162話 たった1言が出ない 前 挿絵あり
千代田に連れられ望田とエマを連れて米国大使館へ。朝からゲートに入る予定でゴスロリを着ていたが、今はそんな事に構っている暇はない。千代田がハンドルを握り、助手席に滑り込むように座ってラジオを操作する。周波数を合わせるが、緊急速報以外依然として情報は流れず、呑気なパーソナリティーがとりとめもない日常の出来事を話している。クソっ!毒づきたくなるが、それをしても始まらない。タバコを取り出し火をつけて大きく吸い込み、ない肺に紫煙が周りニコチンが廻るのを夢想しながら吐き出す。
「クロエ、落ち着いて下さい。スタンピードの知らせで慌てるのはわかりますが・・・。」
「千代田さん。勘違いしないでいただきたい。スタンピードの知らせを持ってきたのは誰でもない私です。そして、日本政府の基本スタンスが静観というのも聞いています。私が焦っている様に見えるのは、今ある情報が少なすぎて幕の下ろし方の模索が出来ない事です。」
「幕の下ろし方・・・。」
「クロエはもう勝った気でいるト?」
おかしな事を聞く。勝った気も何も勝たなければならないのだ。そして、それまでの残日数で出来る限りの被害想定と解決策を探し、今打ち出している作戦を完遂しなければならない。・・・、全てを投げ捨てて逃げる事は簡単だし時には逃げ出してもいい。だが、今この時は逃げ出す場ではない。誰かの仕事の誰かとは、自分であっても問題ない。そして、自身の仕事となってやるのなら、終わらせ方は決めないといけない。
この世界は残酷でゲートなんてわけの分からないモノが出現して、モンスターは人を襲いに外に出てくるし、ソーツと交渉したばっかりに持て囃されて平穏は遠ざかる。だが、そうだがな!絶望するほど酷くもないんだよ。力なく他者に願うだけなら絶望は友達になる。寄り添うように手を繋いで互いに肩を組み、時には跳ね上げるバネにも、引きずり込む様な悪友にもなる。だが、自身で事をなそうとするならそれは敵になる。そう、明確な敵に。
当然だろう絶望さん。構う暇もなければ、足を止めている暇もないんだよ。お前如きにやる時間があるなら頭を回して思考を回して、絶望しなくていい未来を探す事にする。
「その結果以外に意味はありますか?降伏も命乞いも何なら白旗も意味はない。エマ、前にモンスターに慈悲をかけるなといいましたね?カオリもそれは知ってるでしょう?」
「あァ、聞いタ。慈悲なく叩き潰せト。」
「ええ、事ある毎にモンスター見つけたら、卑怯でもなんでもいいからさっさと倒せと言われましたね。」
「モンスターは人に興味があります。そして、自己の存在に意味を求めています。しかし、カレ等にとって人はどうしようもなく魅力的で捕食したり殺したり、戦いを挑むに値する対象でしかなく、友好の対象にはなりえないんですよ。」
ある事実を積み上げるとそうなる。賢者の話、ゲートで見たモンスターの捕食シーン、そして人に友好的なモンスターなどおらず、スタートの時点で廃棄品として、ゴミとしてしか知らされていないし、俺もそうとしか見ていない。つまり、一切の手加減なく叩き潰し潰される相手。喋ろうがなんだろうが、意思疎通出来ないなら意味はない。
「それがクロエがモンスターを倒す理由であると?」
「千代田さん。ゴミを掃除するのに理由は必要ない。ゲートから出ないなら妻や子に危害も加わらない。しかし、人の土地に土足で踏み込むなら慈悲はない。モンスターを倒すのは淡々とした作業ですよ。」
「・・・、そうですか。着きました、急ぎなのでそのまま奥の会議室へ。望田君は私に着いてきたまえ。作戦の要として向こうの人間と打ち合わせがある。軽いものだが、それによって作戦の是非を問う事も視野に入れなさい。必要なら、私に話を振る事。松田さんと大井さんもこちらに参加します。」
サポートはエマだけか。まぁ、ヒヤリングは出来るし無理くりなら英語もどうにか話せる。毎度外国の配信をただ漁っていた訳ではない。英語が分からないだろうと眼の前でコソコソ話でもしてくれれば、より向こうの実情が分かりやすいんだが・・・。と、千代田に1つは確認を取っておこう。
「千代田さん、日本としての立場はどう言う位置づけですか?朝一からここまで、その辺りの話ができていない。プリーズは聞けていますか?」
「そこも含めて、今は静観の構えです。」
ふむ、時差を考えた上で話を持ってくるタイムラグを考えると、早ければ昨日の夕方・・・、いや、深夜だと仮定しよう。仮に話があればエマの定時報告でそれとない情報開示がなされているはずだが、飲んだ時には別段そんな素振りはなかった。なら、発見から報告まで最低半日。多めに見積もって約1日。発生までの期日を短く見積もるなら1週間、色々と無視して渡米して1日。
あいも変わらず時間がない。米国もなんの準備もせずにおんぶに抱っこと言う事はないだろう。なら、争点はどこで誰がどう処理をするかにかかる。向こうのたぬきもこの場で駆け引きを持ち出さないとは思うが、心して席につこう。
大使館の廊下を足早にエマと進み、通されたのはいつかの会談をした部屋。既に準備万端と言わんばかりにWebカメラが設置され、到着は今か今かと言うピリ付いた空気が画面越しでも分かる。見知った顔はアライルにウィルソンか。ここに顔を出すなら、ウィルソンも米国のおっサンではなく国防総省辺りの人間だろう。補佐官に階級と言うものがあるかは知らないが、現場指揮者的なポジションかもしれない。目の前にコーヒーが置かれ、キセルで一服。
「エマ=ニコルソン少佐。ただいま到着しました。」
「クロエ=ファースト。スタンピードの件について話し合いの席に着く事を承諾しここに来た、時間が惜しい。会議を始めよう。情報は?」
「まずはこのような事態に即して・・・。」
「前置きは不要、挨拶も不要。米国側がスタンピードの期日を何時と考えているかは知りませんが、時間が惜しい。情報共有から始めていただきたい。」
画面の向こうの役人達は多少不機嫌な顔になるが、エマも俺も毅然とした顔で返す。考えて出した時間はあくまで仮定でしかない。下手すればメーターが10時頃まで下がっている可能性もある。頂点からゲート下まで、両方から周り互いが結べば排出が始まる。
「失礼したミスィーズファースト。確かに前置きする時間も惜しいね。米国側の情報としては日本時間の午前3時頃、スィーパーがゲートに入ろうとして見上げた際に光が見えたと第一報があった。それから程なくしてゲートの調査に乗り出し、日本政府に画像の照合を依頼。日本時間の午前7時頃に、これはスタンピードの予兆であると断定された。」
ふむ、夜中の問い合わせだとしてもスムーズな対応だ。誰が対応したかは知らないが、その人には拍手を送りたい。時間がない中でのファインプレー、下手なお役所仕事ならその時間は閉店ガラガラ、朝10時の開店まで待てと言われかねない。しかし、これで残り時間は約6日と推定していいだろう。前回の事を考えると今回の発生で明確に示せると思うが、悠長な事はしていられない。
「アライル局長、発見時間はわかっタ。現在の対応はどうなっていル?前に日本側から作戦提示もあったと思うガ?」
「その件については私ではなく軍部の方が主導権を持つ。その為の組織であり、住み分けだからね。ただ、ミスィーズファーストからの情報開示でゲートの移設先は概ね目星はついているよ。そして、そこが決戦の地となるだろう。」
お膳立てはしたと言う事か。これで何もかも隠して発生当日に来いと言われても首都を火の海にしてホワイトハウスを消す羽目になったかもしれない。そうなれば、賠償問題やらで尾を引く可能性もあったが、暴れてもいい土地を用意してくれるならこちらとしてもやりやすい。
「勿体ぶらずに先をどうぞ。首都を火の海にしてゴミが跋扈する場にする気はないのでしょう?仮に、ゲート周辺を封鎖してやってくれと言われたなら、私は無理だと突き返しますよ?まぁ、ホワイトハウスを消していいなら吝かではありませんが。」
「流石にそれは困る。あそこには色々と機密文書があるからね。場所はダラスを経由した先、モハーヴェ砂漠で行う予定としているよ。」
モハーヴェ砂漠・・・、ダラス寄りならなにもない所だが、横断すればラスベガスもあるし、確かバーニングマンなんて言う名のお祭りもやってたな。広大で遮蔽物もなく、暴れても被害はほぼない。クリスタルや流出品が砂に埋れた所で、そんなモノは後から探せばいい。国土の広い所はいいな。作戦を立てるにしてもその作戦に即したところがある。
「そこに部隊を展開して作戦を決行するト?」
「あぁ、その通りだよ。そこでミスィーズファースト。いや、賢者殿にお聞きしたい。貴女の提示した作戦以外に米国側としても作戦をいくつか考えた。それについて意見がほしい。」
「どうぞ、多角的に物事を見るのはいい事です。幾つ立案したかは知りませんが、有効なものがあれば採用しましょう。」
「ありがとう、では先ず。核による先制打撃。コレについてどう考える?」
「補足します。核は最大3発。配信の言葉を信じるならその程度ではゲートはびくともせず、これが有効なら今後他国での発生時に人類として戦える案として立案されました。」
アライルの言葉にウィルソンが補足を入れる。当然といえば当然に立案される作戦だ。スィーパーでなくともモンスターを倒せるなら、それに越した事はないし、直接対峙しないだけでも兵士やスィーパーの命は保証される。ただまぁ、この案は却下だな。
「その案を否定しましょう。1つ、核攻撃後、後続のモンスターを仕留めきれないという点。流石に放射能をばら撒いた土地に人を入れる訳にはいかない。2つ、核で倒しきれないモンスターがいた場合、打ち上げられたモンスターを捜索する手間がかかり、結果としてモンスターの分散を許す。
3つ、そちらに情報が流れていないので仕方ないですが、既存の爆弾を調合師に弄ってもらいセーフスペースの魚に使いましたが、こんがり焼き上げる事もできませんでした。米国とて、その作戦を出す前にゲート内で試したのでしょう?」
俺は消し飛んだが魚は残った。すべて残ったかまでは検証出来ないが、少なくとも熱と爆風はあり地形がえぐれるほどの威力もあった。しかし、それでも魚は残り、何なら半田に料理してもらって食った。更に言うなら、モンスターのビームは地面をガラス化するほどの熱量だったが、それの余波程度ではびくともせずに元気に動き回り、正確に真下から反射したもので発射したモンスターは倒された。その点を考えると、一点集中していない広範囲への既存兵器での攻撃は考えさせられる。
「ああ、試したとも。同じような認識で物事を考える事が出来て嬉しく思う。しかし、核を否定するなら地雷作戦は使えないね?」
キセルを吸いプカリ。化粧箱はいい仕事をした。補助具の補助具ってどうなの?とも思ったが、イメージを更に補強してくれるならありがたい。普通に使えばモノクロ映画の様になるかもしれないが、今はフルカラーで見せられる。魔法で作るフィールドとは違い、あくまで記憶再現なので動かしながらやると手間なんだよな。細部も昔からブレていたし。
「瞼を閉じれば見えてくる、あの日の光景、その日の出来事。思い出は何時も霧の中、記憶の姿を形どれ。」
「これハ・・・?」
「橘さんと43階層から、悪ふざけしながら潜った時の記憶再現です。アライルさん、これで貴方の疑問にも片はつくでしょう。」
音声は流さないが、映像は俯瞰視点で流れる。お姫様抱っこされている姿を見られるのはなんだか恥ずかしいが、そうも言ってられない。モンスターのビームが地をガラス化させ、それを撃ち返しそろそろ必要な部分へコマを進める。後から聞いた話だが、あの爆弾の材料はセーフスペースの物と液化したクリスタル。
前に何に使うか分からなかった設計図だったが、流れ流れて高槻に開示されたらしい。まぁ、薬品と捉えれば扱うのは調合師の十八番か。既存の爆薬を性能アップしたものだと思っていたが、ロケット燃料よりも更に爆発力はあるそうな。
「この部分からです。橘さんが射出した物が私達が使おうとしている地雷です。埋設する暇がなく、射出してからの起爆ですが威力は十分でしょう。」
どこからともなくサイボーグと囁く声が聞こえるが、そろそろ俺も橘をサイボーグと疑いそうだ。速度自体は視認できるが、ビームを感知して的確に水平に避けたりしているし・・・。それはそうと、ロリポップに見える地雷は炸裂し極光がモンスターを貫く。半壊するモノもいるが、上手く当たったものはクリスタルへ。
この映像で地雷に疑いを持つなら他のモノを用意してもらうか、地雷を使わないと言う選択になる。その場合、エマの頑張りによる先制攻撃及び他の中位による総攻撃、その後雪崩込んでの撃滅戦へ移行しつつ、随時出てくるモンスターの頭を抑える事になる。負荷はまぁ、そこまでないにしても楽できるなら楽するに越した事はない。
「・・・、なるほど。確かにこれなら・・・。」
「これは、日本国が武装国家になったと言う証ではないか!このような兵器を生産し、あまつさえモンスターへ打撃を与えるなど!日本は覇権を取ろうとしているのか!中位を多数抱え我々に負けた恨みをここで晴らそうとしているのか!」
黙って見ていた若い男が1人吠えだした。武装国家ねぇ?その考えはあくまで外で使う事を前提にした話であり、更に言えば対象はモンスターではなく人である。さてはて、ここで吠えだしたのは何かしらの駆け引きか否か?タイミング的にはただの暴発だと思うが、さっさと誰か止めないかな。
「核が無理だと!?多少の打撃は与えた!なら、数を増やし火力を上げれば済む話だ!わざわざ下手に出ずとも我々でどうにかすればいい!我が国とてSもいれば下位のスィーパーも多数いる。ならば、それで倒しきれば済む話だ!」
・・・、ふむ。横のエマを見れば吠える男を、射殺さんばかりに睨んでいるが気持ちは分かる。多分、同じ立場でこの男と同じ場所にいたなら殴って黙らせる。寧ろ、話し合いの場で怒鳴りだした時点で、後がない事を察して有耶無耶にしようとしているのか、或いは立案したものを否定されて言い返せないかのどちらかだろう。
なにせ現時点でお互いに罵るような言葉は出ていない。なら、もしかすればこの男が核使用を立案したのか?自国民が自国の領土をどう扱おうが知った事ではないが、こちらに八つ当たりするのはやめて欲しい。
「ウィルソン君、その男を殴ってつまみ出せ。」
「解雇通知も忘れるナ。さもなくば外で射殺しロ。法廷に駆け込まれても面倒ダ。」
「私はキリング=アーキンス上院議員の子息だぞ!その様な事が許されると思っているのか!」
ウィルソンがゲッソリし、顔には俺かよ!と言う嫌そうな表情がありありと浮かんでいる。上院議員ね、政治家の息子とか言われても最初に前置きも挨拶も拒否した時点で、それに意味はないし国外にその威光が通じるかは不明だろうて。外交官のトップとか国防長官とかならまだニュースで見る機会もあるが、それ以下なら全く知らないまである。
立ち上がったウィルソンはキリングの元へ向かうと、いい感じのボディブローを放ち襟首掴んで外へ引きずって行った。米国の会議室は中々バイオレンスなようだ。流石に外から銃声が聞こえだしたら止めるかもしれないが、声だけで止まるものかねぇ?
「大変失礼したミスィーズファースト。言い訳ではないが、彼は軍部の方とも繋がりがあり、今回の核使用を前提とした作戦立案にも関わっていた。」
「そちらの事情なので私は関知しません。ただ、彼の言う事は最もだ。武装国家へと歩んでいると疑われては、私としても立つ瀬がない。なので、先程の映像の事も作戦の事も米国に委ねましょう。私より頭の良い方達が核を押しているのです。存分に火の海にしては如何か?」
プリーズは聞けていない。そもそも、いくつかの作戦という辺り他に手がない訳でもないのだろう。そもそも国外で作戦を敢行するならいつか言われたように、そこに行く必要性から考えないといけない。俺は少なくとも責任がある。しかし、他のメンバーには全くない。その時点で、数少ない人数で出来る作戦を模索してこうなった。だが、米国人が勝手に作戦を立てて血をどんどん流す分には文句のつけようがない。
「それは・・・、見限ると言う事かな?」
「まさか、砂漠に分散したモンスターを各個撃破でもしながら探し回れば良いじゃないですか。別の作戦もあるのでしょう?どれほどの月日が流れて、いくつもの恐怖の夜を過ごそうとも、いずれ夜は明ける。
・・・、あぁ、ただ注文をつけるならゲートの破壊はやめて下さい。人類が滅亡してしまう。そして、最後になにが出るかは私にも分からない。頑張って下さいとしか言えませんが、健闘を祈ります。」
望田達の方がどう言う流れになっているかは知らないが、守りたい者も手放したくないモノも既に決まっている。お願いもされずに勝手に作戦を打ち出して、呼ばれもしていないのに勝手に人の国で暴れるのは筋違いところだろう。
「クロエ、へそを曲げないで欲しイ。我々も人的被害を最小限に抑える為の作戦を模索していル。」
「へそは曲げていませんが、そもそも米国の問題に勝手に首を突っ込む方がお門違いと反省しているのです。作戦立案は確かにしましたが、それはあくまで私の取れる作戦であって米国の取れる作戦ではない。私は日本人なので、海外での武力行使も禁止されていますからね。」
「それはまァ、分かる話ダ。国際条約や自衛権の問題もあル、しかシ、国連では対モンスターに限定されて武器使用の許可は降りていル。」
「なるほど、その話は聞き及んでいませんでした。しかし、それがあったとしても、お願いされてもいないのに暴力装置の様に海外でのモンスターを狩る謂れもないでしょう?」
「ミスィーズファースト。必要な分だけの報酬を支払うとしたら?」
行けば当然報酬は貰う。寧ろ、無償で働くなんて事があったら、次から次へとスタンピードかもしれないと言われて海外を飛び回る羽目になる。そんな事態は願い下げなので、吹っ掛けるだけ吹っ掛けるつもりだが、それはまた別の話し合いだ。
「ついこの間溜め込んでいた箱を開封しました。金貨にしろ設計図にしろ結構出ましてね。それに、いくつかある作戦と言われたが、他の作戦は聞いていない。その中に何かしらの打開策があるんじゃないですか?」
苦虫を噛み潰した様にアライルが苦い顔をする。さて、米国がどんなカードを切って来るやら。時間の猶予は少ないし、米国で今何が出来て何ができないのかも分からない。防人が0と言う事も考えづらいし、まだ会った事のない職に就く人がいるかもしれない。未知数は未知数だが、それを的確に運用できるのか?問題はそこだろう。
「エマ少佐を主軸としたアキハバラと同様の包囲殲滅戦。生存率に目を瞑れば、我々の出す次の案はこれだよ。」
名を呼ばれてエマは当然という顔だが、確かに米国内で片をつけるならエマが主軸となる。友人を見捨てるか否か、いやその前に確認から始めよう。彼女がそれを出来るというのなら、危険ではあるが勝ちの目も0ではない。
「エマ、教育した者として問いましょう。貴女はバイトに勝てますか?」
「犬カ・・・、正直に言おウ。反応装甲も模索しタ。なにが怖いのか明確にイメージもしタ。そしテ、未だ恐怖は拭い去れなイ。」
「待って欲しい、犬とは?バイトとは何だね?」
そう言えば米国には映像を送っていなかったか。言うよりも見たほうが早い。本物ではなく煙で作る像でしかないが、多少なりとも理解は出来る。一体何と対峙しエマに何を倒せと言っているのかを。これが中位1人でないならやり方もあるだろうが、1人を主軸とした作戦ではそれが折れた時作戦は瓦解する。
ゲームで勇者が倒れて復活しなかったら?答えは魔王のいい様にされて人間はバリバリ食べられる食料となる。米国が出せる勇者はエマで、彼女は恐怖が拭い去れていない。
「これですよ、秋葉原の最後の1。普段は私の飼い犬に像を被せて本物のように見せています。アライルさんが出した作戦の最後の仕上げは、エマがこれと戦い勝利する事で決着する。因みに、コイツは秋葉原戦時に下位を相当数無傷で食い殺しました。」
今でも望田からの通信を思い出す。出現と同時に映像が途切れた事、秋葉原ゲート前に現れた事、そしてバリバリと人を食べてこちらの魔法がほぼ効かなかった事。あれから魔法の練習もした。賢者と殴り合いもした。消し飛んだり、コードを学習もした。だからこそ言える、今なら明確にその首を落とす用意があると。他のメンバーも恐怖を出さずに45階層まで歩み、中層のモンスターを意識していると。
だが、それでも1人では駄目だ。集団で挑み意識を分散させ傷つけば下げて回復し、各人がカバーしながら戦う他ない。1人で挑んで良いのは俺の様なペテン師だけだ。1つしかない命を投げ捨てるには値しない相手だが、投げ捨てても勝てるか分からない相手。そんなモノの前にみすみす友人を放り込みたくない。
「これも・・・、ダメだと?いや・・・、その犬は・・・。」
「ようやくの中位を国として、見殺しにするなら口出し出来ません。ただ、個人として友人には死んでほしくない。それに、次の予定はないんですよ?安全にモンスターを狩れる策をお聞かせ願いたい。」
勝てる見込みの高い作戦なら賛同して協力も出来るが、核とエマ主軸は厳しいだろう。どれほどの兵を注ぎ込むかは知らないが、仮に秋葉原の倍出したとして犬にどれほど打撃を与えられるかは分からない。




