こいつ等を私が鍛えなければならないと思うと何処か楽しみな部分がある。それはきっと私が見守られて至った様に、自身の手で誰かを至らせたいと思うからかもしれない。
またセカンドか。まぁ、ファーストは既に彼女に渡し、逃した美全米少女コンテスト1位は日本の美人コンテスト1位で塗り替えた。なら、次は米国初指導官として初の米国内での中位を誕生させる。そうすれば、少しは彼女の目の先に映るモノが見えてくるかもしれないしな。
「よし、いい治療だ!次の獲物は・・・、と!クロエめ!食べるなら食事の様に綺麗に食べあげろ!総員ショック姿勢!反応プレェイトッ!」
空からなにか高速で降ってくる。それは発見でいち早く見つけた。なら後は狩猟者として対応すればいい。思い浮かべるのは逆さまのタライ。思わずニヤけてしまうが、それだけあの訓練は私の頭にこびり付いていると言う事だろう。だが、これは規模を大きくすればトーチカになり、外に反応装甲を取り付ければ立派なトラップになる。何をどう設置しようとも構わない。モンスターは慈悲なく潰す!
「なっ!なにが降って来やがった!ファーストか!」
「お前の下顎をふっ飛ばすぞハミング!モンスターと言え!3対1で笑ってるようなヤツが早々くたばるか!」
「vdwpa・・・t3pミ・・・ミー・・・yjtmtaj」
「・・・、カバーリング!!」
「ダレスー!2人共バカッ!大馬鹿です!結合します!!薬も使います!」
叩きつけられて指向性を持たせた反応装甲で爆破してなお、そのズタボロなモンスターは鳴き声を上げ中から、ほぼ露出したクリスタルを子を抱くように抱え込み私達を威嚇する。理解できた単語?いや、音からへばり付くようなイメージが脳に流れ込むが・・・、これは蝉?ズタボロでおおよそそれには見えないが、何故か蝉と言う言葉が頭をよぎる。
「!マジックスモーク!」
望田とクロエと潜った後に貰った魔法。昨日踊った時も煙は立ち込めていたが、それにより完璧とまでは言わないがこの作戦地域にはビーム阻害がなされているらしい。そう、無効ではなく阻害。無効ほど煙を濃くする訳には行かないので、雨乞いを模した踊りによる苦肉の策と言っていたが、それにより多少は生存率も上がっている。
だが、眼の前の蝉はそんな苦肉の策でどうこう出来るモノではない。前のように個人のフィールドではなく、こうしてビーム無効化を貰ったのは私が成長した為か、或いは背伸びをしたかったからか・・・。ノロノロと動く割にビームの威力は落ちていないのか、展開して煙で包みこんでも光は漏れる。本人が言う様に一服の煙。他の隊を支援する時にも使い、今のビームを防げば残りギリギリ一回か。
「グリッド軍長、ここは私が受け持つ。負傷者を連れて下がれ!」
「しかし大佐!」
「私も中位だ。米国で初の中位だ!後れを取るなどと考えてみろ!後から殴りに行く!」
「了解しましたエマ大佐、殴られる為に近くで露払いをします!」
「バカが・・・。頼んだぞ。」
宮藤は離れている。他の中位もそれぞれでモンスターを狩り、クロエは空でまだ遊んでいる。いいご身分と言いたいが、1体仕留めこうして更に1体を瀕死のスクラップにして、残りの1体もきっと戯れの様に攻撃しているのだろう。身体の秘密や個人としてのプロフィールを聞かされたとしても、死の恐怖を克服するのはそんなに簡単な事ではないだろうに。
反応装甲の構築は終わった。トラップも全て私の中にある。ならばこんな死にぞこないさっさと倒そう。他の中位メンバーは中層のモンスターを倒し宮藤は1人でやってみせた。なら、師としての優しさか、或いはハンディなのか・・・。
何をされてもいい様にドローンを設置/ステイ
気を引く為に四方にセントリーガンを設置/ステイ
地雷、浮遊機雷/セット
タッチボム/アクティブ
打撃トラップ/アクティブ
仕掛けトラップ/ステイ・・・。
お前は見逃さない。見逃す理由がない。人の国で勝手に仲間を殺して回るようなヤツを許す事もなければモンスターにかける慈悲はない。
「そのクリスタルを置いてさっさと退場しろ!」
砂の上を流砂に乗り滑るように走り、背後のセントリーガンを起動。ロハだ。好きなだけ玉を喰らえ。私が近寄ろうとも気になるだろう?掃射ではなく各個起動でどれが起動するかは悟らせない。仮に壊したとしても、次のセントリーガンを出せばいい。元々は飛んでいたから飛ぼうとしている様だが、そうはさせない。頭を上げれば浮遊機雷が反応して爆発し頭を下げさせ、緩慢に動こうとすれば地雷が足にダメージを与える。配備したドローンはモンスターの動きを逐次伝え隙を発見すればそこを攻める。
弾が外れる?ないな。追尾は正常に働き鈍く大きな相手では外し様もない。近寄り出てきた触手が腕に巻き付くが、反応装甲を爆破して引き千切り退散するように引っ込む触手に爆弾を仕掛け、中に戻ると同時に内部から爆破!
「tpjミー・・・ン・・・。」
「黙れ不快だ!」
左右の虫の足の様なモノを振り子鎌で切り飛ばし、後はクリスタルを抱える足のみ。ビームも触手も不可視の一撃もあるだろう。しかし、ここで引く訳にはいかない。その露出したクリスタルを引き抜けさえすれば勝負は決まる!確実に引き抜かなければ、何時動き出すかと言う不安もある。20階層辺りのモンスターならここまで壊されれば止まるだろうが、そうでないなら確実を狙う!
トラップをセットし銃弾を撃ち込み、芋虫の様に動かない身体を流砂に載せて後退させ、行き着く先は蟻地獄。すり鉢状になった砂の中に落とし込み、周囲にセントリーガンにドローン、浮遊機雷と一斉攻撃!硬いがそれでもダメージは通っている!ヒビ割れた身体からはバチバチと言う電気音や、なにか体液の様なモノが出てきている。ゲート内では小さな火花や液体も消えてしまうので、直に目にできる事は少ない。
苦し紛れのような空間攻撃は反応装甲が受け止めている間に移動して躱し、そして到頭クリスタルを大切に抱えていた腕がちぎれ飛び、なんの障害もなくなったクリスタルを撃ち込んだ銃弾を爆破して引っ張り出す。それで終い。銃を握った指が怖いほど固くなっていて、心臓の鼓動が大きく聞こえる。終いだと分かっていてもそれを一人で成したと言う実感が付いてこない。取り出したクリスタルは確かに砂の上に転がり、それを手にして初めて不謹慎だろうが戦場での一息が許される。
「勝ったぞー!!」
「良かったわねぇ、おめでとう。」
「うおっ!クロエか・・・、上は終わったのカ?」
「ええ、蜂の方がしぶといと思っていたけれど、こっちの方が根性があったみたいね。惜しいことをしたわぁ。」
勝利を叫んだ背後からの声で振り返ると、キセルを吸いながらブラックの缶コーヒーを飲むクロエの姿。外から見えづらくする為に撒いた煙も集めているのか、周囲が少し見えづらい。まるで蜃気楼の中にいるようだ・・・。
「8体全て倒したならこれで最後カ?」
「さぁ?私にそれを決める権利はない。決めるのはゲートで次があるならそれが最後。このまま雑魚狩りだと興が削がれるけど、出ないものは仕方がない。」
「・・・、待ち望んでいるようだナ。」
「アナタ達の為でもあるのよ?次が出れば当分先の猶予はもらえる。掃除が進めば溢れない。中位が増えればもう安心、下層は刺激が強すぎる。なら、ここで引っ張り出して叩き潰すのが得策よ?」
「下層をし・・・。」
『これより最終排出を行います。中層3、下層上部1残り規模は上層のモノ。これにより強制排出は終了となります。速やかに掃除してください。』
「あら、また変な括りが出来たわねぇ・・・。じゃあ、パーティーに行ってくるわ。」
「待て!1人で行く気カ!」
到頭終了宣言が出た。中層は少なく全員で当たるかクロエなら1人で倒し尽くせる数だろう。しかし、下層のモノだけは分からない。軽い足取りでスカートを翻し、ただ1人で出現するだろう位置へ歩みを進めようとする。しかし、それは自殺行為ではないのか?中層の3体を倒し全員で挑めばいいのではないか!?誰も彼もが鍛えた、そして至りそこでまだ行った事のない中層のモンスターを倒した。なら!ならば!!
「止まレ、止まレ!クロエ=ファースト!!今回の作戦指揮官として話ス!中位全員でかかれば勝率はあがル!みすみす1人行かせると思うカ!」
「そうねぇ・・・、うん。恥ずかしいから一人で行くわ。」
恥ずかしい?何が?何の事だ?この場で恥ずかしがるような事など何一つ無い。一体何を言っている?撃ってでも止める?いや、巻き戻るなら無意味だ。トラップで拘束する?教えてもらってはいないが、彼女は私のトラップを奪う方法はあると言った。なら、どうする?発見に引っ掛かるものは何もない。
まるでそれが当然の事かのように沈黙し、止めるすべは一切見つからない。なにか、彼女を止める何かはないのか!カオリと約束もした、全員で生きて帰ると!他のメンバーとも小さな約束をし、帰る道標を作り明日への目標を立てた!何か!何か・・・!
「奥方の元に帰るのだろウ!ならば1人で行くナ!」
「ええ、憂いなく帰る為に1人で行くの。だって・・・、巻き戻りは本来なら二人の秘密だから、これ以上見られたら恥ずかしいじゃない。私が見えなくなったら動いていいわ。それまではお行儀よく待ってなさいね?」
言われてはたと気がついた。腕も足も身体の何処もかしこも口以外が動かない!私は見送るしか出来ないのか!?ここまで来てその背中を見送るしか無いのか!?
「ただいまを聞かせロ!」
「その約束は果たすわ。心配しないで、少し遊んでくるだけだから。」




