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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 48 とある兵士の見た風景 その2

「どりぁーっ!ハミング追撃!」


「OK、寝てなクソ虫!」


「ダレス曹長治癒するであります!」


「悪い、カバーリングが間に合わずしくじった。」


 戦場はクソ!モンスターはクソ!そして、口の中が土埃で気持ち悪く血だの腕だのが転がり、黒いクリスタルがドリアンの表面の様に地面に刺さり不気味なモンスターが蜂の巣にされても何時か動き出すんじゃないかという、この檻の中は最高のクソであります!突撃からはや数時間、中位の方達は続々と強そうな中層と言う所にいるモンスターを倒したと言う報告をインカム越しに聞き、嬉しそうな仲間達を尻目に自分の部隊は既に3度目の突撃を敢行しています。


 確かにモンスターは減りました、指示の通り中位の戦場付近は避けています。しかし、だからといって他のモンスターが弱いとは限りません。離れる前に見たミスターアカミネの殴り飛ばしたモンスター然り、片手で受け止めたビームの威力然り。今、グリッド軍長が殴り飛ばして、ハミング曹長が射撃で仕留めたモンスターも自分は見た事ありません。


 治癒師でもらった武器は注射器の様なモノ。御守に買った高額な武器はガンナーの棒。拳銃で撃てば牽制程度には使えますが、本職には劣ります。ミスオダの様に中位に成れば・・・、至ればあんな動きが出来るのでありましょうか?


「えぐれた二の腕は治せました、大丈夫ですか?下がりますか?」


「俺だけ下がる訳にもいかんよ。少なくとも、盾師ならビームは掴めるはずだしこの中の誰よりも頑丈で前に出なきゃならん!」


 ダレス軍曹が立ち上がりグリッド軍長達と肩を並べ前へ。自分も一員として走って行きますが、恐怖はどうしようもなく拭えません。それは最初にビームを土手っ腹に貰ったからでしょう。幸いインナーは機能して貫通する事はありませんでしたが、胃をシェイクされて全部戻してしまいました。ただ、その胃液と吐瀉物を眺められるというのは生きている証。


 死ぬ間際に生涯を思い返したとして、あの吐瀉物と気持ち悪さは美しいモノとして記憶から蘇るでしょう。ただ、このクソのような戦場を思い返すのは勘弁願いたいでありますが・・・。


「ディル無事か!体力は保つか!無事ならこのまま時計回りに行って他の隊を救援する!」


「大丈夫であります!」


 正直に言えば帰りたいであります。檻の外で休息を取り、何なら終わりまで寝ていたいであります。でも、その言葉は口から出ず、前へ進む言葉を紡いでしまうであります。そう、逃げる道ではなく前へ進む道を。物言わぬ死体となった顔の分からぬ仲間を越え、隊が壊滅してしまった仲間に帰る方向を示しながら進む道は、多分秋葉原よりは死体がないものだと思います。


 ここに来る前に受けた刻印と支給されたインナーと靴。一撃で頭を潰されなければどうにか生き残れ、腕や足ならまだ生きる希望がある。そんな雑に死に辛い戦場を走り軍長の指示した地点では、黒と黄色で彩られた女性的なモンスターとソードマンキザキが高速でモンスターを狩っていました。キザキ!相手はその黒いやつ!


 雑魚は我々が、グリッド軍長がどうにかするでありますから、早くその危なさそうなやつを仕留めるであります!自分とて若い身空でこんなクソみたいな肥溜めで死にたくないであります!


「ジャパニーズデーモン!ハミング、ダレス、ディル!あの黒黄は味方だ!絶対に手を出すな!報告にあったが、本当にデーモンじゃないかナツメ・・・。」


「ナツメ・・・、ナツメ!?」


「叫ぶなディル公!配信見てないのか!肉壁中位は好き放題身体をイジれるらしい、また誤って豆鉄砲でも撃ってみろ!下手したら八つ裂きだ!」


「お前もうるさいハミング!・・・、傷に響く。」


「そうかいダレス。ディルお前の治癒が雑だと言ってんぞ。次はいらんもん増やしてやれ。」


 ハミング軍曹が何か軽口を言っていますが、頭に入ってきません。自分の尻を蹴っ飛ばしたのは確かに黒髪の女性でしたが、間違っても女性型のモンスターではありませんでした。配信で背格好や顔付きを変えていましたが、よもや全身を変えてモンスターに成ろうとは・・・。


  挿絵(By みてみん)


「ナトゥメサン?ワタシィハ・・・。」


「英語で結構。増援ですか?ここは中層のモンスターを仕留めた後なので、後続の雑魚しかいませんが?」


「その雑魚狩りに来ました。私と他の兵士達です。」


「そうですか・・・。いえ、こちらは手が足りています。ここから先に進んでエマ大佐の方を手伝って下さい。あちらの方が数が多い。ただ、遠回りしてくださいね。宮藤さんがかなり火を使ってますから。」


 話す中でもソードマンは現れると同時にモンスターを斬り、また姿を消してと繰り返しながらキル数を上げ、話しているナツメも背中に目があるのではないかと思うほどに、モンスターを倒しています。あぁ・・・、さっき片手間の様に倒されたモンスターはダレスが負傷しながらもどうにか倒したモノに似ていたような・・・。


 至って第2職を得ると言うのは、これ程までに強くなれるものなのでしょうか?眼の前で危なげなくモンスターが倒されていくこの光景は現実味と言うモノがありません。ゲート内は死地。浅くとも危なく、深くへ行けば行く程命を失うリスクは跳ね上がる。この場にいるのはそんな深い所にいるはずのモノなのに・・・。日本ではどんな過酷な訓練をさせられているのでしょう?


 報告書を読む限りはアットホームで、そこまで過酷とも思わない訓練なのですが・・・。報告書に書かれない裏の真実を疑って仕方ありません。取り敢えず、MMOのヒーラーは全てテコ入れを要求します。現実との乖離が酷すぎて訓練になりません。


「了解した。多分、まっすぐは突っ切れん。この地点からゲートを経由して反対の端の方に行くぞ!そこから本部方面へ向かう。モンスターを見つけたら端から潰せー!」


 軍長の号令で再度ランニング。4kmしか無いはずの檻がやけに広く感じ、ゲート付近を通る時に聞こえる美しい笑い声は恐ろしく、晴れた空を白く染める極光は行く先の大きな蝶の様なモンスターを焼き殺しています。特撮の国日本。アレがフィクションというのはカモフラージュで真実だったのかもしれません。なら、ゴジラもいる?


 モンスターの残骸を飛び越え、仲間の死体を尻目にひた走り道中で遭遇したモンスターは団結して倒しました。結合すれば遅く出来るしまとめられるので少しは戦力としてカウントしてもらえますね・・・。走る先から熱波が来ますが宮藤の炎でしょうか?かなり離れて走ったと思いましたが、それでもこの暑さは堪えます・・・。そんな暑い砂漠の先、クリスタルと歪に合わさったモンスターの残骸の中に・・・、誰か。


  挿絵(By みてみん)


「おつかれさまです、この辺りは危ないですよ!」


「あ〜、グリッド軍長と言うものだがナツメより遠回りしてエマ大佐の方へと言われた。危ないとは多数のモンスターか?必要なら援軍として・・・。」


「あぁ、取り敢えず動かないでくださいね。当てませんから当たらないで下さい。」


 背後で宙を舞うヒーローを見もせずにオダは空に向かって重そうなリボルバーランチャーの引き金を数度引けば、光の帯がカーブしモンスターを貫いていきます。知らなかった・・・、流れ星とはこうして産まれるのですね・・・。数体集まった所に着弾した光はモンスターの形状を変え歪なキメラの様相を呈しますが、ソレが出来上がる前にヒーローが蹴っ飛ばして倒しています。


 それだけではなく地面からは火柱が上がり、火球は舞い踊るようにモンスターに降り注ぎ、当たらなかったモノも、ヒーローの視線で燃え上がります。ヒーローは目で殺す。サイクロプスを思い出しますが、日本産ならデジコ?


「よし、と。確かにここからまっすぐ本部を目指すと焼けますね。分かりました、このまま突っ切って端まで行ってから本部を目指して下さい。檻の外には出られませんが、境界辺りを走るといいですよ。卓くーん!米軍の方達が通るから少し攻撃範囲狭めてねー!」


「了解した!安心して征くといい。君達の背は僕が守ろう!」


 舞う火の粉は減りましたが暑さは健在。汗だくになりながら、水筒を取り出して水を・・・、水を口に結合すれば自動的に飲めるでありますね。便利なので溺れない程度には飲んで解除しながら端まで走り、檻を回る様に進みます。この檻、背中をくっつけて反転すると出れます。説明では後ろの正面と言う事でしたが、気分は忍者であります。ニンニン。ただ、先程の極光・・・、通信ではサイボーグ橘の攻撃らしいですが、モンスターを貫通する大質量ビームでもびくともしない辺り、相当硬いのでしょう。


「本部付近が見えて来た!・・・、中は見るな!火だるまの・・・、同僚達が見える・・・。」


  挿絵(By みてみん)


 この世の終わりとはアレの事でしょう。天高く舞い上がる炎の中に人の形をした者達が・・・。楽しげに歩いている様に見えるのはきっと錯覚でしょう・・・。酷い事です。どんなモンスターがアレを行っているのか・・・。焼け死ぬ事も許されないとは、この世の地獄とはアレの事でしょう。とても楽しげでありますが・・・。


「行くなら早く行くといい。ここにあまりいると暑さで体力を奪われる。」


  挿絵(By みてみん)


 背後から声がかけられ、振り向けばサイボーグ。黒い細身な鎧にむき出しの頭部・・・、ロボコップです!最新式の黒いロボコップです!


「メイド・イン・ジャパンすげぇ・・・。」


「よさんかハミング!!タ、タチバナだったか?エマ大佐の援軍に来たが、そちらは故障か?」


「故障?単純にヘッドバイザーが耐えられずに融解しただけですよ。全く帰ったら装備庁に厳重抗議ですね。使い捨ては構わないとしても、自身の攻撃に絶えられない装備品は渡すなと・・・。」


 ブツブツと文句を言っていますが、自分は聞き逃しませんでした!使い捨てと言う事は同系統のフィールドバック機体があると言う事でしょう!人に見える機械。いえ、サイボーグなら身体の一部を機械化していたとしても、頭のパーツが溶けているのに冷静ではいられません!


「その〜、大佐は近くに?」


「あっ、ええ。宮藤君が炎の兵達であらかた倒していますが、エマさんはそれとは別方面でモンスターを狩っています。ちょうどこの先ですね。」


「分かった、そちらに向かう。」


「ええ、お気を付けて。」


 サイボーグを後に少し進めば大佐が砂漠で叫びながらモンスターを倒しています。銃を撃てば玉が爆槍の様に突き刺さってモンスターを後退させ、更に撃ち込みくの字に折れた所から・・・、自分の目はおかしくなったのかもしれません。断頭台が現れてモンスターの首を落としました。


 それ以外にも黒いドローンが飛び交い、セントリーガンが銃弾を吐き出し、別の球体のモンスターをサッカーボールの様にモンスターの群れに蹴り込めば辺りは大爆発。日本人でなくとも人は辞めれるのですね・・・。

 

「クリスタルは頭部で間違いなかったか!発見はやはり使い勝手がいい。休息に下がらせたが、こちらの方が派手にはやれるな。」


「大佐ー!増援に来ました!」


「む、確かグリッドだったか。遥々ご苦労、増援ならさっさとモンスターを狩り倒せ。さもなくば、笑いながら中層のモンスターを2体相手にしているクロエに笑われっぱなしだぞ?」


「あの笑い声はやはりファーストでしたか・・・。了解しました!総員直ちに攻撃開始!」


 軍長の号令とともに攻撃を開始して、大佐の力添えもありかなり倒せたと思います。まぁ、自分は負傷者を癒やしつつ結合するくらいしか出来ませんでしたが・・・。まだ続く戦場は一体いつ終わりが見えるのでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] >そこまで過酷とも思わない訓練なのですが 好き好んで奥に進む連中ばかりだし? これを生き延びた米兵からもそういうやつが出るんだろうねぇ 本質的に求道者じゃないと駄目なんだろうね >自身の攻…
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