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街中ダンジョン  作者: フィノ


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117話 視察 挿絵あり

「ヒャッハー!草は根ごと引っこ抜くぜ!」


 採取ツアーin36階層。湖の畔に篝火を焚いてそれぞれ思い思いの採集をしている。まぁ、約2名車両訓練をしているのはいるけど、それは仕方ない。本来なら6階層付近にあるセーフスペースへ行って、ゲート内駐屯地と高槻の研究施設を視察しようかと思っていたが、高槻が36階層の素材が欲しいと言う事でこうして採取にきている。ゲート内駐屯地はコツコツ作り出して漸く形になり、高槻の研究所もこの前ようやく完成という所。


 これまでは出資金で郊外の比較的安い土地で研究したり回復薬を生産したりしていたが、セーフスペースで建物が消えずに研究出来るなら、そっちの方が効率的と駐屯地と抱き合わせ商法で隣接して作りこの度正式稼働する運びとなった。まぁ、稼働と言ってもほぼ研究として薬の生産はこれからである。実際、産業スパイっぽい人も彷徨っていたらしいので、ゲート内で研究出来るならそちらの方が憂いは少ない。


 この施設に行くには中の人に迎えに来てもらった後に一緒に入り、一度駐屯地なんかを見てそこにあるイメージを固めないと個人では行けないらしい。これも自衛隊が検証した結果らしいが、元からセーフスペース内にあるモノは漠然としたイメージでも馬が連れて行ってくれるが、異物である駐屯地なんかの施設には行ってくれない。


 駐屯地のディテールをイメージしたら今度はどこかの山奥に走り出すなんて事もあり、悪戦苦闘と試行錯誤の結果、単純なイメージほど認識してくれる事がわかった。なので、駐屯地の目印は国旗である。いいよね、単純明快だし国旗掲揚しっぱなしでいいし。因みに、勝手に入って行く事も出来る様だが移動時間はまちまち。出た場所次第では、半日以上速度の分からない馬に乗る事になるらしい。検証した兵士で一番遅かった人は何時までも着かずに、ようやく着いた時には半泣きだったとか・・・。


「何でそんなにノリノリで草を手で引っこ抜いてるんですか・・・。むしろ、煙で抜いた量の方が多いでしょう?」


 便利な煙はどうにかこうにかイメージすれば草も摘める。火災で煙に巻かれるイメージで草に巻きつけて草が地面から逃げ出すイメージである。かなり無理やりなので多少根が切れるのはご愛嬌。まぁ、それでも量は取れているけど・・・。


「宮藤さんこそ、炎の兵が灰の兵になって引っこ抜いてるから量は多いでしょう?それとエマ、串刺しにして草を抜かない。根に何かいい成分があったら勿体ないですよ?」


「ブッシュは焼いて均すものだからナ。これでもおとなしい方ダ。流石に手作業は勘弁願いたイ。しかし、何で炎の魔術で灰が動ク?」


 エマは不思議そうに人型の灰を見ているが、確かに不思議だよな。最初の卓と雄二の模擬戦見てれば、宮藤が灰を操れる事を知れただろうが、知らずにこの光景を見れば薄暗さも相まってゾンビ映画さながら。とうの兵士達は黙々と草を引き抜いている。まぁ、喋らないからいいけど、話しだしたら更に怖さが増す。


「それは燃え尽きてないからですよ。炎とは動力です。木も石炭も炭さえ燃えれば灰になる。その灰があるなら当然のその灰を出す炎はあるでしょう?因みに手元は人肌より少し暖かい程度です。」


「宮藤さん外で一体小さくていいのでくれません?ホッカイロ代わりに持っときたいんですけど。懐とかに入れたらポカポカして寒くなさそうですし。」


 焼き塩ならぬ焼き灰。無駄な肉が無くなったばかりに寒さが堪える。まさか保温の為に贅肉を欲しがる日が来るとは思わなかった。寒くてもミニスカ履く人は根性があると思う。タイツもそんなに暖かくはないし。


「あ〜、友人達が殴り合い始めて巨人になりそうなんでご遠慮願います。灰になっても男ですね、胸に挟まりたいそうですよ?」


「なら私が抱きしめておこウ。筋肉量は多いから体温は高いゾ。」


 そう言うとエマが後ろから抱き締めてくるが、言うだけあって暖かい。しかし、灰が殴り合って1つになりつつあるけど、これは灰の意志なのだろうか?それとも宮藤の意志?何方にせよ漢だな。小さいとは言え胸に挟まりたいとは・・・。そんな事を思いながら他のメンバーを見る。意気揚々と魚を取りにいった望田だったが、それは不発に終わったらしい。最初こそ小さな音だったが、最終的には落雷レベルの音を出していた。しかし、それで気絶しない魚というのも中々だな。


「何なんですかあの魚達!手掴みは出来るのに気絶しないとか。」


「望田さんよぉ、ガチンコ漁が出来なかったからって怒りなさんな。兵頭さんはどうだい?俺は釣りスタイルを試してっけどよ。」


 そう言いながら糸を垂らしているが、針はあっても餌はない。ルアーかとも思ったが、それさえ付けずに垂らしているので見向きもしない。まぁ、餌にもルアーでアクションしても全く反応がないので仕方ない。しかし、手を入れると寄って来るので、何かしらの行動に反応はあるのだろう。熱源感知とか?三つ目の馬もそうだが、何かを食べたりこちらに害をなす事はない。そう考えると、馬も魚も本当に食べられるだけの存在だったりするのだろうか?


「打ち上げ方式で大量だけど楽しさはなぁ・・・。やっぱり銛で突くか。早くしないと小田が魚を結合しだしそうだ。」


「しませんよそんな事、精々身を増殖させるくらいです。それと、インナーで潜ってる組もいるんですからあんまり派手にしないでくださいね?望田さんも、潜る前ならいいですけど、今ガチンコするとみんな痺れて浮いてきますよ?」


「みんなが戻ったら氷漬けで更に乱獲しますね。清水さんと井口さんは繭取れましたか?」


 どうやら見えている魚の運命は冷凍出荷が濃厚らしい。それで死ぬかそれとも、解凍したら生き返るのかは興味があるけど、どうなんだろう?死んで消えてしまったらそれはそれで事なので凍らせたらすぐに指輪にしまおう。馬で繭っぽい物を探しに行っていた組も帰ってきたようだ。今回の主目標はコレ。他の素材も嬉しいがこれは魔法糸以外の糸を作るのに重宝するのであるならあるだけ欲しい。


 36階層セーフスペースまでの道中にも有りはするけど量は少なく、ここに来てようやく量が確保できる状態。一応、治癒師に増殖して貰えない事もないけど増殖量が少なく、いよいよこれが繭なのか繊維の塊なのか分からなくなってきた。一応、小田に聞いたけど有機物と言うか、生命に近いほど増殖し易いが鉱物になると途端に増殖率は落ちるらしい。そうなると、やはり繭は無機物寄りなのだろう。急に孵化して何かが産まれたら流石に怖いからそうだといいが。


 往年の映画、エイリアンだと孵ったら顔に飛びついて腹の中に卵とか産み付けるし・・・。まさか、外にモンスターを持ち出したやり方が人の中に入れるとかないよな?出来ればダンゴムシ辺りを、虫取り少年よろしく網で捕まえて運び出したと願いたい。


「ぼちぼちだな。馬に言えば連れて行ってくれるが1個の時もあれば群生している時もある。6階層付近のセーフスペースで自衛隊基地に行くよりは難しい。」


「だね。しっかしこの馬どれくら速度出てるんだろう?速いのは分かるけど、速度の感覚が掴めないんだよねぇ〜。まぁ、疲れないからいいっちゃいいけどねぇ。」


 何故か6階層のセーフスペースはたまに階層を移動する。なので6階層=セーフスペースとも限らないのがなんとも。セーフスペースになる確率はかなり高いのだが、運が悪いと何層か超える必要がある。まぁ、色々やり方は色々あるのだが。逆に36階層のセーフスペースは確定のようで他の所に出た試しはない。ここに来れる人間が少ないので検証材料は少ないが、メンバーからセーフスペースが無かったとは聞かない。


「裕子は赤峰口調が板に付いたな。と、七海は雄二と卓の監督だったか?平坦だから早々コケないにしても、初っ端Ninjaは骨が折れそうだな。」


 清水の視線の先では、おっかなびっくりバイクに乗る雄二とジープのハンドルを握る卓。助手席には妖怪と化した夏目が乗っている。どう見てもあれは妖怪だ。2人を指導しているのだろうが、もう少しいい人員はいなかったのか?バイクなら俺が教えてもいいが指導員免許とかないし、一発合格狙いの指導方法になるのは否めないが・・・。


「こ、こおっすよね?」


「そうそう、あってるけど顔を下げるな。手元が気になるのは初心者としては仕方ない。しかし、手元を見れば先が見えなくて曲がれないし、何より外を走るなら危ない。手元の操作は身体で覚えて視線は常に先を見る。私みたいに目の位置を変えられるなら構わないけど、出来ないなら顔を下げるな。後、ビビって速度出さないと逆にコケるぞ。それと卓くん。私は見なくていい。君は運転に集中する。君も車の免許講習中だろ。」


「それはそうですが、横でろくろく首されると気になって仕方ないですよ。それに、何で僕はロングヘアーのカツラを付けさせられているんですか?胸に詰め物までさせられるし・・・。」


「胸はエアバック、後は少しでも女性成分を補う為だ。私も水中組について行きたかったのに・・・、何で私は男とドライブしているんだろうか?卓くん私の為にちょっと全身工事して女性になってこないかい?素材はよかった。外で見た服装もユニセックスで良かった。なら、後は変身するだけだ。まぁ、そうなっても放置するけど。」


  挿絵(By みてみん)


「嫌ですよ、変身するのはヒーローへです。教官やってるのはバイクと車の扱いが一番上手いのが自衛隊組だと夏目さんだからじゃないですか?警察組からも夏目さんがOK出したらほぼ技能検定は合格で、後はペーパー受かれば免許くれるって言ってましたけど、何してたんですか?」


「ん?私は前に輸送部隊も齧っていてね。自衛隊自動車訓練所で勤務した事もある。教官とまでは行かなかったが運転にはそれなりに覚えがあるのさ。コラッ!雄二くん手元を見てないからってクラクションを不用意に鳴らさない!それは減点項目にもある行為だ。」


「すいません!頑張って身体で覚えます!」


 雄二がクラクションを鳴らして夏目に怒られている。ウインカーとクラクションの位置が上下なので慣れないと、ウインカーを切るつもりでクラクションが鳴る事がある。しかし、自教かぁ。懐かしい。俺も自衛隊で法改正前に車の免許を取った口なので、中型の記載はなく大型のみ。今では珍しいものだろう。ちゃんと免許として通用するので50t車も運転できる。


「そうだ!車もバイクも凶器。失敗すればスパナで叩く。ジープのギアを鳴らしても叩く。何ならギアを壊したら更に叩いて工事させる。嫌なら丁寧に確実に運転しろ。ここは何も無いからいいけど、外に出れば自衛隊の教習コースも当然走ってもらうからね。」


「「うっす!」」


 雄二達がバイクと車の練習をする傍らで採集していた素材もだいぶ集まった。泳いで魚を取っている組も篝火を目印に余り遠くへは行っていないし、どこかナイトプールの様に楽しんでいる節がある。誰かが軽快な音楽とレーザーライトを持ち込めば本当に遊楽施設に出来るな。まぁ、ホラー要素は満載、命の危険はないけど肝試ししたら多分相当怖い。この湖の端も見えないし。


「さて、量もそれなりに集まりましたし基地の方へ行こうかと思います。宮藤さん後は適当に遊んで切り上げて下さい。」


「分かりました、確かエマさんと遥さんを連れて行くんでしたね。」


「ええ、エマは私と同じ視察目的。遥はセーフスペースの素材と内部でのインナー作成や刻印、固定処理の確認ですね。聞けばインナーが足りないと言うので、出張して何着か作るそうです。」


 内部駐留自衛官にもインナーは支給されているけど、色々な人が作っているので出来栄えはまちまち。消えはしないが今度遥が講師を務める人達の作品もあるとの事で、実際に使っている所を見たいらしい。糸にしろインナーにしろ造り手が変われば形も効果も変わるので生で見てみたいらしい。


 損耗率という点だけ取ればここにいるメンバーが断トツだろうが、プロの目から見ればやはりなにか違うのだろう。あくまで俺達は使う側であって造り手ではないし。それに何かの際にゲートに入れば、少なくともセーフスペースの基地までたどり着ければ保護してもらえる。


「セーフスペースは安全なのでボチボチして上ります。解散はそれぞれでいいですよね?」


「そうして下さい。エマ行きますよ。」


「時間カ。分かったゲート内最前線基地へ行こウ。」


 脱出アイテムで外に出て遥と合流して一服。程なくして迎えが来たのでそのまま再度入ってゲート内基地へ。迎えに来たのはお偉いさんだったが、頻りにサインや中の駐留者を激励してほしいと言われた。まぁ、あんな薄暗い所に仕事とは言えローテーションを組んで駐留するのだ。気が滅入る事もあるだろう。電波が届くので無線でならインターネットも使えるけど、それでも気を張ればいいのか安全と高を括っていいのか迷う所。


 因みに、完成してから今までで外部の来訪者は無いらしい。俺達の様に招待で来る事はあっても迷い人はなしか。セス氏とかはどこかに家を構えていると思うけど、正確な場所は分からないし何より目印になりそうなものがない。個人をイメージしようとしても勝手に見ただけの人なので難しいし、海外とここが繋がっているとは思うけど距離もわからない。


 ネット掲示板で浚った情報を見る限りだと外人にも会えるらしいので、後の問題はゲートを入った後にどこに出ているかではないかな?そんな事を思いながら基地の外観を見る。


「ようこそ、ゲート内自衛隊基地へ。まぁ、基地と言ってもある物は多くありません。回復薬の備蓄と危ない出土品その他諸々。後は高槻先生の研究スペースくらいですね。先生は今ラボで何かをいじくり回している所ですけど、私達には何をしているのやらさっぱりで・・・。装備庁の人も出入りして何かを作ったり実験していますが、そこも私達は入らないので分かりません。エマ少佐は同盟国の方とは言え機密事項もあるので、指定範囲以外は見ないようにお願いします。」


「は〜、結構大きいんだね。」


「大きいけど・・・、思ったよりも・・・。」


「言えばいいだろウ?ボロいト。思った以上に継ぎ接ぎなのだナ。日本人の仕事だから土嚢積みの様にキッチリしていると思っていタ。」


「ハッハッハッ、手厳しいですね。まぁ、継ぎ接ぎは仕方ないですよ。そもそもここは全てトライ・アンド・エラーで作りましてね。固定処理の方法が分かるまでは箱の素材を集めて張り合わせて作っていました。その素材も下手に釘打ちすると釘が消えたりするので、箱の素材を釘にしたり何がどれくらいで消えるのかを検証したりと、基地と名は付いていますがどちらかと言えばラボの方が合っていますよ。中々マッドな見た目でしょう?絵を描くのが趣味なのでここは静かでゆっくりといい絵が書けます。」


 案内人の中野二佐がおどけて話すが顔は誇らしげだ。多分、ここに当初から携わって誇りを持って勤務しているのだろう。不気味な馬は音もなく走り、よくわからない生物は空を飛び月もないのに薄暗い無気味空間だが、芸術家肌には合うのかな?定年も近そうな外見だがその目にはどこか情熱の様なモノを感じる。


「絵は嗜まないですが、無心になるにはいい所ですね。今の勤務員はどの程度?」


「総数はエマ少佐がいるので言えません。ただ、ここには食堂等はなく殆どが外部からの定時持ち込みと、先生が連れてきたS料理人が馬やよくわからないモノを料理するくらいです。美味しいのは美味しいですよ?後でご馳走してもらいましょう。さて、これからファーストさんは先生の所でしたね。遥さんは私と来て下さい。インナーが解れた者もいるのですが、普通の針と糸では補修できないんですよね・・・。」


「待って中野さん。インナーが解れても修復機能で元に戻るはずよ?」


 辺りをキョロキョロしていた遥だったがインナーの話に素早く食いついた。確かに修復機能があるので、破れても放置すればもとに戻るインナー、それが解れるなんてあるのだろうか?少なくとも、講習会メンバーからは解れたと聞いた事はない。


「それが、たまに何処かからか解けて行く物があるんです。理由は検証段階ですけど作成時にちゃんと結んでいなかったのでは無いかと意見が上がっています。」


「分かりました。私は先にインナーの方を見てくる。場合によっては糸出してね。」


「はいはい、仕事に必要ならどんどん出そう。私達は高槻先生のラボの方に行ってくるよ。場所はどのあたりですか?」


「少々待って下さい。多分、彼が来てくれるでしょう。」




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