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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 夏目の冒険 後 32 挿絵あり

盛大に遅刻です

のっぺりとした顔に腐肉を思わせる肌、腹の部分はムカデを裏返したようにゾロリと短い無数の足の様な物に、人の腕の様なモノが2対、人と似た形で肩の部分からも腕が生えているから合計4本。背部ユニットは赤錆色、さてはて本体はどちらでそもそもコレは何を探しているのかな?ファーストと兵頭さんの話では、モンスターは何か意味を探しているらしい。しかし、当のモンスターはそもそも何でこんな形なのだろう?


 不気味で醜悪で人の感性とはかけ離れたディテールの存在。昔何かで読んだ怪物の定義。それが頭をよぎる。一つ、怪物は言葉を喋ってはならない。 二つ、怪物は正体不明でなければいけない。 三つ、―――怪物は、不死身でなければ意味がない。しかし、目の前のそれは既に2つ定義を欠いた。意思疎通は出来ないが喋り、戦えば倒せる。正体不明と言う点に置いては同意せざるをえないがそれでは怪物とはいえない。


 こんな不気味なものの正体が実は美少女のコスプレと言うなら大歓迎だけど、ここはゲート内でそもそもこの階層に他の到達者がいるのなら、大々的に発表すれば注目の的だろうし、こちらを襲ってこなくても・・・、いや、私も今は人とは言い難い姿をしているか。しかし、人語は解しているよ?うん。


「さてさて、先手は取られたけどファーストアタックは引き分け。お前は何を見せてくれるのか?」


 人の体のような部分だけで約2m半くらい。背部ユニットを入れれば約3m、それを支える2本足は細くそもそもあの背部ユニットは必要なのだろうか?人の体のような部分に接続されているようだけど、人体部分より大きいソレは互いに独立していた方が動きやすいように思う。しかし、バランスが悪いなら私の方が有利、何かを仕出かす前に倒してしまうとしよう。コレは私が至る為の恐怖を克服する作業なのだから。


 黒い肉壁スーツはドレスの様な姿に変わり、足元は見えないようにしている。相手に目があるかは分からないけど感知されても面倒、そもそも今の私の足は8本ある。更に増やしてもいいけどこれ以上は細くなりすぎて攻撃性に欠ける。その足で地を蹴り弾丸の様にモンスターへ一直線。肉壁の武器はそのスーツでありこの身体、打たれ強く強靭でちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない。女性にあるまじき事だが壁なのだからそれは当然だ。


 そのままの速度で足を1本突き出し、蹴り飛ばそうとするけど予想外というかなんというか、まさか足を掴まれるとは思わなかった。足を掴まれ、振り回されて叩きつけられる。しかし、その程度なら何て事はない。たかだか地面に叩き付けられる程度でダメージを負う様なら肉壁なんてならない方が良い。


 叩き付けられた地面に足を打ち込みアンカーにして、追撃を避けて掴まれた腕を肘であろう部分からへし折るように掌打で打ち上げる。身体が開いて伸びたような状態、人ならこの一撃で肘が外れて腕が使い物にならなくなるけどそこはモンスター、逆パカされたガラケーの様な腕に意を介さず、攻撃を受けたと判断したであろう背部ユニットからレーザーと触手が襲いかかる。どちらも近い間合い。モンスターに間合いを考える知能があるかは知らないけど、モンスターも一応学習するらしい。


 なら、その機会を与える前に倒してしまうのがいい。学習するのなら、それに対抗する為に更にコチラも学習してそうすれば更に相手がと繰り返される。それはゴメンだ。学習速度は知らないけどイタチごっこは勘弁願いたい。レーザーにも押し寄せる触手にも抵抗してアンカーを解除してやりたいことをやらせてもらおう。


「悪いが効かない、制御させてもらうぞ!」


「tmjrajntm'jm@t'mtmpmpwiiiiilllllll85」6(885795,jp2"m!!!!!」


掴まれた以外の残り7本足。それを槍の様な形にして胴と言わず、全体にパイクを撃ち込む様に差し込んで更に手や足を増やして包み込むようにして、動きを封じるけど元が私よりも更にでかい奴、今以上に拘束は出来ない。あまり汚い言葉は好きじゃないけど、あえて糞と言わせてもらおう。背部ユニットまで全く文字通り手が回らない。


 しかし、本体?は包んだ。なら多分ここから制御出来るようになると思う。差し込んだ足を細く細く・・・、神経のように細く・・・、今更モンスターが制御出来るのかなんて御託はいらない。出来ないなら、出来ないと言う事実が確定する以上の事はない。逆に制御出来るのなら更に攻撃の幅が広がるし奥の探索にも使える。早々死にたい訳じゃないから安全があるなら確保したい。ギルドの資金は必要だけど、それ以外にもライフワークの為にはお金は必要だしね。


 スルスルとモンスターの中を更に突き刺した足や腕が、細い糸のようになった私の身体が進んでいく。人なら多分、神経にでも触れられればそこから制御している脳にたどり着いて制御も多分奪える。しかし、モンスターの中をまさぐるけどなんの抵抗もなくまるで空洞の中を進むような・・・。


「jtpm5mtnwtmta@wap3'j'pj」


「な!」


 嫌に手応えがなかったのは、人形の部分が疑似餌だったから?なら、あの背中のヒルのようなものが本体?ミスした。差し込んだ腕は養分を吸われるかの様に干からび・・・、いや、高速で時が過ぎている!?


「相変わらず理解不能な存在だ!」


 慌てて差し込んだ部分を分離させて、それは私以外のモノと認識する。あのままでは精神ごと老いていた気がする。物理的には差し込んだ部分は風化するようにボロボロと崩れ去り、私自身は抵抗でどうにかそれから逃れるけど、減った肉のせいで身体は縮み否が応にも、風化した腕のせいで高速で老化するイメージがついて回る。


 事実、抵抗しているけど抵抗しなければその被害は身体にも及んでいただろう・・・。老いとは何か?一度ファーストと話た事があったけど、それの答えは劣化と言う事で片が付いた。そう、劣化。全盛期を最新型のロールアウトした瞬間とするなら、老化とは旧世代の遺物。わざわざ分けて薬を作った理由は旧世代の遺物をわざわざ、最新型の様に装って残す理由が分からなかったからではないかと言われた。


 確かにそれは分かる。モンスターは進化するし、倒しても倒しても似たような何かが次の瞬間には何処かにいる。それはつまり、常に最新型のマイナーチェンジモデルが生まれ続けていると言う事。そんな速度で新しいモノが生まれるのに、旧作を残す意味はない。しかし、人の生はそれなりに長い。それなりに長い上で、人で不老を体現した場合どう変わるのか?推測では設計図の・・・、人が細胞分裂する際に消費されるテロメアは常に劣化し続けている。その劣化が老いであり老化の仕組み。なら、その設計図が減りこそすれ完璧な状態でコピー出来れば、外見的な老いは無いままにいつか来る死を迎える事は出来る。


「本当は1人で勝った後に美酒を楽しむつもりだったんだけど・・・、そうも言ってられないな。」


 穴だらけにしたのは疑似餌、ヒルと人かと思ったらチョウチンアンコウだったらしい。本体は背中のヒルなのは多分正解で、事実、そのヒルは疑似餌を飲み込む様に同化した。進化なのか、漸く本来の形を出してきたのかは分からないけど、やはりその姿は醜悪だな。


  挿絵(By みてみん)


 誰もが思い浮かべるタコ型宇宙人。愛らしさと言う物を差し引いて、醜悪さと狂気を打ち込んだら多分こんな形になるんじゃないかな?手の様だった部分は鎌のようになり、細い地についた足はあるものの、身体のアチコチからは太い触手が生えている。のっぺりとしていた顔は歪みヒルと同化したせいで頭巾を被ったようになっている。


 そんな醜悪なモノを見ながら、アンプル瓶の頭をへし折り一気に煽る。気負いはない。死ぬ事は出来るしこれはあくまで不老であって不死じゃない。ただ、それは肉壁にはあまり意味がない。細胞分裂さえもイメージで制御してしまえばそれは不死と変わらない。これは抜け道だろう。しかし、彼女と話しておいてよかった。こうして飲むのにも躊躇なくてすむ。


  挿絵(By みてみん)


「さて、第二ラウンドと行こうか!」


「pmp68'j5"tutw2g」



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「あー、疲れた。」


 仄暗い場所の醜悪な戦いはどうにかなった。まぁ、ほぼ死にかけた。死にかけはしたけど負けはしていない。生きていれば負けではないだろう?だから、私は負けていない。しかし戦いに時間をかけすぎ過ぎた。空は暗いが早朝。寒いけどコートはボロボロで着れないな。外で着れば強姦の後に見られる。仕方ないとは言え、抵抗していても寒いものは寒い。


「見つけた!」


「凪夏?」


 ホテルで別れて数十時間、まさかいるとは思わなかった人がいた。こんな寒空の下何をしているのだろう?指先は赤くかじかみ、今さっき来ていたような状態にはないことはわかる。しかし、それを差し引いても東京の冬は思った以上に冷える。


「遅い!何で早く出て来ないの!?好きにするって言ったけど待たせ過ぎ!私は家なんでしょ?なら、ちゃんとその日のうちに帰ってきてよ・・・。」


 若くて無鉄砲、私が忘れてしまった若かりし頃を象徴するような言葉を彼女は出迎えるとともに吐き出す。眩しいな・・・、それは忘れてしまった情熱を思い出させてくれる・・・。無鉄砲な恋は十代まで、それで十分だと思っていた心が何処か動かされる。やはり、憂いなく至ったと言うのは大きいのだろうか?


「ごめん、思った以上に相手が離してくれなくてね。人気者は辛いよ。」


「なら、人気なんて捨ててよ。私は貴女がいれば十分なんだから・・・。」


 それはドキリとする愛の言葉。いずれ来る別れを知ってなお私を求めてくれる言葉。私が求める事こそあれど求められることは少なかった。仕方ない。私はタチこそ多いがネコは殆どない。いや、私の理想ではネコになる事はない。けど、いやに彼女の言葉は、私にすんなりと入ってくる。関係性はどうあれ優劣はない。私と彼女の間にあるのは、私の悪い虫から生まれた欲望とそれを包み込んでくれる優しさ。決して愛ではない。私達は優しさで結ばれる事はあっても、愛で結ばれはしない。それはきっと結果が出ないから。


「そうか・・・、うん。嬉しいよ。好きな娘からゲートを出た後に出迎えられたのは初めてだ。」


 かじかむ手を取り握り締める。冷たい手はどれほどの時間私を待っていてくれたのだろう?愛おしさは尽きる事なく湧き上がり、彼女を離したくない。入る前は潮時だと思っていたけど、それはきっと私が臆病だったから。


「なら、大切にしてよ。初めての人なんだから。」


「分かった、さしあたって冷えた身体を温める必要がある・・・、ね?」


 抱きしめて腰に手を回しそっと耳元でつぶやく。今日は平日仕事の日。けど、まだ時間はある。なら、そういうコトをしても許されるだろう?あくまでプライベート、帰隊時間を過ぎているのは大目に見て欲しい。


「好きにしなよ・・・。」


「好きにするから、いい言葉じゃない。自分を安売りしたら悪人に買われてしまう。」


「なら、七海が買い占めてよ。他はいらない、貴女を追う。それだけならシンプルな関係でしょ?」


「・・・、いいよ。なら、ちょっと温まりに行こうか。嫌と言っても追ってもらうよ?」


「好きにしなよ、追ってついていくから。」

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