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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 エマの活動報告@5 39

 画面越しのウィルソンとの定時報告もこれで何度目になるだろうか?休みはあるのでその時はまとめて報告するようにしているが、こちらに来てゲートに籠もる日以外はほぼ毎日している。一応、緊急と判断した場合は直接彼のデスクにかけるようになっている。一度スコットだったか?彼が出た時はえらくソワソワとしていたが、この通信が重大なモノだと分かっていればその態度も頷ける。


「クリスマスに新年と楽しそうだな少佐殿?」


「この国は無宗教だ。神に祈れば仏にも頼む。晴れ着だったか、中々に美しかったぞ?」


「どうせ写真は見せてくれないのだろう?それよりも仕事の話だ、ファーストが行方を眩ませたと聞いたが進展は?」


「ない。ゲートに籠もると言う連絡以降、GPSにも反応はないそうだ。」


 約3日前。模擬戦を終えて政府関係者と話しに行くと、会場を抜けたクロエは足取りを追うならゲート外では最後は高槻と電話で話したらしい。カオリに聞いた話だけだが本人からも確認は得ているので間違いないそうだ。その先はゲート内の店で酒を軽く飲み山口から爆弾を受け取ったそうだ。


 理由はゲート内の湖の深さを音響調査したいからと、後は小腹がすいて魚を食べたいから・・・。見え透いた嘘だが、高槻はカオリの事を知らないので音響調査、湖底までのエコーロケーションを出きる人間がいる事を知らない。深さを知るだけならソナーで足りるだろうが、魚を食べたいと言われればソナーでは足りず、そもそもその魚が餌には見向きもしないし何かしらの方法で打ち上げるなり網を使って取るなり、それこそ爆弾を使って大量に打ち上げて取る必要がある。


 今回最初から爆弾を指定していたので、打ち上げて取るつもりだろうと、それなりの威力の爆弾を作って渡したそうだ。爆弾の操作を誤ったのかと言われればありえない話ではないが、湖に投げ込んでスイッチを押すだけの事をどう間違うのかと言われれば返答はしづらい。


 自殺という路線は最初から考慮はされておらず、そもそも本人が数日で帰ると連絡を寄越しているので、騒ぎ自体は大事にならずメンバーもそのうち帰ってくる程度にしか考えていない。しかし、私としてはゲートという場所に1人で入り、行方を眩ませている時点で大事だと思うのだが信頼関係の問題なのだろうか?


 カオリを始めとして誰一人、難しいとは言え捜索に行こうと言わない事に何処か薄ら寒いモノを感じる。いや、そもそも帰って来ない事を信じていないのか?クロエとて人なのだから何かしらのToLOVEるに巻き込まれれば・・・、違う!トラブル!トラブルだ!淫魔っぽい尻尾の生えた宇宙人は関係ない!


「捜索の手立てがないのは、仕方ないとは言え歯痒いな。大統領でもないのに、その損失は計り知れない。寧ろ、現時点で彼女が打ち負けたとあれば、ソレに打ち勝つ手駒はないに等しい。」


「同意しよう。職は未だに魔法職としか情報がないが、それでも彼女は中位の体術師に勝っている。仮にあの模擬戦が装置抜きのものなら更にクロエに有利なモノだっただろう。」


 赤峰との戦闘を思い出せば大きな魔法・・・、例えば1人で35階層まで赴いた時の様な、大掛かりなものは使っていない。あくまで対人戦を想定した魔法であり、最後の締め以外は捕獲に重点を置いていたように思う。本人が本気と言っていたのだから本気なのだろうが、相手を人ではなくモンスターと断定して戦ったなら、更に早期に決着は付いていたのではないだろうか?


 意識的、無意識的にしろ相手を断定するという行為は必要だったのだろうか?・・・、必要だな。ただただ殴り合うなら問題ないが職を使うなら、その判定は綻びを探るイメージにつながる。仮に私と赤峰が本気で模擬戦をした場合、そのまま戦えば勝つのには苦労するし、体術師の格闘センスと盾師の守りが合わさった者を突破するにはかなり骨が折れる。


 搦め手にしろ正面突破にしろ、取っ掛かりのある他のモノをイメージした方がいい。それがクロエにとっては盾だったのだろう。格闘家とイメージしない辺りやはり接近戦は苦手だと思う。まぁ、最後は力一杯殴り飛ばしていた訳だが・・・。


 あれを見た後に、それぞれと戦うシミュレーションをしてみたが、勝ち筋を考えるとどの時点でも手詰まりという面が出てくる。立ち上がりはいいのだが、どのレンジで戦うのか?或いは守りを固める方が向いているのか?成る程、人と戦うのはイメージしだせばキリがない。前なら・・・、戦地を歩いていた時なら引き金を引く、手榴弾を投げる。それで足りないならヘリを呼び上から狙う等で済んだ。しかし、スィーパーを考慮するとどれも前より不安が残る。良くも悪くも新しいルールは構築されつつある。近代戦の先か、職業別軍人には辛い時代だ。


「それを我が国のドクトリンにも反映させる。戦術学者は職業一覧がないと嘆いていた・・・。国家安保に関わるものだが、今の所頼りは君だけだ。生で中位を見て肌で感じられる君がな。」


「言いたい事は分かるが、それを見た私とて頭を抱えている。ヘリを出せばガンナーに撃たれる、人を走らせれば魔術師に阻まれる。それより先の核を使うと想定すれば・・・、ゲート以外を目標としたとしても、追跡者に察知される可能性もあるし、何よりそれは領土を取る戦ではなく絶滅戦争だろう。冷戦でもそこまでは行かなかった。無いという保証はないが、やるのは私よりも馬鹿な連中だ。」


「エマ、覚えておくといい。世界には君よりも馬鹿な連中がいて、その馬鹿な連中が権力を持つ事もある。主義に主張、意地にプライド。非難されようがやった者勝ちと考える連中がな・・・。」


「どこかの国に動きがあったと?」


「まだない。だが、明日ないとも限らない。ファーストの不在は日本の防波堤が少し後退したと考えていい。我が国と日本でしか中位はいないとされているが、それが事実とは限らない。物事は大局的に見ろ。政治に関われば嫌でもファーストという存在の楔の大きさに気づく。」


 存在の大きさか・・・、惹かれているので大きいな。しかし、それは個人として。政治面で見れば得体のしれない動く超兵器。会って話せば危険性という面ではかなりハードルは下がるが、会えもせずに配信データだけを漁るなら確かに大きな問題となる。彼女は愛国者と言う訳ではなさそうだが、愛する者が住む国を害すれば間違いなく動く。日本政府は秋葉原の時に彼女に免罪符を渡し、渡された彼女はビルを消した。普通に出来る芸当かは別として、個人でソレが出来ると言う証明はなされた。


「側で見て気付いているさ。米国での訓練状況はどうなのだ?そうそう中位には至れないにしても、何かしらの進展はあるのだろう?」


「成果ありだ。根本的な訓練を練り直してイメージを作る方に重点を置いた。才能・・・、この言葉が正解なのかは分からないが、似たようなイメージを持つものなら集めて訓練を行った方が効率がいいようだ。データだけを見るなら互いにイメージを補強し合うというような感じだな。今の世の中、一匹狼は時代遅れらしい。」


「その一匹狼が行方不明だがな。」


 全く、どこを・・・、どの階層をウロウロしているのやら。何かしらの連絡があっていいものだと思うが、連絡出来ない状態だと思うと焦りが来る。しかし、自分で言った事だが、彼女が狼というのは過小評価に過ぎるな。


「あれは狼というより天災の部類だろう。理性があり思考する天災、米国会議で彼女に手を出すなという結論を笑ったが、今となっては皮肉も出ないさ・・・。」


「お前もスィーパーだな。やれと言われて出来ないというイメージが邪魔だと感じているのだろう?」


「あぁ、邪魔だ。無敵のヒーロー様の切符を貰ったと思ったら、延々修行パートをやらされている気分だ。マイドリン(頭痛薬)が欲しくなる。」


 皮肉げに言うがスィーパーは馬鹿では務まらない。下位のままでいいならそれでもいいのだろうが、先を目指すなら賢さと言うか閃きと言うか、そんな物が必要になる。凝り固まった頭ではどうにもイメージは一辺倒ですぐに限界の壁を感じてしまう。ウィルソンなんかは皮肉屋の分、そのイメージを磨けば良さそうな気がするが・・・。


「回復薬を飲め、確実に効く。」


「それは高級品だ。工場稼働までは100ドルで足りないほど高い。売りに出されてもすぐに買い手はつくし、殆どはオークション出品で値が釣り上がる。この前までホームレスだった爺さんが、雑な治癒をするだけでも大金持ちだ。」


「こっちでも治癒師と医者は仲が悪いようだな。住み分けが上手く行かないのか、更に調合師まで絡んでくると医者や薬剤師のお株は殆ど奪われる。」


「大きく見れば、民間療法が迷信から必ず効果の出るものに変わったと喜べるが・・・、医療制度の見直しは待ったなしだ。高い金を出して効くかも分からない薬や治療を受けずに済む。」


 米国の医療制度ははっきり言って限界に近い。ERなんかもあるが、保険に入らないで医者に行けば破産を覚悟する必要さえある。良くも悪くもヤブ医者は淘汰され腕の良いものが残るが・・・、それもまた、職のある無しで区別されるな。職を目に見える才能と取るか、決められたレールを走る事を強制させられていると取るかは自由だが・・・。


「肉壁にでもなれ、病気とは無縁とまでは行かないがかなり身体を自由にできる。」


「ジャパニーズデーモンになる気はない!それにもう、権利は1度使っている。次が何時になるかはわからんさ。」


「至るのは難しい・・・。子供のように夢を見れない大人は、どこまで行っても現実と向き合う必要がある。」


 そう思うと、私は幸運だったのだろう。こうして手解きしてくれる者と出会えたのだから。まぁ、その先の不幸は惹かれた者に愛する者がいた事だが・・・。こればかりは仕方ない。巡り合う確率は星を見つけるほどに少なく、見つけたそれを捕まえるのは更に難しい。まぁ、狩猟者としては追うしかないのだが・・・。


「嫌な現実だ。私からはこれ以上聞く事はない。日本政府からの要請は大使館を通じて行われる。できる限り協力するようにな。」


「私の方もない。協力の件はわかっているさ、通信を終了する。」


 ウィルソンとの通信を終え、カオリ達と軽く酒を飲む。何時もの部屋だが、彼女一人がいないだけでやけに部屋が広く感じる。米国に戻ってもこの調子ではいけないな。ウィスキーをストレートでグラスから飲み干し、ナッツを摘みに話す。そう言えば彼女が飲む時は大量に摘みがあるので物理的にもテーブルの上は広いのか。


「松田だったカ?彼の指示で大会の運営を行っているがいいのカ?」


「ん〜、千代田さんからの話では、クロエが放映権関係は政府に任せたと言っていたので大丈夫でしょう。日本側としてもお祭り騒ぎに乗じて、スィーパーを手懐けていると言う印象が欲しいみたいです。」


 日本酒を飲むカオリの横でチビチビとウィスキーを舐める遥も口を開く。来た当初はビールだったが、いつの間にかウィスキーに鞍替えしたらしい。ただ、そこまで強くないので飲んでもグラス1〜2杯程度だが。


「1人で色々するにも限界があるもんね。クロエは無理な事は無理と分かったらさっさとできる人に投げるし。」


「そんなものなのカ?責任感があるタイプだと思っていたガ。」


「そこんとこどうなんです遥さん?1番付き合いが長いんですからどんどん話しましょう。」


「責任感があるというよりは、約束を守ろうとするって方が正しいかな?」


「約束を守ろうとする?」


「普通の事ではないカ?」


 カオリと顔を見合わせるがそんなに特殊な事ではない。人は取り留めもない約束を重ねて、時にはそれを守れずに忘れながら生きる。散った仲間達の中にも帰る約束をした者は多いだろう。その約束が果たされる機会は永遠になくなってしまったが・・・。


「お願いされて引き受けたなら意地でも守ろうとする。承諾したなら達成しようとする。心に決めた事なら誓いの言葉はなくとも、小さな約束を果たそうとする。私が言うのも何だけど、頑固で律儀なんだよね。」


 なんとなく納得できる。選ばれて来て中位に至るという約束は果たされた。カオリも心当たりがあるのか、何処か納得したような顔をしている。そんな取り留めのない話をしながら夜を過ごし、しかし、あまり遅くまで飲む気にもなれず早めに切り上げて部屋に戻る。日米友好の役者、変な所で有名になるお鉢が回ってきた。まぁ、大会視察の条件として出されたソレは、米国との同盟関係を国外にアピールしたいという現れだろう。


 残って穏便に視察するつもりだったが、どの国にも上手く隙を突いて動く人間がいる。アライル局長としては大会を通じて日本側の戦力分析の礎としたい様だがどうなるやら。現場で叩き上げられた私でも脅威度は図りあぐねるというのに。そんな何処か寂しい夜を過ごし朝になってクロエの部屋へと足を運ぶ。


 既に通り慣れた道だが、今朝は・・・。


「ボーイ、何をしていル?」


「はい!大量の食事が注文されたので運んでいます。」


 ハキハキと答えるボーイとその手にある銀台車。どう見ても2人が食べる量ではない。そうなると・・・、どうやら彼女が帰還したのだろう。心配した事を損とは思わない。ただ、無事を嬉しく思う。


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[一言] >我が国のドクトリンにも反映させる 職の性能が個人に依存しまくってるからせいぜい下位成り立てまでしか反映出来無さそう
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