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街中ダンジョン  作者: フィノ


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173話 夏目と雄二 挿絵あり

 4kmという距離は中位へと至れば問題になる距離ではない。イメージ次第でコンマで辿り着く事もできる。この場は遮蔽物もなく、直線距離を最短で駆け抜ける邪魔をするものはない。作戦は型にはまり雑魚の頭は完璧に抑えられ、多少残るモノも丁寧に叩き潰せている。日本組の突入から半刻火線は未だにあるが、それで背中を撃たれてはいない。


(賢者、どれくらい排出された?)


(さぁ?雑魚ばかり出てもそんなに量は稼げないからね。よくて5万あればいいんじゃない?前の時よりはよく出てるけど、それでも上澄みだね。)


(5万で上澄み・・・、残り約55万そろそろ出だすのか?下の奴等が。)


(さぁ?決めるのは僕じゃなくてゲートだ。)


 ゲートか。米兵はエマの指示で、交代しながら射撃を続行し休憩も補給も取れている。突入組も今の所は難なく残るモンスターを潰して回っている。嫌な静けさだ。戦場に怒号も悲鳴もなく、淡々と作業の様に潰しているが、有利であるだけでまだ数が稼げていない。このままお手柔らかに上澄みだけ出してくれれば、時間いっぱい終了まで死者なく作戦を完遂できる。


「エマ、カオリの様子は?」


「今の所大丈夫そうダ。歌い終わっても檻はそれなりに維持できル。このまま進めば無血終戦が出来るガ、なにか懸念事項カ?」


「・・・、俯瞰した感じ作戦推移は順調です。しかし、量がまだ少ない。機械が何を導き出すかは分かりませんが、仮にこのまま倒し続けたとしても、何処かで出すものが変わる。秋葉原の最後は中層でした。・・・、嫌な仮説ですが規模が増えたのは中位が出たからではないかと考えています。」


 倒せない規模は多分出さない。それは掃除所ではなく侵略になってしまうし、継続した清掃作業に支障が出る。ランクアップした掃除人を順次使い潰す様な仕様なら、それこそ非効率すぎる。今回の想定規模が60万と宣言されて単純に中位2〜3人で雑魚と1体の大物を掃除すると仮定して計算するなら・・・、約5万削った時点でそろそろ大物が出だす?


 いや、その計算じゃおかしい。俺が俺自身を省いている。ゲートが同一セクターで中に入る者の位や数を指輪や転送時に算出しているとすれば、割り振りが変わってくる?駄目だ、材料が足りない。せめて、一人当たりの受け持ち量が分かれば概算で計算できるが、明確な数字はマスクデータなのか教えてもらえない。


『指定区域上層の排出が一定数行われました。これより指定区域中層の排出を行います。上層及び中層のゴミを速やかに掃除を行って下さい。』


 嫌なアナウンスが流れる。中層だけ出すなら乱戦でなくともいいが、上層もまだ出すのだろう。そうなれば中位とて中層にかかりきりになり、雑魚を相手にする暇がない!それに、集中して対応していれば火線が邪魔になる・・・。ここで突撃になるのか?スタートは中層のモンスター出現と共に射撃をやめ、邪魔にならない範囲で突撃させ雑魚の対処をしてもらい、出来る限り中位と中層のモンスターで2対1の状況を作り出す。


(魔女・・・、オーダーだ。5体より多ければそれは全て平らげろ。なりふり構わなくていい。何をしようと止めはしない。しかし、人は巻き込むな。)


(いい前菜ね!終了宣言があるまでは、端なくともあるモノを食べるしか無い。そろそろお行儀よく見ているのも飽きてきたし、止められないなら食べ尽くしてあげる。)


「クロエ、火線の維持を続けるカ?私としてはこのまま遠距離戦で片付くならそうしたイ。」


「無理ねぇ。豆にもならない豆鉄砲、口に入る前に地に落ちる。お客様はグルメなの。食べるにしても、料理も料理人も選び出す。」


「・・・、分かっタ。出現までは射撃し出たら突撃の構えを取ル。」


「ええ、露払いは任せたわ。」


 終わらぬ火線は続くが、到頭それが現れた。1つ2つ・・・、計8体。何かを感じ取ったのか司令本部の方向に3体まとめている。魔女の言うように、下位の弾丸は当たらない事はない。しかし、当たったからと言って見て取れるダメージは無い。当たった所が欠けもしなければヘコみもしない・・・。それは、雑魚を貫通したせいか、はたまたまだ弱いからか・・・。


「3体もらうわね?後はお好きにどうぞ!」


「射撃止めーーー!これより米軍は内部に突入し雑魚を狩る!いいか良く聞け!狙うのは雑魚だ!大物には手を出すな!巻き込まれて死ねば、それはただの犬死にだ!各隊隊長の裁量により離脱と突入を行え!さぁ、ろくでなしども!私の尻にキスするくらいに付いてこい!」


 作戦開始より約2時間半。終わらぬと思われた火線は一斉に止み、到頭突撃の指示が下された。狙うは雑魚、その言葉に普段ならいきり立つ米兵も中層のモンスターを見て口を噤む。職に就いた者として分かるのだ。今の自分ではあれに勝てないと。そして、考えてしまうのだ、日本での発生時にその恐怖を押し殺して進んで散った者達の心の強さを。



ーside 夏目&雄二 ー



 一人で3体、言うのは簡単だけどやるのは至難の業。全く持ってクロエは剛毅だ。肉壁は拡張と名を変え新しく治癒師となり、不老の薬で考える限り理想的な永遠は手に入れた。のうのうと生きるなら苦労はしない。中位ならば金の心配もなく、好きな子達を養ってもお釣りが出るし、稼ごうと思えば稼げる。そう、ただ生きていると言う体裁を取るだけならば・・・。


「夏目さん殺りますか。」


「そうだな、中位ブービーとビリの2人だ。ここでも最後だとこの後も延々とビリとか遅いと言われかねない。長く生きる予定なんだ、まだ見ぬ可愛い娘達に無様な汚点は見せられない!」


 雄二と砂漠を走り身体を組み換え戦う者へ。間違っても背中を撃ってくれるなよ米兵。姿形は変わろうとも私はまだ人の枠にいる。色も今の所モンスターとは違う、話もできれば痛みもある。ただ、人の形をした人外なだけだ。


  挿絵(By みてみん)


「相変わらずっすね、ではお先に!」


「傷付けば癒す、君は切り結ぶ方が得意だろう。」


 声が届いたか分からない。飛び出した雄二は既に姿なくモンスターに一太刀を浴びせている。しかし、厄介そうな相手だ。私は1度喋るモンスターと戦っている。あれは中層のモノではなかったが、仮にアレが進化をたどればこの様な形になるのではないだろうか?足は1本しか見て取れないがそれでよろめく事もなく、無数に生える節足動物の足のようなモノは柔らかくしなるが雄二の一撃を受け止めるだけの硬度はある。服を着たような姿だが、アレは一体何なのか?中身を隠されれば何をしてくるか余計判断が付きづらい。


  挿絵(By みてみん)


「ちっ!変に柔らかい!当たった瞬間はこっちの手が痺れるほど硬くて、鞭みたいに曲がる!」


「深追いはするな!2人でやれば隙も生まれる!」


 二の太刀を振るう前にゾロリと足が動き手数で圧倒する。しかし、雄二は来る順番がわかるかの様にそれぞれの足を捌くが、文字通り手の数が足りない。だが、私とてただ見ている訳では無い。砂中を進む足は相手の背を穿つ様に飛び出させ、更にそれを細く広げて動きを止めようとするが、全て切り払われて血が舞う。痛いがその程度なら直ぐに結合すればいい。切り払われたモノを取り込み身体に戻し、一部はモンスターに付着させて結合する。増殖は駄目か、相手の中に入れない。表面を覆う程度はできるけど、中まで入れてくれないし、何より気持ち悪くて仕方ない。


 生まれた一瞬の隙で雄二は足の継ぎ目に剣を突き立て、強引に切り飛ばし瞬時に離脱。ファーストインプレッションはどうにかなったか?バイトの様に口がないなら噛まれない?分からん。だが、空間を食べるモノがいるなら出来るという考えて動く方が無難か。


「速くて手数が多い、彼奴思ったよりも柔らかいですよ。」


「あぁ、見ていた。しかし鋭いな。ほぼ一体化しているとはいえ、武器毎斬られた。まぁ、スーツは武器よりも皮膚に近いからね。しかし、斬撃があるなら残りはビームと触手と空間かな?」


 肉壁スーツは鎧ではなくどちらかと言えば形成機に近い。好きに形を変えられる分、変え続ければ最初の形を忘れてしまいそうになる。それを忘れない為の楔。だからこそ、結合で繋ぎ合わせれば機能は戻るし元の形にも戻してくれる。


「それだけならいいっすけど、ねっ!」


「足は抑える!本体は任せた!」


 継ぎ目から足が離れて射出成形され、モンスターの考える通りだろう軌道で強襲してくる!さっき切り飛ばしたと思った足はわざと切り離したのかそれさえも浮かび上がる。目で見るだけで7本、キラリと光る先端からはさっき話したビームのオマケ付き!私達は宇宙世紀にも足を踏み入れていなければ、水星の可愛い子ちゃんにも会っていないと言うのに!


 走りながら身体を広げて腕を伸ばし指を伸ばし、人とは違う感性で操られる足を絡め取ろうと巻き付けつければ、すかさず他の足が指を切り飛ばして救出する。エンジンで足は飛んでいる訳じゃないし燃料切れは狙えない。無力化するなら握り潰すしか無いか。握力はそんなにある方ではないけど、私は私自身を制御して拡張する。私はこの空間にいて、この空間に私はいる。


 前にエマが貰って喜んでいたテリトリー。それを私なりに解釈するなら、私がいる空間は私自身のテリトリーだ。飛ぶ足は感じ取れる。遠くで上がる爆音や怒号や笑い声・・・?も分かる。モンスターに出来て人に出来ないなんて事はきっとない!


「先ずは1つ!」


 絡みつく指より手1つ分。その先の空間は確かに私が制御した。そして、そこに遅れるように私の指が絡みつく。救出する為に飛来する足をはたき落とし、私の本体を狙うビームを避け手の中で高周波ブレードの様に振動する足を無理やり包みこんでグシャリと握り潰す!包みこんだ部分はズタズタにされたが、増殖結合治癒と重ねれば問題にはならない。


 残りは6か?すれ違いざまに雄二を見れば、出現と共に斬りかかりまた消えては斬り掛かっている。自身もよく分かっていないような職らしいが中々どうして使いこなせているじゃないか。ただ、有効打がないのも事実。足は私が抑えているけど、本体の腕と残った足のなくなった部分を器用に使う。射出された後の短くなった部分からはビーム・・・、サーベル?いや、射撃もしているからビームの収束も放射も自由なのだろう。


 速度を増していく雄二に対し、1本足を利用してコマの様に回りながら斬撃を止めている。しかし、優勢は雄二か。モンスターが対処できず1本根本から足の残りが斬り飛ばされた。しかし、それをする為にかなり傷を負ったようだ。


「離れられるなら一度離れろ、回復する!」


「大丈夫!薬でどうにかします!」


 飛ぶ足は押さえてもらった。後は本体さえ斬れれば終わる。でも、斬る道が見えては消える。俺が遅いせいだ。見えた先の道の先に当る場所はある。フェイントは意味がない。どこにでも目がある様に背後から斬ろうが受け止められる!


「ちっくしょう!そこに道があるんだ進ませろ!」


 剣閃の進む道とはそれを斬る軌道。腕が邪魔だ!受け止めるビームが邪魔だ!そして何より進むべき道を塞ぐコイツがどうしようもなく邪魔だ!指輪から目の前に出した薬を道の上に置き、モンスターを斬れる道を剣閃が辿るけど、邪魔をされる・・・。すれ違いざまに中身を身体で浴びて傷を癒やし、他に興味がわかない様に防がれる軌道で剣を振るい惹きつける。


 相手は腕で剣を払いビームでいなし、時折剣を掴もうとする。これは渡せない。この剣は俺が道と・・・、進むべき先だと思ったものだ。モンスターなんぞにくれてやるものじゃない!もっと早く、もっと最短で始まりと同時に終わるような刹那。いや、それでは遅い!終わりが先に来れば始まりが後から付いて来る。そう、1から10まで道を歩かなくていい。時には近道してもいいのだから!


「そこが終点か!」


「mpajwpd!」


 訳の分からない音をスローモーションの様に置き去りにして、道の途中で止まり、新しい道を探し出す。思い悩んだ末の第2職。進む先は多数ある中で必要だと想い得たモノ。悪いが俺はやんちゃで寄り道上等なんだよ!


 道すがら途中で止まれば別の道が見えてくる。決められた道を歩き続けるのは性に合わない。なら、途中で止まって他の道を探せばいい。動け動け動け!!行き止まりなら帰ればいい、曲がっているなら突き通せばいい。その先にもきっと道はある!


「つっ!」


 斬り飛ばした1本で均衡は崩れた。背中から触手は出たがそれは根本から斬り裂く。高速回転しながら突進してこようとも、それは既に進む道が視えている!しゃがみ前に転がりながら相手の力を利用して3本。振り向きざまに片手で剣閃を飛ばし更に1本。合計4本。ただ、転がる高さが悪かった。背中の皮を丸ごと持っていかれたのを薬で治す。


「!!夏目避けろ!」


「無理な相談だ!広がれ私の肉体!あれを通すな!」


  挿絵(By みてみん)


 ボロを脱いだモンスターは顔を変え姿を変え、その場に両手両膝をつき、赤い顔だけが俺を見る。アレはヤバい!これからアレがしようとしている事はヤバい!


  挿絵(By みてみん)


 ゾワリと産毛が逆立つ。潰える道の中先へ続く道を選びその導線上を進み難を逃れるけど、地面はスプーンでえぐられたように窪んでいる。ここでバイトと同じ攻撃か!連続で攻撃出来ないのか、すぐさま同じ攻撃は来ない。呼びかけた夏目は無事か?いや、あの人は相当しぶとい。俺は本体を任された。そして、道もあった。ならやれる!呆けている場合じゃない!


 剣の結ぶ先、歩みたい道、ぶつかり合い手を取り合えた仲間達!ここで逃げ出して投げ捨てられる程安いものじゃない!俺だけが視える道を飛ぶ様に駆け抜ける。その先に斬り裂いて進むべき道があるんだ! 


「・・・、雄二!・・・、あと数秒だ・・・。それしか制御を奪えな・・・い。」


「心得た!」


 モンスターは動かないんじゃない、動けない(・・・・)だったか。だからどの道も全て消える事なくモンスターへ続いていたのか!


             斬っ!!


 あ〜、雄二の剣が届いたか。呼びかけで助けられた代わりに華を1つ。形を変えた時に潜り込ませた私は、気持ち悪いながらもどうにかモンスターを止めた。けど、だいぶ削られたな・・・。右足は皮一枚で繋がり下腹部には散弾銃を受けたかのような無数の穴、両腕は見当たらないが、命綱の指輪は残った。止血はいいが肉が足りない。


「なっ!夏目さん無事か!」


「死んでないなら大丈夫。ありがとう、頭・・・、脳をやられると流石にお手上げだ。」


「それどころじゃないっすよ!腕も足もないじゃないっすか!下がって治療を!」


 泣きそうな顔で大慌てで私を支えてくれるけど、何でこいつは男なんだろう?子犬系女子ならそのまま介抱してもらうのに。まぁ、一緒に戦った仲だ心配させるのも悪い。


「いらないよ。私は拡張だよ?この程度肉があればどうとでもなる。」


 指輪から造血剤に回復薬に馬の肉を取り出し、まとめて吸収しどんどん制御下に置いていく。モンスターの中を弄った気持ち悪さは残るけど、アレが喋るモンスターならなにか収穫もある。モンスター内から出た肉も吸収して元通り。立ち上がって手足を確かめるけど、うん。なんとも無い。


「・・・、化け物じみてきたっすね。」


「次は助けないよ?男は死んでも構わないし。」


「マジっすか?」


「冗談だ。次へ行こう。まだ終わりじゃない。」


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[一言] >日本での発生時にその恐怖を押し殺して進んで散った者達の心の強さを 仲間や後に続く者の礎にってシチュエーションは日本人の大好物っぽいし、歴史を見るに 異形になっても何処か女性っぽいのは夏目…
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