150話 おじゃま虫 挿絵あり
「遅ればせながら、ここの総現場監督をしている灰田と言います。まだ建設途中なんで入れない所もありますが・・・、図面とか見ました?」
そう言いながら名刺を差し出してきたので、こちらも名刺を差し出す。割と色んな人と交換するのでそろそろ在庫が少なくなっていてるな。また印刷してもらって補充しておこう。最後に全体をクリーニングすると言う事で灰皿が割と置いてある。灰田がチラチラ見ているので、こちらも1本取り出して態度で吸う旨を伝えると同じ様に取り出して互いに火を付けてプカリ。
今いるのが1階部分だとして、地下は結局どれくらい取ったのだろう?見たのはあくまで仮の図面なので決定稿は知らない。見た感じ、大きな変更はないようだしなにか裏事情的なものとかあるのだろうか?
「私は見てないから知らないけど、救護所もここに入るんでしょ?広さ的にはどうなの?」
「それは・・・、生憎と区画整備まではしてるんですけど後は入った人達に決めてもらった方が手間がないかなぁ〜と。今なら引っ越しも体1つ有ればらくらくですからね。本部長がいて・・・、よく見たら救護所の救護長?いい悪いは別としてお世話になってます。最近は労基署がうるさくてカッターで指切ってもすぐに労災扱い。近くに救護長達がいるおかげですぐに行って仕事復帰してくれる。と、本部長と救護長がいるなら部屋決めてしまいます?間取りは決まってるんで、後は好きな部屋決めてくれれば、棚とかも付けられますよ。」
ふむ、稼働後にどこが良いここがいいと話し合うよりある程度決めてしまえれば、後から何かを取り付けて欲しいやらの要望を聞かなくてもいいだろう。灰田が指輪から図面を取り出して現在地を指さしながら更に口を開く。
「今いるのがロビーエントランス。正面がスィーパーの受付とインフォメーション。他はカフェテリアとか雑貨屋とかになります。基本的に1番経の大きい所と2階が一般的と言っていいかわからないですけど通常入口。地下にはみ出た分は緊急時や本部長達が使う用の入口。2階部分には託児所とかの予定になってまして、他は職員の仮眠室やらシャワー室に仮として医務室区画。県をアピールする温泉浴場とかは地下にあります。その他は3階に鑑定室と出土品の売買場。最上階に本部長室があって、空き部屋は全部出土品管理保管室となっても。外も細々書かれてますけど、基本的にカフェテリアで火を使う以外は火気がないので、好きなように指定できます。」
話を聞くだけで本部庁舎って24時間営業だよな・・・。確かにスィーパーは会社員でも無いので、決まった時間にゲートで仕事しないといけないと言う訳でもない。個人のライフスタイル次第では夜型人間なんてのもいるだろうし、スタンピードは時間を選んでくれない。仕方ないけど、シフト制で対応するしかないよな。問題は2交代か3交代のどちらを採用とするかだな。
「託児所あるならやっぱり救護所はその横よね・・・、小さい子だと目も離せないし何かあったらすぐに見てあげたいし。」
妻がブツブツ言う横で図面を改めて見るが、屋上部が開閉式と指定してあるので、庁舎が完成したらコインの投入よろしく空輸して庁舎に差し込み固定するのだろう。海なので高波とかが怖いが。奥の方に防波堤も作られてたみたいだし、一応は大丈夫なのかな?
高波にゲートが攫われて海底に沈むと回収は面倒だし、放置していい物でもないのでその辺りは台風情報次第では望田に頑張ってもらう必要がある。倉庫が多く設計されているのは嬉しい反面、盗難やらラベリングが面倒だな。全て指輪に収納してもいいがそうなると毎日出勤する羽目になるので、ジレンマと言えばジレンマ。最悪設計図や国のランク分けに沿って危ないモノだけ収納してもいい。
「灰田さんこの託児所予定の部屋の横って見れるかしら?」
「大丈夫ですよ、内装が不十分ですけど間違っても床が抜けるなんて事はないです。ただ、部屋決めたらコンセント増やすのは早めにお願いします。壁材がゲートのボックスだったりやたら硬い鉄板だったりで穴開けるのは相当に手間なんですよ。搬入時にどのパネルを何処に取り付けるって指示書があるのは楽なんですどね。びっくりするくらい規格も統一されてるし。」
歩きながら灰田の愚痴やらを聞いて到着したのが託児所予定の横の部屋。まだ壁が嵌められていない所もあり鉄筋が見える。特にゴミがあるわけでもないので、廃墟と言うよりも骨といったイメージの方が強い。
「広さはいいかな?私達は特に医療器具を使うわけでもないし。そう言えば、今まで普通に治療してたけど医師免許とかないし・・・、モグリの医者・・・、ブラック・ジャック?」
「ブラック・ジャックは医大出てインターンまではやってるよ。まぁ、その後は免許を取る取らないでアニメ版と漫画版で若干話が違うけどね。ただ、今から医大とか行く?」
「・・・、主婦かっこ仮なので行きません。そんな所に通うくらいなら貴方との時間の方が大切です。帰ってきたらオフィス・ラブができるわよ?」
「ラブどころか結婚してるんだが・・・。それも既に十年は超えてるぞ〜。」
「いいの、気分は何時でも新婚とか付き合い出した頃のまんまなんだから。毎日新しい好きを見つける方が素敵じゃない?」
「それはまぁ、その方が素敵だな。わざわざ人の嫌な所なんて見たくないし。」
「そうそう、だからこうして手を繋いで新居の内見みたいな事してるんだからね。」
「莉菜・・・。」
妻の手に力が籠もり引き寄せられる。付き合いだして初めてキスした時からの妻のキスして欲しいぞ〜合図。してもいいが残念な事に身長がなぁ。やっぱり30数cm捧げたのはやりすぎだったか。せめて後5〜10cmあればいいのにもどかしい。見上げて見つめ合う事は出来るが、背伸びすれば大丈夫か?
「あー、イチャイチャするのは別でお願いします。妻子ありますが目の毒なんで。と、言うか本部長の奥さんって救護長だったんですね。」
割と普通の振る舞い・・・、いや、欧米人でないなら中々人前でキスはしないか。長らくそういう生活だったので疑問にも思わなかった。まぁ、妻がしてほしいならいくらでもキスはするとして、どの道ここが稼働すればすぐに誰が妻かは目星はつくし、そもそも公表しているので問題ない。
「ええ、こんな形ですけど大黒柱。忙しく仕事をさせてもらってます。莉菜、なにか要望はありそう?」
「今の所大丈夫かな?ただ、医療器具は無いけどお薬置く棚はほしいかな。調合師の人とかも救護所にきて助けてくれるけどそれぞれに仕事があるからね。正式な病院って訳でもないし、お給料はポケットマネーから心付け程度だしね。」
出すならもっと出してもいいのよ?既にギルドで働く働かないの決は取ったし、働くなら臨時職員からの本採用コースとほぼほぼ決まっている。実績?ゲート開通後稼働しだした野戦病院だぞ?しかもスィーパーや主婦主体の完全民間組織。妻が育ててくれた芽をミスミス潰すわけがない。
「棚くらいなら用意します。今度個数を書いて発注して下さい。お代は・・・。」
「私に回して下さい。警察でも自衛隊でもかまいません。私に回すように言われたと名刺でも見せながら言えばかならず届くでしょう。」
「へ?この名刺そんなにすごい効果あるんですか?」
「政府が偽造防止技術を詰め込んだ名刺です。見る人が見ればわかるとして、鑑定師なら誰の持ち物かも分かるでしょう。なにせ、名刺を使いこなすなら持ち主を知らないとね。」
そんなこんなで内部視察を終了し昼食を食べようかと車を走らせたが、妻が救護所に忘れ物をしたと言うので近くの駐車場に車を止めて待っている。寒いので暖房を入れっぱなしだが、幸いハイブリッド車なのでエンジン音は気にならない。ただ、おしゃべり好きな人に捕まらなければいいが・・・。
コンコン・・・
「ん?消えろカエル。」
スマホをポチポチ操作してニュースなんかをみていたら窓ガラスをノックされたのでそちらを見ると、顔面崩壊するんじゃないかと言うほどに顔を押し付けた青山が・・・。ネタを言うならええ!窓に!窓に!だろうか?今は名状しがたき顔なので多分大丈夫。
「ひほへみはくさふひょうひはひは。まほほあへへもはへはへふか?」
「何言ってるかわからん。さっさと東京へいけ。プライベートに首を突っ込むな。」
こいつ追跡者か何か?いくらゲート近くに車を止めたからってピンポイントで来なくていい。寧ろ来るな。大人の対応として丁寧は心掛けているが、妻と俺の間に入ろうとするな。はっきりと言おう、邪魔であると!
「ふっきはほうはあははほふふふひい、ほはへほほふへふは?」
「日本語話せ化け物。再度言う、プライベートだ早く何処かへ行け。」
仕事としてならまだ付き合い方もあるが、プライベートまで嫌いなやつと仲良く過ごせるほど壊れてはいない。本当に嫌いならどうするって?丁寧に丁寧に嫌いな奴の仕事を笑顔で引き受けて、仕事が分からなくなった頃にリリースするんだよ。そうすれば、本人の立て直しは相当大変になるし、場合によっては窓際送りである。自身の評価も上がるし一石二鳥。
「ここで会えたのもなにかの縁です。お時間しか取らせませんからカフェでお茶でもしましょう。」
「お前に取られていい時間はない。早く東京へ行け。本部長でも職員にでもなって遠方へ飛んでくれ。」
「そう言われると思って未だにここにいます。私は本部長なんかより貴女のそばにいたい。」
甘いマスクのイケメン金髪から言われればころッと行く女性もあるかも知れないが、少なくとも俺には鳥肌と寒気しかでない。寧ろ、ここまで酷いファンっていた?
「私は近くにいてもらいたくないですし、そもそも既婚者です。浮気駄目、絶対。それくらいの良識はあるでしょう?」
「あります。なので養わさせて下さい。大丈夫です。夫婦を養うだけの蓄えもありますし、いってきますのチューくらいしか要望しません。」
「貴方は名前の通り頭空っぽですか?私は妻が好きで妻は女性。野郎は帰れ!」
「なるほど、先ずは女性になるところからですね!では!」
「海外行くならそのまま帰ってこなくていいぞ〜。」
やっと静かになった。恨み辛みはないがとりあえず付きまとわれて邪魔なヤツがようやく何処かへ行ってくれそうだ。まぁ、ないとは思うが手術するならタイやモロッコがいいらしい。知らんけど。そう思っていた時期が私にもありました・・・。何で回れ右して帰ってくるかなぁ?
「よくよく考えたら本部長なら、会談でお茶したり食事したりして一緒に過ごすじゃないですか。すぐさま海外に行こうかと思いましたが選出戦の後にします。」
・・・、ふむ。海外に行かないなら物理的に引き剥がそう。悪いヤツでない奴がいいヤツとは限らないのだし。




