148話 心溶ける 挿絵あり
すいません、多忙で短いです
妻の準備が終わり車で温泉へ向け発進。今回はお気に入りの高台の温泉だが、残念な事に日が暮れているので景色は真っ暗。ポツポツと光は見えるが、どうせなら夕日沈む海を見ながらが良かった。まぁ、お湯も入ればスベスベたまご肌なので、気持ちいいし好きだからいいか。家族風呂の予約も露天風呂が取れて満足だし。
ハンドルを妻に取られたのはまぁ、仕方ない。久々の夫婦水入らずなのに警察に止められても面倒だ。ただ、職務に忠実な警官諸君!確認はしていないがサイン貰う為に職質かけてないよな?外見の事は置いておくとして、免許証見せた後にサインをねだるのがパターン化してるぞ?ついでに言えば、何でパトカーにサイン色紙が常備してある?
免許証を早期に作ってもらった手前、無下にはしないがサインが欲しいなら職質抜きにしてサインだけ求めてくれないかな?書くのは手間じゃないし、免許証見せるのも手間じゃないが照会時間は手間なんだよ。
「あそこの温泉も久しぶりね。司がいるなら入り行くけど、那由多と2人だと近場の温泉で済ませちゃうし、家族風呂なんて歳でもないからね。」
「流石に今の那由多と家族風呂は、お互い気恥ずかしくて無理だろう。」
2人で入る分には気にしないが、年頃なので母親と入るのは恥ずかしくて無理だろう。俺も・・・、まぁ、身体は少女なので多分駄目かな?俺は気にしなくても息子は気にするだろうし、何より千尋ちゃんに悪い。
恋愛禁止とも言わないし、節度を持って付き合えとは釘を刺すが何もするなともまた言えない。だって理不尽だろう?恋愛も駄目、エッチな事に興味のある年頃なのにそれも駄目。何もかも禁止にしたのに成人したからと言って、急に結婚や孫の話をするのは。
必要なのは本人達の気持ちと節度。親として言うのなら責任が取れない事は興味本位でもするなと言う事くらい。相手が好きなら不幸にするなよ。その程度の理性くらいは持て。隠れてコソコソ2人の秘密を作るのもいいが、あまり親を心配させるなよ。
「墓穴を掘ったな司!娘と入ったのは誰だ!」
「不可抗力だ。そもそもいつの間にか大浴場にいたんだぞ?介護の予行練習として諦めた。最後に全員で家族風呂に入ったのは・・・、確か遥が小4くらいか?」
「確かそうね。10歳超えたら大浴場って言ってそこからは別々だったかしら?寂しかったけど成長は感じたわ。そう言えば、東京に染まって浮いた話とかないのかしら?」
浮いた話か・・・、周りに男っ気がないので全く聞かない。だが、仮に付き合うとしても、いきなり親に彼氏出来たとも言い辛いだろう。外見はこんなだが、遥に前聞いた時は父親と認識はされているようだし・・・。
「聞かないからこれからだろう・・・、遥が講師になったのは?」
「あの子から聞いたわ。貴方が出世したら次は遥。なら、那由多は総理大臣にでもなるのかしら?はっはっはっ!日本を牛耳ってやろう!何、悪い事はしない。司を週休7日制にするだけさ。」
「それはニートだろう・・・、怖くて出来ない。仕事が好きって訳でもないけど、そんなに休んだら怖くて仕方ない。」
休憩は必要だが仕事しなさすぎるのも怖い。家族もいるし家のローンもまだある。お金が目減りしていくのは中々恐怖だ。恐怖だが、指輪の中には大金が・・・。作られたプロフィールで在宅ワークしていた事になっているが、何かしら新しい趣味でも作って在宅ワークしてましたよ?的なアリバイとか作ろうかな。
「まぁ、そうね。2人でゆっくりするのはもう少し先でもいいかしら。講習会は順調なんでしょう?終われば帰ってくるし、職場も一緒になるし、ぼちぼちと平穏も戻ってくるかしら?」
講習会の終わり。いや、終わって大会終了で庁舎が出来ればこちらで仕事をしだす。見た感じ完成はもうすぐで、出来上がればギルド長。問題なのはスタンピードの発生時期。ただ、打ち合わせやメンバーとの再会はゲート内なら何時でも出来る。検証していない事と言えば、ゲート内で再開後一緒に潜れるのかと言う事だろうか?
入口で手を繋げば一緒に入れる。なら、ゲート内で手を繋いで次のゲートに入ったら?検証漏れしているが、これが可能なら解散後もかなり動きやすい。今回、ゲート内が地続きである事は判明した。そして、目標物さえあれば会える事も。なら、それは次のステップか。言うほど手間でもないし最終日に検証しよう。
「戻るさ。その為に向こうで仕事して懸念事項を払拭してるんだ。帰れなかったら流石に愛想を尽かす。ただ・・・。」
「着いたわよ〜。続きは温泉で聞くから先ずは入りましょう?」
「そうだな、入ってから話そう。」
車を指輪に収納して受付へ行き、料金と鍵を引き換えて予約の風呂へ。服を脱いでいると妻の視線が飛んでくるが、そんなに見ても面白くないだろ?太っている時は肉を摘まれたが、残念な事に今は肉もないのだよ。
「ちゃんと食べてる?全然お肉つかないじゃない?」
「多分成人男性の倍以上は毎日食べてる自信がある。と、言うか前に話したし見せただろ?この身体は変わらないよ。」
「そう・・・。」
かけ湯をしてお湯に浸かる。温かいお湯が冬の寒さで冷えた身体にじんわりと熱を伝え、凝り固まった心のシコリなんかも溶かしてくれるように優しく包み込む。そんなだから声も出るというもの。
「あ゛ぁ゙〜・・・。」
「ふふっ、姿は変わっても司は司ね。でも、そんなおっさんみたいな声出したらダメよ?」
「元がおっさんだから仕方ない。寧ろ、浸かってこの声が出ないとかないからぁ〜。」
声とともに何かも吐き出している気がする。多分それは溶け出したなにか要らないもの。心の洗濯とはよく言ったもので、確かに洗われて溶かされていく気がする。
「それで、向こうでなにかあったの?こんなに急に帰ってくるなんて何かあったんでしょ?」
「・・・、巻き戻りが見られた。それと、割と俺が元男だと知ってる人は多いっぽい。」
「それはまぁ・・・、仕方ないわよねぇ。大丈夫だった?嫌な事とか言われてない?」
「それは大丈夫だけど、君との秘密って言ったのに知る人が増えて約束を破ったみたいだ。ごめん。」
「いいわよ、あんな危ない所に入ってるんだもん。生きて帰って来てさえくれれば、無事でさえいてくれればそれでね。私も救護所やりだして色んな人を見たよ・・・。死んじゃった人もいるし、手足なくなったけどまた生やして潜る人もいる。息子の敵って言ってモンスターを倒しに行く人もいれば、お金儲けって人もいる。司、私も貴方も多分恵まれてるのよ?貴方は私の所に帰って来る事が出来る。私は貴方を信じて待つ事が出来る。そして、この2つは破られない。」
「君は・・・、強いな。」
「フッフッフッ・・・、愛妻に甘えなさい。」
「ありがとう。」
横にいる妻の肩に頭を預けて寄りかかる。寄りかかる事の出来る相手がいるのはいい事だ。きつい時、辛い時、意地を張って疲れた時、いろんな時があるけどやはり1人では折れてしまう時がある。ただ、肩を借りていただけなのに子供の様に抱え上げられて、膝の上に載せられるのはこそばゆい。ついでに言うと抱き締められたのはいいが、胸を揉まれているのはどうかと思う。
「ふーっ。」
「なに?興奮した?」
「違う。1つ肩の荷が降りた。」
「1つ?・・・、なに?他にあるの?不倫報告とかだったらこのまま放さないわよ?」
何故このタイミングでしてもいない不倫報告をしなきといけないのか問い詰めたいが、ある意味これから言う事は我儘でもある。しかし、言わなければならない。
「また、近いうちにスタンピードが起こる。」
「・・・、そう。・・・、うん。帰るの待ってるわ。」
正直、さっきの話を聞いても引き止められると思っていた。しかし、これは信頼の証。そうか、待っていてくれるのか。なら、俺の仕事をさっさと片付けて家へ帰る算段をつけよう。
「あぁ、いつ起こるかわからないけどすぐ片付ける。とっとと足りない本部長の件も蹴りつけて帰る。」
「早くしなくていいよ、ゆっくり安全にしてくれればね。危ないのは知ってるし、いろんな人と話さないといけないんでしょ?話が飛ぶ癖があるんだから、丁寧にする事。」
「分かっている、これでも職場では相当丁寧にしているんだぞ?」




