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街中ダンジョン  作者: フィノ


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114話 遅れてきた人 挿絵あり

「クロエさん夏目知りませんか?朝から見てないんですけど・・・。」


「ちょっと待ってくださいね。」


 スマホを取り出して夏目の予定を確認する。各人の予定は外遊する場合、講師側に連絡が来るようになっているけど、今日の夏目は普通にコチラに来る事となっている。と、言う事は遅刻だろうか?まぁ、突然引き抜かれて連れて行かれる事もあるので仕方ないと言えば仕方ないが、その際にも一報はあるのだが・・・。


 ん〜、流石に拉致された何て事はないと思うけど、休日にゲートに入って中でハッスルしすぎている可能性は否めない。何処までも変わり映えせずに薄暗いゲート内は時間の感覚も狂いやすいし、何よりモンスターを倒し続けているとついつい長居してしまう。まぁ、してしまうと言うより切り上げ時を見失うという方が正しいが・・・。


「コチラには連絡きてませんね。昨日までは休みでしたからゲートに入って長居してるとか?」


「否定は出来ないですけど、せめて私達には一言かけてほしかったなぁ。」


「小田さん達は何時も一緒ですからね。焦っているようには見えませんでしたけど、それでも1人至っていないと言う事でやはり焦っていたとか?」


 そんな素振りは見せなかったがないとも言えない。飄々としている人ほど、不安を覆い隠して自分を作っていると言う事もある。夏目がそれに該当するかと言われると微妙な所だが、人には言えない事の1つや2つあるだろうし思いのうちを曝け出すというのは中々難しい。


「それは・・・、多分ないです。既に道が決まっているみたいな事も言ってたので、ゲート内で手間取ってるとか、嫌な考えだと何かあったとか・・・。」


 流石に無理はしないと思うがどこにどんなモンスターがいるかは分からない。進化する関係上、浅くとも得体の知れないものはたしかにいる。小田の発言で他のメンバーと潜っているのかとチェックしてみたが、今日の行き先は全員判明しているので、メンバー外の知り合いと潜っているか、ソロだと思うしかない。夏目は自衛隊組なのでと、言うか社会人の集まりなので時間には割りとみんな厳しい。


 遅刻するなら一言ぐらい寄越すモノなのだが・・・。そんな事を思いながら電話をかけようとしていると、教室の扉が開きひょっこりと夏目が顔を出した。慌てて来たのか服は少し乱れている。


「すいません、遅れました。いやぁ~、思った以上に時間がかかってすいません。」


「はい、おはようございます。丁度夏目さんの話をしていた所です。遅刻は給与から天引きしておくのでいいとして、何がありました?」


 私服で顔を出す辺り何かしらの厄介事があったのだろう。コチラには近寄ってきて礼を1つ。本当に給与を点引きするつもりはないとして、遅れた説明くらいはしてもらおう。しかし、フワリと微かな汗とシャンプーの香りがするあたりどこかで一風呂浴びてきた?寝坊して朝風呂で遅れたのなら、それ相応のお小言も必要なのだが・・・。いや、夏目は駐屯地に泊っているので、昨夜はお楽しみでしたねコースとか?


「ゲートで喋るモンスターと戦って、外で出迎えてくれた娘とちょっと一戦交えて来ただけです。」


「どちらのウエイトが大きいかは別として、無事で何よりです。後でそのモンスターの特徴を事細かに報告するように。で、成果は?」


「どちらのです?娘の事でお姉さんに嫉妬するなら私はウェルカムですけど。」


「娘さんの事は夏目さんのプライベートなのでとやかく言いません。それに、妻がいるので嫉妬もしません。」


 夏目が色情魔になっているのは正直どうでもいい。遅刻したのも、喋るモンスターとやり合っていたのでどうでもいいが、順序を考えると明らかに故意に遅刻したのは否めない。まぁ、喋るモンスターは一筋縄ではいかないし、その過程で昂ぶってしまった心を鎮める為なら仕方ないとも言える。震災の後には子供が増えるなんて事も聞くし極限状態でこそ、生存本能は最大限に刺激される。一応、一考の余地はあると判断するけど・・・。


「冗談です。外は寒いですけど昂ぶって仕方ありませんでした。遅れた分は丁寧に報告書を上げるとします。そして、成果は貴女に開放を持って来ました。」


 ドヤ顔であけすけ無く話しているが、その顔は晴れやかだ。見た感じ四肢はあるし目立った傷も見当たらない。しかし、肉壁と言う事を考えるとそれすらも隠せてしまうので・・・、うん?首にキスマーク。この時期だから蚊では無いだろう。たまに妻に付けるので見間違いはないと思う。俺の方は付けられても、付けられたそばから無くなるので隠す必要はない。それを隠し忘れているのか、見せ付けているのかは知らないが、俺に開放を持って来たとな?


「開放・・・、至りましたか?」


「ええ、肉壁改め拡張になりました。第2職は治癒師です。」


「おめでとうございます。しかし、拡張に治癒・・・、死にたくないんですか?」


 職の取り方やイメージにもよるが、この2つなら相当に死は遠い。若さは別として、テロメアを増殖させれば肉体的な死は遠ざかり、戦闘面でも肉体を増殖させれば手数でも押せる。そもそも、細胞の無限増殖機能を人間は既に持っている。それは医学的に言えばバグでしか無いが・・・、がん細胞がそれに当たる。がん細胞は脳からの命令を無視して無限に増えて、増殖し続けるけどそこに肉壁の制御や抵抗が入れば止める事も出来るし、変化で通常細胞に戻してしまえばノーリスクで使い捨ての文字通り肉の壁が作れる。


 何を目指してどこに行こうというのか・・・。不死や不老の薬にはよく食い付いて話したが、死にたくない目的でも出来たのだろうか?或いは・・・、突拍子も無い考えならリアルアンパンマンとか?前にネットで読んだゴールデンブラッド、アールエイチ・ナル型の血液が作れて増殖出来るなら輸血し放題だし、肉が増やせるなら臓器も増やせる。お腹が空いただろ?僕の顔をお食べならぬ、戦闘で肺が潰れただろ?私の血と肉で代用しようが出来てしまう。まぁ、それでも細胞が増殖すると言う事は、人としては老化を促進しているようなもの。抵抗の文字がある職だけどあくまで抵抗であって無効ではないので歳は取るだろうな。


 そんな事を考えていると、夏目が俺の手を取って歩き出した。教室の中は暖房が効いていたけど、外はやはり寒い。九州で雪が降る事が稀な所に住んでいたので、雪自体は嬉しいし年甲斐もなく雪だるまとか作ったけど寒いものは寒いし、雪を見ながら温泉入りたい。


  挿絵(By みてみん)


そして連れて来られたのは屋上・・・。多分、真面目で誰にも聞かれたくない話なのだろう。取り敢えずコートを出して羽織って一服。さて、至った話は祝うべき事だがそれ以外になにか問題があった?喋るモンスターと戦ったのならコードによる攻撃を受けた可能性がある。教材として持ち帰ったモノを取り敢えず眺めとけと言われたので、暇を見ては見るようにしているけど、点滅しているだけなので何だか放送終了画面を見ているような気分になる。なんとなく、単色で光る方はココニイルと言うようなイメージを送り付けて来ているような気がするけど、繋がっている賢者の目を使うようにイメージすれば何か変わるのだろうか?


 それはさておき夏目である。至ったのはいいとしてさて何を話してくれるのやら。風は無いけどシンシンと今日もよく冷える。


「講習会の目的は果たしました。みんな至って卒業。後は本部長選出戦をして残りの席が埋まればめでたく御役御免ですよ?」


「そうですね。しかし、そんな話をする為にこんな所に連れてきたんじゃないんでしょう?」


「ええ、前置きです。死にたくないのか?そう、クロエさんは聞きましたね。」


「ええ、職の組み合わせや説明の語呂を考えていくと、どういったものに特化していくかが分かる。肉壁の名前はインパクトこそ最強クラスですけど、中身は自他共に厳しいもの。そこに治癒師が付けばやり方次第では永遠も手に入る。」


「やはりそう思いますか?私も職を使っていると薄々そうなんじゃ無いかと思ってました。だから、聞きたかったんです。あの助言は・・・、自身制御に付いて助言をしたのは本当にクロエさんでしたか?」


「質問の意図が分かりません。あの時あの場に私達しかいなかったでしょう?卓が若さ故の過ち・・・、と、言うほどでもないですが訓練にならないと言って私を呼んだのは他ならぬ夏目さん達じゃないですか。」


 一瞬ドキリとする。何をどう考えてその結論に行き着いたのか?皆目検討もつかないけど、少なくとも夏目の声には確信めいたものを感じる。肉壁が進化して拡張、なら広がって何になろうとしている?いや、自身と言う檻が広がれば他者との境が広がっていく?


「そうですね。しかし、あの本質を話すという発言は些か普段のクロエさんからすれば・・・、そう、らしくない(・・・・・)。クロエは普段私と自身を敬称するのに時折僕と呼ぶときもある。違和感と言うには余りに小さな点ですけど、それでも、どうしても納得行かないんです。全く雰囲気までガラリと変わる事があるのかなと?」


 さてさて、どうしたものかな・・・。職に自我が産まれたなんて話をすれば、それこそ色々と面倒になる。面倒になるけど何かしらの確信があって話しているのならはぐらかしても仕方ないか・・・。まぁ、確認からいこう。


「そんな事はないと言ったとして、夏目さんはその言葉を信じますか?」


「私は貴女を知っていると言って、何処までか推測が立ちますか?」


 質問を質問で返されたが、さてはてお互い質問の本質は同じだよな。言葉を鵜呑みにしてしまえば楽でいいけどその後の疑問は拭えない。なら、話すとするか。秘密と1つ、賢者の事を。


「分かりました、話しましょう。内緒話を。その前に、何処まで拡張したんですか?」


「至ったばかりなのでそこまで大きくはないですよ。精々コードの触りを話せるくらい。それをするにも多大な労力が必要ですし、不老の薬を飲んでいなければ・・・。」


「え!?飲んじゃったんですか?不老。てか、持ってたんですか!?」


 しれっと言ったが見逃さないぞ!どこから引っ張って来たかは知らないけれど、そんな薬を飲んだとか初耳だ。えっ!夏目はガチで永遠を目指してたの?割りと刹那的な生き方をするタイプだと思ってたけど。


「目聡いですね。まぁ、死ぬのは最後尾でいいかなって思ったんで飲んじゃいました。制御下にあるので死ぬ事は出来るので安心して下さい。」


 死ねるから安心してねとは中々聞かない言葉だな。普通は死なないから安心してねだし。何はともあれ飲んでしまったのは仕方ない。幸い死は譲り渡していないようだし・・・。しかし、死ぬのは最後尾でいいって、中々辛い生き方だな。これからどれ程の人と出会って見送っていくのだろう・・・。自分の事を棚に上げているようだが、俺も見送る側の人間なのでとやかくは言えないか。


「はぁ~、講習会メンバーから第2の永遠が生まれ出るとは思いませんでした。しかし、産まれたなら祝福しましょう。辛い道になりますが、好きな時にドロップアウトして下さい。」


「ふふっ・・・、おめでとう、好きな時に死ねですか。クロエさんらしい。さて、話してもらえますね?内緒の話。」


「ええ、ええ、長く生きるならその道すがらに墓の下まで持っていく秘密の1つや2つあってもいいでしょう。・・・、他言無用です。話せばちょっと大変な事をします。」


「本当にちょっとかは不安ですけど・・・、聞きましょう。」


 この程度の脅しでは引かないか。なら、仕方ない。最初に話すのは妻か望田だと思っていたこの話を。


「EXTRA 賢者。職の中でもEXTRAは特殊な職業です。私も私以外の該当者を知らないので、他は知りません。しかし、私の職には人格・・・、の様なモノがあります。」


「それが内緒・・・。」


「ええ・・・、僕に用なの?わざわざもったいぶって話すものでもないのにね。」


 賢者とバトンタッチして話してもらう。さて、夏目が本当に用事があったか知らないけれど、賢者と認識されてこいつが他者と話すのは初めてだ。余りにも危ない事を話しだしたら流石に止めるけど、それまでは最初の発見者と話してもらうのもやぶさかではない。


「賢者・・・、クロエさんとは違うんですね?」


「うん、違うよ。彼は・・・、あっ!彼女は・・・。」


「はい、彼女にして下さい。男のクロエさんなんて知りませんから。見たくもないですし、見たらやる気が無くなるので止めて下さい。」


 会った事無いけど今めっちゃディスられた?いや、まぁ、夏目は女性が好きだし、男の俺では関わる接点さえ最初から無いだろう。しかし、自衛隊組は俺の元を知っているので間違い無いだろう。なら、異常なスキンシップはやはりハニトラか。靡くつもりはないけど、髪の洗い方とかはいい勉強になった。


「うん?男とか女がそんなに大事とは思わないけど・・・、まぁ、君達がそう括るならそうなんだろうね。それで、なにか聞きたい事でもあったの?」

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