152話 東京に向かったようだ 挿絵あり
賑やかな夕食を済ませて就寝。結城君は選出戦に興味があるらしく色々と話せる範囲で話したが、イメージとしてはやはりというか格闘技の中継を見るような感覚でいる。別に間違ってはいないんだがルールの関係上、エフェクトとは言えバンバン血も出るので苦手な人は苦手だろうな。今回の休みの間に一部の選手へ説明会を開くと千代田が言っていだが特に連絡もないので問題はなかったのだろう。ルール上の穴もないし、そもそも問題を起こせば権利剥奪もあるので、余程なにかない限りは大人しいはずだ。
最年少にしても16歳、男女比率で言えば男性が多目だが女性がいない訳でもない。男女平等結構。対人戦を苦手と考える人、例えば望田なんかは一般人だったとしても参加を躊躇してしまうだろうが、そういう人も一応は政府が分かる範囲でリスト化しているので、物販の方には優先的に来てもらえる事になっている。
スタンピードが起きず本部長選出戦が先にあったなら、下位の本部長に後を任せられるのでかなり動きやすくなると思うが、いつ起こるかも分からないので、今は粛々と中層へ向かって掃除をするとしよう。息子を送り出して朝のゆっくりとした一時だが、今日は妻も救護所へ出勤するし俺も東京へ戻らないといけない。最終便でもいいのだがエステで爆睡した事もあり、早めの便で帰って明日に備えるようにと言われてしまった。
「さて、私は出勤するけど司はどうする?お土産とか買いに行く?」
「それは後からでいいかな?1つ検証事項が増えたんでお忍びでゲートに入るよ。と、莉菜は午前中空いてる?」
「ん〜、混み方次第だけど少しならあるよ?なに?お買い物デート?」
「いや、ゲート内ラボに招待しようかと。政府の方も許可は得たし何より薬を運ぶ手間が省けるから、それの検証も含めてやって欲しいって。今の所薬を運ぶのも既存の輸送手段だったり、地方はスィーパーからの買い取りがメインだからね。」
次の階層へ行くのは来た人と行けばいいし、大々的に公にしなくとも素早く薬を運ぶ手段が確保できるのはいい事だ。先ずは国内で試してそれから国外へ。成功を重ねていけばワザワザ国外に人を派遣して工場を作らずともゲート内で取引ができる。
まぁ、そこに行くまでには人選やら信用やらの問題もあるし、イギリスの金融街で提案された金貨の補償額問題も関わってくる。流石に人件費やらもあるのでタダでは渡せないので、基軸通貨払いよりは保証された金貨払いの方が取引はしやすい。買い取った後に転売する?俺は関知しないよ?その国の政府がするならそれは国策なんだろ?
売るにしても生産限界もあるし、何より工場自体がまだそこまで多い訳でもないので、その辺りは政府と高槻がどう決めるかによる。俺としては株主の立場なので、基本的には会社の方針にはあまり口出ししない方針だしね。
「それなら大丈夫!薬があって迷惑な人なんていないわよ。数が確保出来るならそれだけ助かる人も増えるしね。」
「そうか、なら入る連絡して良い時間になったら入ろうか。」
家を出て救護所近くへ。一旦分かれてプカリとキセルを吸いながら車で待つ。スマホをポチポチすると千代田から説明会は滞りなく終了した事や検証の事が書かれている。今回も中々濃い参加者がいたようだが、我の強い者ほどイメージも固めやすいと言うか、確固たる自分を持ちやすいので仕方ない。そうでない者はただの我儘だしね。
他の所で言えば講習会メンバーで飲みに行った事や鍋パーティーをした写真、ネットニュースを見れば国連がまた設計図オークションに介入した事。今注目の出土品はコレ!と言う見出しのコマーシャルに、就職最前線!企業が求めるゲートジョブなんてのもある。
ちょっと興味を惹かれて読んで見たが、やはりというか大企業ほど生産系の職を欲しているようだ。研究や取り扱いには生産系の職を付けろと法的に決まったので、今年の就職活動の争点はたしかにそこになるだろうなぁ。金を積んでも努力してもゲートの職は適正でしか決まらない。文字通り一発逆転の最終手段なので、現時点ではそれについた人を多めに確保していたいという本音が垣間見える。
その一方で大学に残って研究者として、仕事したいという人の割合も多い。未知を知るなら現場からと言う思考なのだろうが、企業も大学に多額の寄付金を表明と言う記事もあるので、これから先どこどと企業付属大学とかも増えるかもな。技術研究者と商人は思考が全く別なので、改善する着眼点も変わってくる。上手い具合に改善出来ていけばより良い未来もあるだろう。
たた異世界ならメジャーと言うか、主人公枠的な剣士はあまり人気がない。誤差と言えば誤差なのだろうが、ゲート内を走り回らず外の暮らしや就職した場合、日常生活で剣を取り出して斬りかかると言う事は少ないし、公の場で武器を出す事も法的に禁止されている。なので、外で使える能力と言う面での評価が低い。
まぁ、普段外で働いて週末気分転換にゲートに入るくらいなら、そこまで問題はないのだろうが、就職戦線でゲートの職も取り上げられているので、開通当初に入って剣士でフロンティアを目指した人達はまだその夢を追っているのか、折衷案的な方に向かったのかは分からない。企業スィーパーなんていうのもいるので、一概には言えないのだが・・・。
「ただいまー、ちょっと救護所寄ってかない?工藤さんとか顔見て話したいって言ってるし。」
「ん〜、騒ぎにならない?顔見せずにこっそりとウロウロする分にはいいけど、あんまり大っぴらにすると患者に悪いだろ?」
「そうなんだけど、青山さんが『東京で待ってるて昨日告白を受けました』って言い出して何時もは受け流してるんだけど、昨日なら実は帰ってきてるんじゃね?って話になっ収拾がつかないの。」
あぁ〜おぉ〜やぁ〜まぁ〜!多少は見直したが、見直した側から評価を下げるしかないじゃないか!元々遥か彼方の銀河辺りにある評価だが、今は宇宙の端辺りまで遠のいて多分戻ってくることはないなろう。評価しない、これが正式な対応かもしれない。
「はぁ、青山はいない?いないなら顔出すのも吝かじゃないけど。」
「大丈夫!今朝東京に行ったらしいから。」
うっし!ようやくおじゃま虫が消えた!これでハイソなお喋りが・・・、ママさん井戸端会議に巻き込まれる?そんな事を思いながら救護所に顔を出すと、案の定知ってるおばちゃんにも知らないオバちゃんにも捕まり揉みくちゃに。話を聞く限りだと半数以上がペーパースィーパーで、中に入ったのは指輪を取って職に就いた時だけというのが大半。
就いた職もバラエティー豊かで、不良の息子を叩き直す為に格闘家になった肝っ玉母さんなんてのもいる。プレハブ小屋だった救護所内も暖房が付いたりベッド数が増えていたり、死亡判定出来る医者がいたりとかなり充実している。そして、妻が棚を欲しがった訳も垣間見える。
医療器具はないが、包帯や麻酔等の薬はかなり量が多く一応、簡易無菌室なんてのもある。ここはあくまで治療をする場なので研究関係の機材はないがそれでも手狭と感じる程に段ボール箱が積み上げられている。理由としては、誰かの指輪に収納すると必要な時にその人がいなかったら使えない事と、1番大きな問題として収納した事を忘れてしまったら取り出せない事らしい。
そのうち資産家とかが、指輪に金目の物を入れっぱなしで急死したら色々と火種ができそうだ。まぁ、その前に小説とかで指輪を使ったトリックとか、職を使った刑事モノとかも放送しそうだな。そんな井戸端会議でひたすらお菓子とかを貰って食べる。おばちゃんマジック何処からともなくお菓子を出すの術は、今では指輪から無限供給するにランクアップしている。
本当にポテチ何袋食べたか・・・。当面ジャガイモは見なくていいかな?九州醤油味から洋菓子まで色々出されだが、食べることは出来るがそこまでお菓子を食べたいわけでもない。
「ご馳走ありがとうございます。急に押し掛けたのにすいません。色々と話も聞けてよかったです。」
「いいのよぉ〜、ほんといいこねぇ。って、あらやだ莉菜さんの旦那さんならそれなりのお年よね?外見って怖いわぁ〜、子供だと思ってなくてもお菓子あげたくなっちゃうし、こんなに綺麗なら家に飾りたくなっちゃう!もう行くなら写真お願い!娘に自慢するから!」
「は、はぁ。どうぞ。」
そんなおばちゃん達と共に写真を撮った後、千代田と連絡をとって妻とゲート内へ。なにげに妻とゲート内を歩くのは初めてだな。俺が東京でスタンピード対応している間に職に就いたし、就いたら就いたで救護所立ち上げて奔走していた。初めてに立ち会えなかったのは仕方ないが、改めて無事で良かった。セーフスペースは6階層なので一気には行けず、1度5階層に出て奥を目指す。視界の練習がてら煙を見ながら歩くので、何時もよりは多少時間がかかるが危なげなく到着。ただ、迷うのはここで退出アイテムを使うと、次に妻が回復薬を取りに来た時にどうやって外に出るかだろう。
早めに階層移動アイテムを見つけて送ろう。今の所は薬も足りているが、ギルドが稼働しだした時の供給線は確保しておきたいし、あれば他のギルドにも似たような形で供給線がしける。
「初めて来たけど本当になにもないのね。」
「何もない所に出たようだ。移動すれば木もあるし何かしらの植物っぽいものも生えているし、水が湧き続ける箱とかもあるぞ。」
「箱を持って帰りましょう!ポンプでも付ければ水道代の節約になるわ!って、あれが馬よね?本当に目が3つあって気持ちわるぅ〜。」
背後からいつの間にか来ていた馬を妻が見つける。確かに初めて見れば気持ち悪いよな、俺も衝撃的だったし。まぁ、今となっては食べてもいいし移動手段としても使えるし、何ならワープしてるんじゃないかと囁かれる、研究者が目の色を変えて確保に走る不思議生物。好んで食う気はないが珍味ではある。
「そのキモい馬も慣れれば可愛げもあるぞ?鳴きもしないけど、指示には従うし割とイメージさえ出来ればどこでも連れて行ってくれる。」
「じゃあこれに乗っていくの?」
「そう、御手をどうぞお嬢様?」
「うむ、くるしゅうない。」
先に乗って妻に手を差し出し引っ張り上げて出発する。取り敢えず現地に着く頃には昼だし半田の所でなにか食べてもいいな。…食べるで思ったのだが、目的地のイメージを固めるならその場で誰かに合うのもいいし、美味しいものを食べるでもいいし補助的な物があるといいのかもしれない。アカシック・レコードなんて概念があるが、いくらそれに全ての記録があろうとそれを引き出すものがなければ、その記憶に意味はない。いくら蓄積されても、貯まるだけで引き出せないなら使い道がない。
そんなモノに頼るくらいなら懐かしい香りや、瞼に浮かぶ風景、在りし日に聞いた声とかを思い出す取っ掛かりを貰った方がいい。そうすれば、何時でも必要な記憶に会いに行ける。
「ねぇ、これって乗り回すの難しい?」
「ある程度目印をイメージ出来れば連れて行って貰える。失敗すると、イメージしたモノに似たなにかの所へ連れて行かれる事もあるから、今回は取り敢えずイメージさえ固められればいい。外へ出るのは退出アイテムってのを使うしね。莉菜はここより奥へ行った事はないだろう?」
「ない、でもラボだったかしら?離れていてもそこなら司に会えるんでしょ?」
「まぁ、時間さえ合えば会えるよ。ただ、昇降アイテムってのを見つけるまでは駄目。そうじゃないと君が帰れなくなる。」
「大丈夫、必要なものが分かれば後は探すだけだから!」




