161話 早く言えよ! 挿絵有り
「飛んでいたとは言え、まさか空中に放り出されるとは思いませんでしたね。停止が間に合って良かった。」
「急制動お疲れ様です。流石に真っ逆さまに落ちる姿には肝を冷やしました・・・。」
「仕方ないでしょう?流石にマッハで低空飛行すれば辺りはソニックブームで壊滅し、刺股を手放せばそれこそ飛行機でも撃墜しかねない。急に止まったGで意識飛ぶかと思いましたよ。」
確かに空を飛んだままゲートから出れば、空中に放り出されても仕方ない。歩きや走りならそこまで気にしなくてもいいし、浮遊感もあるので止まれるが、空を飛んでいると浮遊感も感じられないので、タイミングをミスるとそのまま飛んていく羽目になるな。
意識云々は別として、急制動で止まって思ったより強かったGを上に逃がしながら落っこちていた所を橘に空中キャッチされて今に至る。相変わらずお姫様抱っこなのは仕方ないとは言え、地上も近いので早く降ろして欲しい。むしろ、飛べるから勝手に降りるか?
「降ろして貰っていいですよ。勝手に飛びますから。」
「さっきまで真っ逆さまだったんです。言われてハイそうですかと手放せますか?」
「分かりました、どうせもう地上ですからね。」
地上が見えてくると、他の講習会メンバーと一般のスィーパーも見えてくる。一応、講習会メンバー用の控室もあるが、どうやら外で待っていたようだ。サインや握手を強請られているのが見て取れる。このまま降りると面倒だよな。しかし、今更姿を消しても意味はないか。チラホラと橘に気付いた人が声を上げ、腕から見てる服でファーストと声を上げる人もいる。
「騒がれては面倒です。人気のない所・・・、あのビルの屋上は?」
「いいですが、後からビルのオーナーにでも謝罪の連絡しておいてくださいよ?人が空を飛ぶのを禁止する法律はないですが、勝手にビルに入れば不法侵入、警察からの厳重注意も含めて法的に罰金や厳重注意、他にも下にいる人達がビルに押し寄せれば煽動罪なんてのもあるんですからね?」
「いや、煽動罪は無理でしょう?姿を見て追っかけてきたからといって、追っかけられた本人に罪があるなら私はまた引きこもりですよ?演説したならまだしも、まだなにもしていない。」
「それでもです、ゲートに入ろうとしたスィーパーが方向を変えてビルに入れば経営者の面倒は免れないでしょう?そして、事の発端はクロエです。」
ちっ!冗談で見捨てようとした事を根に持っている。装備庁には俺からも文句を言おう。しかし、ここまで言われたら降りる場所はゲート付近、講習会メンバーの近くだよな。降りたらすぐさまバスにでも乗って帰ろう。
「分かりました、降りたらすぐにバスに乗ります。」
「そうしましょう。」
地上に降りて手を振りながらそそくさとバスへ。最初の頃は自衛隊のトラックで移動していたが、すぐさま足が付いて今はバス移動。一応、先導車とかも付くが他のメンバーも含めて一目見ようと人が集まる。身動きが取れないほどの事態ではないが、進む速度は言わずもがな、カーテンを少しずらして見れば、やはり人は多い。
「お疲れ様です、何でまた空からお姫様抱っこで?1人で飛べるでしょう?」
「まぁまてカオリ。ゲート内でなにかあったのだろウ。かく言う私達も今日は大変だったしナ。」
「大変?負傷者が続出でもしましたか?」
一番後ろの席なので、顔は早々見えないがどのメンバーも疲れているようだ。外傷は見えないが、出血した跡が見える人もいるので、ウォーミングアップと言う名の殺し合いをしていたのは間違いないだろう。俺の方もモンスターは多かったし、部隊規模を考えると望田達の方が更に多かったと言われてもおかしくない。
「負傷者にはこの際目を瞑ります。場所が場所ですからね。それよりも大型モンスターの可能性がですね・・・。」
「大型モンスター?」
「うム、檻やトラップ。閉じ込めてからの流れをやっていたガ、退出間近になった時に遠くの空に眩い光が見えタ。モンスターの姿までは見えなかったガ、アレがモンスターの放ったビームだとすると大きさも攻撃力もなかりのモノだろウ。」
退出間近に極光を見たのか・・・。へー・・・、はー・・・、ほー・・・。それの正体って橘じゃない?位置取りは分からないが、あのゲートの近くに別のゲートがなかったとも言えない。スマホは圏外で時間を見る機械に成り下がったので、早々に連絡は諦めてしまっていた。しかし、エマの言う時間帯で光を放つ物と言えばあの砲撃くらいしか目にしていない。
まぁ、中は広いので絶対とは言えないが、エマ達が見えたのなら、俺達も少しくらい見えてもおかしく無い訳で・・・。ん〜、確証はないが一応話しておいた方がいい?他のメンバーが不安がるよりは、何かしらの可能性を話していた方が次に潜る時に、変に大型モンスターを警戒しなくて済むだろう。まぁ、本当にいたらいたで叩き潰せばいい話である。
「あ~、皆さん聞いて下さい!退出間近に光を見たと思いますが、あれは橘さんのやらかしです。装備庁の試作品が思ったよりもポンコツで、引き金が戻らないというアクシデントがありました。多分、みなさんが見た光はそれだと思われます!」
そう話すと橘に注目が行くが、本人は顔の前でバツを作り回答を控えている。エマがいるので新型装備の情報開示は控えるという事だろう。まぁ、あれが国外に漏れれば明らかに文句言われるだろうな。
仮に戦車や戦艦の主砲をあれにすれば、クシャナ殿下の様に薙ぎ払えー!と敵艦を消し飛ばす事も可能だろう。だが、それをゲート外で使うほどほど馬鹿ではないと信じたい。えっ、あれモンスターを倒す為の兵器だよね?厳重抗議と言ったが、本当に大井を通じてでも話さないとな。
エマは横で不審な顔をしているが、俺とてゲート外の国の動きとか聞いていない。やりたいようにやってもらっていいのだが、戦争に舵を切るならそれは既に別の問題だろう・・・。
「橘がNGを出しているガ、掘り下げると問題は出るカ?」
「さぁ?橘さんや装備庁については私も管轄外です。質問を投げるなら大使館からどうぞ。私は日本在住ですが、変な道にそれられてもこまる。頭をぶん殴るなら今ですよ?」
相互監視とは言わないが、誰も見ていないと悪い事してもいいかなぁ?と思うのも人の常。何故漏らした?と文句言われそうだが、逆に漏らさずにいる方がヤバい気がする。ん〜、ゲート内で駐屯地に装備庁が出入りしていると言っていたし、持ち出し厳禁とでもしているといいのだが・・・。
「クロエは日本を殴るのに賛成ト?」
「外交云々に口を出さない。と、言うか私に何か話が来ない限り私は何もしませんよ。例え外交問題の解決に大統領と内閣総理大臣がR・U・Rで殴り合おうがポップコーン食べながら観戦するくらいです。むしろ、そっちの方がさっぱりしません?」
「その試合なら私も見たいですね!何なら、古巣の上司を片っ端から叩きのめしたら少しは威厳と言うものが・・・。」
「カオリはついてくるんだから、そんな事はしなくていい。逆にエマはウィルソンさんとか殴り放題ですよ?愚痴ってるから、本国に戻った後、練習相手に指名するといい。」
そんな話をしながら駐屯地に到着し明日の予定を話して解散。橘から飲みに誘われていたので、血涙流す望田とエマと別れて適当な飲み屋で1杯。帰ったら帰ったで酒飲み3人に改めてお姫様抱っこの件を聞かれたり、妻からその件でお小言を言われたりして過ごし数日後。
ゲートを進む進捗率は悪くない。橘が合流して、モンスターに対する殲滅速度も上がったし、各個人も慣れたので歩みを進めている。このまま行けば、大会までに50階層到達は確実だろう。それぞれの連携や個人でのモンスター対策も良くなり、霧に対しては治癒師の結合が1番効果が良いようだ。
あれは薄く広がって現れるから面倒なのであって、集める事さえ出来ればそこまで凶悪でもなく、結合すればするだけ実態に近付く。まぁ、くっついたらくっついたでそのまま暴れようとするので、その点が面倒といえば面倒か。その他の問題とすれば本当に数が多い事くらいか。入るメンバーにしても、傷を負う確率は減っているが、それでも無傷とは言わず半年前の様にインナーマラソンがまた始まっている。
このまま連日入っても疲れが溜まり事故の可能性もあるので、今日が終われば明日から休みを入れようかと考えながら、朝の準備を済ましテレビを見る。ここ最近の話題はやはり本部長選出戦のモノが多く、政府から出される情報をコメンテーターがあーだこーだと解説したり、出土品の話をしたりと話題には事欠かない。
遥に頼んだ靴とインナーも進捗率はボチボチでお願いした量とは言わないが、備えなのでそこまで意気込まなくてもいいだろう。キセルを吹かし、今日も今日とてモンスター退治かぁー。そんな事を思いながら、出発までダラダラと過ごしている時テレビから速報が流れてきた。
「ここで緊急速報です。秋葉原でのスタンピードが、まだ記憶に新しい方もいると思いますが、米国ワシントンD.C.にあるゲートで、スタンピード発生当初と同じ様な現象が発生しました。現状はほぼ一切不明という事で、現地特派員もゲート付近に向かっていますが現場の混乱は大きく撮影は出来ていません。繰り返します・・・。」
ポカンとする。間に合わなかった・・・、いや。今稼げた猶予がこれだけと言う事か?何1つ情報もなく、まさかテレビで知る羽目になろうとは思わなかった。いや、そもそも千代田達の話では基本スタンスとして静観の構えだった。なら、これもあり得るのか?情報を流すテレビが不気味な箱のように思える。
「カオリ、遥!テレビ!テレビ見て!」
「なんですかやぶから坊に。」
「芸能人でも結婚した?」
「違う!そんなニュースよりなお悪い!エマは!?」
「そろそろですが今日は遅いですね。」
そんな話をしていると、エマと千代田が2人して部屋になだれ込んできた。
「クロエ、今から米国大使館へ向かいます。準備を!」




