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街中ダンジョン  作者: フィノ


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130話 いらん案件 挿絵あり

「目に見えるモノは基本的に原子の集まりです。それが集まって分子になって、どんどん集まっていくと鉛筆やら人やらになります。この照射装置の役割はその原子を接着し継ぎ目のほぼない大きな単一原子にするものだと思ってください。本来なら核分裂する状態のものにもこれを、照射すれば分裂を抑えられ状況次第では臨界実験を強制停止させたり・・・。」


 嬉しそうに話しているがほぼチンプンカンプン。要点を拾うなら超浸透する接着剤とか?硬度照射装置なのでコーティング剤?取り敢えず、照射すれば硬くなるのは何となく分かる。臨界実験って言うと原子力のあれ?


 デーモン・コアとかの実験記事は読んだ事あるが、内容は気が狂ってるとしか思えない。まともな感性ならあんな実験やろうとは思わないし、するにしてももっと上等な機材を使えよ・・・。


「えっ、えーとですね斎藤さん。認識としては接着剤でいいんですかね?」


「間違いではないですが・・・、分かりやすい図にするとこうなります。」


 蜂の巣が書かれてその中に点が打たれる。さてなんの図かな?分かりやすいと言うからには説明してくれるのだろうが、現時点では全く持って分からない。よくて蜂の巣と蜂の子とか?昔食わされそうになったが、どうもビジュアルがダメで逃げた記憶はある。


「大まかに描くとこうなります。白板なんで平面ですが本当は立体ですね。この点が原子でそれを囲うのが照射されたモノです。接着剤というのは間違いでもなければ正解でもない。原子を核とした接着コーティング剤、人の細胞をモデルにしたようなものが出来上がります。」


「細胞核と周りは脂質とかであると?」


「そう思ってもらって構いません。細胞核が炭素なんかの原子に置き換わって、照射されたモノが脂質なんかですね。現在出来るのは硬くする一辺倒。柔軟性は元の材質と変わりませんが、細い毛糸で数トンくらいは持ち上げられるようになります。」


 材料が何で何を照射しているかは知らないが、カーボンナノチューブ超えちゃった?いや、材質次第では更に硬さとかが変わる?研究者ではないので、その辺りは全くわからない。しかし、これを使えば普通の服でもゲート内で鎧っぽく運用できるのかな?魔法糸が中々普及出来ず、調合師の糸も素材だより。なら、それの更に安価な代用品として使えるなら嬉しいのだが。それと・・・。


「結局ゴーグルは何なんですか?」


「これですか?照射による薬剤の均一化と定着具合を見るものです。これがない状態で使うと、早々起きませんがむらが出て逆に耐久性は下がりますね。あれですよ、神話のジークフリートみたいな?」


「背中に葉っぱ付いてて刺されて死んだ人ですか。」


「ええ、薄い部分から綻んで薬剤自体が剥がれて元の状態に戻ってしまいます。なので、これを使う時は雑な言い方をするなら水槽に薬剤張ってぶち込むのが一番の正解ですね。このゴーグル作るのも大変なんですよ?何度馬を潰して回ったか・・・。」


 斎藤がブツブツ言っているが馬って、あの馬?3つ目で旨味があって、食感が残念で夜に会ったら逃げたくなる不思議生物?馬にこんなレンズとかあったかな?バラして食べたときもそんな物は無かった様に思ったけど・・・。しかし、ここでそれを口に出すと言う事は多分聞いてほしいんだろうな。


「セーフスペースの馬ですか?あれにレンズなんて・・・。」


「そうです!あの馬の真ん中の目!アレがレンズなんですよ!正確には人の目で言う角膜!設計図にはそれを使うと書いてあったんですが、取り方が分からないんで日々馬を狩っては目の部分をいじって、駄目なら食べたりしながら過ごして、とうとう取り出し方が分かって加工したんです。」


 興奮しながら話しているが、毎日馬肉だと飽きるよなぁ。取り出し方が難しいのか簡単なのかは分からないし、肝心の薬剤も言及していないので分からない。話をぶった切っていいものか?興味がない事もないが、口頭で言われるよりは書面で貰った方が後から見直せるし、頭にも入りやすいんだよな。千代田と話た足で来たものだから、疲れがないと言えば嘘になる。まぁ、身体の疲れではなく精神的なものだが。


「装飾師の方の固定処理、要点はそこです。タイミングやどの時点で固定するかでレンズの精度も変わり、何ならあの目は普通の目じゃなくて他にもレーダーや特殊な波が見れたり・・・。」


「望遠鏡とか作れそうですね。書面で頂けませんか?あまり話されても頭がパンクする。」


「あー・・・、まだまとまってないです。装置で実演してあそ・・・、びではなく素材に対する検証を優先してました。」


「ふふっ、別に私は学者ではないので遊びでいいですよ。知りたいのは、これを使ったものがゲート内で有効かですし。」


 しょぼくれた斎藤はいいとして、問題点はそこ。多少なりとも生存率が上げられるか否か。仮に上げられるのならギルド発足後各庁舎に設置して、最低限の防具生産装置にしたい。流石に短パン半袖でゲートに入ったヤツに慈悲はないが、ちゃんと装備なり情報収集した人が無闇に死んでも困る。


 仕事としてゲートに入る人も増えてきているし、ライセンスの話もあるので、その政策を打ち出すなら最低限の準備はいる。しかし、その準備を人任せにするのはちょっと虫が良すぎるし、何より準備する場が何もないのは問題だろう。入れば武器も職も手に入るが、その前の事前準備としてこれが使えるなら多少は心強い。それに、スィーパーでない警官もいるので、そう言った人達の装備にも転用出来ないかな。


「綺麗に笑うんですね・・・。劣化刻印だと思ってください。あぁ、刻印は流石にわかりますよね?」


「ええ、お抱え装飾師がいるので。」


「愚問でした。装飾師の方の刻印は腕前やイメージ、あとは材質との親和性や対象物に付与されるイメージなんかで増減幅があります。平均は分かりませんが、仮に白衣に防御刻印をした場合を最低で3とします。普通の・・・、今着ているこの白衣が1とすると、照射装置を使えば1.5〜2程度になると思ってください。最初の毛糸の話ですが、これは長時間照射した結果です。照射時間、対象物、薬剤の状態で精度にバラつきは出ますが、最低限度の防具としては多分使えます。一応、試しはしましたし。ただ、モンスターの素材が手に入るなら、そちらの方に照射した方が効率がいいですね。」


 話を聞く限りだと絶対大丈夫と言うよりは、軽減出来て命は助かるといった所か。諦めていた防具問題に少し光が指した。ただ、モンスター素材は高騰しているので、初めて入る人は余程金持ちでもない限り私服ではいるだろうし、やはりギルドに配備出来れば生存率の底上げに使えそうだ。


「分かりました、出来るだけ早く作り上げてギルドに配備出来るようにして下さい。難しいのは分かっていますが、スィーパーの生存率に繋がります。」


「言われなくてもどんどん進めますよ。新しい発見は進歩に繋がって何かを形作る。元素周期表の空いた部分でさえ、これから先どんどん詰まっていくと思います。」


 話が終わり部屋を出る。見送ろうかと言われたが大丈夫だと返して外へ。冬休みの大学は人も少ないだろうと思っていたが、割と人はいるようで色々な人が行き交っている。もしかすれば学生ではなく助教かもしれない。外でスマホを見ると千代田からメールが入っていて、内容は丸投げ案件について。松田の方はすぐに動き出す様で協賛は、既にある程度目星が付いていたのだろう。添付されたファイルには企業名がかなり記されている。あいうえお順だが、聞いた事もある企業名が名を連ねているので、これはもうストップはかけられないよな?


 しかし、こんなに協賛を集めて松田と言うか、政府はどの規模で選出戦をやる気なのだろう?名簿以外の添付ファイルもあるので、人のいない適当な喫茶店に入り店員に話して奥の方に案内してもらう。アイスコーヒーを注文して色紙にサインを書いてタバコをプカリ。ファイルの中身をスクロールしながら読んでいくが、開催場所や人数は特に変更なし。ただ、パブリックビューイングは映画館を使って全国的になるようだ。まぁ、それで人の安心が買えるなら安いだろう。何なら協賛には各テレビ局も名が入っているので、最悪お茶の間でも見られるかもしれないが、エフェクトとは言え流血や腕が飛ぶなんてシーンばどうするのだろう?甲子園よろしくハイライトだけ流すとか?


 開催総額については既に算出が終わったようで、額の記載があるが収益についてはまだ空白。赤字は避けたいがこれから海外に売り込むようなので、どこまで利益率が上がるかは分からない。望田Pではなく政府Pの力が試されるな。動きが早すぎるが、水面下でこの状況を見越して動いていたのだろう。或いは、ギルドに貸しを作りたい企業が多いからかな?出土品の許可にギルドも絡むので、それを見越した先行投資と言うのも否めない。


 事実、佐沼の会社は出土品をいじくり回して作った装置を海外にも売るだろうし、買い取り相手がエマを通じた国防総省なら代金未払もなく、メンテナンスまで多分任されるので継続した収益につながる。出土品にしろ資源にしろ甘露を知ってしまったからには、これから先ゲート無しでの生活というか、経済発展は厳しくなりそうだ。どこかの国は早々にゲートを売り渡して、買い戻そうとしていたらしいがどうなったのだろう?


 舵取り失敗とは思わないし、国民を守るという観点からゲートを売り渡したのなら納得は行く。最悪入りたいなら関税やら税金やらを払って別の国で入ればいいだけだし、甘い蜜を吸おうと思えばスタンピードの際は別の国のゲートの話と切って捨てられる。まぁ、捨てた後に相手から何を言われるか分かったモノではないが・・・。


 放映権や協賛に付いてはこれで片が付きそうで、選出に付いても既に選出は終わっている。装置の方も赤峰と試したが問題はなさそうで・・・、これで一応考えられる不安要素は無くなったかな?物販は現地のみと言うか、現地でしか対応出来ないだろうし最悪、写真集の在庫は夏目に買取ってもらえばいいが、一体松田は何部刷ったのやら・・・。余り多すぎても夏目が可愛そうなので、多すぎる場合は半分くらいは受け持とう。買い手の付くか分からない写真集だし馬鹿な数ではないと思う。


  挿絵(By みてみん)


 アイスコーヒーが運ばれ口を湿らせて添付ファイルの先を見ていくが、書いてある内容は概ね話し合ったものばかり。仕事が早いと言うか、行動予測されていたと言うか松田の職ってなんだろう?仕事柄スクリプターとか?そんな中でボイスメッセージを何個か用意して欲しいと書いてあったが、これは後から適当に録音してから渡すとしよう。内容的にも『大会あるよー』とかだしテレビ出演は千代田が断ってくれたのだろう。ありがたや、ありがたや。


「ふむ、後は粛々と開催日まで準備を進めるだけでいいかな?」


 宣伝自体は他のメンバーと手分けしてやればどうにかなりそうだし、急を要する案件も多分ない。仮にあるとすれば、前乗りした選手に法律の勉強してもらうとか?まぁ、何時来るかわからない選手なので、早くても開催一週間前に来て装置に慣れてもらうくらいだろう。法律系は補佐官に任せて、就任後に勉強してもらい庁舎稼働に間に合えばいい。幸い秋葉原の負傷者を囲っているので、そのあたりの憂いはないしね。


 ようやくここまで来たか。なんだか寄り道ばかりの様な気もするがようやく妻の元へ帰れる。生活は一変するだろうが、それも慣れれば日常になる。現にゲートは日常に溶け込んで出現当初の様に見上げる人は減ったし、スィーパーも珍しくはなくなっている。残されたのは個人案件である奥へ行くと言う事のみ。取り敢えず、中層を攻略して下層に行って祭壇を探す。


(おりこうねぇ、忘れてると思ったわぁ。)


(自分で行くと言った事を忘れるほどボケてはいない。)


(そう、なら1つ警告してあげる。)


(警告・・・、まさかスタンピードか!?)


 タイミング的にはそれしかない。いつだ!倒れた時にはまだ猶予があると言っていたが、それがすぐ起こるのか!?どこだ?何時どこで起こる?また日本の何処かか?


(そうそう、溢れちゃう。まだもう少し先、近くて遠い所。どうせ明かりが灯るから探しなさい?遅いのよ、掃除がね。)


(・・・、中層を掃除すれば抑止は出来るのか?)


(さぁ?知らない。)


(それはすぐ起こるのか?)


(さぁ?明日明後日ではないわよ?ただ、掃除が足りないから起こる。進めば猶予は貰えるかしら?)


(上位者として・・・、話せと命令すれば全てを話すのか?)


(貴女が御しきれると思うならどうぞ?やって出来なければ私と関係が崩れるだけね。)


 忌々しい。その返答は御しきれないだ。関係が崩れて駄々をこねられても困る。上位者だが教えを請う立場。引き下がるしかないか。しかし、いらん案件が増えた。せめて、場所が分かれば対処のしようも準備も出来るというのに!



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[良い点] 不穏やけど楽しみ! 数日前から読み始めてまだまだ途中ではありますが応援してます! 長く続きつつ完結してくれることを願って╰(*´︶`*)╯♡
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