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街中ダンジョン  作者: フィノ


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147話 受け継がれる味 挿絵あり


 妻の運転で久々の我が家。事故りそうな事はあったがどうにか無事についた。うん、妻のやきもちが暴走しているが普段と変わらないので目を瞑ろう。・・・、おかしいな?男の時はここまでなかったと思ったが・・・。


「ただいま〜、にゃん太出迎えご苦労。オヤツがあったら進呈しよう。」


「ただいま、お帰り。あんまりオヤツあげないでよ?太ったら寿命も縮むんだしね。」


  挿絵(By みてみん)


 大人しく胸に抱きかかえられる愛猫の喉を撫でながら、オヤツの相談をしていたら止められた。確かにコイツもいい年だもんな。人間換算すると60歳くらいかな?元気に鳥を捕まえてはたまに持ってくるが、餌もそろそろ考えないといけないかな?


「母さんお帰り・・・、父さんもお帰り。」


「とうとう俺が父親だと認めたか。うんうん。司呼びでもかまわなかったが、そう呼ばれるとやっぱりしっくり来るな。」


「納得したと言うか、納得せざるをえないんだよ・・・。まぁ、我が家唯一の常識人が陥落したと思ってくれ。人生長いんだ・・・、父さんが美少女になって地球の危機を救う為に戦って、なんか知らんけどどんどん功績が増えていくなんて言う、そんな人の子供として生まれた人生もあるんだろうなぁ・・・。コンビニ入ったら突然父さんの声が聞こえてきたり、ネットニュース見てたら写真集の噂が流れてくるなんて事もあるだろうさ・・・。」


 玄関先で猫と戯れているとやってきた息子が遠い目をしながら話す。運動会までは司と呼んでいたが、どうやら諦めとともに吹っ切れたらしい。まぁ、事実から目をそらして捻じ曲げる事は簡単だが、結局捻れはあるし何時かはそれが元に戻る。戻したくないなら耳目を塞いで、闇を見て生きるしかないだろう。そうすれば一人の世界は保てるのだから。


「どうした那由多?莉菜さんが帰ってきたようだ・・・、が?」


「千尋ちゃんいらっしゃい?いや、ただいま?一足飛びに新しく出来た息子嫁の千尋ちゃん?と、言うか何でエプロンを?」


「よ、嫁だなんてそんな!まだ胃袋を掴んでる所です。」


「千尋、なんか俺が聞いちゃいけない事が漏れてるから。父さんもからかわない。母さんが救護所に行って帰りが不定期だから、こうしてちょくちょく夕食を作りに来てくれるんだよ。」


 息子は照れ臭そうだし、千尋ちゃんは満更でもない。うむ、若者の甘酢っぱい距離感を楽しむのも大人の嗜みか。押しかけ女房とはまさにこの事。今年は成人だし進路次第では早くに孫の顔が見れるかもしれない。その際はちゃんと筋を通したやり取りをしないといけないが・・・、結納とかどうしよう?影武者探さないといけない?いや、佐伯さん達も昔の俺知ってるしこの姿で行くしかない?


「さぁ貴方、ここで立ち話も何だし中に入りましょう?」


「そうだな・・・、うん。近況報告とかもあるし入ろうか。」


 にゃん太を胸に抱え家の中へ。住み慣れた我が家は東京のホテル暮らしが長いせいか、少し他人の家の様な空気が漂う。久々に実家に帰省したら自室からこいつ誰?と伺われているようだ。まあ、すぐになれるだろう。この家の家長なんだし。そんな事を考えながら居間へ行きコタツへ入る。冬はコタツにみかん。猫も膝に載せて暖かさは完璧。


 犬は何時も呼ばない限りゲートをうろうろしているので、こうして大人しく抱えられている猫の方がやはりかわいい。そもそもあの犬はモンスターの成れの果てだしな。コトリと目の前に置かれた湯呑みからお茶を啜り台所を見ると、千尋ちゃんがそのまま妻と夕食の準備を再開している。漂う香りから察するに今晩は魚の煮付けらしい。


「それで父さんはいつまでいるの?」


「明後日にはまた東京。帰るって言ったら仕事を押し付けられてこの時間だ。それはそうと、今年で3年生。進路の予定は立ってるか?」


 今年で那由多の進路も決まる。親としては正直な所どちらがいいと強要はしたくない。大卒で社長になる人もいれば、高卒で社長になる人もいる。要は自身がどう考えるかであり、なにをするのかを選択するしかない。そもそも、学校に点を取る為に行くのか?或いは考える力を養って仲間を見つける為に行くのか?その時点で既に方向性が違う。


「ん〜、はっきり言うと迷ってる・・・。大学受験出来ない程成績は悪くないけど、勉強したい事もそこまでない。就職してもいいけど、やりたいと思う仕事も思い浮かばない。何かやらなきゃって焦りみたいなものはあるんだけどね・・・。父さんは何で進学じゃなくて就職だったの?」


「そうだなぁ・・・。勉強する事に納得したからかな?教科書読んで暗記してテストでそれを書いて点数を取る。小学校から高校までそれをして、大学行ってまでそれを続ける事の意味が見出だせなかった。生涯年収とか考えれば行った方がいいかもしれないけど、その2年ないし4年社会を見て、勉強したければ受験してもいいし転職するならしてもいい。何なら仲間を集めて会社を立ち上げてもいい。まぁ、転職するにしても30歳までにけりをつけろよ?キャリアアップとか大変だから。」


 そんな選択をしていった結果が今の家族であり、何故か美少女になった俺である。おかしいな?平凡な人生のレールがいつの間にかジェットコースターに切り替わってるんだが・・・。まぁ、選択してしまったのなら仕方ない。やるべき事にするべき事は既に自身の仕事として引き受けてしまっているのだし。


「就職か進学・・・、就職するにしても仕事がなぁ・・・。と、言うか父さんの七光りがそろそろご来光並みに眩しくなってるんだよな・・・。」


「俺は何もしていないが?」


「しなくてもクロエ=ファーストの親類ってのが既にネームバリューなの。この前なんか謎の美人転校生が告白して来て、断ったら謎のまま転校していったよ・・・。」


「まて那由多、初耳だが!?」


 台所で何かを切っていた千尋ちゃんがドンッ!とまな板に包丁を打ち付けながら叫んでいる。那由多の高校生活は中々面白い事になっているようだ。謎が謎のままなので歯牙にも掛けなかったのだろう。


「大丈夫よ千尋ちゃん!夫と違って那由多は誑しじゃないから!」


 妻よ、その評価は正しいのか?誑し込んだ覚えもなければ、そう言った手合に出会った覚えもないが・・・。間違いが起こるはずはないが、受け入れられない範囲というものもある。ただ、ここでそれを言っても仕方ないので適当に息子に話を投げとくか。


「誑しじゃないが、状況的にはジゴロだな。今の所、うちの家系那由多以外男がいない。」


「待ってくれ父さん!父さんは、男だろ!?」


「言ってなかったか?戸籍も女になった。寧ろ、出生から女になった。」


「待って!それは私が初耳よ!えっ!夫婦じゃなくなるの!?」


「いや、法律的に夫婦だ。前に話しただろ?同性婚は認められている。遥と那由多も実子扱いだ。法律転換期の隙を突いて事実婚状態だった同性婚者の子供は実子扱いとなっている。」


 当然といえば当然だが、同性では子供は生まれない。なので、法律を作る際に同性婚者が養子等を引き取った場合の取り扱いとして、養子ではなく正式な実子として取り扱う事となっている。色々と面倒な手続きがあるらしいが、千代田が話を持ってきた時には全て終わった後だったので、そこまで詳しく読み込んではいない。同性婚でも夫と妻を決める事になっているので、俺の名はそのまま夫として登録されたとか。


 まぁ、元々男女で夫婦だったのが女女で夫婦になっただけなので、そこまで問題はないし家の中での立場としても家長である事に変わりはない。


「そう♪ならいいわね。これで大手を振って司とイチャイチャできるわ。」


「近しい人とそうでない人で見方は変わるかもしれないが、元々夫婦だしな。後、色々プロフィールも弄くられたんで正直知らない学校出身とかになってる。後で書類渡すから読んどいてくれ。」


「えっと、司さん?卒業までの間は親戚扱いでいいんですよね?私の両親には話すとして、那由多が今からクロエは父親と言うと混乱が出ますけど・・・。」


「それでいいよ。人の口に戸は立てられぬって言うし、卒業さえしてしまえばそこまで親は関係ない。話したければ会話の種として話してもいいし、面倒と感じるならお茶を濁せばいい。と、そろそろ魚焦げない?」


「「ああっ!」」


 醤油と生姜の香りが煮詰まりすぎて濃くなっている。話し込んでしまったが、流石にこれ以上煮込むと焦げる。今日は煮付けがメインの様なので、それを失うと寂しい晩御飯になってしまうから口に出したが、2人もやばいと思ったのかドタドタと台所に向かい出す。まぁ、居間の横が台所なので距離はないが・・・。


「・・・、父さんはその・・・、色々納得してる?」


「ん?憂いはないぞ?そもそもお前が成人すれば、後は俺と莉菜の長い長い余生で後日談だ。蛇足を挟むならそれは、お前が進学して学費を払う時。就職したなら自分の給料で生活費は賄え。」


「頭の痛い話だなぁ・・・。もう1年もないうちに身の振り方を考えて答えを出さなきゃいけないのか。」


「時間は待ってくれないが、少なくとも平等に流れてる。過去に戻りたいなら飛行機で、日付変更線でも超えるんだな。」


(ちょっとまった!この星は過去に戻れるの?)


(ん?この星としての時間の考え方だな。海と陸があって日のさす所が朝となる。人間が決めた定義で日付変更線ってのがあって、それを基準に昨日と今日が入れ替わる。)


 確かに米国で開かれた会議で決められたんだったかな?本当に過去に行く訳でもないし、人が決めた基準なので人は従うが他には全く効果がない。


(ふ~ん、君達は疑似的にでも多数が納得するタイムトラベルの方法を有してるんだね。)


 ふむ、この話にそんなに食いつく所があっただろうか?前に時間操作は大きすぎて無理と言っていたが・・・、無理な理由ってもしかして基準や納得する人の問題?確かに、宇宙は昼も夜もない。その中で過去や未来と言う基準を作るのは難しいし、宇宙空間にいた場合これと言った目印もないので1日と言う単位も決められない。


 それに決めたとしても星の中に住んで、そこにいる人達がこうであると納得して認めなければ効力はない。それを考えると0の概念を見つけたインド人は偉大だな。


(空さえ飛べるんだ、単独で過去に行けるな。)


(・・・、何をしても何をイメージしてもいいけど、本当に無茶はやめてね?)


(なら、あの視界の練習に付き合え。教科書は読めると言うか、感じ取れるようになった。なら、その先をご教授願おう。)


(いいだろう。)


「ほら、運んできたわよ。皆で食べましょう。」


「あぁ、食べよう。金目鯛の煮付けに大根サラダ、お吸い物に白米。日本的でいいな。ホテル飯だと美味しいけど、どうしても洋食寄りになってしまう。」


「でもいいもん食べてるんだろ?」


「バカ、高級な飯と家の飯は別物。お前も県外に出て帰省したら旨さに気づく。」


 皆でいただきますをして料理に舌鼓を打つ。妻の料理に似た味だが、どこか違う手料理。そのうちこれが我が家の味になって次に引き継がれていくんだろうな。遥の結婚はまだ先だろうし、浮いた話も聞かずに今は講師として奔走している。まぁ、若いしそれほど急ぐものでもないか。


「千尋ちゃん腕上げた?」


「莉菜さんがレシピ書き置きしてくれるからですよ。元々私は空手ばかりで料理は簡単なもの以外範疇外でしたし。」


 褒められて千尋ちゃんが嬉しそうな笑顔を浮かべている。横で飯をかき込む那由多もなにかないのか?美味しいよとか、作ってくれてありがとうとか?作ってもらえるのは当然じゃないんだぞ?


「そうそう、最初は味噌汁作る時に出汁入れてなかったしな。」


「悪かったな、ウチは出汁入りの味噌を使っている。」


「そうだったのか、それは知らなかった。でも、母さんが言うようにすごく美味しくなってるよ。ありがとう作ってくれて。」


 息子が本当にジゴロにクラスチェンジしそうです。妻の方を見ると、いつものやり取りなのかニコニコしている。千尋ちゃんはまんざらでもないと言うか、褒められて嬉しいのか背後に犬の尻尾がブンブン振られている幻影が見える。


「司さんはどうですか?やはり単身赴任帰りなら、莉菜さんの料理の方が落ち着きましたか?」


「いや、美味しいよ。妻の味に似てるけど少し違う。その違いが千尋ちゃんの味なんだろうね。また次も機会があればお願いするよ。」


 和やかに夕食を済ませ、那由多は千尋ちゃんを送っていくと言って家を出た。ソファーで猫を撫でながらテレビを妻と見るゆっくりとした時間。この後温泉に行く予定で、息子は家の鍵を持っていったので、妻の準備が良ければ出ようかな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 謎の転校生て那由多君がいつの間にかラノベみたいなことになってる(笑) まあどこぞのスパイなんでしょうけど
[一言] 若返り薬は1年若返る薬を猫に飲ませると地球時間の1年若返るのか猫の寿命的に人間1年相当若返るのか 前者なら使い道が微妙な期間の薬が金持ちの飼い主に売れるな
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