126話 それは地下にある 挿絵あり
「自分達でいじったとは言え、人体の内部まで再現出来ていたのは嬉しい発見です。」
「制作側ではそこまで再現していなかったと?」
佐沼がそんな事を言い出す。発見と言うからには想定外だったのだろう。ただ、映像再現なので空っぽの偶像に、魔法を流し込んだ処理が出来て嬉しいとか?呼吸に合わせて魔法を流し込んで内部発動させたわけだが、その辺りの装置的な処理は分からないし、そもそも買ってきたモノを渡したら弄くり回されてこの形になっているので、技術的な事を言われても理解出来ない。
「元々あったものの改造や、ハブを付けてからのプログラムはやりましたよ?ただ、精巧に出来すぎていてどこに手を加えればいいのか?そんな所から手探りでしたからね。AR技術にしてもVR技術にしても私達はまだそれを作り始めたばかり。そこにこんな完成品を出されたら・・・、技術屋としては弄くらずにはいられない。久々に引退した先輩達を招集しましたよ。」
嬉しそうにデータを見ながら話すが、引退した先輩って言うと65歳以上とか?Windows95は学生の頃触ったし、その前の2.1だか3.5も見た事はある。あくまで見ただけで、使っている人に話を聞いたら20Gのハードだと目を輝かせていたかな・・・。今だとテラ単位が1万くらいで買えるから情報系の技術躍進は目覚ましい。最近は量子コンピュータとかも言うし、SFの世界は近いようだ。
「ファーストさんくらいの歳だと知らないでしょう?C言語とか今も使いはしますがJavaScriptがアプリケーション作成には・・・、すいません久々に新たな発見があって嬉しくて。」
「佐沼さんは元々今の会社で技術屋をしてたんですか?」
「そうですね、Windows95が主流になる前から勉強して、98が爆発的にヒットした頃にはプログラムを書いてました。今でも思い出す、とある社長に呼ばれてインストールしてくれと渡されたのが・・・。」
そこまで言って言いよどむ。まぁ、察しはつく。98が爆発的に売れたのは価格や社会的なPCの復旧なんて事もあったけど、その影には人の欲望が渦巻いていた。まぁ、ぶっちゃけるとプラチナゲームである。はっはっはっ、なにそれって?十八禁ゲームを短縮してはっきんゲームその八禁を白金と言い換えてプラチナ。まぁ、隠語だよな。知らない人はそんなタイトルのゲームがあるのかぁくらいにしか思わないし。
「どの会社でした?年代的には葉っぱか鍵辺りでしょうけど。」
「ほう・・・、話がわかると?」
「広く浅くですよ。一本8800円は仕方ないとは言え高すぎました。やるなら移植されたのを友人と貸し借りしながらです。鳥の歌を国歌に〜とか。まぁ、諸説ありますけどね。」
「なるほど、たい焼き!」
「うぐぅ〜。」
「もう、ゴールしてもいいよね?」
「あかん!」
「まじかる。」
「アンティーク。」
「わたしを殺した責任。」
「ちゃんととってもらうんだから。」
「「イェーイ!」」
笑顔でハイタッチを交わすが、何でこんな話になったんだっけ?まぁ、話が弾むならいいけど、30代後半じゃないと分からんネタだろう。鳥の歌はまだたまに流れるけどさ。
「社長も自分でインストールすればいいのに。ディスク入れてポチポチするだけでしょう?インストーラー入ってて自動なんですから。」
「当時はそれさえも壊れそうで怖かったんですよ。しかし、ファーストさんのお歳は・・・、やめましょう。中途半端だと夢が壊れる。」
「そうしましょう。ロリババ扱いされるにはちょっと早い。」
43歳は過ぎて初老ではあるが、現代社会で43=爺さんはないだろう。仮にそうなったら遥からさらなる渋滞警告を受けるはめにる。それはさておき装置である。
「体内再現と言うか口の中のある無しが問題だと?」
「問題と言うか、安全管理ですね。体内からの突然の攻撃に私達が手を加えたものが対応できるのか?と言う所です。視覚情報の処理はデータを見る限り問題ありません。途中からファーストさんの視界はハイコンでも情報処理限界状態まで上がっていましたが、どうにか対応できる範囲です。ただ、体内再現は容量を食うので外側だけ・・・、と、したかったんですがエマさんが言った軽さ解消の為に高精度で作り込んでいます。人体へのフィードバックをこれから調べないといけませんね。時間はかかりませんが。ファーストさんは頭や腕に違和感はありませんか?」
確かに表面は血のエフェクトとかでダメージ表現されているが、体内はどうなのだろう?虚像だから大丈夫と言われればそれまでだが、ここは俺よりも赤峰を見てもらった方がいいだろう。毒にしろ体内からの攻撃にしろ受けたのは赤峰だしね。
「私の方は違和感はありません。あるとすれば赤峰さんでしょう。毒に串刺し。私が言うのはなんですが、内側へのダメージを重ねましたから。」
「それは後から聞き取ります。イチャイチャしている2人にちゃちゃを入れる程野暮じゃないですよ。それより、先に視界データから解析したい。途中・・・、毒を使ったあとからの視界は強化によるものですか?データはあっても映像的には変化がないので分からなくて。」
毒と言うと賢者の視界か。見ていたのは煙が立ち込める広場に迫る黒い影。人を人として認識しづらく、ただ襲いかかるモノがあるだけの空間。ただ、その空間の支配者は俺だった。望めば何処からでも攻撃でき、言葉を紡がずとも、必要ならば魔法は発動する。魔法使いとしては理想の空間だろう。ただ、寂しさはあったな。極めた極地があんなもんなら、確かにイタズラの1つもしたくなる。
(なら、ゲンコツはなしだね。君にお仕置き名目で殴られると、何故か身体がすくむし嫌なほど痛いんだよ。)
(言ったはずだ、親父のゲンコツは痛いと。体罰は推奨しないが言葉で伝わらない先は肉体言語となる。それに、叩かれないと叩かれた痛みを知るよしもないだろう?)
悪い事をしたから叱る。親としては当然で流石に人様の子供にゲンコツを落とす事はないが、那由多には何度か落とした。一番最初は・・・、確か遥と喧嘩して殴った所だったか。しょうもないお菓子を取った取らないの喧嘩がエキサイトして先に那由多が手を出した。やってしまったと言う顔の那由多を呼んで、ちゃんと話を聞いた末に、那由多がお菓子を食べていた事が発覚してのゲンコツ。
落とした理由は多々ある。嘘をつくな、女の子に手を上げるな、先ずはやってしまったのなら謝れ等々。しかし、どんなに言葉を重ねても殴った手の痛みは知れても殴られた痛みは知る事が出来ない。なので、ゲンコツ。まぁ、そんなに力を入れるものでもない。しかし、それでもちゃんと話して意味が伝われば軽いゲンコツでも痛い。
「状態的には・・・、瞬間発火等の状態を見ている。と、言うのが正しいのかな?前後左右自身を中心として何処からでも攻撃できるし、相手を捕らえる事が出来る的な?」
「私に疑問形で言われても困りますが・・・、類似点は魔法職の方の瞬間的な魔法発動であると?」
「ええ、それを視続けている状態です。なので、どこにいようと魔法からは逃れられない。と、言いたいのですが扱うのが結局私なので慣れないとなんともはや。」
ぶっつけ本番なので視て少し扱うくらいが限界。多分、もっと上手くなれば色々出来るのだろうが、その辺りは使って練習するしかない。取り敢えず、キセルをプカプカする回数を増やすかな。補助具なので、補助してくれるはずだし。
(それにコードが絡めば水も火も出し放題なんだけどね。修行してコードを覚える事。師として課題を出そう。教材を早く読み解きなさい。あの視界に慣れれば読み取れる。)
急に課題を出されたが、やらなければならない事なので修行に勤しむとしよう。先ずはあの視界を自分で見れるようになる所からなんだが・・・。まぁ、一度見せてもらったのだ多分どうにかなるだろう。
「成る程と言っていいか分かりませんが、フィードバックには一応考慮しましょう。こんな事なら私も今からゲートに入って何か職に就こうかな。現場の若いのはスクリプターになって仕事効率がはるかに上がったと喜んでましたし。」
「記憶力の向上は喜ばしいかもしれないですが、自然に忘れる事も出来なくなる、という事をよく考えてくださいね。」
辛い記憶を抱えたまま生きるのはキツい。納得出来るにしろ出来ないにしろ、辛さそのモノを忘れられないのならいつまでもその痛みはついて回る。編集してしまえば綺麗さっぱりなくなるのかもしれないが、辛さがあるのなら、その記憶は大切だったのだろう。自然に身を任せるか、自身で手を加えて終止符を打つか。命題である。
「まぁ、歳も食ってるんでその辺りは、ね。寝て目覚めても仕事仕事。私も先輩に倣って引退を考えていましたがまだ先のようです。ハイコンのメンテもしないとなぁ・・・。」
「そう言えば、ハイコンってどこにあるんですか?」
それっぽいモノは見た事ないし、何かが新しく建設されたとも聞いていない。ハイコンと言うくらいなのだから相当大きいとか?いや、大きいなら逆に目につくのか。なら、小さい?ん〜、出土品改造している所だし何かしらのツテがあるとか?
「秋葉原の地下1000mにありますよ。ちょうどスーパーカミオカンデと同じ深さですね。いやぁ、普通に掘るとえらい手間ですけど、そこは採掘家様々、数日で掘り上げて補強も政府の装飾師達が固定処理してくれたので簡単には崩れません。一応、国家戦略の1つらしいですよ?この事業。それに、試作品の硬度照射装置を使ってケーブル類も頑丈だとか。」
政府が何をしようと知った事ではないが、スィーパーも着々と仕事が割り振られるようになっているらしい。地上にあると地震とか怖いし地下なら大丈夫なのかな?固定処理したら耐震強度とか上がるのだろうか?しかし、斎藤は試作品作っちゃったか。これで繊維業界は更におかしな事になるだろうなぁ・・・。後で千代田に連絡取ってどんな物か聞いてみよう。
「そんな深い所にあるんですね、やっぱ相当大きいとか?」
「ん〜、一応その辺りは社外秘なのですいません。上のOKが出たら見学にでも来て下さい。さて、話し込んでしまいましたが赤峰さんにも話を聞きましょうかね。貴重な話、ありがとうとございました。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました、調整、頑張ってくださいね。あっ、後で動画のデータ下さい。選出戦の時流しますんで。」
「分かりました。編集したものと、編集していないものの両方を渡しましょう。」
握手を交わして佐沼の所を離れて赤峰を呼びに行く。中々有意義な話だったな。再現度が上がればより実戦にも近付けるし、安全性さえ確保できれば早急に量産してもらいたい。
「赤峰さん、佐沼さんが話を聞きたいとお呼びですよ。」
「おう!じゃぁ、裕子。ちと行ってくるわ。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
出勤前の夫婦の様な会話。2人には見えないだろうが、俺には見える背後の修羅兵藤。嫉妬するなよ・・・。真面目にしてればいいことあるさ。余り妬むと水が濁るぞ〜?いや、嫉妬の炎で干上がる?
「クロエさん、体内での魔法発動はどうすれば出来ますか?」
「ん〜、宮藤さんなら燃える心臓とかでいいんじゃないですか?」
「いやぁ、ジャンヌ・ダルクは燃え残ってましてね、心臓。真面目な話、アレが出来ればモンスターを内部から破壊できる。爆竹を手のひらで爆発させてもそこまで大事ではないですが・・・。」
「握り込んでしたら大惨事ですね。と、難しい質問ですね。どう言えばいいんでしょうか・・・。」
俺の場合煙を吸い込んだ=魔法が体内に入ったと言うイメージだしな。火が体内に入るイメージって何?火達磨なら色々話が付けれる。ミトコンドリアの発熱とか身体の油分が燃えてるとか。しかし、人の身体は体重の60%くらい水なので中で燃えると言うのは言わば水中発火でイメージし辛いような・・・。
「体内で燃えるもののイメージ、ソレがあれば可能ですが。」




