165 ウィザード 挿絵あり
(賢者、ストレス発散をしたいと思う事は?)
(僕は魔女程苛烈になる事もなければ、こうして世界を見る目を持てて退屈はしてないよ。ただ、イタズラには心惹かれる。)
なるほど、いい性格をしている。コンピューターウイルスとは様々なパターンがある。トロイの木馬然り、昔懐かしのメールボム然り、更に凶悪ならハードディスクをぶっ壊すモノもある。完全にネットから切り離した独立PCでもない限りウイルスの侵入を防ぐのは難しく、Jpegの画像1枚にウイルスを忍び込ませる事も可能。
高校時代にPCを使ってチャットなんかをしていたが、色々な人に出会った。そして、良く言われたのが不用意に見知らぬファイルは開くなという事。実際、ウイルスでデータが消えた事もあったな。そして、時は進んでPCからスマホにツールが変わろうとも、1番多いアップデートはウイルス対策パッチ。日々誰かが変わった発想でそれを作りイタチごっこを繰り広げている。
それはつまり、人の作ったモノには何かしらの欠陥があり、それを見つけては膨大な修正と対策をする必要性があると言う事。完璧とは程遠く、付け込む隙があるなら、そこから毒を流し込めばいい。ウィルソン以外にも多分ここにはアライルもいて、見られたくない情報は既に移してあるのだろう。モンスター持ち出しの件がどの程度の機密情報になっているかは分からないが、無いなら見つかるまで探すのも一興か。
・・・、前に余ったモノを能力値に回すとソーツが言っていたが、何となく何に回されたか分かったような気がする。多分、回された先は理解力や思考力。身体を持たない彼等が身体能力に数値を割り振った所で何にどれくらい回せばいいか分からないだろうし、変化しない身体の身体能力が上がっていれば今頃それの制御で手一杯だった可能性もある。
その考察に行き着いたのは講習会メンバーのおかげだろう。恐怖する赤峰を見た。愛する者を抱きしめて不意に潰してしまうのではないかと。悩む雄二を見た。自身の言葉での回答だが、俺はそんなに饒舌な方ではない。清水の話を聞いて顔を見た。それだけであの言葉は出ないが、何かしら過去にあった事は推測できた。1つを聞いて10を知る。言葉にするなら簡単だが、実践するのは難しい。それを出来るようになる為に必要なモノはやはり、理解力や思考力だろう。寧ろ、それがなければ普通のおっさんがペンタゴンの中を悠々自適にウロウロ出来ない。
ロビーから入り案内図は見た。地上5階に地下2階。合計7階層の五角形の建物。大きさにして東京ドームを約50個分。各階に、環状の5本の通路リングが通っており、内側からA,B,C,D,Eという名称がついている。移動が大変そうに見えるが、この構造のおかげで例えば5階からでも対照地点の1階へ10分程度で行けるだろう。まぁ、熱烈な歓迎をされているようなので遊ばせてもらおう。
巨人の間を縫うように歩き、適当な無人の部屋でPCへと指を当てて電気信号を流し込み色々と情報を漁る。うーん、監視カメラがあちこちに付いているが、全部の情報を見るのは面倒だ。頭の中に走馬灯を見た時の様な映画館形式で映像が飛び込んでくるが、必要なのはウィルソンやアライルの映像とモンスター持ち出し方法。うん?今回モハーヴェ砂漠を指定してきたが、どうやら最初のモンスター持ち出し後の訓練?もモハーヴェ砂漠で秘密裏にやっていたようだ。
ゲート内ではなく外で既存兵器の効果判定や効率良くモンスターの生態調査や行動原理把握をしたかった様だが、スィーパーも学者もまとめて殺害されたと・・・。いつぞやテレビでカルト教団がゲートで行方不明になったと報道していたが、どうやら米軍の協力者。司法取引をしたような文章があると賢者が言う。
読み取れるのはこれぐらいで、後はフライトでここに来るまでにアライルは昼食にパスタとコーヒー、ウィルソンはタコスを食べたが足りなかったのか、ドーナツを追加で10個ほど買っている映像がある。完全に隔離された部屋の中は分からないが、既に電気系統は好き勝手イジれるので、幽霊よろしくポルターガイスト現象の様に適当に扉を開け締めできる所はやりまくって注意をそらす。
ん〜ん〜、電子錠ではなく物理的なカギの方が厄介だな。開ければ一発でそこにいるのがバレる。嫌がらせのポルターガイスト現象のせいか職員達が廊下を走り回っているので、そろそろここからお暇して別の部屋に行こう。割と天井が高いので天井付近を飛んでいくかな。下手に歩くとぶつかってゲームオーバーになりそうだし、ヒラヒラした服だが刺又に横座りすれば裾で頭を撫でる事もないだろう。
フラフラ飛んで適度に息を吐く。煙の方が視認しやすいが、今はそうも言ってられない。見られると不味いので吐息程度に留めるが、要領は一緒。体内?を通って出たものならそれは、俺の残骸で元々の持ち主が手を加えられないこともない。真空でもないなら扉の隙間から空気が入るのは道理で、賢者の視界で視るならペーパーファイリングでもどうにかなる。
悪いが荒させてもらおう。中でファイルを取り出しては風で捲って投げ捨てていく。空ファイルがあるので、やはり大切な資料は移動されているな。Xファイルはどこだ!モルダーとスカリーはFBIか。ロズウェルにエリア51、ロシアのディアトロフ峠事件にフィラデルフィア計画、・・・、ほう!神の杖とな?宇宙パイルバンカーは計画倒れか。ブラックナイト衛星はあるらしいな。空ファイルがある時点でガセかもしれん・・・。えーと、アポロ計画でサンタクロースを見た・・・。他にはエイリアンの定義と存在について・・・。
いかんな。報告書だけでも結構な量があるし、中々興味深い話も書いてある。コピーして小説代わりに読みたいがそんな事をしている暇もない。職員の動きが慌ただしくなってきているので、一旦屋上方面にでも行ってほとぼりが冷めるまで待つかな。鬼ごっことは、鬼が人を追う遊びだが逆もまた然り。追う鬼がいなければ人が鬼を探し出す。だって、見つけられなくて悪さをされても困るだろう?
ゲート関連はこの部屋ではないようだ。さっさと次に行くか。地下まで行けばなにかあるかもしれないが、エレベーターは多分駄目なので階段かな。いやぁ、アライルの居場所が分からなかったと言う免罪符もあるし、英語読めません話せませんという言い訳も立つ。中々探検ツアーも楽しいし、いい土産を用意してくれた。賢者の毒も滞りなく拡散しているみたいだし、賢者曰くハッピバースデーが流れるまでは大丈夫だとか。最上級のハッカーの総称はウィザード。なら、現代の魔法使いが電子戦をやりあえてもおかしくはないだろう?
ーside エマ ー
「局長・・・、未だに発見できません。多分、どこかにいるのは間違いないですが、色々な扉は好き勝手開き鍵のかかった部屋も荒らされた様な跡があると・・・。」
「ペンタゴンの警備がザルどころか、子供の積み木のようだね。PC内のデータも下手すると全て漁られた可能性もある。やれやれ、手痛い手解きと言ったがここまで手酷くやられるといっそ清々しい。」
クロエらしいと言えばクロエらしいが、出来る事は取り敢えずやってみているのだろう。監視モニターに最初に映し出されたのは、誰も出入りしていない部屋の扉が不自然に開いて締まった映像で、それを皮切りに無作為な部屋の扉が不規則に開いたり閉じたり、或いは開きっぱなしだったりする映像。
侵入を許した?さて、それはどうだろう?駐車場カメラの映像はある時急に彼女をロストしそれ以降、今の今まで目視でもセンサー類でも発見できていない。なら、追跡者として探せるかと言えば、偶に発見できそうな所を映すモニターに視線誘導を促すが、すぐさま通り過ぎているのか結局捕捉は出来ない。
出会った当初の空港でも驚かされたが、まさかここまできれいに雲隠れ出来るとは思わなかった。寧ろ、今の事態で職員が所狭しと廊下を歩き回っているのに、それを全てやり過ごせる方が凄い。確かに彼女は小柄で米国人からすれば、ジュニアスクールにいてもおかしくないような外見をしている。
ただ、それは外見だけで騙されてはいけない。アライル局長は知ってか知らずか、対処不能な相手に手を出そうとしているようだ。怒られない気軽な取引・・・、最高機密に該当するものは移動させているだろう。だが、好き勝手を許したツケを何時まで払う羽目になるかは私も分からない。
(エマ大佐、今から職を使ってファーストを探し出せないか?局長はいいと言うが、この事態は不味い!)
(取り敢えずお前を何発か殴ってから考えるとしよう。と、個人的な見解をするなら目標や終了条件を決めなかったのが悪い。そもそも、到着して移動していきなり自分で探してたどり着けと言われたんだ。彼女が自身でここに来るまで好き勝手できる免罪符を渡したに等しい。)
探せと言われれば探せない事もないだろうが、相当に骨が折れる。日本政府は気軽に合流までは遊んでいいと言った。そして、私が知らない間に彼女の遊び場は用意されていた。しかしこの状況を見れば、おいそれと彼女へ救援要請も出しづらくなる。何せ、渡米してさっきの今でこの状態だ。スタンピード対策を話す前に悪ふざけで何をされるか分かったものではないな。まぁ、私としてはクロエの肩を持つ。
戦地に来てさっさと準備を話し合い、最後の詰めをしたいだろう所にこの仕打ちだ。英語を話せない事を盾に全て私越しの通訳で済ませる事も想定出来るが、毎度耳打ちされる事を考えると嬉しくはあるな。
「さてと、ウィルソン君。そろそろ我々が負けを認めて許してもらおうか。」
「ええ、それがいいかと。これ以上されて電源でも落とされては困・・・。」
監視モニターに近くのPC、果ては衛星通信のモニターまで。全てのネットに繋がり音声が出せるものからハッピーバースデーが流れ出す。今日は誰かの誕生日なのか?例えば良く会いたいと愚痴る奥さんとかの。
「・・・、局長。どう考えてもペンタゴンを掌握されたようですが?」
「・・・、想定はしていたけど、こうも速やかにされるとはね。やはり教えを請うに相応しいよ。今後、ペンタゴンや他の重要設備の警備方法は白紙から練り直し。妖怪夏目だったか、彼女を想定して練る方針だったけど、何から手を・・・。」
「それなら本人に聞けばいい。暇そうにタバコを吸っているぞ?」
人が悪いというかお茶目というか、ハッピーバースデーが流れ出すと同時に彼女は私の横に姿を表し適当な椅子に座った。そして、元からそこにいたかのようにタバコを吸いながら、話し込む2人を見ている。2人にいる事を話そうとしたが、唇に人差し指を当てたので黙っていたが、袖を引っ張ったのでもういいのだろう。
ここまでされると、どこまでヒアリングが出来て、本当に英語が話せないのかも怪しくなってくるが、本人が話す気もないようなので私が代わりに口を開いた。カタカタとPCを操作しているが、画面上には英文しか出ていない。彼女が読めるかは分からないが、操作しているなら多分理解出来ているのではないだろうか。
「ふーむ、欲しいものは出ませんね。エマ、モンスターの持ち出し方を聞いてもらえませんか?予測はあるんですが、最悪の手段を使ったならちょっと思うところがありまして。」
「・・・、ミスィーズファースト、お初にお目にかかるアライル・グリィーディスと言う。直接日本語で聞いてもらって構わないよ。日本語はスラング含めて掲示板で覚えたものもある。」
「ウィルソン・スミス。同じく日本語で大丈夫。テレビ電話で話して以来、こうして直に会える日を心から待っていた。」
カタカタとキーボードを打っていた手を止め、立ち上がって2人の方を向く。2人が長身と言う訳では無いがそれでも、大人と子供ほどある身長差をものともせずに、しっかりと二人の前に立ち口を開いた。
「クロエ=ファースト。友人の家に遊びに来た一般人です。なので、知らない一般人に話しかけるように他人行儀にファーストさんと呼んでください。」




